殴る蹴る系魔術師による楽しい魔力考察   作:ハイマーディンガー削除しろ

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#1 先行き真っ暗ゲイル伯爵家 及び魔術に関する説明

 

 

 

 

 ───ヴェル、お前は本当に……勘弁してくれないか? 

 

 

 

 夕陽の差し込む執務室、全力で項垂れた父が絞り出すように言う。

 しかしお父様、無いものは無かったということですよ。

 そう返してみると、父の頭が完全に机に沈み、太い腕が力なく天板を叩いた。

 

 

 ヴェルドグ・ゲイル。再びの生をこの世界で受け、10回目の誕生日を迎えた3日後のことである。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 世の中不思議なことがあるもので、死んだと思ったら今度は貴族の三男坊に生まれ変わっていた。

 

 お家は伯爵と中々の階級。聞けば、このノーテリアと言う国の王族に長く使えている武官の家系であり、俺の出生直前まで行われていた大戦でも数々の武功を立てた戦争大好き貴族らしい。

 

 しかし、ノーテリアは先の大戦で類稀な快勝を果たし、大陸のほぼ全てを領土に治るという大偉業を成し遂げた。すると、今度は大戦のない世の中がやってきた。

 

 今の世で戦いと言えば、大戦に敗れ山間部に身を隠し山賊へと身を窶した敗残兵狩りだの、民草にヤバい教えや薬をばら撒かんとする邪教徒狩りだのばかりだ。いくら武官と言えど、そんな小規模な戦いにばかりかまけているわけにもいかない。

 

 魔術が存在するこの世界に置いて戦争の花形とは魔術師であり、歴史上類を見ないほどに偉大な風魔術師である我が父も戦場においては"一騎翔(いっきがけ)のグラスク"や"苛烈なるゲイル"なんかの名を轟かせていたものだが、その武功により増えに増えた領地の統治に悲鳴を上げていた(当然、税収も跳ね上がっているのでうれしい悲鳴かも知れないが)。

 

『あの人ったら、初めて会った時から戦、戦、戦! 武官の家系じゃ領地運営と淑女との接し方は教わらないのね!』

 

 とは、母の言である。彼女はゴリゴリの文官家系の出であり、女故に専門的な教育を受けた訳ではないが、少なくとも(脳筋)よりは領地運営への知識があったようで、ゲイル家の統治を大いに助けている。

 誤解なきように言っておくと、途轍もないおしどり夫婦ではある。父は戦争に、母は統治に妥協しないだけだ。

 

 さて、我が2人の兄はというと、両親の尖ったところを純度100%に引き継いだように育った。長兄は大戦が終わって間も無い頃の未だに戦争狂いの父に英才教育を受けた結果、反発するように知識狂いとなり、次男はというと大戦が終わって時が経ち領地運営の重要性を思い知った父による統治の教育を受けて、またもや見事に反発して戦争狂いになった。

 

 共通点として2人とも父に引けを取らないほどの風魔術の才能を持っている。

 

『子育てを完全に失敗した。間違いなく俺の責任だが、ここまでのことになると誰が予想できたというのだ』

 

 発言だけ聞けば最悪の親父であるが、我が家の兄達を見ればいくらか同情の余地が感じられる。

 

 

『僕は脳みそが破裂するまで知識を詰め込みたいんだ! そういうことで、南方部族の宗教について王都の有識者に話を聞きに行ってくるよ! 2ヶ月は戻らないかな? え? 伯爵家? ヴェルが継げばいいじゃない! そしたら僕がヴェルの字引きになってあげるよ!』

『戦がしてぇなぁ! ギャハハ! この頃は1ヶ月かけてクソ田舎の子爵領まで行って山賊狩りをしてるけどよぉ、あんなちっせぇ戦いじゃ足んねえわ! 極北の蛮族と戦争がしてえなぁ! あ? 伯爵ぅ!? おめぇが継げや! そんで俺にいくつか兵を預けてくれよ! 俺がおめぇの剣になってやるからさぁ!』

 

 

 ……な? お父様が可哀想だろ? 

