蛍の光に脳を焼かれた開拓者の話   作:70-90

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※脳を焼かれたせいで、穹の根幹を揺るがす天変地異レベルの事態が起こっています。


蛍の光に脳を焼かれた開拓者の趣味は変わる

 以前の穹には変わった嗜好があった。それは、異常なほどにもゴミ箱に強い興味を持っているということ。

 星穹列車に乗って星々を回り、訪れた街には当然ある生活必需品の一つのゴミ箱。穹はそれを見ると何かに取り憑かれたかのように飛び込み、中に飛び込んだり中身を漁ったりなどの奇行に走っていた。

 衛生の面でも社会の面でも褒められたものではないことは当然の事なので、なのかや丹恒など見かねた仲間達に注意されていた。しかし、対して穹は『ゴミ箱には神秘が隠されている』などと、支離滅裂な発言で言いくるめるなどと頑なに非を認めず、それどころかゴミ箱関連のグッズを買いだしたり絵を描いたりするなどと、奇行がエスカレートしていく始末だった。

 ところが、この件についても、ホタルに脳を焼かれたことで大きな変化を齎していた。

 

***

 

「穹? ねぇ、穹ってば!」

 

 ドアの向こうから、少女の声が聞こえてくる。

 穹は溜息をつくとパソコンの前の椅子から立ち上がった。ドアの方に向かい、ロックを解除して開けるとなのかが頬を膨らませて立っていた。

 

「何? どしたの?」

「アンタの好きなゴミ箱のアニメやってるって、さっきから知らせてるのに」

 

 なのかは自室にて何気なくスクリーンのチャンネルを回していたところ、ゴミ箱のキャラが沢山登場するアニメが映っていたのだ。当然なのかは全く興味を持っていないのだが、穹を思い出して端末にそのことを打ち込んでいた。この速さは「ウチってば優しい!」と自画自賛したくなるほどに。

 ところが端末を確認しても返事どころか、既読のマークも付いていなかった。10分経っても変わらず、痺れを切らしたなのかは穹の自室へと駆けつけていた。

 

「なんだ、そんなことか」

 

 これに対して、穹の反応はまるで素っ気ないものだった。穹は踵を返し、パソコンの元に戻っていく。なのかは彼の反応に一度放心するも、気を取り戻して追いかけた。

 

「はぁ? そんなことって? 折角アンタのためにウチが教えてあげたのに。もうアンタの塩対応とか終わったんじゃなかった?」

「まあな」

「『まあな』って何よそれ。今度見かけてももう二度と教えてあげ――」

 

 せっかく教えてあげたのに、そんな無下に返されるなんて…。

 穹の無愛想な反応に言い返していたなのかだが、ふと視界に入った光景に違和感を覚え、言葉を止めた。

 穹の部屋の左側の奥はコレクションエリアとなっており、彼のお気に入りのオブジェや模型が数多く展示されている。なのかには見慣れた光景だったはずだが、何か浮いているように見えていた。その理由として、青を背景とした左側のスペースが空っぽになっていた。穹のお気に入りのものが無くなっていたのだった。

 

「……ねぇ、あそこ何もないから浮いてて気になったんだけど? アンタの好きなゴミ箱のオブジェ置いてあったよね?」

「ああ、あれ前に売った。他のも一緒に」

「へぇ、売っちゃったんだ。……売った!? なんで!?」

 

 何気なく放たれた穹の爆弾発言に遅れて悲鳴を上げたなのか。彼は気にせず、なのかに背を向けたまま言葉を続けた。それのほうが特大の爆弾であったことに気づくことなく。

 

「俺、()()()()()()()()()()()()()()

 

 戻る気配がないため、返そうと椅子を回した穹。口を開きかけた途端、なのかの表情を見て言葉を飲み込んでいた。

 なのかは瞠目していた。まるで目の前の穹が穹ではないように、恐れすら抱いているかのような表情を浮かべていた。

 

「なの?」

 

 微動だにしない様子を見て、穹は不安げな調子で呟いた。すると、なのかは震えた声で話しかけた。

 

