見た目だけは踏み台だけど、普通に生きさせていただきます! 作:蒼天 極
プロローグ
この俺、
と言うのも俺は社畜であり太陽が昇るよりも前に会社に到着して仕事をして理不尽に怒られて、日付もすっかり変わった頃に帰宅して泥のように眠る……。
数少ない趣味は出社中に眠気を紛らわせる為に見るアニメだけ……。ハッキリ言ってなんも我ながら味気ない最低な人生だと思う。
しかし…………
「あなたを間違えて殺してしまったのでお詫びとして異世界転生させますね」
急にこんなこと言われて俺はどうすれば良いのだろうか?
いや、分かる。分かるよ? 疲れ切った状態でフラフラと信号を渡ってたら、気がついたら目の前に異世界転生名物のトラックがいて為す術なく轢かれたと思ったらこんな訳の分からん場所にいるんだからここがあの世と言う事は分かる。
なんならぶつかった時の衝撃や地面に叩きつけられた際の激痛までも明確に覚えている。
…………オエ。
「すみません、ちょっと吐きそうなのでお手洗いとかありますかね?」
「お手洗いなんてありませんよ。女神はお花をつみにはいかないので。根性で吐き気を耐えるんです。ほぉら頑張れ、頑張れ♪」
あ、見れば分かる。これ性格悪い系の女神様だな?
と言うかこれが本物の女神だと言うのも疑うぞ。だっていきなりすぎるんだもん。
「じゃ、じゃあ吐き気はなんとか耐えながら聞きますけど、あまりにあっさり本題に行ったものだから若干理解が追いついてないんですが……そちらのミスで死んだ?」
神を名乗る無表情な女性の言葉は現実離れしていても理解は出来るものだった。なんてったってトラックに轢かれてミンチになって死ぬと言うのは異世界転生のお約束だ。
30代も半ばになって異世界転生に選ばれるとは我ながらラッキーだとは思うが、間違えて殺したとはどういう事だろうか? トラックに轢かれた事自体は俺の注意不足だった気がするんだが……。
「本来トラックに轢かれはすれど全治数ヶ月で完治するはずでした。ですが運命の歯車のメンテナンスをさぼゲフンゲフン。ちょっとしたミスで予定より早く寿命が来てしまったんです」
今咄嗟に言い直したっぽいけど理解は出来ましたぜ? 運命の歯車が何かは知らないけど人の命を司るって事は割と重要な機関なんじゃないんですか?
そんな大事な機関のメンテナンスをサボるって何考えてるんすか。
「ジト目が私の良心に突き刺さりますねぇ。……ちょっとしたミスがなければ本来あなたは48歳まで生きられたはずなのに……んとーにサーセンっした」
「謝罪がかなり棒読みだったのはこの際無視しますけど本来の寿命も地味に短いっすねぇ!? トラックで無事でもあと十数年しか生きれなかったんすか!?」
「因みに死因は過労死です♡」
「救えねえ! 確かにブラック企業に仕える社畜だったけど、社畜戦士だったけど! 過労死はあんまりだ!」
「草飛び超えてもはや森ですね。アーハハハハハハハハッ! そう言う意味では無価値な人生を掬いあげた私に感謝するべきなんじゃないですか? ほら、お礼言いなさいよ。ホラ、ホラァ?」
「……今のであなたに敬語使いたくなくなったんで、ここからタメ語で喋らせて貰うわ」
いくらなんでもこの女神は性格が悪すぎるのではないだろうか?
いや確かに社畜として生涯を終えるよりはまだ良かったのかもしれないけどさ? ちょっとくらいは申し訳なさそうにしろよ。自分のミスを棚に上げて恩に着せようとしてしても、こちとら感謝の念は一切湧かねぇぞ?
