見た目だけは踏み台だけど、普通に生きさせていただきます! 作:蒼天 極
「お、こっち量の割に安いな……あ、でもこっちの方が評判いいらしいしなぁ……まぁ、ここは俺の料理の腕を信用して安さをとるか……」
「あ、レオ君なの!」
「ほんとだ! お〜い、れおく〜ん!!」
「ん?」
たまにはパンケーキを食べたいと思い、安いパンケーキミックスを買い物かごにぶち込んでいると声をかけられた。
そちらを向くと予想通りひなちゃんと なのはちゃんだった。
「おやお二人さん偶然だね、お菓子でも買いに来たの?」
「うん! ママとお買い物に来たんだけど、なのちゃんに偶然会ったんだぁ」
「レオ君は何を探してたの?」
「パンケーキ作ろうと思って材料買いに来たんだ」
「へぇ〜、自分で料理するんだねぇ」
感心した表情で買い物かごを覗き込んだなのはちゃん。
だが俺のとったパンケーキミックスを見た瞬間、なのはちゃんは無言で先ほど候補に入れていた評判のいいパンケーキミックスを手に取る。
「レオ君の買おうとしてるパンケーキミックスはパサパサになっちゃうよ? おいしいパンケーキを作りたいならこっちの方がいいの」
「あ、やっぱり? でも安いのはこっちだからね」
こちとら一円でも節約するために、洗濯はまとめ洗いかつ風呂のお湯の再利用、無駄な電気は使わない、そしてスーパーでも安い商品や特売品を狙う事を心がけている。
毎月生活費として百万支給されている俺ではあるが、なにせ生活費や税金以外は全てデバイスの材料費や教材費などに注ぎ込んでいる身だ。
特に最近だとミッドチルダに最高級のデバイスの素材を買い付けに行く関係で常時金銭不足。デバイスというものは素材も高価で毎月百万でも全然足りないのだ。
「う〜ん……あ! このパンケーキミックスで作るならメレンゲを作ってスフレパンケーキみたいに作ればいいの! メレンゲと生地を最初はしっかりと、残りの二回はざっくりと混ぜれば上手に膨らむよ」
「え、マジで? 参考にさせてもらうよ。それにしてもよくそんなの知ってたね?」
「ホントだねぇ。なのちゃんもお料理するの?」
「うぅん。なのはのお母さん喫茶店のパティシエさんだから教えてくれるの。翠屋って言うんだけど……」
うん、知ってる。
翠屋はシュークリームが有名ってことで興味があって行ってみたくはあるんだけど、いかんせん定期的に金髪が入って騒ぎを起こしてるらしいからね……。
同じオッドアイとして気まずくて入れない俺であります。
でもまぁなのはちゃんと友達になったし近々一回位は食べに行ってもいいかもなぁ。片目瞑って笑わなければ誤魔化せるだろうし……。
そんな事を考えているとスーパーの時計が目に入る。もうすぐ四時…………あ!!
「やっべ、そろそろ夕方のタイムセールのお時間だ!! ごめんねひなちゃん、なのはちゃん! 俺ちょっと戦場行ってくるわ!!」
「行ってらっしゃ〜い! ……ねぇねぇなのちゃん、せんじょーってなに?」
「戦場の意味は分かるけど、スーパーが戦場……?」
コテンと頭を傾げる二人を置いて俺は足早に移動を開始した。
◇
タイムセールや半額シールが貼られる時間帯のスーパーは、安いものを購入しようと頑張る主婦の皆様や金欠の学生なんかの戦場へと変わる。
この戦場に5歳の身体で立つのはハッキリ言って危険ではあるが、こう言う所でしっかり切り詰めておかないと、今月
特に今回の特売商品は卵……スフレパンケーキだけでなく、その他諸々の為に何がなんでも手に入れたい代物だ。たとえ他の何かを犠牲にしてでも……!!