「嘘…、アンタ…、本当に穹なの…?」

「なの?」

「アンタ、前からずっとあれだけゴミ箱に執着してたのに…、えっ、これって最近聞く蛙化現象ってやつなの…?」 

「何その言葉?」

 

 言葉の意味を聞こうとした途端、なのかは背を向けて穹の部屋から飛び出していった。

 

「丹恒ーッ! 姫子ーッ! ヨウおじちゃーん! 穹が大変なんだけどーっ!?」

 

 なのかの叫び声が聞こえてきた。ドアは締め切っているはずなのに、それすら突き抜けるほどに彼女の声は大きかった。

 厄介にされそうだ。なのかを追いかけるため、腰を重く上げて部屋を後にした。

 

***

 

 部屋を出て螺旋階段を駆け下り、ラウンジのある車両に駆けつけた。既に、慌てた様子のなのかは姫子とヴェルトに穹の変貌について報告しており、姫子はそんな彼女を冷静な様子で落ち着かせていた。

 

「落ち着いて三月ちゃん。誰しも成長していけば好みも変わることだってあるのよ」

「でも! あんなあっさり切り捨てるとかびっくりなんだけど!?」

「そういえば、以前穹が幾つか段ボールを列車から運び出していたな。聞けば部屋の整理整頓と言っていたが。その時に売りに出していたということか」

「ヨウおじちゃん、ホントなの!?」

 

 ヴェルトの言葉に食いついたなのか。そんな彼女を遠い目で見ていた穹だが、もう一人動揺している人影がいた。

 パムという二周り小さく、可愛らしい小動物の車掌が立ちすくんだ様子で彼を見ていた。

 

「穹、三月ちゃんが言ってることは本当なのか…?」

「パム? まぁ、本当だけど。ヴェルトさんが言ったように、段ボールに詰めてリサイクルショップとかに出かけてた」

「な、なんじゃと…!?」

 

 穹の言葉に、大きく目を剥いたパム。

 

「お、オレは正直諦めていたんじゃが!? 衛生感が欠落しているから前から強く注意をするつもりだったんじゃが! オマエ、一体何があったんじゃ!? 本当に穹なのか!?」

「パム!?」

 

 パムが穹の足にしがみついて揺らしてきた。小柄で非力なのでジーンズが引っ張られて伸びたり縮んだりする程度だが、平静を失っている様子が行動からも現れていた。

 現地の旅に同行する機会が殆ど無い彼自身も、特になのか経由で穹の嗜好を知っていた。しかしゴミ箱を荒らす行為にはナナシビトとしてどうなのかと憤っており、いつか辞めさせようと心に誓っていた。

 ところが、知らないうちに自ら切り上げると聞かされ、その行動を目撃すれば天地返しの事態に陥っていると思い込んでしまっていた。 

 なのかに無理やり呼び出されソファに座る丹恒は、大した事ないと判断してから書物を読んでいた。

 

「三月に無理やり呼び出されたと思えば…、姫子さんの言う通り大事にする必要なんてなかったと思うが」

「……丹恒、本が上下ひっくり返ってるけど…」

 

 表紙を見た穹の指摘に一度硬直し、直ぐ様回転させて元の位置に戻した。

 

「あっ、そういえば…! ……穹のメッセージアイコン、ゴミ箱じゃなくなってる!? 丹恒もそうでしょ!?」

「だから別に大したことじゃ……本当だ、全く気づかなかった…」

 

 なのかはすぐ端末を取り出してメッセージアプリを開き、穹のトーク画面に進んだ。見ると、今まで穹はゴミ箱のアイコンを設定しているのを見て当たり前のように確認していなかったが、現在では穹の顔写真に変わっていた。丹恒もそれを確認して、初めて目を大きくさせていた。

 気まぐれな温度差の上げ下げに動揺しながら、なのか達に近づいていく穹。それに気づいたヴェルトが、わずかに口元を緩めて話しかけてきた。 

 

「穹、一体何があったんだ?」

「ヴェルトさんまで聞くの?」

「いや、君は些細なことだと思っているだろうが、俺達には俄かに信じられなくてな。例えるなら、死んだと聞かされていたアキヴィリが何なく帰還してくるぐらいだ」

 

 「それは違うんじゃないか」と言いたそうに、穹は怪訝な表情でヴェルトを見つめていた。

 

