ニタモノドウシ   作:ビンカーフランス

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STEP6:必然のチャンス/偶然のピンチ

 練馬がアパレルショップに来たのは、『女子なら服とか好きだろ』という安易な考えからだった。

 

 女性経験どころかマトモにデート一つすらもした事無い身としては、上々な選択だろう。きっと黒崎も見ていれば『ほぉ……中々やりますねぇ!!』と言わざるを得ない筈だ。

 

 それにだ───。

 

「ど、どう……かな。変、じゃ……ない?」

 

 女物の服に囲まれて居心地の悪い中、ドキマギしながら試着室の前で待っていると、閉めきっていたカーテンが恥ずかしそうに少しだけ開く。

 

 その奥に待っていたのは、この世に舞い降りた妖精───夏らしい青色のワンピースを身を包んだ燈。

 

「良い……凄く良い……!!」

「な、泣いてる!?」

 

 そう、これこそデートの醍醐味───好きな女の子に自分チョイスの服を着てもらえるとか、正に世のリア充共のみが味わう事が出来る喜び。今まで憧れていたそれを実感してしまっては、涙を抑えられない。

 

「もしかして、似合わなかった……とか」

「断じて違う! 凄く似合ってるから! 本当にマジで!!」

 

 勘違いして再びカーテンの奥に戻ろうとする燈を、練馬は食い気味になって引き留める。

 

「ほんとう……?」

「本当本当! 俺、マジ、嘘付かない」

 

 半信半疑で問い掛けてくる燈を前に、何故か片言に応えてしまう練馬。オマケに顔からは冷や汗がダラダラ止まらなくなってしまう。

 

 だが必死に訴える目を見て分かってくれたのか、固まっている練馬をジッと見つめて少しすると、途端に安堵で顔を綻ばせた。

 

「良かった……この服、ちょっと気に入ってたから……」

「ぐわしっ!!」

 

 突然間近から放り投げられた笑顔の爆弾に耐えきれず、練馬は首がねじ曲がる勢いで後ろを向く。そうしないと嬉しさの衝撃で、全身が粉々に砕け散りそうになりそうだ。

 

「だ、大丈夫!? 首、凄い回って」

「生きてて、良かった……!!」

 

 自分の事を心配してくれるその表情もまた、とても可愛らしくて思わず鼻血が出そうになる。だがそんな所を見せる訳にもいかない、鼻を抑えてどうにか差し留めてみせる。

 

「ちょっと待ってて!!」

 

 練馬は次に似合いそうな服を探すべく、手探りに女性物の服をハンガーからかき分ける。

 

 まだだ、まだボーナスタイムは始まったばかり。愛しの燈ちゃんの初めて見る姿は、今しか見れない!!こんな機会は逃してなる物かと、それはもう死に物狂いで女物の服を練馬は漁り尽くす。

 

 燈にピッタリな服と言えば、ガーリッシュ系が似合うか、清楚系が似合うか……バニーガール!?何でバニーガールが紛れてる!?ちょっと着て欲しい───駄目だ、絶対にドン引かれる。

 

 そうして、鼻息を荒くしながら女物の服に塗れて数分、ようやく練馬は燈に似合いそうな花柄のシャツを見つけると、土下座でもするような勢いで、それを差し出した。

 

「じゃあじゃあ! 次はこれとかどう!! 燈ちゃんに絶対似合うと思うんだけど!!」


「女物の服とか全然分からねぇ……何が楽しいんだか」

「普通、それを女子の前で言う?」

「言うね。男女平等の世の中なんだから、それぐらい言わせろよ。つか、アッチで楽しそうだなぁ……もうコレ、俺ら要らなくねぇか?」

 

 女性物が並ぶハンガーの隙間を覗くのは、試着室の前で身悶えている不審者(練馬)。デート中ずっとあの調子だが、そろそろ誰かに通報されてもおかしくない。

 

 だがそんな事よりも気になるのは、あの2人の雰囲気。最初こそはどうなるやらと思っていたが、この様子だと早々ヘマをしない限りは上手くいきそうだ。

 

「……そんな訳、無いでしょ」

 

 椎名も同じ気持ちらしい。反論する言葉にキレが無くなっている。それでも練馬を認めたくない気持ちが勝るのか、いつもより表情が険しくなっていた。

 

 そんな椎名の気持ちは置いておくとして、あの様子だと本当に大丈夫らしい。だとしたら俺が見張る必要も無いようだ。

 

「俺が出しゃばる必要はねぇかな……」

 

 そう考えた時、何故だか物寂しさが胸の内に吹いた。どうしてそんなのを覚えたのかは分からないが、そろそろ潮時だというお告げのように感じられる。

 

 ───いや、本当はもっと前から、俺が居なくても良かったかも知れない。ただ俺が未練がましくアイツの傍に居るだけだったのか……って、それは考えすぎだな。

 

 とにかく、これ以上アイツに付き合う必要は無い。練馬にバレて面倒事になる前に、椎名だけ置いてアパレルショップから立ち去ろうとしたその時。

 

「やっぱり!リッキーじゃん!」

「おわっ!?」

 

 女性物のハンガーを挟んで向かい越しから、ピンク色の髪をした元気そうな少女が、何やら驚きながらヒョッコリと顔を出した。

 

「アノンお前!?」

「こんな所で何してるの、ってえぇ!! リッキーが男連れてるぅぅぅ!?」

「馬鹿! 声がデカい!!」

「むぐっ!?」

 

 椎名がその少女の口を無理矢理塞ぎに掛かると、直ぐに身を屈めさせる。それと同時に、俺もハンガーに掛かった女性物の服に紛れるように身を隠す。

 

『あれ……』

『どうしたの燈ちゃん?』

『ううん……立希ちゃんの声が、聞こえた気がして……』

『? そ、そうか……』

 

 ……少し遠巻きから2人の怪訝な声が耳に入る。聞こえてくる会話からするに、バレては居ないらしい。一先ず安心していいようだ。

 

「はぁ……バレてないみたい」

「ぷはっ! 誰この人!? もしかしてリッキーの彼氏!? 結構イケメンじゃない! ねぇねぇ彼氏さん! リッキーと何処で知り合ったの!?」

 

 だが、安心で椎名の手が緩んだ瞬間、強引にその拘束からピンク髪の少女が抜け出した。そして、自由になったその口からは、また喧しいくらいのマシンガントークが繰り広げられる。

 

「おい、お前の知り合いだろ。なんとかしろよリッキー」

「分かってる! と言うかリッキー言うな!!」

「ねぇねぇねぇねぇってばー!!」

「だから黙れって!!」

 

 不味いな……この調子だとバレてしまうぞ。リッキーも役に立たなそうだし、どうすれば……!! 

 

「ちょっと愛音ちゃーん。いきなり走り出してどうしたのー?」

 

 ゆるふわ系の格好をした何処となく優しそうな少女が、ハンガーで作られた通り道を縫ってトタタッと駆け寄ってくる。だが、地面に這いつくばってピンク髪の少女を抑える俺達の姿を見ると、ピタリとその足を止めた。

 

 そして、途端に据わった目になると、冷ややかな口調と共に、俺達を見下した。

 

「……何やってんの。立希ちゃん」

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