魔法の絨毯   作:苗根杏

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貨幣制度の整っていない時代のゴールドタイガー「ついに我慢が報われ、莫大な貝殻を得る」


中編

 

「対象年齢……18までか」

「なら、行くしかないわねっ」

「行くしか……ないですね」

 

 あなたが言うのなら、行くしかない。俺は自分の中にいる、もはや別離したこころ専用人格の言うままに、また、こころの言うままにそこへと入る。

 

 1000円払えば、30分までは遊び放題。なるほど、遊び放題ときたか。先程は高いと思っていたが、そう考えるとそこまでボッタクリでもないのか。

 

 ふふ、見てみろ。遊び放題の表示を見ていなかったのか、アミメニシキヘビも持て余すような、縦横10メートルはある大きいブースには10人も人がいない。これなら思い切り跳ねて遊べるぞ。

 

 ただ、思い切り跳ねすぎた奴もいたようだ。小学生くらいのわんぱく短パン少年が、想像よりも高いトランポリンのポテンシャル、トランポテンシャルに翻弄され、めちゃくちゃな跳ね方をしている。

 

 自分の身長くらいの高さまで飛んだら、そりゃあ姿勢の制御もできないよな。

 

 しまいには、怖かったのかその場で泣き出してしまった。親らしき人物が中に入って息子を引き取ろうとしているのが見える。まあ、そうなるよな。

 

 懐かしい。俺もそういう時はあったさ。昔、博物館かどこかに、動く恐竜のメカトロニクスに会いに行ったことがあるのだが、

 

 そういう挫折を経て、人間は大人になるんだ。挫けてもいいが、逃げることはするなよ、少年。

 

 俺はそう心の中で言いながら、バインバイン跳ねる床の振動を受けながらあぐらをかいてそれを見ていた。

 

 友達ではない、ただ居合わせただけの周りの同い年くらいの子や、少し年上の子も彼に寄っていき、心配して慰めている。

 

 こうなったら、こんな俺の出る幕ではないだろう。下手に俺から話しかけたら、逆に怖がって号泣がエスカレートするかもしれないし。

 

 ただ、そこで傍観などできないのが、弦巻こころという人間だ。

 

「見ていて!」

 

 ヒーロー見参とばかりに、泣いているボウズの前に仁王立ちで現れたこころは、その場でバク転を3連続。そしてシメに空中で2回転。着地もかっこいい。

 

「おお〜……!」

 

 それに見とれた少年は、すっかり泣くという選択肢が頭からすっぽ抜けて、気づけば拍手をしていた。もちろん、少年の周りにいた子供たち、見守っていた大人たちも。

 

 こころは万雷の拍手の中、少年に歩み寄り──軽く跳ねながらだが──頭を撫でてやる。

 

「笑顔、なったわねっ」

 

 ブレないな、この人は。

 

「こんなに楽しいトランポリンで、泣いてるなんて勿体ないじゃない?」

 

 なるほど、彼女は単に泣き止ませたかったわけではない。笑顔になってもらうと同時に、トランポリンへの恐怖というか、今後残るであろうトラウマを消そうとしたのだ。

 

 やはり彼女は、実際は大局を見据えているようにしか見えないんだよな。冷静になって見ると、ただ突っ走っているだけなのに。

 

 それはそれとして。俺の心には今、ちょっとした闘争心というか、対抗心のようなものが芽生えはじめていた。

 

 何故かは分からんが、とにかく凄いものを見たら、自分もチャレンジしたくなる。WBCを見たら友達とキャッチボールをしたくなるようなものだ。

 

 俺は少しの間、パルクールをやっていたことがある。きっかけは、最近は恥ずかしくてあまり言っていないが、マリオとソニック・ザ・ヘッジホッグに憧れていたからだ。

 

 確か足の動きを派手にすれば、飛んでいる間は見栄えが良くなる。すぐさま戻して安定した着地。これを繰り返せば、なんとかなるだろう。

 