「いや、大袈裟じゃない?」

「ウチらには大事なんだけど! 病気に罹ったりしてないよね!? それとも、ヘルタの実験とかでなんか変な奇物使っちゃったとか!?」

「どっちも違うから。ただ…」

 

 穹は俯き、恥じらうように頬を掻いた。

 

「その、ホタルと付き合い始めてから、こういうのどうなのかなって目が覚めた気がして…」

 

 滅多にないこの反応になのかは目を剥き、丹恒も彼女ほどではないものの口が僅かに開いたまま閉まっていなかった。

 姫子とヴェルトは一度見合わせると、我が子の成長を目撃したかのように暖かい目で穹を見つめていた。

 

「まさか、ホタルさんとの出会いが穹をここまで動かすとは。少し寂しい気がするのは否めないが」

「そうね。あまりに強い好奇心を持っていたから、やめるよう強く言い聞かせることに躊躇いはあったけど…」

「じゃが、そのホタルって子も星核ハンターの一員なんじゃろ!? 止めるべきだとオレは思ってるんじゃが…! 思ってるんじゃが…!」

 

 一方、パムはナナシビトの使命と穹の意思とのジレンマに悶えていた。

 

「アンタの脳の焼かれっぷりには呆れてたけど…、まさかそんな効果があったなんて…!」

「あ、ああ…。こういった出来事が克服するきっかけになるとはな…」

 

 なのかと丹恒は、一連の出来事に瞠目したままだった。何ならまだ夢境に陥っているのではないかと思いこむほどに。

 

***

 

 数日後。ピノコニー。

 夢境の地の一つ、黄金の刻にて一人身の穹は店を回っていた。主にインテリア関係のものを購入するためだ。信用ポイントは十分稼いでいるし、夢境で購入しても同じものが現実にも届くと把握している以上、何の問題もない。

 そんな中、穹は自分に気づいて駆け寄ってくる人影に気づいた。その正体は、彼には見間違えるはずもなかった。

 

「穹!」

「おお、ホタル! 君も来てたんだ」

 

 嬉々とした様子で穹はホタルを迎え入れた。そんな彼にホタルは笑顔で答えた。

 

「うん。何も無いときはたまに来るんだ。『脚本』に書かれていないから大丈夫だって、カフカも背中を押してくれたし、その…」

「その…?」

「……ううん、何でもないよ!」

「お、おう、そっか」

 

 『脚本』に沿った任務がない時は、自分の転機となったピノコニーに行くことが多いホタル。

 2人が出会えたことは単なる偶然なのだが、「ピノコニーでまた彼に会えるんじゃない?」と銀狼にからかわれていたことをホタルは隠している。

 

「ところで、穹は何してたの?」

「ああ。買い物。服とか部屋に飾るものとか色々」

「め、珍しいね…。…そういえば、部屋作りは最近済ませたばかりじゃなかったかな?」

「部屋の整理してたら、スペースが目立っちゃってさ。それを埋め合わせるのにどうしようかなって周ってたんだ」

 

 穹は端末を開いて部屋の写真を見せた。

 ホタルは画面に近づいて写真を見ていたが、一つの違和感を覚えその一箇所に指し示して尋ねた。

 

「あれ? 穹? ここにゴミ箱のオブジェあったよね?」

「ああ、もう売りに出したけど」

「……えっ!? 売ったの!?」

「うん、売った」

 

 間があいてから、ホタルは愕然とした。当然である。

 穹がゴミ箱好きという事実は、彼がナナシビトである以上有名な話であり、とあるゴミ箱に入った穹のぬいぐるみが販売されるなど経済活動を刺激することは尚更な話である。ちなみに彼がそうでなくなったことでどれだけの打撃を与えることになってしまったかは別の話。

 以前のなのかと同じように、ホタル自身も夢を見ているのではないかと錯覚した。

 

「穹!? どうしたの!?」

「まさかホタルにも驚かれるなんて…」

「驚くよ!? だって君、飛び込んだり漁ったりするぐらいハマってたのに! あたしもいつか注意しようとしたけど!」

 