「まぁ、そんなあなたの無価値な人生をうっかり終わらせてしまったわけですが、こちらの都合で殺してしまったのに再び輪廻転生させるのも申し訳ない。ですので異世界で第二の人生を歩んでもらおうって寸法です。ほらこの偉大なる私に感謝なさい。頭を床に擦り付けて私を崇め奉りなさい」
お前みたいなやつを崇め奉ってたまるか。
「お前みたいなやつを崇め奉ってたまるか」
おっといけない。建前と本音がついつい一緒になってしまった。
流石に今のは無礼すぎたかと女神の方を向いて見ると、諸悪の根源はとても涼しい顔で俺を見つめていた。
「威勢がいいですねぇ。ですがこれを聞いても私に反抗的な態度をとれるでしょうか?」
「期待してませんが聞きますわ。何を聞かせようとしてるんですか?」
「転生先は魔法少女リリカルなのはの世界です」
「私風情をそのような素敵な世界に転生させていただき心から感謝いたします女神様ァ!!」
人間は女神には勝てなかった。でも仕方がない“リリカルなのは”は俺が一番好きなアニメでリリカルライブだってブラックなウチの会社を無断欠勤して無理やり行ったほどにはお気に入りの作品なのだ。最も次やったらクビにすると言われてしまったが……。
一応リリカルなのはの世界は過酷な世界ではあるが、時空管理局という安定した職種がある上に、生活していく上で魔法と……原作と関わる気が失せたならば地球で何気ない日常を歩んでも良い。
そういう意味では第二の人生としてはうってつけだろう。
「リリカルなのはの世界でよろしいでしょうか? 文句があるならば別の世界を複数用意してますが……」
「……一応別の世界について聞いてもいいですか?」
「まどか☆マギカとメイドインアビスの世界ですね。まどか☆マギカに転生する場合は女の子に性転換、メイドインアビスの場合は第三層以上の階層では生きられない身体になるので悪しからず」
「リリカルなのはでお願いします」
どっちも鬱アニメじゃねえかふざけんな。と言うかこの二つの世界、明らかに転生者を殺しに来てんだろ。
だが当の女神は「そりゃそんな罰ゲームみたいな世界に行きたくはないですよねぇ……」と呟きながら続ける。
「ですが転生するにあたって……あなたのその原作知識は奪わせてもらいますよ? 展開がわかるだなんて面白くないですし、何よりトラブルの元なのでねぇ」
「え、そんな。……でもまぁしょうがないか」
少しショックではあるが下手に知識があると色々面倒ごとに巻き込まれる可能性があるのは否定できない。女神の言う通りトラブルの元になる可能性が高いのだから原作知識はここに置いて行った方がいいか。
だが原作知識よりも重要なことが一つある。
「転生特典……俗にいうチートはつくんですか?」
「偉大なる女神様、どうかこの哀れな豚にお力をお恵み下さいと言えたら考えて差し上げましょ「偉大なる女神様、どうかこの哀れな豚にお力をお恵み下さい!」……従順な子は好きですよ。本来なら天界規定に則りチートを三点与えるつもりでしたけど、特別に六点に増やして差し上げます」
「に、二倍!? ありがとうございます!」
まさか社畜人生で捨てる事に一切の抵抗がないプライドを投げ捨てて顔面を床に擦り付けて懇願するだけで転生得点を六つも頂けるとは……三つでも多いとはいえ、せっかくアニメの世界とはいえ第二の人生をやり直すのだ。転生特典はあればあるほど嬉しい。
だがそんな俺を見て女神はとても意地悪な笑みを……俗に言うゲスな顔を見せてくる。
「まぁ追加した三つはそれぞれ、銀髪オッドアイの見た目。魔力SSS。ニコポナデポにしますけどね」(ゲス顔)
「おいそれは踏み台転生者のチートじゃねえか。ふざけんな」
転生特典を六つとは太っ腹だと女神に感謝していたが、その気持ちは一瞬で消え失せてしまった。
魔力SSSはまだ使い所がありそうではあるが、銀髪オッドアイなんて明らかに特典の無駄遣いだし、ニコポナデポに関しては間違いなく碌なものじゃないだろう。
「なんすか、俺に踏み台やれって言ってんですか? 小学生のなのはたちに嫁って言わなあかんのですか?」
もし仮にそうなら勘弁してほしい。
ハッキリ言おう。俺はロリコンではあれどそこにあるのは興奮ではなく、尊いものとして眺めたいという願望だけだ。だと言うのに何が悲しくてロリっ子にいらんちょっかいを出さなければならないのか……。
マジでふざけんな。
「いえいえ、別にしなくていいですよ気持ち悪いですし。ですが他の転生者からは警戒されちゃいますね♡」ニコッ
「うわぁ……」
とびっきりの良い表情。別に踏み台をしなくて良いならばこちらとしても助かったものだけど…………俺なんかこの人に恨まれるようなことしたかしら?
