大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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貫くは罪業の鎖

 鎖が、妹尾を盾にトマスと向き合っていたニルギルド目掛けて疾走した。三者揃ってまったく予想しないタイミング、予期せぬ方角からだ。

 それゆえに当然、誰も反応できない──当然、回避行動など取れるはずもない。

 

 時間にして一秒もかけずに飛来したその鎖の先端が捉えるのはニルギルドの腕。

 妹尾を掴んでいた左上腕を、鋭さと勢いを伴ったソレが貫通して弾き飛ばした!

 

「──っぐううううっ!? な、なんだとォォォォーッ!?」

「なんだ、鎖!? どこから!!」

「こ、これは……この鎖、は」

 

 血飛沫をあげて、左腕に巻き込まれて体全体が吹き飛ぶように大きく体勢を崩されるニルギルド。

 無論のこと妹尾など掴んでいられるはずもなく、二人は分断されることとなる。

 

 困惑するトマスと、血に塗れた視界からでも鎖に見覚えがある妹尾。吹き飛ばされたニルギルドも加えて三人、やはり突然の横槍に反応しきれず硬直している。

 その間隙を縫うかのごとく、鎖の飛来した方角からさらに声が響いた。鋭い指示の声だ。

 

「今だ、妹尾を頼む!!」

「わかりました、《念動力》ッ!!」

「っ──!?」

 

 女の声が二つ。一つは先ほど聞こえてきたものだが、それが放つ命令に従うもう一人の女の声とともに妹尾の身に変化が起きた。

 ひとりでに彼が宙を舞った。ひどく不自然な体勢で、まるで何かが彼をつまんで持ち上げたかのような不格好さでだ。スキルによるものかと妹尾にもトマスにもニルギルドにも咄嗟に判別はできたが、未だ理解が追いつかない。

 

 結果として妹尾はなされるがまま、声のするほうへと漂い流されたのだ。いつの間にかそこにいた、四人の女がそれぞれ臨戦態勢で構えている地点へと。

 朦朧とする意識のなかで、妹尾はしかし、ハッキリと視認してつぶやいた。

 

「ソフィア、さん……ヴァールさん。そ、れにレベッカ・ ウェイン……」

「すまない、遅れた妹尾! エリス、エミール、彼の応急手当を頼みたい!」

「はい! すでに準備はできています!!」

「久々に会ったと思ったら半死半生たぁな……やってくれやがるぜクソガキがよう!! おう火野だかゲルズだか、テメェはこのレベッカ・ウェイン様が叩きのめしたらァッ!!」

 

 ──ソフィア・チェーホワ。あるいはその裏人格ヴァール。北欧最強レベッカ・ウェイン。その弟子シモーネ・エミール。そしてエリス・モリガナ。

 妹尾、トマスとは別口に動いていた対能力者解放戦線チームがそこにいて、妹尾を保護したのだ。

 

 ヴァールの指示するよりも早く、傷薬から包帯から用意済みのシモーネがすぐさま彼に駆け寄り手当を開始する。

 スキル《念動力》で他者の動きを操る荒業を披露したエリスも、それゆえの疲労でへたり込みながらも少ししてからそこに加わり、大ダメージを負った妹尾を介抱していた。

 

 残るヴァールとレベッカは、油断なくニルギルドを見据えつつ立ち向かっているトマスの元へと向かい並ぶ。

 ヴァールがちらと彼を見て、冷静に話しかけた。

 

「君がトマス・ベリンガムだな、妹尾の弟子の。遅くなったことを詫びよう。WSO統括理事ソフィア・チェーホワだ、それとこちらがレベッカ・ウェイン」

「チェーホワ統括理事に、ウェインさん……! 助かりました、教授を盾に取られちまって、こっちももうヤバいところだったんです」

「みてぇだなァ。しかし相手は二人って聞いてたんだが一人かい。見るからに東洋人じゃねえからニルギルド・ゲルズだろうが火野ってのはどうしたんだ? そいつもいるんじゃねえのか?」

「い、いえ……! やつは最初に来た時点ですでに一人でした! 火野源一らしい輩も、この周辺には見る影もなく」

「囮戦術か。火野を逃がすべくこの男があえてこちらの包囲網に引っかかってみせたとでも言うなら、やつはすでにどこぞかへ向かっているのかもしれんが」

 

 名乗りもそこそこに現状確認を行う。この場にいるはずの火野がいないことを受けて即座に敵の手口を察したヴァールが、静かに舌打ちを一つこぼした。

 ニルギルドの思わぬ自己犠牲と言うべきか。あるいは能力者解放戦線メンバー内の、予想外の仲間意識と言うべきか。

 

 いずれにせよどうやら火野を逃がすべく目の前で今、鎖に貫かれて鮮血を撒き散らしているニルギルドがここにいるというのはたしからしいことだ。

 痛みに顔を歪めつつ、ニルギルドがヴァール達を見た。忌々しげながらどこか嬉しそうに笑みを浮かべ、彼は呻く。

 

「ソフィア・チェーホワ……レベッカ・ウェイン! く、くくくッ……間に、合わなかったか。あと一息だったのだが、残念だ」

「ニルギルド・ゲルズだな。大人しく捕まるが良い、もはやその身体では戦えまい」

「おう、これが最後のチャンスだぜ。今ここで降伏したら半殺しはナシだ。しなかったら殺しゃしねえが半分以上は死ぬものと思えや、なあ」

「さっきはよくも教授を盾にしてくれやがったな、ゲルズよう……!」

 

 左腕が使用不能となり、妹尾によってすでに深手を負っているニルギルドの不気味な笑い声。不思議と楽しげですらあるその様子に、降伏勧告したヴァールも隣で警告するレベッカも気炎を吐くトマスも警戒を禁じ得ない。

 

 まだやる気なのか。この怪我で、この人数差で。

 いささかも衰えない戦意に戦慄をも抱くなか。ニルギルドはそして、残る右手で槍を構えた。

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