「……アリシアを蘇らせたいと願ったプレシアもこんな気持ちだったのかな……」
『食料品への情熱で原作知識を思い出した……!?』
……あれ? 俺今なんて言ったっけ? まぁいいや。
踏み台である俺ならば子供の身でも一般人に遅れを取らないと思うだろうが、そうは問屋が卸さない。このスーパーにはタイムセールの商品の前に立ち塞がる三人の猛者がいるのだ。
「あらレオ君も来てたのね。こんにちわ」
「……羽鳥さん、こんにちわ。いつもひなちゃんと仲良くさせていただいております」
「あらあら、お礼を言うのはこちらの方よ〜。あの子にとってレオ君は初めてのお友達だからね。毎日あなたのお話をしてるのよ?」
一人目はひなちゃんのお母さんである桃崎
パン屋、モモザキベーカリーをひなちゃんパパと切り盛りするパン職人であり、ひなちゃんパパとともに厳しくも優しくひなちゃんに最大限の愛情を与えて育てている理想の母親。
しかし特売となると普段の姿とは裏腹に主婦の間を華麗にすり抜け、音もなく商品を手に入れるその姿は女怪盗と呼ばれるほどだ。
「レオ君、今日は私に譲ってくれないかしら? 今晩ご飯食べに来てくれてもいいから。ひなもレオ君が来たら喜ぶわ。だから、ね?」
「いいえ、こちとらこの後パンケーキと夕飯に茶碗蒸しを食べたいんで絶対に譲れません」
「なら今夜は茶碗蒸しにしてあげるわよ? そして今日はウチで泊まって行ってくれたら明日の朝ごはんをパンケーキにしてあげる」
「因みに茶碗蒸しは白だし派ですか? 出汁の素派ですか?」
「出汁の素よ」
「俺は白だし派なんで。それにこの間も泊まらせて頂いたばかりなのに、そんなにお世話になるわけには参りません」
「あら、残念……」
「あら? 羽鳥ちゃんにレオ君。早いわね、まだタイムセールまで五分あるわよ?」
っ!?
まさかのまさか高町桃子さんまで来たか……。
彼女もまた猛者の一人。彼女の夫は古流武術の数少ない継承者らしいのだが、その中の奥義“神速”と呼ばれる歩法をスーパーの特売を勝ち取るためだけに夫から学び、マスターした凄まじいお人だ。
…………そう言えばこの人、なのはちゃんと同じ苗字なんだよなぁ。
「十分前行動が俺の信条ですので」
「まだ子供なのに偉いわねぇ」
「それに比べて桃子さんは随分とゆっくりですねぇ。卵くらいなら取られても問題ないってことですか?」
「開始時間は同じなのだからギリギリで問題ないでしょう? 私は効率重視なのよ」
「あらら、四天王揃い踏みみたいやな」
「「「はやて(ちゃん)!?」」」
くそ、コイツまで来たか。車椅子レーサー、八神はやて!!
パラリンピックに出られるほどの車椅子さばきで目的地まで移動するその姿はまさにレーサーと言われる俺と同い年の少女だ。
「久しぶりやなぁレオ君……。足の動かん私に卵譲ってくれてもええんやで?」
「前回の件、忘れたとは言わせねえぞ? もう車椅子だからって油断はしねぇ。今回こそは前回の借り……返してやるからな?」
「そないな顔して物騒やなぁ。はぁやだやだ、オッドアイは碌なやつがおらんのかいな?」
「あの金髪と一緒にすんじゃねえよ」
「なんやリュウヤ君知っとんの?」
「黒髪君に怒鳴り散らすわ、俺のお友達にナンパするんで最悪だから、いつも股間を蹴り抜いてやってるよ」
「へぇ……リュウヤ君の件後で教えてぇな。毎回毎回しつこくて頭に来とるんよ」
「あら、はやてちゃんもレオ君も仲良いわねぇ。丁度ウチの娘もスーパーに来てるし一緒にお菓子でも見てたらどう?」
「……その娘さんってなのはちゃんの事ですかね? 先ほど会いましたよ」
気になってついつい聞いてしまったが、俺の質問に対して桃子さんは驚いたような表情を浮かべる。どうやら当たりだったようだ。
なるほど……つまり桃子さんが翠屋のパティシエ……桃子さんとは顔見知りだし余計翠屋に行きやすくなった訳だ。これは本気で近々行くしかないな。
「あら、なのはが昨日新しく友達が二人できたって言ってたけどレオ君の事だったのね」
「えぇ、因みにもう一人はひなちゃんです」
「あらそうなの? 桃子さんと近々娘を会わせようって話してたけど既にお友達になってたのねぇ」
「私一人だけ蚊帳の外になってしもた。なぁなぁレオ君、ウチにもなのはちゃんとひなちゃん? を紹介してぇな」
「ええよ、特売終わったらまた合流する予定だし一緒行くか」
おっと、雑談している間にタイムセールまで後一分を切ったな。
俺や他の主婦達はこれから来たる足への酷使に備えて屈伸だったり軽いエクササイズを行う。はやては足を動かさない代わりに手をぶらぶらさせたり回したりして腕のストレッチだ。
残り三十秒
二十秒
十秒
五秒
一秒
「負けないわよぉ!」
「卵は私がもらうんだからもらうわ!!」
「いいえ、卵はウチがいただきです!!」
「今日の俺は最初っから全力だオラァ!!」
卵のタイムセールという名のレースの火蓋が切られた。
桃子さんの使う神速には勝ち目がない。だけどあれは足にかなりの負担を強いる物だから、商品の目前での一瞬にしか使わないはず……。
羽鳥さんに関しては回避、相手を追い抜く力に特化してるけど所詮はそれだけだ。圧倒的な速さでそもそも追いつかれなければどうとでもなる。
ならば一番集中しなければならないのははやてか……!!