見た目的にキリストの神っぽいし神道派の俺は憎いというのだろうか。
「ストレス発散ですよストレス発散。あなたの前に転生させた人があまりに横柄で我儘なクソ野郎だったのでストレス溜まってしまって。まぁもう飽きたのでさっさと特典三つ選んで転生してくださいな」
「俺からしたらあんたもそのクソ野郎と負けず劣らずだよ」
たとえ前に転生させたのが横柄で我儘なクソ野郎だとしても、そっちのミスで死んでるんだからそれくらい甘んじて受けてほしいものではある。
それをムカついたからと後続の俺にストレス発散でぶつけるのなんてもっての外だ。
「ねぇ早く〜。急がないと転生特典踏み台の三つで転生させちゃうぞ〜」
「うわ、ヤッベ急がないと……それじゃあ無難に……成長補正とデバイスに対する知識は確定で入れておいた方が良いとして……」
成長補正とは自らの限界を取っ払って成長率を伸ばすチート。これがあれば鍛錬を積めば積むだけ強くなれる。なんなら原作が始まる前から鍛錬から自分にキツイ鍛錬を課していればフィジカル一本で戦うことも容易だろう。
そしてデバイスに対する知識……これがハッキリ言って超重要で、事前に強力なデバイスを複数作り、装備を充実しておけば大概何かが起きても優位に立ち回れる上に、デバイスマイスターと言う技術職でお金を稼ぐ事が出来るのだ。
「成長補正とデバイスに対する知識ですね……。補正値は二つとも大にしておきますね。それで残り一つは?」
そうだな〜。正直残り一つはこれといって思いつかないがせっかくならば強いチートが欲しいものだ。
何かいいのはないかな……う〜ん、う〜ん…………あ、そうだ。
「魔力変換資質を自由に変えられるようにしてもらってもいいですか?」
「変換資質を自由に変えられる? とどのつまり変換資質を炎熱、電気の両方つければいいってことですか?」
「それに氷と風と光と闇を追加してください」
「盛りすぎなんで、光と闇は却下。変換資質は炎、雷、氷、風の四属性にしておきますね」
光と闇は却下されてしまいました。
う〜ん、六属性持ってれば最強かと思ったけど……まぁ、光と闇に関しては解釈が難しいだろうし文句を言っても仕方ないか。
でもこれだけチートを積んだ上にサボらずにしっかり鍛錬を積んでより良いデバイスを作る事が出来れば、少なくとも二次創作で見るような踏み台らしい噛ませ犬にはならないだろう。
「転生特典はこれでいいですね? 一応今ならギリギリ変えられますけど……」
「これでお願いします」
「了かーい。あ、私のストレス発散に付き合ってくれたんで神製の超高性能サポートAIをつけておきますね。改造なりしてインテリジェントデバイスの脳にでもして使ってやってください。あと、あなたの他に三人転生者がいます。喧嘩しないで仲良くしてくださいね?」
うわ、結構多い……。
この手の二次創作なんてオリ主とオリ主の噛ませ犬になる踏み台二人で充分なのにそれに更に二人いるのかよ……。タダでさえオリ主一人で不安だと言うのに、トラブルにならなきゃいいけど…………。
「まぁ貴方の前に案内したクソ野郎以外は二人ともいい子ですし大丈夫だと思いますよ? なんなら年長なんだから二人の事は出来れば目にかけてあげてください」
「……女神さん?」
まるでお願いするかのような表情を浮かべる女神に対して、性悪要素はどこいったと内心思っていると女神はパチンと指を鳴らす。
カパッ
「カパ? え……うわぁああああああああっ!?」
「それじゃあ行ってらっしゃーい。せいぜい第二の人生エンジョイして来なさいな〜」
直後床が抜けて重力に従って落下した俺は、浮遊感と共に強烈な眠気に襲われ、為すすべなく意識が遠のいて行ったのだった。
享年──32歳
誕生日──12月25日
好きな食べ物──白子、焼き鳥
趣味──出勤中にアニメや二次創作を読む事
最近欲しいもの──休日