 甘い考えだった、とは思わなかった。割とちょろかった。

 

「ふうん、こりゃ楽しい」

「!?」

 

 感心しながら、俺は本当に思ったより弾むトランポリンで、ロンダートからバク転してみる。

 

 周りは驚きつつも、ぱらぱらと拍手をくれる。真っ先に寄ってきたのはこころだった。

 

「すっごいわ、ヒロト!! あたし感動しちゃった!!」

「そ、そうですか? いや、なんか出来ちゃって……ははは」

 

 こころは「あたしの友達よ! すごいでしょう!」と周りに言いながら満足気にしている。

 

 とはいえ、彼女も彼女で謎の張り合い精神があるのか。

 

「負けてられないわね!」と俺よりもさらにスゴい技を連発する。

 

 これには勝てないな、と俺は生返事のようなボーッとしたような、はたまた呆れたような声を出しながら彼女を眺める。

 

「おお〜」

「楽しいわ〜っ!!」

 

 ひとしきりその場の人を笑顔と興奮の渦に巻き込み、満足そうなこころと共に、俺はトランポリンブースを後にする。

 

 上の階に来ると同時に、こころは「あっ!」と言いながら服屋まで一直線に歩く。俺の手をしっかりと繋いで。

 

「服……?」

「これ、似合うと思わないっ!?」

「ん?」

 

 こころが棚から取ったのは、これから冬になろうとしている今、ちょうどいい厚手のスタジャン。こういうタイプのアウターも、こころになら似合うだろうな。

 

 というか、こころに関しては似合わない服から挙げた方が早い。何回かこうやって一緒に遊んではいるが、松原さんのようなふわふわガーリー、奥沢さんのようなパーカーかつ露出ちょっと多めなスタイル、北沢さんのようなスポーティー系、瀬田のようなキチッとしたメンズルック、全てがぴったり似合うだろう。

 

 前にありえない程ハデなドレスを着てたが、アレもよかったな。なんでもできる、なんでも似合う。まるで崇拝だな、俺のこころに対する認識ってのは。

 

 心の奥底にある思いは、そんな高尚というか、リッパなものではないが。

 

「お似合いです」

 

 俺が本心からそう言うと、何故かこころは首を傾げる。もっと具体的なアドバイスが欲しかったのか? 

 

「え、ホントに思ってますよ。その、こう……」

「違うわ、ヒロトに似合ってると思ったの」

「はい!?」

 

 キョトンとした顔で当たり前のように言うものだから、俺は面食らってしまう。ハッとして服屋の内装に目を回すと、ここはメンズコーナー。どうりでこころには大きめの服だと思った。

 

 脳の違和感を司る部分が、こころに心酔するあまり麻痺していた。なるほど、俺に似合うって話か。

 

 こころから差し出された服を手に取り、俺はいつものクセで服のタグを確認する。貧乏臭いと思われるかもしれないが、つい値段を見てしまうんだよな。

 

 サイズはピッタリ。しかし、その下に書かれていた値段は、俺の目をエネルのように飛び出させるには十分だった。いや、激辛クレープを食ったウソランドくらい飛び出た。シュガーがいたら気絶してオモチャが人間に戻ってる。

 

 硬直すること数秒。俺はサラッと服をたたみ、棚に戻そうとする。

 

「いや……その……」

「気に入らなかった……かしら?」

「あっ、いやあ!? こんな値段するだけあって、やっぱカッコイイすねえ〜! ははは……」

 

 そんな目で見るな。思わず「ど、どうッスかね!」とニコニコしながら身体の前で自分に合わせてみる。こころは満足気に「やっぱりいいわねっ!」と笑う。

 

 いいわけないだろ。何だ、この値段。原付か? 6桁あったぞ。

 

 中古のスーパーカブくらいならポンと買える値段の服。身につけるのが怖い。

 

 普通のことだ。カイザー刃鬼のプロモやSARナンジャモくらい高いカードって、プレイ用で使用するの躊躇うだろ。大事に大事にPSA鑑定に出した後にドヤ顔で家に飾るだろ。

