大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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先制攻撃

 ──しかして、ヴァールの注視とは裏腹に事態は容赦なく進行していた。

 彼女が追跡班からの連絡を受けるよりも前に、リトアニアとラトビアをつなぐ道のりの中で戦端は開かれようとしていたのである。

 

「なるほど、なるほど? トマス、どうやら我々は当たりを引いたみたいだ。火野とゲルズの二人組は、こちらに来るとのことだ」

「げっ……って、言っちまったらどやされますかねコレ」

「いや、正直同感だよ。なんだってリガに行かずこっちに来るかね、まったく」

 

 ラトビアへ北上する道中。立ち寄った町の全探組にて電話でのやり取りをしていた妹尾は、いよいよ戦闘が差し迫る段になったと弟子であるトマスに話しかけていた。

 探検家らしい、厚手のシャツにズボン、ブーツ。インドア的な妹尾とは対照的にアウトドアに適した格好をした彼は、師を迎え入れてともに全探組を出、車に乗ってエンジンを吹かしながらも嫌そうに顔をしかめた。

 

 WSO統括理事に請われる形で追跡していた、能力者解放戦線のメンバー二人、火野源一とニルギルド・ゲルズ。

 大方の予想ではラトビア首都のリガへと向かいそこから船路でどこぞかへ向かうのではないかということで、それでも万一を考えてとリトアニア方面からこの二人がやって来ていたのだが……まさかの大当たりを引いた形になってしまい、思わず本音が漏れたのだ。

 

「こっちゃ学者に探検家ですぜ、教授。そりゃやるからにはやりますが、にしても殺人テロ野郎を相手にしなきゃならんとはゾッとしませんなあ」

「気持ちは察するが、これも世界の平和と人々の生命のためさ。我々が下手を打てば、さらに被害者が増えるかもしれんのだからね」

「やれやれ、難儀な話なこって──敵はこのルートを進行中の、白の乗用車。ナンバーも割れてるし、男二人組ってのはもちろんのこと。そろそろ、かち合う頃ですぜ」

 

 嘆息しつつも、トマスは意識を戦闘用に切り替えた。妹尾が受けた報告によれば、今まさにこの町めがけて件の二人は南下してきているのだ。

 町を出て、敵の進行ルートをしばらく走ったところで停車する。しばらくすれば先程の全探組から何人か現地探査者も来る予定だ、最低限でも決して逃しはしない。

 

 またこの道もすでに警察の協力で封鎖済みだ。白の乗用車などと世間にはいくらでもあるが今、ここを通るソレはたった一つしかないだろう。

 車を降りて、妹尾とトマスは並び立った。それぞれに武器を装着する──妹尾は第一次モンスターハザード以来愛用品のナックルダスター。トマスは左右の腰に剣と鞭を提げ、手にはボウガンを備えている。

 

「火野は二刀流の剣士ということで近接戦が予想されるね。そちらは私に任せてもらおう。しかし手札の見えないゲルズのほうは……」

「そいつは俺が受け持ちますよ、とりあえずね。相手の出方次第で対応を切り替えられるのが俺の長所だもんで……それで、統括理事は?」

「エージェントが連絡済みのはずだ。向こうは向こうで二手に分かれていたそうだから、合流した上でこちらに来るとなるとさすがにもう少しかかるかな? 《空間転移》自体はタイムラグなく一瞬でできるだろうけどもね」

「味方としちゃ素晴らしいですが、さすがにインチキすぎやしませんかね……ま、ともあれそういうことなら話は早い。そら、見えてきましたぜ白いの。ナンバーも良し、中には……うん?」

 

 空気が緊迫したものに変わっていく。二人の探査者が、戦いの予感を前に闘志を高めているのだ。最後の段取りを打ち合わせながらも道路の向こうから見えてきた一台の車に、気付いたのは弟子のほうが先だった。

 白の乗用車。ナンバーも一致し、遠目からだが確認できる乗員は、一人。

 

 一人だけだ。訝しむトマスに続いて目視できた妹尾もまた、眉を顰めた。

 先ほど受けた報告の時点では、追跡班もたしかに二人組で行動していると言っていた。最後に確認したのがたしか、グルベネから南西に下りたイェーカブピルスだったと言う。

 

 つまり、これは。

 事態を把握して頭を回転させた妹尾が、すぐに一つの結論に達して呻いた。握り拳を固めながらも、弟子へと告げる。

 

「……どうやら敵も、二手に分かれたみたいだ。今こちらに来ているアレは囮と見た」

「追跡班がだまくらかされたってことですかい? そりゃそういうこともあるかも知れませんが、まさかスキルで?」

「おそらく隠密系のスキルが用いられているな。追跡に専念したエージェントから逃れるなんてそれしか考えられない。イェーカブピルスの時点かそこからここに来る途中での離脱なのかは、分かりかねるが」

「火野か、ゲルズか。どっちかがその手のスキルを持ってたってことっすか。こっち来てるほうは東洋系じゃないですし、ありゃニルギルド・ゲルズみたいっすね」

 

 敵の取った手段を考察しつつも、二人は構える。遠くから来たる車、それを繰り出す西洋系の男の目がまっすぐに、こちらに向けて殺意と戦意とを向けてきていた。

 やる気だ、間違いなく。ニルギルドと思しき人物は、すでに不退転の決意をもってアクセルを全力で踏み抜いている。

 

 考えごとをする暇はない。もうあと1分もしないうちに敵は来る。来て、そして攻撃を仕掛けてくる。

 ならば今この場に必要なことは対話でも議論でもなく、闘争! インテリも時と場合によると信じる教授とその弟子もまた、呼応するかのように臨戦態勢へと入った!

 

「つまり火野を逃がして自分は囮になったということか。大した度胸と言うべきか、あるいは切り捨てられたか────来るぞトマス! 車ごと突っ込んでくる!! 先制任す!」

「了解。悪意も害意も殺意も十分、だったら《弓術》──ピンポイントショット!!」

「っ!!」

 

 鉄の塊。鋼鉄の馬とも言える車を活かした突撃に、妹尾は即座にトマスを叫んだ。

 無論のこと、すでに構えられているボウガン。弓を使った技術の習熟を早めてくれるスキル《弓術》をベースに磨いた狙撃が、迫りくる男を車ごと迎え撃つ。狙いは男の眉間、即死攻撃だ。

 

 しかし。

 男はそれを読んでいたかのように突如、ハンドルを大きく左に切った。急ブレーキもかけて、反動で車そのものを大きく跳ねさせている。

 もはや二人の目と鼻の先で、自ら事故を起こしてみせたのだ──バウンドする車の、吹き飛ぶ扉から男が飛び出てきた!

 

「先制はさせん。それは俺の十八番だからな──妹尾万三郎、トマス・ベリンガムッ!!」

「何ッ!?」

「いかんっ! トマスッ!!」

 

 目の前の光景の壮絶さに気を取られ、詰めてくるその男に対応しきれない。

 瞬時に接近してきたその男──ニルギルド・ゲルズは、ただ凄絶な笑みを浮かべて、トマスに躍りかかっていた!

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