呪いの王が生まれ変わるのは間違っているだろうか 作:名無し
極東スタートにしたのはこれのためです。
「まだ連れてこられないのかッ!!」
柱には選び抜かれた上質なヒノキが使われ、折上げ小組格天井には黒漆塗りと蒔絵が施されている。空間を区切る襖や衝立には極東でも有数の絵師による本物と見間違う風景画や猛獣が描かれているだけでなく、襖の引き手には薄い金箔によって細かな装飾が拵えられていた。
誰でも見て分かる派手な豪華絢爛ではなく、目を凝らした者が更に贅を理解できる広間。そこは極東と呼ばれる島国の中央政府、『朝廷』の主の間であった。
静寂を引き裂くように響くのは『朝廷』の君主、帝の怒声。着物の上からでも鍛え上げられた肉体が分かる彼の眼光と覇気に下座で跪く臣下達は震えるしかない。
「五年だ! 五年だぞ! 我が国が誇る占術師ヒミコがあの占いをして経過した年月だ! なのに何故、貴様等はかの存在を連れてこられない!?」
帝が喚き散らしているのはとある『予言』のせいであった。
『この地に眠りし荒れ狂う水の化身が目を覚ます。
山を跨ぎ谷を埋める厄災は大地を紅く塗り潰し、溢れる水が全てを押し流すだろう。
梅の名を持つ精霊を求めよ。
求めし梅は四つの腕に断たれて持ち去られている。
心せよ。神すら弑する其は呪いの王』
戦争や疫病が多い極東では占いに特化した一族が存在していた。『恩恵』に現れるほど極まった占いの才を持った一族の予言を帝はこれ以上ないほど信用している。何よりこの予言が本物であると断定できる根拠を持っていた。
いるのだ、この地には。英雄達が生まれる都に封印された大穴から地上に進出した漆黒の怪物の存在は、この国でごく僅かな者だけに伝えられている。
Lv.8やLv.9がいるオラリオですら未だに果たせていない世界三大依頼と同じ漆黒のモンスター。国中の戦力をかき集めても迷宮都市に到底及ばないことを理解している帝は予言を頼りに精霊を探すよう命令を出した。
しかし、結果はこの様である。
「神殺しの大罪を犯した異形のエルフ、宿儺! あの罪深き怪物を滅殺して精霊を救い出してここに連れてくる……国の行く末を決めるというのに何故宿儺を殺したという報告すらないのだ!?」
ーーその宿儺が化け物みたいに強えんだよ馬鹿野郎!
必死に頑張ってるのに褒美もなく怒り散らす帝に臣下は不甲斐なさを超えて怒りを抱き始めていた。
予言が出る十年前から宿儺の存在は知られていた。その側で人間離れした美貌と存在感を持つ男か女かわからない者がいることも報告にあったが、二人の存在を合わせて考えた結果、妖の類と思って聞き流していたのだ。
宿儺は自分の居場所を隠そうとしていない。むしろ自分が居るのを喧伝するかのように神の送還を繰り返すのだ。歴戦の武士、熟練の忍者、稀代の妖術師による討伐隊が予言が出て即座に組まれ、予言の成就は防がれるだろうとこの場にいる誰もが思いながら頼もしい背中を見送った。
それから五年。宿儺の討伐隊は悉く壊滅させられた。一度だけ情報収集のみを命じた忍が生還したが、宿儺と裏梅の名を告げていざ彼等の報告をしようとした途端、氷像となって砕け散った。
(宿儺は強いし肝心の精霊も敵対的! こんなのどうしろっていうんだよ!)
