大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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傭兵の最後の戦い

「いかにも待ち構えていたという面構えだがッ!! それをもものともせぬのが傭兵の流儀だッ!!」

「なんだぁっ!?」

「トマス!!」

 

 ──そして現在、盛大に跳ね飛ばして宙を舞う車から躍り出たニルギルドが、トマスに襲いかかっていた。

 手にはナイフと槍一本、それぞれ左右の手に握りしめては振りかぶっている。いずれも狙いはしっかりとトマスの首筋および心臓、すなわち一撃必殺。

 

 待ち伏せしての先制攻撃を目論んでいた妹尾、トマス両名にとってはまさかの奇襲返しといったところだ。しかし動揺しても動きに躊躇はない。

 咄嗟にトマスは弓を捨てて腰に下げた剣を抜き放った。同時に妹尾がナックルダスターを装着した拳を唸らせ、パンチを放つ。

 

「《剣術》──サマンサ!!」

「《拳闘術》、スネークジャブ!!」

「《槍術》、血塗れ猫のワルツ!!」

 

 先制狙いの初撃を勝ち取ったニルギルドもまた、二人に負けじと技を繰り出す。ナイフは牽制用に妹尾へと投げ放ち、槍は己ごとトマスめがけての突撃だ。

 投擲したナイフは妹尾のジャブが弾いた。ことも無げだがたしかに数瞬、時を稼ぐ。槍を手首のスナップを利かせて振り回し、砂嵐さえ巻き起こしてトマスの視界をいくらか妨げる。

 

 二人がかりで来られたならば、真っ向から攻めてもどちらかに仕掛けている間にもう片割れに殺られる。であればこちらの手数をもって片方を封じ込める間にもう片方を仕留める。

 敵の力量を思えば、とてもでないが実現不可能な戦法だ。しかしニルギルドは傭兵としての経験とそこから能力者として、裏社会で培ってきた戦績とセンスのすべてを動員してそれを成し遂げた。

 

 積み重ねたものすべてを用いての、努力の結晶とも言うべき神業。すべては自分達のような、先の大戦で死に損ねた者達のための戦場を再び用意するために。否。

 そんなどうしようもない自分のような人でなしが、それでも最後には満足しきって終われるように。

 ニルギルドは凄絶な笑みを浮かべて、きっと人生最期となるだろう剣戟に身を窶した。

 

「良いぞ! 俺の最後の戦争だッこれこそッ!!」

「ちいいっ! こんにゃろう、長物振り回しやがる!」

「っ、横槍を──!!」

「入らせる前に仕留めてやるッ!! 今のこれは"あの女"の見た光景では未だないのだ、ならばいかようにでもしてみせるッ!」

 

 嵐のように振り回される槍捌き。トマスも剣で応戦するが、咄嗟のことゆえ防戦一方だ。

 ナイフをいなした妹尾も割って入ろうと再度踏み込むが、それより先にニルギルドの槍が素早く唸り、疾走し、そして敵の喉元目掛けて薙ぎ払われる──妹尾が来るより先にトマスを仕留めてしまえば、そこから妹尾と一対一だ。

 

 あの女、オーヴァ・ビヨンドがスキルによって予知したという未来の光景。イルベスタから聞かされたそれには、チェーホワやその仲間達と戦う自分の姿があったと言う。

 ならば、少なくとも。チェーホワが来るまでの今のこの光景は、予知の範疇にはないものだ。つまりは確定した結果などなく、ニルギルドのやり口次第でいくらでも変動させられるものということだろう。

 

 確定した結果は変えられない。オーヴァの見た光景そのものは、必ずや現実のものとなる。

 だが翻れば見ていないものなどいくらでも変えられるのだ。無限に変動する可能性、不確実な未来。それを、ニルギルドは掴むつもりだ。

 

「確定した未来のその先へ! 妹尾万三郎! トマス・ベリンガム!!」

「何を──!?」

「貴様らを始末すれば、チェーホワの戦力もダウンは必至! 勝つためにはもはや一刻の猶予もなく、貴様らを殺さねばならんのだッ!!」

「っこの野郎、人を前座みたいに言いやがる!!」

「舐めないでもらおうか、ニルギルド・ゲルズ!!」

 

 すべてはチェーホワに打ち勝つために。未だ確定していないもの、"勝敗"の天秤を傾けさせるために。

 そのために今、ここで二人は必ず殺る!!

 

 強い決意と殺意の攻撃。さらに勢いを増す槍暴風に、しかしトマスも妹尾も一歩も引かずに突き抜けていく。

 この後に待ち控えるWSO統括理事との戦いを、より有利に進めるために今ここで自分達を倒しておく……ふざけた話だ、まるでウォーミングアップかのように言ってのけるニルギルドに、二人のプライドはたしかに傷つけられていた。

 

 数的不利にもかかわらずの強さ。間違いなくニルギルドのほうが妹尾、トマス師弟よりも強いのだろう。そもそも教授と冒険家という、戦闘専門でもない探査者である二人には傭兵など荷が重い相手であるのはたしかだ。

 それでも許せない。彼らとて能力者であるからにはそれ相応に強さへの自負とプライドもあるのだ。あからさまに蔑ろにされては面白くないのも当然である。

 

 ゆえに。トマスは槍を防いでいた剣をあえて投げ捨て、さらに腰にある鞭を持ち出した。こちらもスナップを利かせて振るえば、槍の猛攻にも負けない靭やかな速さで迎え撃ち相殺していく。

 まさかの反抗に目を見開くニルギルド。それを好機と捉え、弟子は師匠の名を叫んだ。

 

「教授、合わせてくれぇっ!! 《鞭術》、サーシャ!!」

「任せろ、トマス! ──《拳闘術》、モールアッパー!!」

「な、にぃぃぃッ!?」

 

 最後に一際、力を込めて。編み出した技である《鞭術》サーシャを放つ。自身の周囲を出鱈目なまでに鞭で叩き続ける、ある種の範囲攻撃だ。

 それをもって槍の猛攻を防ぎ、あまつさえ動きをも止めてみせる。合わせて妹尾が、鍛え抜いた脚力からの猛突進でニルギルドの懐に潜り込んだ。そこからかち上げるように顎へとアッパーを放つ。

 

 顔と言わず首と言わずに跳ね上がるニルギルドの身体全体。

 これこそ千載一遇だと、妹尾は続けざまにコンビネーションの体勢に入った。

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