スウェーデンはストックホルム近郊。人気のない草原にて、ダンジョンから誘い出されたモンスターが探査者に倒されていた。
近くには誘い出した能力者解放戦線の構成員が二人、険しい顔でその男を睨みつけている。
東洋は中国人の探査者だ。黒髪を短髪に刈り上げた精悍な顔立ちの偉丈夫で、20歳代も半ば程度ながら放つ風格は一廉の人物であることを示している。
何より、その鍛え抜かれた身体だ……青い武闘着に身を包んでいてもなお分かる巌の如き筋肉は強靭、堅牢かつ靭やかなものである。
彼、その名をシェン・ラウエンはモンスターを刺し貫いた脚を次、構成員へと向けた。爪先がまるで剣の切っ先のように、鋭い覇気と共に突きつけられる。
怯んだ構成員に、そうしてラウエンは告げる。裂帛の呼気を伴う、清々しいまでに真っ直ぐな声だった。
「モンスターは片付けた……次は貴様らだッ、能力者解放戦線ッ!! 人類の大敵を人々へと差し向けんとする卑劣どもめが、我が星界拳の錆としてくれるッ!!」
「なっ、舐めるな東洋人がッ! 能力者でありながら探査者に堕する貴様などが、我らの崇高なる目的を邪魔するかッ!」
「許さんぞアジア人め! そもそも何をしにこんなところまで来た、山奥にでも引っ込んでいれば良いものをッ!!」
すっかり気圧されながらも、それでも立ち向かう構成員達。その姿にラウエンは侮蔑を隠さないながらも見事、と一つつぶやいた。
どれほど邪悪なものであれ。どれほど愚劣な犯罪者であれ。戦場にて戦うことを選んだ者は、みな等しく最低限の敬意を保つべき戦士だ。そう信じるがゆえに。
そして同時に改めて構える──彼我の距離、精々20mほど。即座に距離を詰め、己が拳法を叩き込むには問題ないレンジである。
また実力も、能力者ゆえにモンスター程度には脅威だがラウエンからすれば強敵とは言い難い程度。しかして油断と慢心なきよう己を戒めながら、彼は答えて踏み込んだ!
「俺は……ッ偉大なるシェンの一族が里長にして星界拳の始祖たるシェン・カーンの命を受けてやって来たッ! WSO統括理事ソフィア・チェーホワ様との盟約を履行する道半ばにて起きた今回のこの戦いにッ、微力なりとて馳せ参じるために!!」
「ソフィア・チェーホワ……! 貴様チェーホワの犬か……っ!!」
「否ァッ! 誇り高きはシェン一族、誉れ高きは星界拳ッ!! さあその身に刻み声高に叫べ、シェン・ラウエンの星界拳の凄まじさを!! ────しぇぇぇぇッ、りゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁぁぁぁあああっ!!」
尊敬する里長シェン・カーン、そしてカーンひいては一族そのものと盟約を結んだソフィア・チェーホワ。ラウエンのみならずシェンに生まれた者すべてが背負う宿命の一端を、彼は雄叫びとともに示した。
鍛えたその豪脚だけを用いる特殊な武術、星界拳。シェン・カーンを始祖としてラウエンを正当継承者とするその拳法がまさに、今、炸裂したのだ。
瞬時に二人に肉薄し、何千何万と繰り返し稽古して身に染み付かせた技を放つ。
一人目の側頭部に強烈な右脚を一発。そのまま二人目の首筋にも一発。返す刀さながらに二人目の胸元、局部を連撃して次、身を翻して一人目へ。
勢いをつけた左脚が腕を容易くへし折って、さらに地に足つけた右足を軸にその場でさらに回転。目まぐるしく変わる視界を完全に捉えきったラウエンの最後の一撃が、二人まとめて斬撃のように胴体を横薙ぐ。
「ングぇぇあぁぁッ!?」
「うぎぎぎぎゃああああっ!!」
「────星界ィィィッ!! 天狼ォォォ五神脚ゥゥゥッ!!」
技名を、豪快な大声で宣言しながら放つそれこそが星界拳の技が一つ、星界天狼五神脚だ。本来は一人相手に放つのを、二人相手ゆえに分割してヒットさせた形になる。
ラウエン自身の、探査者としての肉体能力もあって一撃必殺の威力が能力者解放戦線の構成員達を襲う。これにはたまらず二人とも意識を手放し吹き飛ばされた。勝負アリだ。
何匹かいたモンスターもすべて蹴り倒し、解放戦線の一員も苦も無く倒してみせた。その手際はあるいは、かつてソフィアの下で戦っていたカーンをも凌ぐだろう。
そんな彼はふう、と一息吐いた後、蒼天を見上げてぼんやりと独り言ちた。
「チェーホワ様……今やリトアニアにいらっしゃると聞く。解放戦線の動向が掴めるまで、しばらく滞在なさるということだが、果たして俺は動くべきか? スウェーデンの悪を討ちつつ待つか、はたまたすれ違いさえ覚悟しつつも旅路に出るべきか。悩ましいところだ……どうあれ里長のこともあるのだ、協力せねば気は済まないが」
……これで能力者解放戦線の誘き出したモンスターや、それを為した構成員を相手取るのも何度目かになる。半月前に里長の命で現地にやって来たラウエンだが、そろそろソフィアパーティと合流したいと考え始めている。
そんな折に彼女らは、まさかのリトアニアにてしばらく逗留して事態に備えると言う。
こうなると身の振り方に困るのがラウエンだった。どうあれスウェーデンには姿を表すだろうと思っているのだが、さりとていつまでも待ちに徹するのも一苦労だ。
ではこちらからリトアニアに向かうべきか、という考えについては、未だスタンピードの頻発するこの地を置いていくのもそれはそれでシェンとして情けない話でしかない。
仕方ない。ひとまず悪を討ちつつ待つか。
何度目かにもなるか分からない先延ばしの結論を出し、倒れ伏した構成員達を捕縛し抱えるラウエン。
悩める若きシェンがこの後、ソフィアやエリス達と合流するまでには──もう数ヶ月ほどの猶予を必要とするのだった。
これにて第二部・第二次モンスターハザード前編は終わりです!
ありがとうございましたー
後編は2026/1/1の0時からの投稿になりますー
よろしくお願いしますー