 

 それと同じだよ。こんなの身につけられない。カブを着るなんて、とてもじゃないけど恐ろしくてカレーうどんなんて食べられない。いや、カブを着るわけではないのだが。

 

 おろおろする俺の顔を覗き込み、こころは眉を下げる。

 

「お金、無いの?」

 

 実際そうだとしてもあんま聞くな、そういうの。

 

「こ……今度ピアノを買おうとしてて、貯金が……」

 

 これは真っ赤な嘘だ。ベリベリレッドウソ。嘘って英語で何だったっけ? 

 

 とにかく、こんな服をポンと買えるくらいの大金など、俺は持ち合わせちゃあいないし、貯金したとしても、1年かかっても手に入れられる気がしない。

 

 というか、家族向けのショッピングモールのくせに、こんな店を置くなよ。彼女にねだられたらどうするんだ。たまたま一緒にいたのが、俺のための服をわざわざ選ぶようなお人好しの友達だからよかったけど。

 

 あと俺はピアノより単車が欲しい。どっちにしろ貯金しないとな。てかなんだよピアノって。咄嗟に出てきたけど、こころの友達になるような奴は大体ピアノ持ってるわ。ボロ出まくってるな。殺してくれ。

 

「そういう事なら、あたしが買うわ!」

「……はっ?」

「そうだわ! どうせ買うなら、それの下に着るものも選びましょ! ズボンも合わせたいし……あっ! 靴もあるわよ!」

 

 バカモン、いくらになると思ってるんだ。俺はその場でYESともNOとも言わず、キョロキョロとあたりを見回す。

 

 すると、いた。少し離れたところに。

 

 護衛にしては目立ちすぎているような気がしなくもないが、こころが相手なので堂々とサングラスと黒スーツを身につけている女性の方々が、複数人。

 

 助けを求めるようにジェスチャーをするが、彼女たちは少し話し合った後、うる星やつらのコタツネコのように一言も喋らず、何かが書いてあるボードをこちらに向けて掲げる。

 

『張り切っているのはこころ様も同じです』

『観念なさってください』

 

 観念て。

 

 そうしている間にも、こころは俺の身体に様々な(値の張る)服を当て、ああでもないこうでもないと思案している。

 

「わ、悪いですよ弦巻さん……」

「ん? 何がかしら?」

 

 とぼけるな。俺はハッキリと「悪いですよ、こんなにちゃんとした服を買ってもらうだなんて」と口にする。

 

 しかし、こころはとぼけているわけでもないようで、至って真剣にこちらを見る。

 

「悪いことなんてないわ! 好きな人に何かをしてあげる時って、こういうものでしょう?」

 

 だからって、こんな何万もする服を何着も何着も買うって、もうアガペーだろ。わがままファッションガールズモードのカモ客もこんなには買わないぞ。

 

 さっき1セットだけ買うみたいな感じで言っておきながら、結構な量の服を持っているこころに、俺は申し訳なさに歯ぎしりをしながら「持ちますよ」と言う。

 

「ありがとうっ! やっぱりヒロトは優しいのねっ! 会った時もそうだったわ、あの時だって……」

「…………」

 

 そうしてこころが思い出を語りながらレジに並ぶのに、俺はついていく。

 

 違う。俺は優しい人間なんかじゃあない。どうしても欲しいもののためなら誰かを騙すことも厭わぬ、普通の人間だ。

 

 あんたのように、こんな量の高い服をいち友人に買ってやるような奴に優しいとか言われるのは、ちょっと複雑だ。

 

 俺は今もあんたに嘘をつき続けている。アリ王子と身分を偽るアラジンのように。

 

「じゃ、買いましょ!」

 

 結局のところ、俺は素直に奢られることを選択してしまった。まあ、こういう高い店で冷やかしなんて気が引けるというのもあるが、こころの勢いに圧されてしまったというのもある。

 