 ホタルもまた、モラルでいえばどうなのかと指摘するつもりであった一方で、穹の趣味を否定したくないという気持ちもあってやきもきしていた。

 目の前のホタルを愛おしいように見つめ、はにかみながら口を開いた。

 

「いや、ホタルに出会ってから自分見直す機会があってさ」

「………へ?」

「なんか、俺今まで何やってたんだろうなぁって。狂ったようにゴミ箱漁ったりとかしちゃって」

 

 穹は視線を上に向けて自嘲した表情を見せた。

 

「色々見返してきて、これじゃあ俺ダメだなぁって思って少しずつ変えていこうと思ったんだ」

 

 以前、ホタルに出会い、脳を焼かれてしまった彼は自分を見直す機会に出会っていた。

 これからホタルに恥を掻かない、恥を掻かせないようにしたらどうすればいいか。色々と熟慮した結果が、「ゴミ箱に関する趣味を一切捨てる」という答えを導いたということであった。

 それからという話、穹の行動は早かった。

 

「例えば、なんか必要なもの買わなきゃなと思ったりして。大事なイベント参加する時の服と靴とか洗剤とか、あと………ホタルと一緒に出かける時の服とか」

「あたしの、ために…?」

「大丈夫、ホタルのために無理してるわけじゃないよ。そこは絶対」

 

 まさか自分のために無理してやめているのではないかと、ホタルの表情は沈痛なものとなったが、穹はすぐに否定した。

 

「その、びっくりしちゃった。あたしが知らないうちに、穹が色々と変わってきたから。それでも、あたしが知ってる穹には変わりないけど…」

 

 最後の台詞に恥じらい、ホタルは俯いた。

 

「そうだ。この後、ホタル大丈夫?」

「えっ!? あたしはまだ時間あるけど、無理にあたしに付き合う必要ないんじゃ…」

「でも俺、服探しに来たって言った割には、服のこととかよくわかんないし…。ホタルも手伝ってくれる?」

 

 穹が誘った時の表情に、ホタルは見惚れていた。困ったような表情を見せては、情けないとわかっているけど助けを求めるようなあどけない様子に彼女は無下にすることはできなかった。

 そのため、その誘いへの答えは、彼女には既に決まっていた。

 

「う、うん。いいよ。あたしも服のこととかよく知っているわけじゃないけど、出来るだけアドバイスしてあげるから。でも、その代わり次はあたしの服も一緒に見てほしいかなって…」

「勿論。何なら気に入ったの、俺が全部買ってやる」

「そ、そこまでしなくていいよ…! 元々君の買い物がメインなんだし、一番気に入ったのだけでいいから…!」

 

 穹はそう意気込むが、流石に申し訳ないと思ったホタルは嬉しさを必死に隠しながら、全部買ってもらうということは断った。

 この後、穹はホタルと一緒にアパレル店を周り、色んな服を見てファッションのトレンドなどに興味を持ち始めていた。ああいう服があるとか、ああいう服が流行っているとかなど、ホタルと話が弾んでいた。

 服を見ること以外にも、レストランで一緒に食事をした。もちろんホタルには、大好物であるオークロールを注文してあげた。

 

 穹とホタルは、ドリームボーダー上にある秘密基地に来ていた。

 穹は今回の出来事に心から満足し、ホタルと一緒に店を回れたし、一張羅以外の服を何着か買うことができたし、何よりホタルが一番気に入った白を貴重としたワンピースを見つけたことに高揚感を覚えていた。それ以外にも、似合っていた服を全部買おうとして、恥じらうホタルに必死に止められてはいたが。

 手すりに手を伸ばし、空から降りかかる流星を眺める穹とホタル。彼らからすれば何度見ても、見飽きない光景だった。

 

「あたしね、嬉しかった」

 

 ホタルの一声に穹は顔を向けた。頬を染め、目を細めるその仕草に穹は見惚れていた。

 

「誰かとこうして色んな店回ったり、一緒に食べたり、これがデートなんだなぁって」

 

 感慨深げにホタルは溜息をついた。何よりホタル自身も、自分が憧れていたデートを穹と楽しめていることに多幸感を覚えていた。

 