上からの理不尽な怒りに内心で悪態を吐いていた臣下達だったが、それは帝も同じだったようだ。怒鳴り散らして気分が落ち着いたのか、それとも吹っ切れたのか。席を立つと
「ブフッ……グヒヒ、ヒーッ、お腹痛い……」
帝が目を向けるのは一つ一つが極上の品である十二単を着崩している女神。この国の真の頂点。着物が盛大に捲れて艶かしい太腿が露わになるほど笑い転げていた彼女の哄笑が聞こえないよう怒鳴っていた帝は死んだ魚の目で口を開く。
「……できることはやったつもりです。お力を貸していただきたい、アマテラス様」
「そっ、そうだね……。自分の持つ手駒で最大戦力ぶつけて余裕かましてたら全滅したって聞いた時から必死で頑張ったもんね……いいよぉ。努力賞ってことで手を貸してあげる。僕の下着を見てもいいよ」
「……感謝します」
「下着を見せてあげるだけでお礼を言う帝……エッチ」
いやんいやんとわざとらしく体をくねらせるこの女神に初恋を奪われた過去の自分を殺してぇ……。帝は臣下に負けず劣らずの目上の者への怒りを抱いた。
既に帝から興味を無くしたアマテラスは手元の半紙に視線を落とす。墨と筆で描かれた鬼のようなエルフの歪な方の目元をアマテラスは愛おしそうに撫でた。
「努力するって言葉は君が使うべき言葉だよねー、スクニャン。絶対に僕の眷属にしたいなぁ……」
ふざけた言動を取りながらも一つの国家系【ファミリア】の主神は既に思いついていた手を打つ。
「スサノオ、いるー?」
「……いるに決まってるだろう」
アマテラスの呼びかけによって襖を開けて現れたのは
彼の不機嫌そうな様子にアマテラスは毛ほども怯まない。
「だよね。国取合戦で二番目になった君に僕が命令の届く所にいるようにって命令したんだし」
「……用件は?」
何の用だ、と言えば「用事があるから呼んだんじゃん。馬鹿なの?」と煽られる未来が見えたスサノオは口の聞き方に気を付けながら尋ねる。
「例の予言の精霊とスクニャンを連れてきてほしい。下界の子供が
「……わかった」
お願いねー、という軽い声援を背中で受けながら廊下に出たスサノオはため息を吐いた。
武力が高い神ならスサノオ以外にもいる。それでも敢えて自分を選んだと言うことはーー。
「どこまでも、性格が悪いな」
まだ完全に生き方を定めていない宿儺と裏梅だが、一つだけ決めているものがある。
それは『理由なく人を殺さないこと』。
少年院で伏黒恵を殺そうとしたようにーー虎杖悠仁への嫌がらせはあったかもしれないがーー宿儺は特に理由なく人間の命を奪っていたが、これをやめた。
裏梅は凄まじく表情を歪めたし、宿儺も似たり寄ったりの心境だがどちらも異論はなかった。虎杖悠仁は宿儺に勝った。ならばその意向を少しは汲んでやるのが敗者の義務である。
まぁだからと言って人を殺さないという訳ではないが。
「ぎゃあああああ!?」
「た、助けーーひょがっ」
「びゅっ、ひゅううーー!」
異世界だろうと髷という文化は生まれるのだな。どうでもいいことが思考をよぎりつつも襲いかかってくる武者の群れを刀ごと【解】で斬り払い、運良く死を免れたものは鎧兜ごと殴殺する。
人里に降りてきた宿儺は誰の手の者かも知らない武士の集団に襲われていた。『恩恵』を授かった者特有の身体能力なのでどこぞの【ファミリア】なのだろう。
宿儺が蹂躙を始めると何人かは乗ってきた馬で逃げようとしたが、そちらは裏梅によって首から下を氷結され動くこともままならない。無理に動こうとした者の体が割れるのを見れば躊躇うのも当然だろう。
もう何度目になるかわからない襲撃だが、宿儺は一度も自分から騒ぎを起こしていない。
宿儺は異形の自分が常人に受け入れられるものと思っていないし、連中の恐怖も理解はできる。だから自分を見て悲鳴を上げたり逃げ出した者を殺すような真似を今世ではしていない。弱者はコソコソ隠れて生きていろと思うし、逆に愛を説いてきた阿呆のように全裸で抱き付くほど好感を示せばそれはそれで鏖殺していただろうが。
しかしこちらに向かって来るなら話は別。襲いかかってきたということはこちらの命を狙ってきたということ。身の程を知らない弱者が己に勝てると思えていることが腹立たしい。宿儺の力量を測れないほどの下奴ともなればより不快である。
「このっ、大精霊様を誑かした下衆が! 貴様のような化け物が側にいていい方ではなぎゃっ」
「宿儺様、こちらで生け捕りにした者はどういたしますか? 人肉を使った料理にするならそのように処理しますが……」
宿儺に立ち向かった最後の一人が捨て台詞すら言い切らせてもらえず力尽きる。それを見届けた裏梅が逃げようとした者達の沙汰を尋ねると、彼等はガチガチと歯を大きく鳴らして震え始める。何か言おうとするも「五月蝿い」の一言で即座に氷が口を覆い呻き声すら出せなくなった。
そんな連中に目をくれることもなく宿儺は、
「いらん」
「かしこまりました。では本日の食事は馬刺しにいたします」
えっ、という顔で二人を見る逃げ遅れた馬。最後の光景は氷で作り出した刃物を振りかざす精霊の姿だった。
ちなみに氷像にされていた連中は宿儺がいらないと言った瞬間に砕け散っていた。
「一狩り行こうぜ!」「人肉食べたい」「取ってきます」くらいの感覚で人を殺すのを宿儺はやめました。
正直勝者である虎杖からこうしてほしい、と明言された訳ではないのでこんなことを決めても自己満足にしかならないかもしれませんが、「殺す。特に理由はない」とか言ってた宿儺的に結構譲歩してる気がします。
あと宿儺は人を食べたりするらしいですが、食べるとしたら柔らかい女子供と強者と認めた者だけで、雑魚だったら口にしないんでしょうか?
首都以外は乱世乱世してて輝夜がああなるならこんな感じに歪んだ女神がいてもおかしくないと思う。モデルはダークアポロンである。
黒閃ってあり?
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あり
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なし
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作者の自由