大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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ラウラのスタイル

 戦闘訓練。終えた一同はラウラを伴い、滞在しているホテルへと戻った。ビルニュスはWSO支部施設に近い地点にある、それなりのグレードの宿だ。

 エリスとヴァールとラウラ、レベッカとシモーネで一室ずつ。そこに今ここにはいない妹尾とトマスにも二人で一室が割り振られている。

 

「お姉様、お姉様っ! ボクもいつか、お姉様と同じくらい戦えるようになるかな……パパやママを殺したモンスターを、やっつけられるくらいに!」

「ラウラ……」

 

 すっかりエリスに懐いたラウラが、彼女と手をつなぎ町を歩きながら笑いかけた。あどけない少女の笑みながら、語る内容は探査者らしい戦闘についての話だ。

 ラウラ・ホルン……元はドイツに家族みんなで住んでいたのだが、親の仕事の都合でリトアニアに引っ越した矢先にスタンピードに遭い家族を失ったところをエリスによって助けられた。

 

 その頃にはすでにステータスに覚醒し、探査者として活動もしていたものの年齢もあり最低限の経験しか積んでこなかった彼女は、それゆえに家族を守れなかったと己を悔やんだ。

 だから今、エリスの庇護下に置かれる形でパーティに入ったのを皮切りに彼女も修行に乗り出そうとしていた。

 

 少女の家族を守れなかった、間に合わなかったという負い目があるエリスにはそうしたラウラの心情が辛いものだ。

 しかし今後もエリス達に同行していく以上、最低でも自衛能力は持ち合わせていなければならないこともあり、本当は心穏やかに過ごしてほしい思いを抱きつつも彼女の戦闘訓練には肯定せざるを得ない。

 一瞬、哀しげに目を伏せ、すぐに優しく微笑みその頭を撫でる。

 

「なれるわ、絶対に……ここにいるみなさんと、妹尾教授やトマスさんまで含めた大勢の人があなたを鍛えてくれるもの。ですよね、ソフィアさん」

「ええ、私も保証するわエリスちゃん、ラウラちゃん。ヴァールはもちろんレベッカちゃんやシモーネちゃん、妹尾くんやトマスくんもやる気満々みたいだもの、ね?」

「おうさおうさ、任せなってのラウラちゃんよう!」

 

 エリスの呼びかけに応えるのは、WSO統括理事ソフィア・チェーホワ──本人だ。裏人格ヴァールではなく、世間一般に知れ渡っている永遠の探査者少女の表側。

 戦闘訓練を終え、ひとまず安穏な時間を迎えるにあたりヴァールは意識のステージをソフィアに譲り渡していた。

 

 ヴァール自身少し休むつもりだったのもあるし、有事の現在ではどうしても表に出ることの多いため、特に何もないタイミングでは少しでもソフィアに表に出ていてほしいという想いからのものでもある。

 そうした気遣いはソフィアも理解しており、ありがたく表に出ては仲間達ともコミュニケーションを取っているのだ。

 彼女もまた、微笑みながら弟子のレベッカへ水を向ける。縦にも横にも大きな巨躯を誇る女傑が、力強く笑って言った。

 

「アンタは私らみんなの弟子だ! 無理は絶対にさせねえけど、強くするためならなんだって仕込んだるぜ、技も心もな! シモーネ、分かってんなぁ教えてやれよ、しっかりと!」

「はいっ!? ……あー、あはは! まあ、そうですねえ。そこのガキンチョが教わる気あるんなら、教えますかねえー」

 

 北欧最強レベッカ・ウェインもまた、ラウラの身の上に心を痛めつつも彼女のため、あえて鍛える心積もりだ。元より情の深い性格ゆえ、年端もいかない身空で家族をスタンピードによって失ったことに、レベッカはあるいはエリス以上の罪悪感を抱いている。

 対して弟子のシモーネは見るからに消極的だ。上述の境遇はたしかに気の毒だが、だからといって総出で鍛えてやるような厚遇をする必要があるのか、そこを疑問視しているのだ。

 

 何よりラウラには、どうにも嫌われているような気がしてならないとシモーネは内心でつぶやく。

 間違いなく、姉貴分のエリスについて内心では快く思っていないというのを勘付かれているがゆえなのだろう……そこも含め、シモーネもまたラウラのことが気に入らないところはあった。

 坊主憎ければ袈裟まで憎い、の典型である。

 

「むうっ……」

「シモーネさん、どうか私からもお願いします。この子に少しでも教えても良いというものがあるなら、ぜひともご教授いただきたいです。ほらラウラも、素敵な先輩によくお願いするんですよ」

「お姉様……うー、シモーネ、さん。よろしく、お願いしますー……」

「…………まあ、基礎的なところとかなら少しはね。私だってそんな、弟子みたいなの取ったことなんてないから。やっぱりそのへんは基本、レベッカさんなり妹尾さんなりヴァールさんなりになるだろうけど」

「ありがとうございます!」

 

 互いにどこか反目し合う、シモーネとラウラに仲立ちとしてエリスが立った。仮とはいえ保護者としての責任を果たすようにシモーネに頼み込んだのだ。

 こうなるとラウラはもちろん、シモーネとしても弱い。苛立たしいエリスに請われたところでやる気など出ないが、この娘に惚れ込んでいるソフィアやヴァール、レベッカへの対応も考えると応じざるを得ない。

 

 一方でラウラも、"お姉様"たるエリスを明らかに嫌っているようなシモーネに何かを教わるなど、ましてやお願いするなど気は進まなかったが……そのエリスからの言葉こそが何より優先されるべきなのだ。

 ラウラは、すでにエリスの熱烈な信奉者であった。

 

 ────こうしたやり取りを経て、ラウラはこの旅を通して仲間達から少しずつ戦闘術を教わり、それらを自らに落とし込んだ我流の流派を立ち上げることとなるのだが。

 それはこの戦いを終えて後、しばらくしてからの話である。

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