レミリア様が現代入り   作:磨殊

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1話

「あー、暑いわ」

 

 日本の夏は暑い。暑いうえ湿気が強く、不快感が上限知らずで酷くなっていく。

 幻想郷だと夏でもこんな事にはならなかったのに、どうして外の世界に出ただけでこうも不快さが変わるのかしらと、レミリアは嘆息する。同じ国とは思えない気候の違いに、レミリアは参っていた。

 パチェー、ちょっと魔法で冷やしてと声を張り上げるが、反応はない。

 しまった、当たり前のように呼んだけど、パチェはここにいないんだっけ。パチェったら引きこもりだから、呼べば館内にいるのが当たり前だったから、つい癖で。

 その事に若干の寂しさを感じたレミリアだったが、溜息を1つついて気持ちを切り替えた。仕方がないので、エアコンのスイッチを押すが、何も反応がない。昨日まではちゃんと動いていたのにと、何度もスイッチを押したり、リモコンを叩くがやはり反応がない。レミリアにとって家電製品は未知の技術なので、これ以上どうしたらいいのか分からない。

 

「お前さんが使いまくるから、電池抜いてるからな、それ」

「何してくれてるのよこのド腐れ人間!?」

「貴様が何も考えずに贅沢三昧して電気製品使うからだボケぇ!」

 

 こ、この人間、やっぱり生意気だ、とレミリアは怒りを顕にする。やはり上下関係をハッキリとさせる為に、一度屈服させる必要があると青年に殴りかかろうとするが、青年がスイッチを握ったのが見えたため大人しくなる。

 だから、日光は卑怯でしょう。

 

「エアコンを使いたかったらキリキリと働いてくれ。頼むから、ほんと頼むから働いてくれ」

「今更聞くのもあれなんだけど、このエアコンってやつはそんなに金食い虫なの?」

「少なくとも1日中使うようなもんじゃあないな」

 

 あの調子で使われていたら1日1食生活になってたかもしれないと、冬河が暗い表情で告げる。それを聞いて、どうやらかなりの金食い虫だとレミリアは理解した。

 さすがに家主が破産したら困るもの。これからは本当に我慢できない時だけ使いましょう。でも、我慢できるからって暑い事には変わらないのよね。

 

「おい、扇風機はどうした?」

「あー、アレね」

 

 たしかにこいつが貸してくれたわね。あの、風を起こす機械。でも、壊れたわ。

 

「おい」

「だって、しょうがないじゃない。向きが悪いから機械をこっちに向けようとしたら、あっさり捻じ切れちゃったんだもの」

 

 レミリアがそこに置いてあるわよと指差す方を青年が見ると、無残に頭と首が分離した扇風機が置かれていた。

 おっかしいなあ、無理に捻ろうとしても、普通は抵抗を感じた時点で止めるだろと冬河が言うが、そんなものは無かったとレミリアは思う。決して、勢いをつけて頭を回したせいではない。ないったらない。

 

「抵抗なんて無かったわよ?」

「こんの馬鹿力!」

「馬鹿力とは何よ馬鹿力って!」

「バカをバカと言ってなーにが悪い。普通の人間は抵抗なく折れるような力はない」

「人間じゃなくて吸血鬼ですもの! これだから貧弱な人間は困るわ」

「ほほう、なるほどなるほど。貴様なんぞには文明の利器は早過ぎるから、団扇でも使っとけ!」

 

 カッチーンときたわ。こいつ、一度痛い目見せてどっちが上か教えてあげないといけないみたいね。大丈夫、家主相手ですもの。ちゃんと4分の1殺しで勘弁してあげる。

 

 

 

 

 

「あー、暇ね」

 

 冬河との殴り合いには当然勝てたものの、何か異変を解決するまでご飯抜きと言われてしまった。なので、レミリアは異変を解決する為に、この公園で見張りをしている。結局、試合に勝って勝負に負けたようなものである。

 あの人間、自分は普通の人間と言う割にはしぶといというか、勘がするどいのよね。致命傷になりそうなのはしっかりと避けてるし。けど、私が負けるようなことは無いでしょうね。やっぱり、私が負ける事もあるあの自称普通の魔法使いがおかしいのよ。あれが普通じゃなくて、冬河みたいなのが普通よ。

 それにしても、とレミリアは溜息をつく。まさか異変を起こす側の妖怪だった自分が、異変を解決する側になるとは。それも、自分に関係のない異変を、だ。そりゃ何回か降りかかる火の粉を払うために、異変を解決した事はあるけどさ。なーんか、変な感じね?

 

 

「異変。異変、ねえ」

 

 外の世界で、異変を起こす力のある妖怪なんているのかしら。いたとしても、そう都合よく私がいる街にそいつもいるだなんて、あり得ないわ。あのスキマ妖怪がわざわざそんな所に放り出してくれていたら別だけど。

 レミリアは公園に訪れる人々を眺めつつ思考を続ける。冬河とは、この街に起こる様々な異変を彼の代わりに解決して、その報酬として家に住まわせて貰う約束を交わしている。なので、異変を解決する必要があるのだが、話を聞く限りだと今回の異変は妖精の悪戯に似た気配がしている。

 冬河から聞いたこの異変の内容はこうだ。この公園でデートをすると、そのカップルは別れる。たったそれだけの事だ。たったそれだけの事なのに、人間達にとっては大変な事らしい。

 相性が悪かっただけと思えないものかしら。というか、そんな事が異変扱いされるなんて、外の世界は平和よねえ。

 レミリアは幻想郷で自分や他の妖怪たちが起こした異変を振り返り溜息をつく。あれと比べたら、この異変なんて子供の悪戯よ、悪戯。もし、幻想郷の異変みたいなのがこちらで起きたらどうなることやら。対応できる人間なんていないんじゃないの?

