エリス、レベッカ、そしてシモーネの三人を置いて単身、別ルートに転移したヴァール。
どうあれリガ近郊には変わらないため、先程とそう変わらない光景──道路と草原が遠くまで見渡せる場所へと飛び出していた。
周囲には何台か車が停車されており、10人近い人員が揃って武装し、ヴァールを見ている。そこにお互い、敵意はなく驚きもない。
事前に招集をかけておいたWSOのエージェント達だ。つまりはこのルートを通って火野とニルギルドが来る場合、ともに戦う仲間となる。
時刻を確認する。15時前のうららかな午後。ヴァールは淡々と、彼らに声をかけた。
「すでに居てくれているな、エージェント諸君。進捗はどうだ」
「はい、統括理事。お待ちしておりました、こちらも準備は万端です……戦闘準備は無論のこと火野、ゲルズ両名を追跡中のチームとも連絡は密に取れています」
「それは重畳。やつらは今どこに?」
「こちらをご覧ください。ラトビアからリトアニアにかけての地図となります」
挨拶もそこそこに、今回のターゲットである能力者解放戦線メンバー二人の行方を尋ねたところ、エージェントのリーダーである男がおもむろに地図を取り出した。車のボンネットに広げ、赤ペンでルートをなぞり描く。
グルベネから南西、それなりに下った地点だ。長大に流れる川と交差する当たりの地点まで来て、そのあたりを丸で囲い示した。
ちょうど、ヴァールにも予想できていた火野とニルギルドの進行ルートにおける分岐点だ。この地点から北西に切り返せばリガは今、まさに彼女のいるこのルートを通過する。
だがここで反転して一路、さらに南東へ進んだ場合には……リトアニアへと抜けることになる。二つに一つ、ちょうどの境目。
なるほど、とヴァールは小さくつぶやいた。
「この時点でエリス達のいるルートは潰れたな。残るは今ワタシのいるここか、あるいはリトアニアへのルートか」
「地理的にはイェーカブピルスの町の手前にさしかかるあたりです。町のほうまで向かうのなら、リトアニア行きが確定すると考えていいでしょう」
「うむ……そしてそのルートの場合、リトアニアから北上してくる妹尾とベリンガムの二人とかち合うことになるな。彼らは今どこにいる」
「30分前の報告ではすでにラトビアに入国したと。この地域、アクニステを抜けてイェーカブピルスまで北上中です。距離的にはもう、都市まで着いているかと」
「つまりはほぼほぼ、やつらと距離を詰めて来ているか。上々だな」
ここに来ていよいよ接敵の予感が強まってきた。エリス達のルートはもはや来る可能性は低く、さっきの今でなんだがすぐに回収して合流すべきだろう。だが問題はやはり、こちらと妹尾達と、どちらの進路を火野とニルギルドが取るかだ。
こちらに来る場合に、妹尾達にもさらに進行してもらえば見事に挟撃の形になる。一方で妹尾達の元へ向かう場合、ヴァールはすぐにエリス達を回収し、空間転移で彼らと合流する。
どちらであっても逃がすつもりは毛頭ない。ないからこそ、今や二者択一の分岐点にいるという敵の選択を意識する。
どちらに来るのか……追跡班からの報告を暫し待つ。定時報告は1時間おきに行われており、そのペースで言うならば昼前ごろの今はもうそろそろ報告が入ってもおかしくない頃合いだった。
エージェント達のリーダーに、今後少し先に予想される決戦について話す。
「敵がどのようなスキルを持つのか、あるいは手札を隠しているかはわからんが……おそらくスタンピードを引き起こせるほどの余裕はないだろう。別働隊でわざわざ囮めいた騒ぎを引き起こすしかなかったくらいなのだから、そこについては確定と言って良い」
「ですね。市街地にてスタンピードを引き起こし、混乱に乗じて我々の追跡を振り払うようなやり方をここに至るまでできていないのが証拠です」
「ゲルズはともかく火野は近距離戦闘スタイル、頭こそ回るようだが本質的には直情的かつ、個人で動き回るタイプと見られる。であれば、できることがそう多くない今回の逃走劇を成立させようと言うならばやることは限られてくるだろう」
「…………全力で逃げ回るか、あるいはあえて挑んでくるか。しかし負傷しているとも聞きますが、治っているものでしょうか?」
「傷を癒やす時間を得ているからな。ワタシの目からはそれなり以上の深手だったが、よほど治癒能力が高いのか、治療系スキルでも持っているのか、あるいはともに逃亡しているゲルズの応急手当てが効いたのか。火野よりよほど謎に包まれているが」
顎に手を当て少し考える。敵の行動、スタイル、これまでの来歴や様子を考えるに、実際に見た火野はともかくニルギルドのほうがとにかく正体不明で、ヴァールから見てそれが不気味な存在感に思えてならない。
WSOや全探組のデータには記録されていないが、確実に能力者だろう。どういったスタイルかは分からないが、火野をうまくサポートするタイプであったならば厄介なことになる。
どう出る火野源一、どう来るニルギルド・ゲルズ。
いずれのルートに進むにせよ断じて見逃すことのできない凶悪犯二人の出方に、注視するしかないヴァールであった。