「なんやレオくん、前よりも速くなったやんか! 鍛錬を積んだみたいやな!」
「そちらさんも以前とは比べ物にならないほどじゃねえか! くそ、毎日山登り降りした俺の苦労はなんなんだっ!!」
「私も日々精進しとるって事やぁ!!」
「あら、お喋りしてるなら私先に行くわね」
「「なっ!?」」
桃子さんに追い抜かれてしまった。一体どうして……
…………そうか!! 神速があれだけの速さを発揮すると言うことは、あの速度を出すための足の基礎筋力はかなり鍛えていると言う事……つまりこの中で一番足が速いのは桃子さんだったんだ……。くそ、失念していた!!
「もぉ、みんな速いわねぇ……!」
くっ……後ろから羽鳥さんも追い上げてきている…………。
卵まで後数メートル、ここは一気に勝負に出る! 少しズルいが年齢というハンデを背負ってるんだ。裏技を使わせていただこう!!
(アスカ、あれをやる。サポート頼む)
『はいはーい……ったく、こんな下らないことに使わないで欲しいもんですねぇ……』
ブツブツと文句を言うアスカを完全無視して脚に力を入れて思いっきり床を蹴ると、先ほどまでとは次元の違う速度で身体が前に進む。
雷の変換資質で魔力を微細な電気へと変え、足の神経と筋肉にそれを流して筋肉を活性化。それにより今の俺は本来の限界を超えた速度で移動できるのだ。
「なっ……なんやってぇ!?」
「やるわねぇ。ならこっちも……神速っ!!」
桃子さんも不利を悟ったのかこのタイミングで神速を切ってきたか……!
俺が先に動いたとはいえ、やはり神速のほうが速いのか後ろから凄まじい速度で桃子さんが迫ってきている。
間に合え……‥間に合え……
卵まで後数センチ。手を思い切り伸ばして……でも勢い余って握りつぶさないように気をつけて……取ったっ!!
結果、俺と桃子さんは同時に卵をゲット。その後羽鳥さんとはやてが同着で卵を手に入れ、結果として四人全員が卵を手に入れる結果となった。
「いたた……」
「大丈夫ですか桃子さん? 足、すっごい辛そうですよ?」
「ありがとうはやてちゃん。神速は負担が凄くてね……でもよかった、全員買えたわね」
「ですねぇ。これでパンケーキと白だし茶碗蒸しが食べれる……」
「良かったわね。ウチも夕飯を変えずに済みそうだわ」
「ウチもです。……いや、せっかく卵手に入ったし今夜はちょっとだけ豪勢に行こかなー?」
戦利品を持ってライバル達と笑い合っていると、お菓子売り場からひなちゃんとなのはちゃんがやって来る。
どうやら特売が終わったと悟って母親の元に戻って来たのだろう。
だがそんな彼女らは何故か呆れたような表情で俺達を見ており…………
「「みんな大人気ないの」」
「「「「ぐふぅっ!?」」」」
容赦のないその一言は俺ら全員の胸に深々と突き刺さったのだった。
〜おまけ1〜
「ひなちゃん、なのはちゃん。こいつ車椅子レーサー、俺のライバル」
「ちょ、通り名で紹介すんのやめてぇな!! ……こほん、八神はやて言います」
「ひなはひなだよ〜。はやてちゃんだからはーちゃんね。よろしゅ〜!」
「もぉひなちゃん? ……わたしはなのはだよ。よろしくねはやてちゃん」
「よろしゅうなぁ。レオ君、二人に紹介してくれてありがとな? お礼に今度ウチの友達も紹介したるわ。ヤマト君って言うんやけど……」
「にゃ? ヤマトくん……なんではやてちゃんが知ってるの?」
「え、それはリュウヤ君から助けてもろて仲良くなったからやけど……」
「なのはもなの……」
「「…………」」
「れ、れお君。なんだかなのちゃんとはーちゃん怖いよ……?」
「恋のライバルが出現したって事だろ。いや〜、あのオリ主も色んなところに手を回してんなぁ……刺されたら笑ったろ」
〜おまけ2〜
「そう言えばレオ君」
「なんでしょう羽鳥さん。あ、卵ちょうだいは聞きませんからね?」
「流石にそんな事はしないわ。……ねぇ、間違ってたらごめんなんだけど、あなたのお母さんってレーヴェって名前じゃなかったかしら?」
「え? なんで母の名前を……」
「やっぱりそうだったのね! あなたのお母さんには以前お世話になってたの。亡くなったって聞いてたけど子供がいたのね……」
「ソ、ソウナンデスネ……」
(いやいや、本当になんなんだよこの世界の俺の母親……。