見た目だけは踏み台だけど、普通に生きさせていただきます!   作:蒼天 極

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体育は転生者の独断場……の筈なんだけど…………

 前世ではお世辞にも運動ができるとは言えなかった。俺自身インドア派であり体育以外では一切運動をしないもやしっ子であった。

 

 だが今世ではどうだろうか。

 あの邪神に成長の限界を取っ払ってもらったことに加えて、そこまで高くない山ではあるが、毎日毎日上り下りを繰り返したことも相まって相当な脚力を手に入れた。

 腕力に関しても魔法の練習で杖をくるくる振り回したり、剣型デバイスを振り回したり、銃型デバイスの集中行ったときにその反動に耐えたりした結果、ひなちゃんを数時間お姫様抱っこしても腕が疲れないほどとなっている。

 つまり、俺が何を言いたいかと言うと……

 

「50メートル3秒!? お前人間やめてんだろ!?」

 

 体育では無双……いや、アスリートや世界記録を軽々と超えるほどの身体能力を手に入れたんだよねぇ。チートボディ万歳! 成長補正万歳!!

 

「ねぇねぇ、宮坂くん。陸上クラブに入るつもりはない? 君なら絶対オリンピック狙えるよ! いや、今の時点でギネス記録だって……!」

 

「いや、あくまで体育の授業で楽しむ程度でいいよ。ガチでやったら疲れそうだ。心が」

 

「え〜、この才能を開花させないなんて勿体無いよ! 体験、体験だけで良いから陸上クラブに!!」

 

「と言われても一人暮らしで忙しいからなぁ。時間取れないから無理だって」

 

「え〜!」

 

 その後なおも食い下がる陸上クラブのクラスメイトをなんとか振り払いヤマト達と合流。

 

「お待たせ〜、ごめん。振り払うのに時間かかったわ」

 

「うぅん、だいじょーぶ! ひなもさっき誘われたもん。遊ぶ時間がなくなるから断っちゃったけど」

 

 ひなちゃんは最初は体力も年相応であったが、俺やヤマトと魔法の練習をする様になってからはみるみるうちに成長していって、今ではすっかり俺と同等クラスの身体能力を得ている。

 50メートル走に関しては俺とタイ記録を叩き出してるし、流石はオリヒロインと言った所だろう。

 ひなちゃんの成長にうんうんと頷いていると、ヤマトが呆れた様な視線を俺に向けて来る。

 

「お前なぁ……素の力で50メートル走やるなよ……。嘘の苦手なひなはともかくお前なら適当に誤魔化せるだろ?」

 

「まぁそうなんだけどさぁ……」

 

 ヤマトの言うことは最もだ。

 50メートル3秒とは時速60km。小学一年生として……いや、人間としてあまりに異常な数値。一歩間違えたら騒ぎになる可能性が極めて高い。

 ……だが

 

「俺はあえて素の力でやる様にしてるんよ」

 

「なんで?」

 

「だって「すずか、危ないっ!!」おや?」

 

 突如アリサちゃんの悲鳴の様な叫び声が聞こえ、咄嗟に彼女の方を向いてみると、50メートル走を走ろうとしていたすずかちゃんの頭上に野球ボールが飛んできている所で…………

 

「え──?」

 

「すずかっ!!」

 

 直後、ヤマトが凄まじい踏み込みで一瞬ですずかちゃんの元へ移動すると、すずかちゃんの頭に襲い掛かろうとしていた野球ボールを鷲掴みにした。

 そして彼女の方を向いてニコリと微笑むと…………

 

「怪我はないな?」

 

「え……あ、は……はひ…………////」

 

「決まったー!! オリ主の天然のニコポ! これはヒロインには破壊力抜群だー!!」

 

「ねぇなのちゃんにこぽってなーに?」

 

「レオ君ってたまに分からない事言うよね」

 

 その後授業で野球をしていた5年生が謝りに来たが、わざとではない事と怪我人がいなかったと言う事で不幸な事故として片付いた。

 

「豊田君がいなかったら月村さんは大怪我してたかもしれないわね」

 

「友達なので、当たり前のことをしただけですよ」

 

「そう。……でも50メートル走は測り直しね。あれだけの速さで月村さんの所まで走ってたのに50メートル12秒は手を抜いてでしょ?」

 

「…………」

 

 50メートル走のやり直しを命じられて固まるヤマトの肩にポンと軽く手を置く。

 

「……今みたいにこの手の隠蔽はどうせボロが出るから、初めっから実力を隠さずに敢えて本気でやったってワケ」

 

「…………なるほどな。納得した」

 

 尤も勉強に関してはボロなんて出ないだろうから、わざと何問か間違えてただのスポーツマンに見える様にしてるけどな。

 

 その後結局50メートル走を走り直しとなり、俺の発言ももっともだと思ったらしいヤマトは潔く本来の力で走ったっぽいのだが…………

 

「50メートル1秒って何よ? 新幹線にでもなるつもりか」

 

「ヤマトが規格外なのは認めるけどアンタも人のこと言えないからね?」

 

「言うなアリサちゃん、自覚はしてるんだから」

 

「と言うかなのはからしたらアリサちゃんも人のこと言えないの……」

 

 アリサちゃんのタイムは6秒。まだ人間の常識内のタイムだから俺達よりはマシとは言え、充分全国を狙えるほどの足の速さだ。

 そして転生者の中でも群を抜いた身体能力と判明したヤマトと肩を並べられる規格外の存在が一名…………

 

「すずちゃんすごーい!」

 

「えへへ、私なんてまだまだだよ」

 

「いやいや、すずかちゃん。ヤマトとタイ記録叩き出しておいてまだまだって。将来はリニアモーターカーにでもなるつもりなの?」

 

 それはすずかちゃんである。この子俺たちみたいに神の加護と言うインチキをもらってないんだよね? 一体それでどうやってヤマトレベルの運動神経を発揮するのだろうか?