 くそっ、マジでこんな店置いてどうすんだ。家族向けショッピングモールのくせに。たまたま一緒にいたのが、金持ちの友達だからよかったけど。

 

 くらげさんのネタみたいになってしまったな。たまたま俺がサンリオ詳しいからよかったけど、のやつ。

 

 ちなみにミルクボーイさんのネタとくらげさんのネタを一緒にするのは、俺は可哀想というか、なんか違うと思う。

 

 おもしろポイントが『偏見が強い上におかんの言っているものが全く分からないから面白い』なのか、『おじさんが少女趣味にやたら詳しい上に全く違う答えだから面白い』なのかで、漫才の色としては結構違ってくるからな。

 

 会計を終え、俺たちはあてもなくモールをぶらつく。今回、この場所を指定したのはこころだが、特に目的地はないらしい。

 

 ただ、俺と一緒にいられればそれで、とこころはお誘いの電話で言っていた。聞いてるこっちが恥ずかしくなるような言葉を当たり前のように言うんだから、ホントすごいよ。

 

 そんなことを考えながらぼーっと歩いていると、またもやこころが足を止める。何かと思えば、立ち止まった場所はフードコートの入口。

 

「りんご飴……」

 

 そうつぶやきながらこころが見ているのは、りんご飴専門店。そんな店があるのか、何度かこのモールに来たことはあるが、見た覚えがない。最近出来たのかな。

 

「食べたいんですか?」

「ええ、とっても!」

 

 俺は店に並ぶ、切ってあるタイプではなく、りんご一個をまるまる飴にして割り箸に刺してあるようなクラシックなりんご飴を見る。

 

 この季節にりんご飴かあ。

 

「むっ! 今、微妙な顔したわね!」

「いや、だっていま10月ですよ?」

「んん〜! しゃがんで立ぁつ!」

「おっ、どうしました!?」

 

 言葉のままだ、こころはその場でただしゃがんでから立ってみせた。なんでだ。

 

 別に食ってみりゃあ美味いだろうし、腹がいっぱいという訳でもない。食うのはいいが、と悩んでいると、こころは俺の手を握る力を強める。

 

 そして、上目遣いでこう言ってくるのだ。

 

「一緒に食べたいの。ダメかしら?」

「ま、そういう事なら……」

 

 彼女は、ぱあっと顔を明るくして飛び跳ねる。子供っぽい。しかし、可愛い。まるで姪っ子を見ているような気持ちになる。

 

 りんご飴屋に列はできておらず、すぐに俺たちは飴を2つ頼む。店員のお兄さんは、「かしこまりましたァ」と言いながら飴をくるむ。

 

 しかし、彼の視線はりんご飴ではなく、こちらに向いていた。

 

「…………」

「……何か、顔についてますか?」

「いやあ、はは。その、お似合いですね」

 

 俺が思い切って聞いてみると、薄ら笑いを浮かべながら彼は何か誤魔化すように言う。

 

 それでも彼の好奇の視線は、依然として顔に刺さる。こんな顔でも十数年生きてきたんだ。悪いか。

 

 顔をまじまじ見られるのは、どちらかといえば嫌いである。昔よりかは自分に対する価値観はマシになったが、今でもなんだかソワソワはするものだ。

 

「お似合いでしょう?」

 

 そう店員に言うこころは、いつも通り笑っていた。いや、いつもとは少し雰囲気の違う笑顔だ。

 

 嘘っぽい言葉も、こころの前では通用しない。まるごと受け入れてしまう、と言うのが正しいだろうか。

 

 誇らしげなこころは、俺の腕に抱きついて、店員に──『渡さないわよ』とでも言いたいのか──少しワルっぽい笑顔を見せる。

 

「あたしの自慢なの」

 

 そんな顔もするんだな、あんた。独占欲も人並みにあるのか? いや、果たして本当に俺を独占したいだなんて思っているのかは分からないが。

 

「そ、それは何より」

 