 

「大丈夫かしらこの世界」

 

 いくら力を失いつつあると言っても、この世界にはまだまだ力のある妖怪はいるはず。なのに、それと戦うはずの人間側は弱体化。これ、私こっちにいた方が世界取れたんじゃないかと思ってしまうぐらいよ。それで大丈夫なの人類。霊夢みたいなバグキャラ生まれるのを待ってるだけだと滅びるわよ?

 て、なんで私が人間なんかの心配しないといけないのかしら。それよりも今公園に入ってきたカップルよ。まったく、何で別れのデートスポットとか言われているところにわざわざ来るのかしら。まったく理解できないね。

 なんで自ら火の中に飛び込もうとするのか、人間のする事はよく分からないと呆れつつ、レミリアは新たに公園に入ってきた恋人たちの運命を覗き見る。

 さて、あのカップルは……あと1ヶ月ってとかな。私は運命を操ることが出来るから、本当に運命が変わって別れる結末になるのならば元に戻してやろうかと思っていたんだけど。元からね、これ。朝からずっと見ているけど、どの人間も近く別れる運命の持ち主ばかりじゃないの。たとえ、今がどれだけ幸せそうに見えても、よ。

 この異変、訪れた恋人を別れさせるというより、別れる予定の恋人を引き寄せると言った方がいい気がするんだけど。こんなもの、どうやって解決しろとというのよ。この公園を更地にしたら良いのかしら? でも、そうすると冬河は怒りそうよね。

 

「とりあえず、一度戻って相談しましょうか」

 

 はあ、残念。せっかく毘沙門天と戦えるかと思ったのに。

 残念そうに呟くと、レミリアは興味を失ったのか、カップルの事など見向きもせずに公園を後にした。

 

 

 

 

 

 レミリアは帰宅した冬河を捕まえ、異変の顛末を伝えた。公園に訪れたから別れる運命になる恋人などいなかった事。近く別れる予定の恋人のみ訪れてきていた事。これらの事から、この異変は「訪れたら別れる」のではなく、「近く別れる運命の恋人を招き寄せる」が正しいのではないかと予想を伝え、これからどう動くつもりなのか尋ねる。

 

「どうしようか?」

「おい」

「いや、そうは言ってもなあ」

 

 冬河は頭をガシガシと掻きながら答える。

 全国的にこの手の現象はある。しかも、原因もしくは悪さをしそうな妖怪もいないパターンも多々ある。しかし、稀に原因が推測されているものがある。今回、似たパターンと思われていたのは、公園の近くに弁天様を祀っており、その弁天様が嫉妬から恋人の仲を引き裂くというものだ。

 レミリアに行って貰った公園の隣にあるお寺には、弁天様が祀られているからな。だからこそ、この弁天様が悪さしてる確証得たら解決に動けると思ったんだけどなあ。

 椅子に胡座かいて座り、あーでもないこーでもないと唸る冬河をよそ目に、レミリアは彼が買ってきたアイスを舐めつつ、どうでも良さ気に言葉をかける。

 

「で、どうすんのよ冬河」

「お、ようやく名前で呼んだな!」

 

 うっさいと叫び、食べ終わったアイスに残された棒を冬河に投げつける。あ、あれ当たりって書いてたわね。

 投げつけられた冬は、棒が見事に額に当たり、その衝撃で椅子から転げ落ちた。

 

「アイタタ。何でアイスの芯でこんな衝撃が。妖怪怖い」

「そう思うなら、もう少し怖がりなさい」

 

 晴れやかに笑いながら言われても、まったく怖がっているとは思えないのよ。

 

「ま、そうさね。公園潰して別の場所に新しい公園作って貰いましょうかね」

「あんた、それ妖怪の私と同じ考えよ。それで良いのかしら人間」

 

 あ、笑顔が固まった。

 

 

 

 

 

 数日後、公園は閉鎖されコンビニが建つとの看板が出されていた。そして、少々離れたところにある空き地と、いくつかの畑が買収されて、今までより大きい公園が新たに作られることになったそうだ。

 あの人間、一般人と言ってたけど、どうやったらただの一般人がこんな事出来るのかしら?

 お金ないといいつつ、急に現れた私を難なく養ってるし、ちょっと調べてみましょうか。




都市伝説ってネタに困りますね!
こう、レミリア様活躍出来るような都市伝説がなかなか見つからない。
このままだと、数話後にはターボばあちゃんと戦ってるかもしれません誰か助けて。

序盤なので、戦闘シーンのないのんびりとした話にしてみました。
まあ、そんなに戦闘に需要ないでしょう。たぶん。
でもカッコいいレミリア様書きたい。
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