「そ、そう…? 俺の買い出しに付き合わせちゃったけど…」

「ううん。これがあたしの幸せ」

「…そっか、それならよかった。ホタルが喜んでくれて、俺も嬉しい」

 

 ホタルは笑い、それに返すように穹も笑った。

 そして、穹はふと思いついた。そういえば、ホタルが生き生きとした調子を見せるのはピノコニーと、穹の部屋に迎え入れたときでしか見たことがない。

 

「ホタルはさ、次どんなところ行きたい? サムとしてじゃなくて、ホタルとして」

 

 穹の問いに、ホタルは一度虚を突かれた表情を見せた。

 

「あたしは、君が行きたいところならどこにでもついて行くよ?」

「ありがとう。でも、俺ばかりじゃ、ホタルの気持ち無視してるんじゃないかなって思って。よかったらだけど教えてくれないか?」

 

 その問いに一度口を噤むも、ホタルは受け止めた表情で答えた。

 

「海…かな」

「海かぁ…。ホタルは行ったことないの?」

「ううん。仕事柄、海のある星に行ったことは何度かあるよ。でも、窓から眺めるだけで海に行ったことはないの。前に君に話したよね、あたしの病気のこと」

 

 ホタルの立場柄そしてロストエントロピー症候群を抱える身として、外に出歩くことはままならず、あるとしても星核ハンター・サムとしての仮面を被らなければならない。その仮面は自らの正体だけでなく、女の子としての一面を必死に隠している。

 それ故、ホタルとして、一人の女の子として振る舞える今の瞬間に嬉しさを隠せられなかった。

 

「以前だったら、生きてる間は二度とこの足で行けるはずがないって諦めてた。でも、今は違う。あたしは君と色んなところに行きたい。今でも、『脚本』が終わってからでも、ずっと…」

 

 言葉を紡ぐに連れて、恥じらうあまりに声が小さくなり、俯いたホタル。

 穹は手すりに置かれたホタルの手に自分の手を重ねた。

 

「勿論だ。俺だってホタル、君がこのまま消えるだなんて認めたくない。夢のままの存在で終わらせたくないんだ」

「穹…」

「俺、ホタルには諦めが悪いんだ。自慢したいぐらいに」

 

 穹の意を決した表情に涙腺が緩むも、何とか堪えてどこか儚げな印象がある笑顔を浮かべた。

 

「やっぱり君はずるいよ。そうやって前向きにさせちゃうんだから」

「なんたって、俺は開拓者だからな」

 

 「なにそれ」とホタルは笑った。穹も再び、返すように笑った。

 ピノコニーで用事を済ませ、2人はそれぞれの場所に戻ろうとした。その途端、穹は「あっ!」と立ち止まった。

 

「どうしたの?」

「そうだ、ゴミ箱あったスペースどうしようか…」

 

 ホタルと一緒に服を探すことに夢中になりすぎて、インテリア用品を探すことを失念していた穹。時刻を見れば、ピノコニーに来てから既に5システム時間も経過している事に気づいた。

 そろそろ帰らないと、穹からすればなのかがうるさいのは目に見えていた。

 

「また今度探してみたらどう?」

「でも、こんなに大きい空きじゃ、何か替わりのもの置きたいよなぁって…」

 

 顎に手を置いて考えた直後、ホタルを見て「あっ」と感嘆の音を上げた。

 

「穹…?」

「そうだ、サムのフィギュアとかいいんじゃないか!」

「…………え?」

 

 ホタルは不意打ちを食らったように呆然としていた。彼女をよそに、「どうして今まで思いつかなかったんだ」と感慨に更けていた。

 

「いやだってサムってばヒーローみたいでカッコいいじゃん! 空飛ぶしロマンがあって!」

「そ、そうなんだ…」

「何だっけ、『ファイアフライ起動』とか『焦土作戦実行!』とか口上もカッコいいし」

「やめて…! 真似されると恥ずかしいから…!」

 

 ホタルは顔を真赤に染めていた。

 その一方で、ホタルの心は浮かないものだった。穹はそう憧れているものの、ヒーローと呼ばれるほど大層なものではない。宇宙から白い目で見られる星核ハンターの一員に過ぎない。

