大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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北上、妹尾とベリンガム

 一方その頃──雲一つない快晴のリトアニアの車道を、ラトビア方面へと北上する一台の車があった。

 軽快に走行する車内には二人、探査者の男が乗っている。

 

 運転席、トマス・ベリンガム。助手席、妹尾万三郎。

 師弟である二人はヴァールからの連絡を受け、逃亡中の能力者解放戦線メンバーである火野源一、ニルギルド・ゲルズの進行ルートと目される道の一つを逆走する形で進んでいたのである。

 

「しっかし統括理事ってのも大概、人遣いが荒いもんですね教授。まさか合流する前から作戦に組み込み、下手すると能力者解放戦線との鉄火場に放り込まれるなんてのは予想してませんでしたぜ、俺も」

「私からすると久々の感覚ってことで、懐かしさすら覚えるよトマスくん。いやはや、12年前もこんな感じで世界中津々浦々を巡ったものだった」

 

 ハンドルを握りつつも軽口混じりにぼやくトマスは、今回いきなりの連絡でヴァールの作戦に組み込まれたことに対しての驚きや呆れがあった。

 元々の話ではリトアニアに南下してくるヴァールやレベッカ達を、待ち受ける形で合流する手筈だったのだ。それがまさか、敵を迎え撃つ形でこちらからラトビアへと北上することになるとは思いもしなかったのだ。

 

 一方でそうした話に笑いつつも懐かしむのは妹尾万三郎。12年前の能力者大戦および第一次モンスターハザードにおいてはよく、こうしたヴァールの采配に振り回された経験のある男だ。

 そんな彼としては、あの頃からこういうところは変わらないなあとしみじみ感慨に耽りつつもトマスの気持ちも分かるのでひたすら苦笑いするに留まっていた。

 

「ま、WSOエージェントからの説明を聞くに今回ばかりは喫緊ゆえに仕方ないみたいだがね。さすがにモンスターハザードだ、敵も無茶苦茶してきているようで」

「メンバー逃がすのに、わざわざ他所でスタンピード起こして統括理事達を誘き出すなんざ聞いたこともないっすよ……そういうことを平然とやらかすやつらなんだから、敵対するとなるとそりゃもう大変でしょうさ」

「特にこれから相手をするかもしれない輩、火野とゲルズはすでに殺人さえしている手合だ。なんの罪もない一家三人、惨殺したような人でなしどもというのだし、相当腹を括らないといけないよ、こちらも」

「……ですねえ」

 

 ハンドルを握る手に力の籠もるトマス。これより迎え撃つ能力者解放戦線のメンバーによる殺人はすでに彼らの耳にも入っていて、だからこそ軽口を叩きながらも彼の目は静かな闘志、そして怒りと正義感が如実に現れていた。

 トマス・ベリンガム……妹尾万三郎の弟子でありすでに独立した一端の探査者であるが、一方で秘境探索にも精を出す冒険家としての一面も持つ。

 

 人のめったに足を踏み入れないような場所を訪れ、雄大な自然や動物達に触れながら生きることを良しとする彼だからこそ、どんなものにも宿る生命のかけがえのなさがよく分かる。

 妹尾の下でモンスター学を学び、モンスターに対してのリスペクトさえ抱く彼は、それゆえに能力者解放戦線への怒りは深い。

 

 モンスターを一方的に利用して人間にけしかける、生命を玩具か道具としてしか思っていないような連中。

 そんな者どもにこれ以上、好き放題させていられないという想いが強いのである。

 

「モンスターはもちろん人間の敵ですが、それだってモンスター自身の意志で行われるものであるべきなんだ。それを良いように利用して、気に入らなかったり邪魔だったりする人間にけしかけるような使い方ってのは……気に入りませんね。ああ、気に入らねえや」

「君はそういうとこ、モンスターにも人間にもフラットだねえ。だがだからこそ、どちらかを蔑ろにする輩は許せないか」

「今回の場合、どちらもですね。火野だのゲルズだのって言いましたか。ぜひとも俺んとこに来てほしいですよ。けしかけられたモンスター達や殺された人間達の無念、代わって俺が晴らしてやります」

「気負いすぎるなよトマスくん。敵の進行ルートが判明した時点でヴァールさん達はそれに合わせて動く」

 

 独特な思想から、能力者解放戦線との戦意を燃やす弟子に妹尾は落ち着くよう促した。

 意気込みすぎると隙ができるというのもあるし、何より先走ってしまっては援軍にくるだろうヴァール達の足をも引っ張りかねない。

 

 妹尾自身、仕方ないとは言え12年前に足を引っ張る形で第一次モンスターハザードを終わらせてしまったのだ。二の轍を踏むのが自分であったりトマスであったりしてはいけないと考えている。

 ゆっくりと、諭すようにトマスへと語る。

 

「火野とゲルズがこちらに来るならばヴァールさん達のパーティは直接こちらに来るし、向こうでも二手に分かれるそうだから、そのどちらかに向かうようならヴァールさんは僕達を迎えに来る。どうあれ連携こそが肝要なんだ、暴走してはいけないのは分かっておきなさい」

「了解です、了解ですよ……しかし、本当なんですか《空間転移》なんてスキル。瞬間移動の効果なんて聞いたこともなけりゃ見たこともありませんが」

「ヴァールさんしか持ってないっぽいからねえ。いざ見たらきっと驚くだろう、これこそがWSO統括理事の力なのかとね。さて……ラトビアの国境が見えてきた。ここからだね」

 

 敵の動きに合わせてやはり、ヴァールが空間転移能力でもって強引にでも自分達を合流させるつもりだ。だからこそあえて戦力を分散させてでも、敵を捕捉する網を張ったのだと妹尾は今回の作戦を看破している。

 そうした話にトマスも理解を示しつつ、しかして理解を超える常識外れのスキルを持つWSO統括理事に、興味津々の様子でいた。

 

 颯爽と走る車は国境付近の関所に近づいていく。WSO関係者ということで入出国手続きはほぼショートカットが期待できるだろう。

 ここを抜ければいよいよ作戦も大詰めだ。トマスと妹尾は、やはり戦う意志を高めていた。

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