呪いの王が生まれ変わるのは間違っているだろうか 作:名無し
前回よりも難産で、賛否両論ある仕上がりになりました。宿儺以外のキャラへも独自解釈が含まれるのでお気を付けください。
来週の投稿はお休みです。
――違和感。
『お前の王として相応しい力を手にするのもそう遠い話ではない』
宿儺様のこのお言葉、今になって思えばおかしかった。まるで私に誓いを預けるようで。
――違和感。
『ふむ……この世界の八岐大蛇に興味が湧いたな』
直前まで『ヤマタノオロチ』に興味を持っておらず、戦う意義も意味も見いだせていなかったのにそれを翻した。まるで私を庇うように。
――違和感。
私を囮として扱っていながら、戦場から遠ざけて……まるで、私を死なせないようにするために――!
「なんだそれは? 俺をおちょくっているのか?」
五条悟は宿儺が認めた数少ない強者である。そんな存在に話しかけられたのに思わず不機嫌な声を出してしまったのは、彼の恰好が原因だった。
容姿が若返っているのはまだいい。だが短パンにアロハシャツ、ハートマークのサングラスをかけて甘ったるそうな色彩のジュースとポップコーンを食べているとなれば話は別だ。付け加えるなら宿儺の姿が何故か虎杖悠仁になっていたことも癪に障った。
「ちょっと南に行っていてね。でも宿儺がここに来るって知ったからちょっとだけ戻ってきたの。あ、ポップコーンいる?」
「黙れ……ここは何だ。俺は死んだのか?」
「……」
おちょくるようにすぼめた唇を突き出してくる五条悟。宿儺の額に青筋が浮かぶ。
「……おい」
「黙れって言ったのそっちじゃーん! ガチモンの今際の際って言ってもいいけど、俺ら風に表現するなら夢と現実の間――呪いかな。だから宿儺はまだ死んでないよ、さっき俺があげようとしたポップコーン食べてたら死んでたけど」
平然とした顔で
「はいっ、それじゃあ宿儺にはこれから死にそうだからこそぶっちゃけられる本音を話してもらいまーす!」
「はぁ?」
空気を変えるように手を叩いた時、五条悟の姿は六眼を眼帯で隠し、肌の露出がほとんどない黒ずくめの高専教師時代の恰好へと変わっていた。
「世迷い事を抜かすな。貴様に腹の裡を晒す意味がわからん」
「僕、教師だから。そして宿儺は僕の生徒の悠仁の姿をしてる。生徒の悩みを解決するのも教師の役目だよね!」
イェイイェイとはしゃぐデリカシー皆無のこの男に悩みを吐き出すなど血迷いでもしなければしないだろう。むっつり黙り込む宿儺の前で騒いでいた五条悟は急に静かになると、真面目な顔で口を開いた。
「まずさぁ、宿儺って自分と他人に嘘を吐く癖でもあんの?」
「!」
魂をいじくるツギハギの呪霊にも言われた言葉。宿儺の表情が目に見えて変わる。
「『ヤマタノオロチ』となんで戦ったの? 勝てない戦いに挑むような馬鹿じゃないと思ってたんだけど」
「……俺に向かってきている輩から逃げるのが性に合わなかっただけだ」
「お前にじゃなくて裏梅って奴にでしょ。しらばっくれんな」
「……」
眼帯が外れる。青く輝く瞳が宿儺を捉えて離さない。
「あの裏梅って奴に加護をもらっていればもっと結果は違った。一緒に戦えば勝ち目だってあった。いや、あいつを捨ててりゃお前は『ヤマタノオロチ』と戦うことさえなかった。なのになんでどれもしなかった?」
「……貴様ならわかっているだろう。今の俺よりも裏梅の方が強い。弱者が何故強者に命令できる? ただ主従の関係を理由に従わせるなどあってはならんことだ」
「それも嘘。それが理由なら異世界に転生した時点で主従関係逆転してないとおかしい。一方的な搾取になるのが嫌だったんだろ」
奇妙な光景だった。かつての勝負で勝者と敗者の格付けは済んでいる。にも関らず、宿儺は五条悟に強く言い返せないでいた。
「ぐちゃぐちゃ言い訳してないで認めろよ。あの
「――」
「悠二の姿になっているので確信が持てたよ、お前がしようとしてた生き方は――」
「『――
――その通りだ。
そしてそれがどうしようもなく身の丈に合わない願いであることもわかっていた。
だってそうだろう。他者を顧みることもなく、他者に満たしてもらおうと思ったこともない『呪い』が、今更『人間』のように誰かと生きたいなんて虫のいい話があるものか。
「……それで?」
「あん?」
「俺の腹の裡を暴いて貴様は何をしたい? 滑稽と笑いたいのか? 愚かだと罵りたいのか?」
「……はーっ、これだから無駄に長生きしたおじいちゃんは」
呆れたように頭をかいた後、五条悟は指を突き付ける。
「宿儺、頭硬い。というか真面目過ぎ!」
宿儺の目が点になった。
「悠仁との最後の会話をずっと引きずってるのもそう、『呪い』だからってそれを意識した言動もそう! 自分がこうあるべきって決めた事柄について真面目に考えすぎてドツボにはまるとか、どっかの生臭坊主と同じことしてるんじゃねーよ!」
「――その生臭坊主ってひょっとして私のことかい、悟?」
いつの間にか五条悟の隣には袈裟姿の塩顔の男が座っていた。
「貴様は羂索に肉体を乗っ取られていた男か」
