練馬が三日三晩、授業中も赤点覚悟でノートも取らずに考え出したデートプランはこうだった。
『近くの良い雰囲気のカフェで昼飯』→『ショッピングモールでショッピング』→『水族館でイチャイチャ』。自分でも余りの完璧なデートプランに戦慄してしまうぐらいである。
更には脳内シュミレーションの方も完璧だ。それこそ夢の中でも見るくらいに洗練された
最早、この練馬に死角など無い。あらゆる状況、場面、行動への適応力を手に入れた自分は、燈に無様な真似など見せる筈がない。
という、筈なのに……。
「どぉぉじでだよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
目の前の
───此処は練馬リサーチ(&黒崎セレクション)でランチスポットNo1のカフェ。都会の中でもスピリチュアルな雰囲気に浸れるとSNSで密かに話題となっている人気の店なのだが……。
『スピリチュアルが足りないので、森林で黄金のカブトムシ捕まえてきます。By店長』
「そんな理由で休むんじゃねぇよぉ!! プロ意識の塊かよぉぉ!!」
そう書かれた立て看板をハッ倒したい気持ちに刈られるが、今はそれどころでは無い。
「あ、あの、練馬……くん」
「ハッ! 燈ちゃん!!」
背中に女子特有の柔らかさがほんのり伝わる。それが燈が優しく摩ってくれているからだと気がつくと、途端に練馬の身体がバネ仕掛けのように勢い良く立ち上がった。
そう、忘れてはならない。今は燈ちゃんとのデート中だ。此処で心が折れていては、折角の掴んだチャンスをドブに捨てるも同然、ならば立ち止まってなど居られない!!
「ご、ごめん! まさか閉まってるとは思わなくてさ!! 大丈夫! 他にもオススメの店知ってるから!!」
慌ててスマホの地図から近隣の飲食店を片っ端から探り出す───少なくとも、このスピリチュアルを求めすぎたカフェよりも良い店で無ければ、挽回は出来ないだろう。
しかし、出てくるのは○クド○ルド、○ルタッキー、○ら寿司etc……流石は都会の中心地、見事に地図の目印がチェーン店一色に染まり切っている。
こんなチェーン店などでは、飽和社会に生まれた現代少女が満足する筈が無い……!! 黒崎だって『ランチでチェーン店連れて行く男にはなるなよ。それが許されるのは中坊までだからな』と言っていた。
「何か、何か出てくれよぉぉ!!」
何か、何かオシャレでイケていてスマートで人気でスピリチュアルでふわっと良い感じのカフェは無いのか!!
───その時、必死になってスマホを鷲掴んでいた手の袖が、か弱い力で二、三度引っ張られた。
「練馬……くん」
見れば、何かを言いたげに口元をモゴつかせている燈が、その小さくて細い指先で袖をつまんでいた。そして、少しの間を置いて口を開くと、反対側の手で斜め上を指差す。
「アソコとか、どう、かな?」
「燈に気を遣わせるとか……やっぱりアイツぜっんぜん駄目。こんなんじゃ燈が可哀想。やっぱり今から私が……」
「ドウドウドウ、落ち着けって」
俺は久しぶりのファミレスで何頼もうかとメニューを開きつつ、そう向かい側の席に居る練馬達に向けて今にも突貫しそうな野犬を宥める。
だがこの女、椎名の言う事は俺としても分からんでも無い。行こうとしてたカフェが休業&気を遣わせてファミレスとか、甲斐性なし良い所だろう。そもそもアイツに甲斐性なんて期待してないが。
「まだデートは始まったばっかだろ。もう少し様子見てやれよ」
「何、アイツの味方するわけ?」
「不本意ながら、一応友達だからな。ほらよ、なんか頼めよ」
「……ん」
有無を言わせずに読み終えたメニュー表を受け渡すと、根は真面目なのか黙ってペラペラと読み始めた。そして漸く静かになった目の前の爆弾を前に、俺は一息を吐き出す。
結局、なし崩し的にこの女と仲良くストーキングをする羽目担った訳だが……ある意味、一緒に居て良かったかも知れない。じゃなきゃ、今頃は本当にあの二人に突貫していた事だろう。
そういう訳で、俺はあの頭が緩いチャラ男と、トリガーが緩い狂犬女2人を監視する羽目にと……ヤベェ、頭が急激に痛くなってきた。
「なんか甘いモンでもねぇかな……」
ズキズキする頭の栄養補給の為に、何か甘い物でも無いかと探っていると、ふとお子様用の間違い探しが乗ったキッズメニューが視界の端に入る。
「……」
「お前、もしかしてお子様プレートでも頼もうとしてる?」
「それが一瞬でも良いなって思った自分が恨めしいよ」
キッズメニューを食べたくなるとは、相当参っているらしい。
「でもコレ、燈が好きそう……」
「へ? コレがか」
「ハ? 燈の趣味になんか文句あるの?」
「別にねぇけど……うぅん」
改めてキッズメニューの内容を眺めてみると、お子様ランチらしく旗の刺さったハンバーグやら、キャラメルが滴るプリンなどがワンプレートに盛り込まれていて、普通に美味しそうで頼みそうになってしまう。
だがそれよりも目を引くのが、『期間限定! 海の生き物たちフェア!!』とやたらポップな文字で書かれた大きい見出しだ。
この近くにある水族館とのコラボしているようで、マンボウやらペンギンやらのアクリルキーがセットで付いてくるらしい……成る程、そういう事か。俺は直ぐにスマホを取り出すと、指をそそくさとスライドさせていく。
「何してんの?」
「ちょっとな、っと……それより頼む物は決まったか?」
コイツに言うと面倒なので適当にはぐらかす。そのついでに注文を聞くと、どうやら既に決まっていたらしく、メニュー表を俺に見せて。
「それじゃあ、この」
「抹茶パフェ」
そして後ろの席から乗り出した猫っぽい少女に、そのオーダーを塗り替えられた。