大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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死闘

 アッパーにて浮き上がるニルギルドに、追撃のコンビネーションを仕掛ける妹尾。

 12年前の第一次モンスターハザード以来、久方ぶりとなる対人戦での連続技だ……かつての戦いにおける、ちょっとした雪辱さえも晴らすかのように彼は、思いのままに《拳闘術》を繰り出していった。

 

「スネーク・ジャブ! ストレート・スティンガー!!」

「ぬっぐぅぅ!? ぅああがあっ!!」

「チョッピング・マンティス! ──ブルホーン・ブロウ!!」

「きょ、教授……!!」

 

 左拳での、蛇のように撓るジャブ。右腕から放つ蜂の一刺しのようなストレート。

 蟷螂がその鎌を振り下ろすかのように左腕を突き刺して、続けざまに猪がその牙を突き刺すようにレバーブロー。

 

 左右交互の技が続々、ニルギルドの身体に突き刺さっていく。

 能力者でなくば、すなわちレベルによる身体強化なかりせばそもそも最初のアッパーカットの時点で絶命していてもおかしくない威力の連撃だ。

 それをまともに食らえば、いかな能力者とて死にかねない。

 

 師匠がやりすぎてはいないかと、トマスが思わず声を上げたその時だ。ニルギルドはしかし、闘志がいささかも衰えない勢いで反撃に打って出た。

 腹部に突き刺さったレバーブローを、そのまま左手にて掴み──思い切り振り回し、体勢を崩した妹尾の顔面に頭突きを見舞ったのだ。

 

「まだだ、まだまだまだまだァァーッ!!」

「ぐはあっ!?」

「これしきで終われるかよ、俺の12年がッ!! ────俺の闘争への憧れが、最期の花道がッ!! こんな程度で、終わって堪るものかよおォーッ!!」

「ぐっ!? が、ぎッ! ……こ、この男……!!」

 

 二度、三度、四度、五度。信じがたい威力の頭突きが、何度となく妹尾の顔面に叩きつけられていく。

 ダイヤモンドを想起させる、そんな硬さの頭だ。鼻先から頬、口元、あるいは目に至るまですさまじい衝撃と苦痛に襲われ、妹尾はたまらず後方に下がり距離を置こうとする。

 

 当然、それを逃がすニルギルドでもない。執拗に身体中を拳で刺し貫かれた衝撃から吐血さえしながらもなお、掴んだ妹尾の腕を放さずに引き寄せ、六度目の頭突きを放った。

 今度は額と額のぶつかり合い。妹尾の額が割れ、血飛沫が舞う。こうした攻撃を躊躇なく敢行するだけはあり、ニルギルドの頭部は常人にも増して凶器的な硬さを誇っていた。

 

「がっ、ハッあ──」

「妹尾教授ッ! テメェいい加減にしやがれよ、《鞭術》ッ!!」

「出せるのかトマス・ベリンガム!! 貴様の師匠ごと俺を、その鞭で打ち据えられるのかッ!?」

「くううっ!! と、トマ、ス……!!」

 

 互いに血みどろの死闘。そこに割って入るべく鞭を手に取り振るうトマスだったが、彼の存在と横槍の可能性は当然ニルギルドも承知している。ゆえに妹尾の腕を掴んだのだ。

 彼の身体を羽交い絞める。トマスから見て、ニルギルドだけを攻撃するような真似は到底できない組み付き方。すなわち人質の盾とするように、妹尾を矢面に立たせていたのだ。

 

 こうなるとトマスには手が打てない。見ればニルギルドも半死半生だが妹尾も相当なダメージを負っている。

 ある程度のことは覚悟して妹尾もろとも攻撃したとして、ニルギルドを仕留めるとともに妹尾まで死んでしまうのではないかとトマスには気になってしまい、身動きが取れない。

 

 無論のこと妹尾も藻掻き、足掻いては拘束から抜け出そうとするものの。傭兵仕込みの捕縛術とでも言うべきか、思う以上に力を込められない体勢でホールドされていることに気づき、すぐに諦めの境地でトマスへと叫んだ。

 

「ト、マス……! トマス・ベリンガム!! 構わない、私ごと倒せ! その鞭であと一打でも打ち込めば、君が勝てる!!」

「む、無茶言わんでくださいよ! あ、あと一撃でも受けたら、教授だって死んじまうでしょうがッ!!」

「へ、平和のためならば、ほ、本望だ……!!」

「らしくもねえこと言ってんじゃあないんですよ、モンスター狂いの案外ダメなオッサンが!! カッコつけてんじゃねえってんですよ!!」

「…………ふ、ふふ……!!」

 

 もはや覚悟を決めた様相の妹尾に、トマスは叫んだ後に絶句した。どうにかニルギルドのみを攻撃し、妹尾を助け出せる方法がないのか頭をフル回転させる。

 まとめて攻撃しても妹尾のほうが先に保たないだろう。かといって鞭なり弓矢なりでニルギルドだけを狙おうにも、妹尾を盾にしている状態なので狙いようがない。

 

 悩む間に妹尾もニルギルドも出血していく。このままいくと血を流しすぎて二人とも喪うことにもなりかねない。

 唇を噛むトマス。冒険家として経験を積んできた彼だからこそ、状況がもはや詰みに近いと思えてしまい行動をとれないのだ。

 

 どの道、このままでは妹尾は死ぬ。放っておいても、放っておかなくても。助けても、助けなくとも。

 完全に袋小路だ。プレッシャーのなか、手に握りしめる鞭に汗が滲む。打つ手がない──!

 

「トマス、はやく……早く、やれッ!! ベリンガムッ!!」

「ッ────く、くううっ!?」

「やれるものならばやれ、ベリンガム!! その瞬間に貴様は師匠殺しの罪を負い、一生をそのことへの悔いに塗れることになるがなッ!!」

 

 トマスのそんな心情を理解しつつも、妹尾はけれど使命を果たせと叫んだ。

 師匠の生命を慮りつつも、トマスはしかし殺るしかないのかと腹を括ろうとした。

 そんな師弟の絆を利用しつつも、どちらに転んでもそれを破壊できるとせめてもの意趣返しにニルギルドは嗤った。

 

 ──そして。

 そのいずれをも切り裂くように、どこからともなく鎖が疾走した。

 

 

「《鎖法》──切り拓け、ギルティチェイン!!」

 

 

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