 そう、そんな感じの伯爵家の末の弟に生まれ変わったもんで、いい塩梅にやっているだけで5歳の頃から後継はほぼほぼ俺に確定していた。

 

 

 

「ヴェル。お前はさぁ、ほんとにさぁ、覚悟はしてたけどさぁ……」

 

「しかしお父様、生まれ持ったものだけはどうにもなりませんよ。文句を言うならご自分かお母様に言ってくださいよ」

 

「はぁ……本当に……いや、頭ではわかってるんだよ。ゲイル家に今起こってる不具合は全部俺の不始末だってのは……でもこれはあんまりにも……」

 

 

 そこまで言って、また机に突っ伏して深い溜め息を吐いた。

 

 その原因は先日行われた儀式の結果にあった。どんな儀式かというと、貴族の子が10を迎えた折に、そのこの持つ属性魔術への適性を測るというものだ。俺の知る限りこの世界にはステータスなんかは存在しないようで、この儀式は各属性の魔力を身体に流し、その反応を見る専用の魔具を用いて行われる。

 

 

「それで、その、なんだ……確認だが、本当にほんのちょっぴりもなかったのか? 小指ほども?」

 

「ネズミの毛の先ほどもございませんでしたよ。風どころか、全属性」

 

「はぁぁぁぁ……ゲイル伯爵家終わったよ……ごめんなご先祖……でも俺頑張ったよ……」

 

 

 なぜ風の適性がなかった程度で一騎当千の魔術師たる父がここまで狼狽えるのか、それはこの国の貴族の特性にある。属性魔術自体はありふれたものではあるが、その中でも特に秀でた力を持つ魔術師が古来から貴族として家系を紡ぎ、強力な魔術師を産み続けるのがこの国の武官の家系なのだ。

 魔術適性がどの程度の重みを持つのかと言うと、貴族の家に兄よりも優れた適性を持つ妹が生まれたのならば妹が爵位を継ぐこともままあるほどだ。

 

 そんな国で、いくら頭がアレだったとしても風魔術に強力な適性を持つ兄が2人いる風魔術の家で、属性魔術に全くの適性を持たない末の弟を後継とすることは間違いなく前例のないあり得ないことであった。

 

 それでもゲイル家の現当主である父が言えば俺を当主に据えることはできる。が、他の貴族や王家からの風評は非常によろしくないことになるだろう。

 

 

「例えば、今が戦の最中であれば方法はあった。お前の無属性魔術の威力は俺の目から見てもかなりのものだ。そいつで敵の砦だの城だのの門をドカンドカンやっちまえば随分な武功になったろう。それを言い訳にお前を爵位に据えることもできたはずだ」

 

「もしもの話をしてもしょうもないですよ。大体、戦時中ならば後継はユグ兄様になるでしょう」

 

ユグワズ(次男)か? あいつはダメだ。根っからの戦狂いだ。民草100人の領地だって任せられん」

 

「アグ兄様は?」

 

アグノリア(長男)はもっての他だろう。統治についても戦略についても知識は目を見張るものがあるが、一度書庫に入ったら2日出てこないような知識狂いに伯爵は務まらん。そもそも全ての税収を本と知識人の収集に費やしそうで怖いからダメだ」

 

 

 返す言葉もない。実際に俺もアイツらはダメだと思ってる。

 いや、2人とも優しくて楽しいいい人なのだ。ちょっと自分の好きなものに全力すぎるだけで。

 

 因みに、俺も属性魔術に適性がないだけで魔力を行使すること自体はできる。つまりは無属性魔術だ。個人的に無属性の魔力をぶつけることを無属性魔術と呼ぶことには違和感があるが、長くなるのでこれについては今度語るとして、今のところは無属性魔術と呼称することにする。

 

 簡単な解説をしておくと、属性魔術では魔力を炎や風などの現象に変換して放つ一方で、無属性魔術では純粋なエネルギーである魔力そのものを扱う。

 その特性上、距離が離れると指向性を持たせることが非常に難しく、また形を持たないエネルギーであるために短時間で霧散してしまう。

 

 これらがデメリットだとして、ひとつ明確にメリットもある。

 それは対処法が単純ゆえに難解であること。

 例えば、火の魔術に対抗したければ燃えない素材を使えば良い。風の魔術に対抗したければ飛ばされない程度の重さを持てば良い。水の魔術に対抗したければ水が溜まって溺れ死なない場所で戦えば良い。

 

 当然ながら術師側も自分の属性が生きる環境で戦おうと画策するが、戦う場所が既に定められた砦や城などの防衛の場では守る側が圧倒的に有利になる。

 

 先の大戦においてそれを突き崩したのが、強力な無属性魔術師の存在であった。

 純粋なエネルギーの放出である無属性魔術に対抗したければ、シンプルに耐久力を上げる以外の選択肢がないのだ。つまり、一般的な城門や壁を突き破る威力の無属性魔術師が存在した場合、防衛拠点の目の前まで到達されると破城槌のような人間1人に全てを打ち崩されるということになる。

