妹尾との邂逅もそこそこに、エリスやヴァールの周囲に他の仲間達も合流してくる。
レベッカ、シモーネはもちろんのこと妹尾の弟子のトマスも一緒だ。三人はすでに名乗り合い、軽く話もしたようで多少打ち解けた様子なのだが、とりわけやはり年長者であるレベッカの気安さがエリスには印象的だ。
今も彼女は妹尾の肩をバシバシと叩いて豪快に笑っている。
聞けば能力者大戦でも肩を並べたという旧知の仲だけはあり、ヴァールやソフィアを相手にするような慣れた様子だった。
「久々の再会だってのに教授よう、ずいぶん男前な有り様だなぁおい!」
「イテテテ、痛いよウェインくん久しぶりだね。お互い、ずいぶん年を取ったものだ、12年だものなあ」
「だなぁ……気付けば揃って30代も半ば、ここにゃいねえがカーンさんなんざ40歳も過ぎてるだろ? そんでもってあの頃の私らと同年代か年下ってくらいの子らと一緒に、あの頃と変わらないソフィアさんヴァールさんと肩を並べてんだ。不思議なもんだぜこの世はよ、ダハハハハハ!!」
応える妹尾もレベッカに対しては、エリスに対しての紳士的な振る舞いとは異なり真に親しみある態度を取っている。ともに巨悪と戦った日々から12年もの歳月を経た自分達の、お互いの姿に笑い合っているのだ。
十年一昔。かつて若手だった彼らは今やベテランとなり、今の若手探査者達を牽引している。唯一かつてと何ら変わらない、永遠の探査者少女に率いられるのだけは変わらないまま。
笑いながらもしみじみとしたレベッカの声色に、時の流れを如実に感じるのはエリスだけではないだろう。
ヴァールもまた、どこか感慨深くエリスやシモーネ、トマスに話していたのだから。
「うむ……ちょうど12年前、今の君達と同じような立場と年齢で妹尾とレベッカはワタシに協力してくれた。もう一人、星界拳のシェン・カーンという男も含めてな」
「聞いてますぜ統括理事。先の大戦にその名を轟かせた最強のアジア人能力者カーン。うちの教授とシモーネちゃんとこのレベッカさんも含め、統括理事の三弟子ですってね」
「別段、何かを教え指導した覚えもないのだがな。それでも三人もそう自称しているようなのでそれはそれで構わないが……ワタシの視点では、正しく弟子と言えるようなことをしているのはやはりエリスが初めてだろうか」
「えっ……!? エリスが統括理事的には初めての教え子ってこと、なんですか!?」
まさかの言葉に驚く三人の若者。とりわけエリスさえ凌ぎ目を丸くするのは、レベッカの弟子シモーネだ。
そもそもヴァールが明確に、エリスに指導している感覚でいることもまた驚きなのだが、それが彼女にとって初めての経験であろうというのも衝撃的な話だった。
思わずエリスを見る……少なからぬ暗い感情とともに。
目も眩むほどに美しく、見るからに才能もある能力者の少女。自分にないものをいくつも持つ時点で妬ましいのに、その上あのWSO統括理事の寵愛まで得ていることがとうとう、ここで明確なものになったのだ。
探査者歴や現時点での実力をもって、どうにか彼女を妹分と見なすことで自身の溜飲を下げているシモーネにとり、これは認め難い現実だった。
「わ、私がヴァールさんの初めての弟子……ですか!? そ、それはその、ありがたいですけど畏れ多いと言いますか」
「そう言うな、そもそも弟子というよりは年の離れた友人という感覚に近くもある。君に寄せる期待ゆえにアレコレと教えているだけの、まあ老婆心とでも思ってくれれば良い」
「はぁー……エリスちゃんだっけ? 大したもんだね、うちの教授を土壇場で助けてくれたのもエリスちゃんのスキルって話だし、こりゃ俺も負けてらんねえわなぁ」
「…………っ」
トマスさえ加わり、ヴァールと並んでエリスに親しくする姿が、シモーネにはひどいストレスを伴う光景になっていた。
生来の卑屈さが、劣等感が首をもたげて噴き出しそうになる。みんなエリスばかり見ている。ヴァールもソフィアも妹尾もトマスも、自分の師匠たるレベッカでさえも自分とエリスを比べてエリスを優先している。
実際のところはもちろん、誰もシモーネとエリスを比較などしていないのだが……コンプレックスに塗れたシモーネには、それこそが真実になってしまっていて。
彼女は静かに、明確にエリスへの敵意を抱くのだった。
(なんなの? ……なんだって言うのよ、こんな子。ただの田舎娘で、弱っちくて経験も浅いのに! ……私よりレアなスキルを持っているだけで、私より美人なだけで、私よりあざといだけでこんなにチヤホヤされて!!)
「……シモーネさん? あの、どうかされましたか? 私の顔をじっと見つめて」
「っ……!? う、ううん? なんでもないよエリス。あーっと、まあアレだね、統括理事の弟子って言うならもうちょっと頑張んないとねーってさ、アハハ」
「は、はい……弟子というのはともかく、目をかけてくださっているみたいですから。まだまだ未熟ですが、期待に応えられるように頑張りたいです。ありがとうございます、シモーネさん」
「う、うん……」
(馬鹿にして! 健気な素振りをしてれば見かけもあってみんながチヤホヤするんだ、この女を!!)
様子のおかしいシモーネに、純真無垢で健気な姿勢で接する。そんな姿さえも憎たらしく思えて、シモーネはどうにか取り繕いながらも内心ではやはり、エリスへの嫌悪を吐露してしまう。
ここまで来てしまえばもはや修復不可能なまでの、生理的に近い嫌悪感。誰にもそれを悟らせないよう隠し抜いたまま、シモーネは一人、黒い感情の焔に己の心を焼かせていた──