大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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敵の居場所

 仲間内で集い、今後の話し合いをする場合、概ねソフィアの部屋が使われることが多い。このパーティのリーダーと言える彼女の下に、自然とメンバーが集まるのだ。

 今も訓練に参加していた面子に加え、この日には別行動していた妹尾万三郎、トマス・ベリンガムの両名も帰宅し、一同に会すこととなっていた。

 

「──さて、諸君。このリトアニアに滞在して数ヶ月にもなるが、ようやく事態に進展が見られた。能力者解放戦線の拠点と思しき場所の、候補を絞り込めたのだ」

 

 リーダーとして音頭を取るヴァールが、ソファやベッドに腰掛ける面々へと開口一番そう切り出す。この数ヶ月、バルト三国にて頻発するスタンピードに都度対応しつつ、待ち続けていた別働エージェントによる能力者解放戦線の調査と捜査。

 それにひとまずの結論が見られたのだ。仲間達みな、顔を見合わせて表情を引き締める。

 

 まずは妹尾が挙手をした。発言を求めてきたのだ。数ヶ月前のニルギルド戦にて負傷していた彼だが、今現在はすっかり完治してスタンピード迎撃にも幾度となく出撃している。

 教授職に就いているということもあり、最近ではエリスやラウラに勉学を教えたりもしている……パーティの頭脳。それが妹尾という男だった。

 

「いよいよですか……これまでに対応してきたスタンピードはおそらく、我々をこの地に縫い付けるための陽動あるいは囮戦術ではないかと考え、あえてそれに乗りつつエージェント達による捜査結果を待っていましたが」

「ニルギルドが命懸けで逃がしたメンバー、火野源一……アイツが引き起こしたスタンピードにもいくらか出くわしましたね。あからさまに俺達狙いでしたがあの野郎、やっぱそういう意図だったわけですかね」

「だろうな。察するにリトアニアまで逃げ延びた火野源一は、しかし上の命令によってこの地に留まることとなりスタンピードを起こしてきたのだ。オーヴァ・ビヨンドと名乗る、首魁たる女の指示だろうな」

 

 彼に続いて弟子のトマスも推測を述べれば、ヴァールは無表情のままに鷹揚とうなずきそれらを肯定した。

 ここに至るまでに幾度となく頻発し、そしてその度に鎮圧してきたスタンピード。そのなかの何度かにおいては能力者解放戦線メンバーである火野源一の姿も確認されており、度々の交戦さえもしていた。

 

 同メンバー、ニルギルド・ゲルズが囮となってまで逃がした火野がなぜ、そのまま逃げられるものをリトアニアでわざわざ足止めにかかってきたのか。

 その理由はやはり、上役と言える能力者解放戦線首魁オーヴァ・ビヨンドからの指示なのだろうとヴァールが言えば、妹尾もトマスもなるほどとうなずき、深く考え込むのだった。

 

「へへへ、難しい話はともかくだ! 言い換えりゃあの変態ゴミムシ火野野郎をこっちで抑えてる間に、うちのエージェントがきっちり仕事してくれたってこったな! おうエリスちゃん、これでもう後腐れなくあのカスぶっ殺せるな!」

「え……えぇ……? いえあの、レベッカさん。火野源一はたしかにその、嫌悪感しか抱けない男ではありますけど、その。殺すというのはさすがに」

「エリスちゃんがそんなに優しいからあのクズがつけあがるんだよ! 前にやり合った時を思い出しなよ、発情した猿みてえに迫ってきやがって! あーゆーのをド変態っていうんだまったくよう!!」

「それは……まったく異論はありませんね……あの姿は気持ち悪かったです、率直に」

 

 一方で明朗快活にハッキリと、火野への嫌悪と殺意を吐き出すのがレベッカだ。やんわりと宥めるエリスの顔にもまた、強い拒否の色合いが出ている。

 スタンピードの最中、二人とシモーネは直に火野と交戦したことがあった──偶発的な遭遇、お互いに準備も何もない町中のタイミングでしかし、火野は恐るべき変態性を剥き出しにしてエリスに迫ってきていたのだ。

 

 

『モリガナァァァ! 逢いたかったぜモリガナァァァ!!』

『ひっ!? な、なんなんですか、火野源一!?』

『ひひひひゃあははははっ!! 今日こそ俺とヤッてもらうぜモリガナァッ!! お前を切り刻んでずたずたにして、涙と痛みに濡れたその顔を見ながら俺は、俺は、ああぁぁぁ〜ッ!!』

『────き、気持ち悪いッ!!』

 

 

 何があったのか、エリスの名を叫びながら執拗に剣を振り回して来る火野の姿は、彼女ばかりかともにいたレベッカにとっても生理的嫌悪感を強く催すものだった。

 エリスにはその手の知識が少ないため、いまいち理解しきれていないがレベッカにはしっかりと分かっていたのだ。火野はエリスに欲情していると。

 

 股座をいきり立たせて、顔を赤らめ、獣欲に満ちた目と荒げた息で少女に迫っている姿をみてしまったのだ。その時点でレベッカにはもう、他の誰より何よりも優先して火野源一という男は殺さなければならない相手として認識するしかない。

 あるいは火野本人さえ無自覚なのだろう。性欲と好意と殺意と憎悪が綯い交ぜになったエリスへの、それはまさしく"執着"だった。

 

「アジトが分かったってんならあんなカス、さっさとあの世に送って次のステージだ! おうヴァールさん、それで連中の本拠地ってのはどこに!?」

「荒々しいな、気持ちは分かるが……火野の処遇はともかく、結論から言っておこうか。WSOのエージェントはノルウェー北部にて、オーヴァ・ビヨンドの姿を目撃した。能力者解放戦線の拠点は、ノルウェーはノールノルゲ周辺にある」

「ノールノルゲ……!!」

 

 猛るレベッカを諌めつつ、突き止められた敵のアジトの場所を告げるヴァール。

 決戦の地、ノルウェーは北部地域ノールノルゲ。一同はその名を深く、心に刻みつけた。

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