大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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探査者の理想

 バルガから南下し国境を越えてラトビアへ。入国後すぐにヴァールの《空間転移》にて首都であるリガへと向かい、火野とニルギルドの先回りを行う。

 その上で予想される彼らの進行ルートに対して戦力を二手に分け、さらにリガでなく南下を続けリトアニアへと向かう場合にはさらなる助っ人の妹尾万三郎とトマス・ベリンガムを北上させることでこれに対応する──

 

 こうした方針を立ててヴァールはすぐさま、エリスはじめ仲間と支部長に対して作戦開始を呼びかけた。

 敵が車での移動をしている以上、手を拱いていては早晩リガ、あるいはリトアニアにまで到達されてしまう。そうなってからは遅いのだ。

 

「追跡班への連絡と妹尾との連携については支部長から頼んでいる。我々はすぐにでも南下しラトビアに入国するぞ。手続きはすでに終わっている、我々はこのまま進めばいいだけだ」

「て、手際良すぎません!? そんなあっさり、他国に行くのに……」

「今さらかよシモーネェ!? フィンランドからエストニアの時点でそれは言っとけやぁ」

 

 あまりにもあっけなく、エストニアからラトビア、あるいはリトアニアへの移動を口にするヴァールに思わずシモーネが驚きを示した。

 通常、国境を越えるからには都度、それ相応の手続きが必要で大概の場合それは時間を食うものだ。それゆえにどうしたところで半日ほどは時間を食わされるだろうと思っていたからこそ、このあまりにもスムーズな流れに驚嘆しないではいられなかったのだ。

 

 そこに対して呆れ顔のレベッカ。船便でフィンランドからエストニアまで移動した際もさほど、出入国に手間を食わなかっただろうに何を今さらと言った様子で弟子を見ている。

 内心でそう言えばおかしな話だ……と、こちらは田舎の村娘の初旅ゆえに気づくのが遅れたエリスの疑問にさえも答えるように、レベッカとヴァールは立て続けに説明した。

 

「今回のこの騒動が第二次モンスターハザードだって判断した時点で、ソフィアさんもヴァールさんもそのへんは手を打ってるのさ。ひとまずヨーロッパ全土の各国政府に対し、WSO内の対モンスターハザード関係者全員の入出国手続きの簡略化要請を承認させてるのさ」

「ワタシというかソフィアだな、それをしてくれたのは。状況的にすでに北ヨーロッパ各地でスタンピードが頻発しておりその対応に追われていた段階だったもので、各国首脳一同が泣きつくようにWSOに対応を求めてきた流れでの一時的な特例措置だ」

「……そんなことになるくらい、ヨーロッパはスタンピードの脅威に晒されているんですね」

 

 あの日──ヴァールがフィンランドを訪れた直後、マスメディアをジャックして能力者解放戦線が頻発するスタンピードの人為的誘発を宣言した時点ですでに、事態を聞きつけたソフィア・チェーホワは動き出していた。

 自身の裏人格であり相方であるヴァールが必ずや先頭に立って事態解決を図ると見込み、WSOとヨーロッパ各国の間に期間限定での特殊な密約を結んだのである。

 

 すなわちそれがこの、スムーズな二国間移動のタネ。第二次モンスターハザードに関係するWSOスタッフに限り可能な限り入出国の手続きをオミットできるという、極めて法外に近い措置であった。

 これにより実際に能力者解放戦線を追うヴァール達の旅路がスマートなものになっているのだから、まさにWSO統括理事ソフィア・チェーホワの慧眼と行動力の賜物であるといえよう。

 

 しかしそうした話を聞きつつも、エリスにはやはりスタンピードに脅かされる人々の暮らし、安寧が胸に苦しかった。

 特例を認めなければならないほど、人々は追い詰められているのだ。なんの罪もない人達がモンスターに怯え、能力者解放戦線に怖がらなければならない今を心底から許せないと感じる。

 

「事態の解決が成るまで、我々はヨーロッパ内であればいかなる国でも手続きなしに移動できる……とはいえ、入出国の履歴自体は残しておかなければやはり法に問われかねんがな」

「……でしたらなおのこと、可能な限り早く動いて火野とゲルズを追いましょう。ヨーロッパの人達みんなが、私達にスタンピードを鎮圧して能力者解放戦線を倒し、モンスターハザードを終わらせてほしいと願っているんです。彼らの祈りと願いに、報いと救いを」

「え、エリス……」

「……そのとおりだエリスちゃん。アンタつくづく、大した探査者だよ。《聖女》だっけ? 称号の、アンタに与えられた理由が分かる気がするよ、私にゃ」

 

 燃えるような瞳と眼差し、気高さと誇りの表情──

 静かに、けれど仲間達を圧倒するほどの気風を放つエリスに、シモーネは絶句してレベッカは満足げに賞賛した。

 

 エリスという探査者の一番素晴らしいところは、まさしくこうした心構えにあるのだとヴァールもまた、内心にて感動する。

 彼女には一切の迷いがないのだ。力の有無、できるできないに関わらずやらなければならないことをただ一心に見据えて突き進む。

 

 人々の嘆き、苦しみを終わらせること。人々の安寧を願い平穏を祈ること。そのすべてのために、自らの命を賭して戦うこと。

 それこそがヴァールの理想とする探査者像だ。エリスの姿は、現状それに近しいものがある。これから先成長していけばさらなる進化をも見せてくれるのだろう。

 もしかしたらいつの日か、ヴァール自身さえ乗り越えてくれるかもしれない。

 

「ふっ……そのとおりだエリス。だからこそ行くぞ、ラトビアへ!」

 

 その時が来るのを想い、彼女にしては珍しく唇をわずか笑みの形に歪めながら──

 号を放つ。かくして一同は、バルガを発ってラトビアへと向かうのだった。

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