大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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作戦開始

 エストニア、ラトビア、リトアニア。併せてバルト三国と呼ばれるこの三国を縦断する形で、逃亡を続けているらしい能力者解放戦線のメンバー、火野源一とニルギルド・ゲルズ。

 エージェントから今現在、ラトビアのグルベネという都市にまで南下しているという報せを受けて、ヴァールは支部長室のソファに地図を広げつつ指で各地点を指し示した。

 

「今現在、我々がいるのがここ、バルガだが……ここから南に向かい国境を越え、南西に進んだこの地点にグルベネはある」

「結構デケェ都市だし、交通路もいくらか交差してる街でもある。連中が辿り着くのも無理からぬことだが、さてどうするか」

 

 ペンで現在自分達がいる地点から、火野とニルギルドが移動している地点までのルートを書き示す。もちろん徒歩ルートではなく車を使った、車道を用いたルートだ。

 北欧最強の呼び声高いレベッカが腕を組んだ。問題なく敵の足取りを追えているのは良いが、そこに追いつくためにさてどうするかが肝心だ。

 

 ヴァールに報告したエージェントの話では、逃走中の二人はグルベネから南下するかと思いきや、一路西側へと方向転換したという。

 それもこちらもやはり、車を使っての移動。だからこそ短時間の間にエストニアからラトビアまで逃げ果せているのかと、エリスはなるほどとうなずいた。

 

「この、グルベネという街からいきなり西に転身したということは……その先に何か、逃げるにあたって明確な目的があるのでしょうか? ええと、この街から車でのルートを辿ると」

「北西と南西、二通りのルートがある、のかな? 西方面って言っても範囲が広いし、なんともはや」

「可能性として考えられるのは二パターンだろう。さらに南下してリトアニアにまで向かうパターンと、ラトビアの首都であるリガに向かうパターンだ」

 

 シモーネも混じり、二人でグルベネ以西の火野とニルギルドの動向を推察する。車でのルートは大まかに二つあるが、それも途中でさらなる分岐をしているため絞りきれるものではないのが実状だ。

 そこに、ヴァールが口を挟んだ。あくまで可能性としての話だが、逃亡者達の目的がWSOの追跡から逃げ延びることであるのならば自ずとルートは限られてくる、と。

 

 すなわち南西方面に抜けてリトアニアを目指すか、はたまたラトビア首都リガへ向かうかだ。

 前者はともかく後者のリガはなぜ? 首を傾げるシモーネに、エリスがハッと気づいて指摘した。

 

「そうか、港町……! シモーネさん、首都リガには港があります。あるいはまた海路を使って、他の国へ逃げるつもりなのかもしれません!」

「ま、また!? 世界を股にかけてくれるなあ……でも、陸路でもリトアニアにまで向かう可能性もあるし。やっぱりどっちかで迷うところだよ私達も」

「だなァ……連中が北西か南西、どっちのルートを使ってるかである程度絞れるかもしれねえが」

 

 シモーネやレベッカにも、ここまで来れば敵が考えている逃走経路がある程度推察できていた。陸路か海路か、言ってしまえば二つに一つとなる。

 しかし追跡するにせよ先回りするにせよ、とにかく火野とニルギルドの進行方向が分からなければ話にならない。

 

 何しろ先述の通り車でのルートはラトビア国内の各地域へと枝分かれして派生するのだ。

 目的地がリガならばどうあれ待ち伏せもできるが、とにかくリトアニアに向かうというのならばなかなか追跡も難しいところだ。

 歯噛みするレベッカに、ヴァールはしかし力強くうなずいた。淡々としつつも明朗に告げる。

 

「エージェントの報告を待つのも手だが、ここはさっそくだが追加メンバーを頼り動くぞ。妹尾とベリンガム、彼らにも動いてもらう」

「ン……リトアニアにいるあいつらを、ラトビアにまで北上させて待ち伏せですかい?」

「ああ。そしてワタシ達はラトビア入国後すぐ、空間転移でリガへ向かいやつらのリガへのルートを予想して待ち構える。進路はいくつかあるため、ここでもパーティを分割して動くことになるか」

「リガとリトアニア、予想される逃走経路をそれぞれの方向から迎え撃つ布陣ですね! ていうか統括理事、空間転移使いまくるんですね……」

 

 ここでも使用されるスキル《空間転移》。逃げ続ける敵に対して極めて有効な手段ながら、まったく容赦なく多用してまで敵を追い詰めるつもりのヴァールにシモーネが顔を引きつらせた。

 未だ合流できていない次なる仲間、妹尾万三郎とトマス・ベリンガムを策に組み込んだりと、ここに来て使えるものはすべて使って火野とニルギルドを捕捉するらしい。

 

 そこに秘められた覚悟……次の接敵で必ずや倒し切るという強い意志を感じる。

 エリスやレベッカが表情を引き締めるなか、シモーネからの指摘を受けたヴァールはやはり冷淡にクールに答えるのだった。

 

「出し惜しみしている場合ではないからな。火野源一とニルギルド・ゲルズ……やつらをなんとしても倒し、能力者解放戦線の戦力を削ぎ、かつ情報を得る」

「連中、後ろからWSOのエージェントが追ってきてることは承知だろうし、となりゃいけますね……挟み撃ちの形かァ! よっしゃ、そうと決まりゃさっそく動くぜシモーネ、エリスちゃん! 戦う準備をしとくんだよ!!」

 

 前門のヴァール達、後門のWSOエージェント。

 火野とニルギルドからすればそうした構図となるだろう挟撃に、レベッカは決戦の匂いを感じて勢いよく立ち上がり、エリスとシモーネに檄を飛ばした。

 

 この一週間ほど逃げられっぱなしだったがもう追いつく。追いつけば戦うだろうし、戦うからには必ず勝つ。勝って捕縛し、能力者解放戦線の本丸まで一気に食らいついてやる。

 餓狼のごとき気迫でそうした必勝の意志を示すレベッカに呼応して、エリスもシモーネも強くうなずく。

 作戦開始である。

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