 こころにドン引きしたようだ。彼はそっぽを向いて飴を渡し、次の飴を作るのに集中する。こころのフレンドリーさは時に裏目に出るらしい。

 

 りんご飴を受け取り、一口かじる。美味しいですね、この季節に食べるのも悪くない。そう口にしようとこころを見た次の瞬間、はたと俺は、自分の腕に当たっているものに気づく。

 

 こころは未だ俺の腕に身体をピッタリとくっつけたままだ。誕生日に貰ったクマのぬいぐるみを抱える子供のように、大事そうにも、嬉しそうにも抱きついている。

 

「ふふ」

「……」

 

 俺は今まで小説やマンガを読んでいる時、『口をぱくぱくさせる』という表現に納得がいっていなかった。いくらテンパったとしても、硬直はすると思うし、声が出なくなることもあると思う。

 

 されど、わざわざ口をぱくぱくと動かすようなことがあるか? ずっと俺はそう思ってきた。

 

 しかし、俺は今その言葉の意味を、頭ではなく心で理解した。口の開閉は、『言葉を出そうとしても出せない』ことのあらわれ。なんとか口に出したい言葉があっても、出せない。

 

 そのもどかしさと、青天の霹靂とでも呼ぶのだろうか、驚愕の何かしらの事実に、人は口をぱくぱくさせる。

 なるほど、初めて飛んだ宇宙飛行士も青く丸い地球を見て、そういう事だったのかと、今の俺のように改めて納得したに違いない。

 

 頭が冴えた気分だ。この飴には知能を覚醒させるソレでも入っているのか? 

 

 そうしてこころは、タカラのだっこちゃんのように俺の腕にしかとつかまりながら歩いていく。転びそうになりながらも、俺はその状況を甘んじて受け入れながら、こころとくっつきながらモールを歩く。

 

 2階の広場にも、トランポリンがあった場所とはまた別の広場があり、そこでも何やらイベントが行われていた。

 

「太鼓……ですね」

「太鼓ね! 巴はいるかしら!」

「夏を先取りしてますね〜、ここのモールは」

 

 先取りというか、遅れているのか。いま10月だし。

 

 簡素な山車の上で、ハチマキに青い半纏、いかにも夏っぽい格好でバチを握るオッサンが、歌を流しながら太鼓の前に立っている。しかし。

 

「……なかなか叩かないわね?」

 

 立っているだけだ。うねうね動きながら、一向に叩こうとしない。

 

「なんか、四発しか叩けないらしいですね。ほら、看板に『四発太鼓』って書いてあります」

「ワビサビなのかしら」

「和食は引き算ですからね」

 

 変な太鼓大会、というか変なオッサンのいる場所を、俺たちはりんご飴を片手に通り過ぎる。何やらこちらに向けて喋りかけていたような気もしなくもないが、気の所為だろう。

 

 1階が見える吹き抜けのそばにあるソファに座り、俺たちはりんご飴をかじる。

 

「ふふっ」

「弦巻さん」

「ん? なにかしらっ」

「楽しい……ですか?」

 

 不安になって思わず口に出した俺に、こころは迷いもなく「ええ、とっても!」と返す。

 

「言ったでしょう? あたし、ヒロトと一緒にいるだけで幸せなの!」

 

 楽しいかどうかではない答えだが、俺は少し安心する。

 

「ん……」

「ん?」

「肩に、寄りかかっても?」

 

 隣に座るこころは、俺を見つめて言う。半目、というか、目を細めている。彼女の言う通り、とっても幸せそうだ。

 

「……もちろん」

「ふふ。ありがとうっ」

 

 さらさらと肩にかかる金色の髪は、天女の羽衣の素材なんじゃあないかってくらいに綺麗で、俺は見蕩れる前に罪悪感が出てきた。

 

 彼女を独り占めしていることに対してではない。彼女に嘘をついていることに、だ。




床屋で髪を切ってもらった後「ごちそうさまです」と言って退店する、かなりキモいおじさん
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