「うぐぅ」
何故か五条悟が胸を押さえて蹲った。
「高専から離反して殺される理由を作った私が言えた義理じゃないけど、デリカシー皆無の悟が年に一回の気を利かせて硝子に私の遺体の処理を任せなかったからね。獄門疆はともかく、呪霊操術さえ手に入らなければ羂索の計画は破綻してた訳だし」
「うっせー! 元を辿れば数千万ぽっちで呪術界を滅ぼすような依頼を受けた損得勘定の狂ったゴリラが悪いんだよ!」
「そうだね、あの猿が悪い」
「おい、茶番は終わりか?」
宿儺が不機嫌になったのを感じたのだろう、あからさまな咳ばらいを一つ挟み塩顔の男、もとい夏油傑は宿儺と向かい合う。
「宿儺、君は裏梅って子と生きていこうとしていたみたいだけど、私から見たらそんな生き方ができていたようには思えない」
「だろうな。俺は奴に何もしてやれなかった……仕えるに相応しい力を示してやることさえもな」
「そうじゃない。そうじゃないんだよ、宿儺」
夏油傑が自嘲の笑みを浮かべる宿儺に向ける目はまるでかつての自分を見るかのようで……。
「私と悟は親友だ。それは敵対してからも変わらなかった」
「……急に何の話だ?」
「悟がいくら強くなったって、私が悟よりずっと強くなっていたとしても、『私達は最強』であることに変わりない。悟がそのことを否定した訳でもないのに、悟の隣に私は必要ないと思い込んで、私は勝手に『最強』を辞めた」
「話が長い。貴様は何が言いたい……!」
「これと同じだよ、宿儺。君は裏梅と話をしていない」
その言葉に宿儺は大きく目を開く。
「君は裏梅の主に相応しい力がなければ一緒にいちゃいけないと考えていたけど、あの子がどう思っているのか知らないだろう? 力がない君の傍にいたくないと言っていたのかい? 見た目好みだから仕えたいって聞いたのかい?」
「……それは」
「『ヤマタノオロチ』の酔いを醒まして、自分の命と引き換えに裏梅が死なないよう戦った君の行いはただの独り善がりだよ」
いつしか空港の外は闇に包まれ、飛行機の便は北と南、二つを残すのみだった。そして、出発までに残されている時間に余裕はない。
「そうか……そうだな」
宿儺が立ち上がる。改札に向かう歩みに迷いはなかった。
「五条悟……夏油傑」
振り向くことなく彼は告げる。これから口にする言葉はきっと、宿儺らしからぬ言葉だから。
「感謝する」
何かを言われる前に進む。平穏の温かさではなく厳しい冷気を感じる方へ――北へ。
宿儺の姿はあっという間に見えなくなった。
「……あれが宿儺か。悟が十種影法術がなくても勝てたか怪しいと言うのも頷ける」
「だろ? でも俺とお前でなら勝てるさ。だって俺達『最強』だし」
「……ははっ。彼も二人で『最強』になるかもしれないよ?」
「んー、その時はあいつ等がこっちに来たら白黒つけようぜ。まっ、俺達が絶対勝つけど」
全身を苛む激痛によって再び沈みそうになる意識を繋ぎ止める宿儺は、まだ自分が生きていることを不思議に思った。意識を失ってそれほど経っていないのかという彼の考えを五感全てで感じられる『ヤマタノオロチ』の存在感と、目の前に立つ背中が否定する。
囮として待機させられていた場所からここに『ヤマタノオロチ』より先にたどり着くので精一杯だったのだろう。回復魔法もかけられないまま宿儺は氷の防壁に囲まれて、守られていた。
「……うら、うめ」
「宿儺様、お許しください、宿儺様の矜持を踏みにじる愚かな私を!」
大陸中に広がっていると言われても信じてしまえる凄まじい轟音と衝撃に包まれながらも、裏梅の声はよく響いた。
「人間だろうと呪いだろうと、強くても弱くても関係ない! 私の近くにいても冷たくならなかったっ……私に手を繋ぐ温もりを教えてくれた宿儺様であればそれ以外はどうでもいい! 私は宿儺様と一緒にいたい! それ以上に宿儺様に生きていてほしい!!」
「……!」
「この無礼の罰は如何様にも……宿儺様だけでもここから逃が――」
裏梅の言葉はそこで途切れた。
宿儺が立ち上がっていた。骨には無数の亀裂が走り、肉から大量の血を吐き出し、死体も同然の体で。万全の状態だろうと歩くことさえ難しい振動の中で彼は裏梅の隣までやってくると、前を向いたまま手を差し出す。
「『加護』を」
「……え?」
「『加護』を寄越せ」
宿儺は怒っていなかった。裏梅も見たことのないような笑みを浮かべて笑っていた。
「聞こえないとでも思っていたのか五条悟め。貴様が他の連中を連れてこようが俺
「……っ」
「勝つぞ……裏梅」
「――はいっ、宿儺様!」
冒険が始まる。新たな
呪いの王とその従者は今日、初めて一緒に
裏梅に与えられた『加護』の力は宿儺に凄まじい恩恵を齎した。
身体能力の向上はもちろんのこと、魔力も桁違いに上昇する。更に我流で組み上げていた『魔力回路』が宿儺自身に
氷の防壁ごしに『ヤマタノオロチ』を見据える。ここまで近付いていれば斬撃を放って敵の命を削り切るより先に脆くなった防壁が破壊されて宿儺達が死ぬだろう。
それに『加護』を与えられても宿儺の
ならどうするか?