 そもそも賞金首をグッズ化するだなんて聞いたことがない話であり、カンパニーが製造元に捜索を入れることなど目に見えていた。

 無意識にホタルは顔を浮かないものに変えており、穹は心配そうな表情でホタルを見ていた。

 

「穹?」

「……ホタル、もしかしてホタルのフィギュアおいた方がいい?」

「いきなり何ぶっ飛んだこと言ってるの!?」

 

 穹の爆弾発言に、ホタルは思わず悲鳴を上げた。恥ずかしさにゲージがあるならば、今頃噴火するほどに先端が吹き飛んでいるはずである。

 

「いや、サムのこと持ち出すとなんかしっくり来ないみたいな顔したから…」

「うう、そうじゃ…ないけど…!? それはやりすぎだから…!? 流石に恥ずかしいからやめてよ!?」

 

 ホタルは前のめりで釘を刺し、穹はその気迫に流石に圧されていた。

 そんな中、端末から通知音が鳴った。星穹列車からの知らせなら見逃してはいけないと思い、「ちょっとごめん」と断ってから穹は端末を開いた。

 

「あっ、銀狼からメールが届いてる。『話は聞かせてもらった。今から作ってくるから』…だって」

「銀狼!? ハッキングして聞いてたの!? やめてよ恥ずかしいってば!?」

 

 銀狼のやりそうなことである。

 穹とホタルが恋人関係になったことを知った銀狼は、弄るネタを見つけるためにハッキングしてデートの様子を盗聴していた。

 続くメッセージを読めば、『以前カンパニーから裏口で仕入れた装置の出番が来た』、『数々のゲームで培ったキャラメイク技術を舐めないでね』と銀狼らしい、高揚したような文調で書かれていた。

 

「『サムだけにするつもりだったけど、カフカの提案で両方作ることにしたから』って来た」

「カフカも何言ってるの!?」

「『あなたそう言うけど、穹のぬいぐるみ買ってからいつも抱きしめて仮眠してるじゃない』…。ホタル…」

「いやああああ!!?」

 

 追い打ちそしてまさかのカミングアウトに、ホタルは顔を覆い隠して悲鳴を上げた。この時の彼女は耳まで真赤に染めて恥じらっていた。

 ホタルは体質上、睡眠時間が非常に短く、睡眠自体必要としない。とはいえ休息は必要であり、仮眠を取ることはある。偶然見つけて衝動買いした穹のぬいぐるみをいつも抱きしめて眠っている光景は、星核ハンターの仲間からすれば周知の事実だった。

 恥じらうホタルを見て、穹は口を抑えて感極まっていた。

 

「俺、嬉しいよ。そこまで想ってくれてたなんて…」

「うう…、こんなタイミングで明かしたくなかったんだけど…!」

 

 帰ったら銀狼を必ず泣かしてやる。ホタルは心でそう決めた。

 何なら、フィギュアがもう完成しているならば焦土作戦実行も已むを得ない。でも、穹の願望を無下にするわけにはいかないので、サムだけ残しておくべきか…。

 

 更に数日後、星穹列車にて、匿名の差出人から穹宛の品物が届いた。

 その中身は1/6スケールのサムのスタチューであり、穹はすべてを察した。早速自室に運ばれ、スペースに設置してからの穹の表情は見たことないぐらいさぞご満悦って感じだったと、遠い目をしたなのかはそう語っていた。

 

 ちなみにホタルのフィギュアも作られていたのだが、穹の元に届いてないとなると後の内容は明らかであろう。

 




おまけ:ホタルはなのかとの仲を聞いてみた。

ホタル「あのね…、三月さんのことどう思ってる…?」
穹  「なののこと? 急にどうしたの?」
ホタル「えっと…、よく一緒にいるの見かけるし…!」
穹  「ああ、星穹列車に乗る、お節介な友人って感じかな。それに…」
ホタル「それに?」
穹  「なのには丹恒がいるしな」
ホタル「……へ? 三月さん、丹恒さんと付き合ってるの!?」
穹  「多分だけどな。俺が列車に乗る前から、なのと丹恒は一緒にいたし」
ホタル「そ、そうなんだ…」

 こうして勘違いは増えていった。
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