 

 事実、先の大戦では無名の貴族であったビクター・フォージア準男爵がその剛腕と無属性魔術で城門をバッコンバッコンと穴だらけにし、大変な武功を立てて男爵に格上げされると共に"衝角のビクター"の二つ名を賜ったと聞く。

 

 なぜそこまで有用な魔術がこれまで注目されてなかったかと言うと、単純に魔術への高い適性を持つもののほとんどはいずれか属性にも適性を持ち、自ずとそちらの修練を詰むようになるからだ。

 

 ここ最近の中で1番の成り上がり者と知られるビクター男爵を毛嫌いする貴族も多くいるそうだが、もともと超実力主義の武官である父は戦地で見た彼の無属性魔術を非常に高く評価していた。

 

 その父をして俺の無属性魔術は彼に迫るとまで言わしめた。

 自賛するようで恐縮だが、事実俺も城門を殴る機会があればそれなりの武功を立てたことだろう。

 

 

「しかしまあ、お前の父ももはやただの戦馬鹿ではない。10になるまでただ一つも風魔術の片鱗を見せなかったお前をどうにかして爵位につかせるため、策は考えておいた」

 

「別にどうしても爵位が欲しいわけではありませんが……お聞かせ願います」

 

「どうしてでもついてもらわねば俺が困るのだ。いいか……」

 

 

 そう言うと父は机の引き出しから便箋を一つ取り出した。

 封蝋が我がゲイル家のものであるところから見て、こちらから送るものだろう。

 

 

「それは?」

 

「ノーテリア王立魔術学院への入学届だ。学生としては最短で3年、最長で6年間在籍できる。この期間中学院に残るなり、卒業して研究機関に所属するなりして大きな功績を残せ」

 

「なるほど、私を爵位に据えるための功績作りというわけですね」

 

「その通り! いくら無属性魔術師と言えど、ノーテリアのために多大なる功績を上げたのならば、お前の爵位継承も容易になるだろう!」

 

 

 戦がなければ研究で、というわけだ。

 もともと戦争以外の全てを打ち捨てたような武官であった父も、10年のあまりに苦しい領地運営によって柔軟さを手に入れていたらしい。

 

 いや、そんなわけがあるか。研究で功績とか本当に簡単に言ってくれるな戦馬鹿め。

 確かに近年になって注目され始めた無属性魔術に関しての研究はブルーオーシャンであろうが、俺は今10歳だぞ。期限いっぱいまで粘っても16歳だ。

 反して、魔術の研究者といえばしわで金貨が挟めるくらいのおじいちゃんおばあちゃんの世界だろうが。こんな若造に何ができようか。

 

 ……しかし、まあ、やるしかないものはやるしかないのか。

 どちらにせよ、やらねばゲイル家の繁栄はないのだ。

 

 

「ああ、そうそう。プルガドール家には既に学院入学の件は伝えてある。何しろあまりにも急だとフラム嬢も不安に感じるだろうからな」

 

「……お父様、今、なんと?」

 

「いや、そのままだ。プルガドール家には伝えてあると……」

 

「何してくれてんだこの髭面がぁッ!!!」

 

 

 俺がそう叫ぶのと、窓の外にこちらに迫ってくる火の玉を発見するのは全く同時だった。

 

 燃え盛りながら空を飛ぶ人間を俺はこの世に2人しか知らない。

 その上で、俺がその二択を外すわけがない。

 つまり、あの火の玉の正体は、たった今、あろうことか伯爵家の領主邸の窓を叩き割りつつ執務室にダイナミックファイヤーエントリーをかましたこの女の名は。

 

 

「ヴェル様、突然の訪問をお許しくださいませ。そして、グラスク様。あの知らせについて、詳しく伺いとうございますわ」

 

 

 フラム・プルガドール。この国で最も恐ろしい炎魔術師であり、俺の婚約者の少女だ。




ビクター・フォージア
魔術適正 : 無属性
爵位 : 男爵
特技 : 破壊

オシャレなカイゼル髭のナイスミドル。
もともと武功を立てて準男爵にまで成り上がった1代目の貴族であり、先の大戦で更なる成り上がりを果たした。破城槌の擬人化。城門は砕く。砦の壁も砕く。ドラゴンの頭蓋骨とかもめっちゃ砕く。
文官たちに疎外される一方、武官や騎士たちからは大変な評価を得ている。最近は与えられた領地で農民と一緒にクワ振ってる。
多分結構先まで出ない。
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