(『世界を断つ斬撃』によって『魔石』を破壊する!!)
宿儺は『魔力』で強化した己の拳を見下ろす。『加護』によって全身を巡る『魔力』もより鮮明に感じ取れるようになったが、核心にはまだ到達していない。このままではまた威力が高いだけの斬撃になる。
故に拳を振るう。
黒閃!!
「……くっく、寝覚めに丁度いいな」
呪力と打撃の誤差0.000001秒以内だと発生する空間の歪み『黒閃』はこの世界にも存在していた。
宿儺の頭からあらゆる雑念が吹き飛び、彼のボルテージが上がる。
『『『『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッ!!!』』』』』』』』
氷壁によって羽虫へのトドメを阻まれた『ヤマタノオロチ』が猛り狂う。酔いを醒まされたことや邪魔をされたことに対する怒りではなく、氷の中で高まっていく己への死の予感で。
その巨体をいくら叩きつけても、炎を何度吹きかけようとも、氷の破壊は遅々として進まない。壊れた端から氷が生成され、攻撃を途絶えさせた箇所は厚みを増していく。更に頭上から大氷塊がいくつも降り注ぎ、それぞれの首の脳を揺らす。
破壊速度の方が確実に早いが、氷の中で渦巻く『魔力』が膨れ上がっていく速度はそれ以上。
戦いの行方は最早決まっていた。
「【龍麟】」「じゃあな『ヤマタノオロチ』」
腹部の口が呪詞を唱える。
「【反発】」「俺一人なら負けていた」
下の両腕が閻魔天の印を組む。
「【番いの流星】」「だが、俺はもう一人じゃない」
呪いではなく、『魔力』が練り上げられる。
「「
――【解】。
山を超える巨体が
遠くの山に刻まれた裂け目から水平線から昇る太陽が覗く。光を反射させて輝く凍り付いた灰吹雪に包まれるエルフと大精霊の姿はまるで英雄譚の一ページ。
「肩を貸せ裏梅。もう一人では立つこともできん」
「はい、いくらでもお貸ししますとも」
この日、彼等は世界を救った。そして、それ以上に大切なものを手に入れた。
その価値はきっと、彼等以外にはわからない。
『ヤマタノオロチ』
推定レベル10。
繰り出される攻撃は当たったら死ぬ。
アンフィスバエナより強力な紅霧と焼夷蒼炎も厄介だが、より厄介なのが四種の状態異常。
腐食は接触した部分が腐っていくのもヤバいが、吸って仕舞えば喉や肺をズタボロにされる。今の宿儺は毒に耐性がほとんどないのですぐ腐りましたが、『耐異常』があってもある程度は効く貫通性があります。その代わりにベヒーモスほどの効果はない。
麻痺はすぐに行動不可能になる程ではないけれど、それでも身体は鈍るし、下手すれば心臓を動かすための筋肉や呼吸するための筋肉も止まってしまう。同じように『耐異常』への貫通性あり。
睡魔は痛みで気づけをしていても容赦なく眠りに誘う。同じように『耐異常』への貫通性あり。
倦怠感は麻痺と睡魔で感じにくくさせたところに襲いかかる。麻痺と睡魔、戦いによる消耗で倦怠感に気付かない。自分で考える以上に疲弊した身体は容赦なく殺される。同じように『耐異常』への貫通性あり。
とにかくデバフをばら撒きまくる。あらゆる状態異常に対応できる回復魔法は希少なうえに、接近戦を余儀なくされるため治療師との距離も離されて回復ができない。
とにかく相手にクソゲーを押し付けるモンスター。ゼウスやヘラなら最初から様子見なしで全力攻撃をかませばそれで仕留められるが、初見のモンスターにそんなリスキーな真似をしないと思うので、結局苦戦することになる。
・世界を断つ斬撃+氷属性
裏梅の加護を授けられたことで斬撃に氷属性が付与された。切断面から凍み氷る衝撃が走り抜けるため、斬られた箇所からかなりの範囲が粉々にされる。当たれば急所じゃなくても高確率で死ぬ。
黒閃ってあり?
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あり
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なし
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作者の自由