 

 

 ◇

 

 

 その後予想よりも早く50メートル走を全員測り切ったという事で、先生の提案でドッジボールをする事になった。

 

「分かってると思うけど……バニングスさんが本気出したら怪我しちゃうから少し手を抜いてあげてね?」

 

「分かりました。本気出すのはヤマト達だけにします」

 

「桃崎さん、宮坂君。あなたたちが本気で投げたら相手が骨折しちゃうから、豊田くんと月村さん以外にはかなり手加減して投げてね?」

 

「はーい! ねぇねぇリサちゃん。ヤマト君とレオ君はひなが投げてもいい?」

 

「いいわよ、目にものを見せてやりなさい!」

 

 ねぇひなちゃん。君はただ全力を出したいだけで、俺達を怪我させたいわけじゃないんだよね……?

 もし俺に対して嫌な事があったり怒った事があるなら正直に言ってね? 土下座するし素直にぶん殴られるから。

 

「あと豊田君と月村さん、わかってると思うけど本気で投げたら相手がひき肉になっちゃうから、絶対に全力の1%しか出しちゃだめよ」

 

「そ、そんなに酷くはなりませんよ!?」

 

「そうですよ。ひき肉になる前にボールがパンクしますって!」

 

 ウケを狙ったのかヤマト君? ほら見ろみんな引いてるぞ。

 

 

 〜数分後〜

 

「えい!」

 

「ぐぉ! ……おぉおおおおおお!!」

 

「レオ!」

 

 すずかちゃんが投げるボールを受け止めるが、彼女が投げたボールはまるで大砲。凄まじすぎる威力を殺しきれずに身体が後退してしまう。

 そのままコートから押し出されそうになってしまうが、ヤマトが俺の背後に回って身体を支えてくれたおかげで辛うじて受け止める事に成功した。

 

「サンクス、ヤマト」

 

「おう。……それにしても今日はなかなかに激戦だな」

 

 今、自チームでコートの中に残っているのは、俺とヤマトとなのはちゃん。敵チームでコートの中に残っているのは、すずかちゃんとアリサちゃんとひなちゃんだ。

 結局俺らのグループが残った様だ。それにしても…………

 

「なのはちゃんが残るなんて意外だったよ。真っ先にやられると思ってたのに」

 

「にゃはは、なのはもそう思ってたけど……なんか残っちゃったの」

 

 なのはちゃんはお世辞にも運動神経が良いとは言えない。

 異常な身体能力を持つ俺達基準と言うわけではなく、普通の子と比べても運動できない子。それがなのはちゃんである。

 

 そんな彼女が残った理由……それはヤマトがなのはちゃんを守っていた事と、すずかちゃん達はなのはちゃんを狙わないから。

 仲良しグループの中で唯一運動神経が悪いなのはちゃんを憐れんでいるのか、ただ純粋になのはちゃんにボールを当てたくないからなのかは彼女たちだけが知ることである。

 

「レオ、ここは勝負に出るぞ」

 

「よし、任せろ」

 

 なのはちゃんは戦力にならないため、実質3対2。そして向こうにはヤマトと同じレベルのすずかちゃんと、俺と同じレベルのひなちゃんがいる。圧倒的に不利だ。

 と言う事で勝負に出た俺とヤマトであるが、現在ボールはひなちゃんが持っており本来ならばコートの後ろ側に下がるべきところで俺は敢えて前に出る。

 

「いっくよー、れお君! てーい!!」

 

「かかったね!!」

 

 予想通りひなちゃんは俺の方へボールを投げてきたので、腕ではじいてヤマトの方へアーチ状に飛んでいくように計算する。

 俺の腕に当たった事で威力が死にただ重力に従い落ちるだけのボールをヤマトは…………キャッチせずに地面に落とした。

 

「「「「え?」」」」

 

 これで俺はアウト、外野へ移動しなければならない。

 俺はゆっくりと外野へ歩いて行き、コートの真ん中を陣取ると邪悪な笑みを浮かべる。

 

「これで挟み撃ちだねぇ」ニチャア

 

「ヒィッ!?」

 

「れ、れお君怖いよ……?」

 

「ちょ、その顔やめなさいよ! すずかもひなも怖がってるじゃない!!」

 

「あ、ごめん」

 

 そう言えば俺ニコポナデポがあるから笑えなかったね。テンション上がって忘れてたよ。

 と言うかニコポナデポが効かないっぽいひなちゃんまで怯えるなんて、そもそもニコポナデポを差し引いてもそんなに悪い顔してたらしい。反省反省。

 

 まぁ何はともあれ、ここからはワンサイドゲーム。

 コートの両側からのボールの猛攻に耐え切れず、ひなちゃんにボールが当たった。後二人、次にフェイントをうまく活用した戦略によりすずかちゃんも陥落。

 これで後一人、アリサちゃんだけだ。

 

「悪いなアリサ……だがこれも勝負だ。覚悟ッ!!」

 

「ひっ、や、やめて……」

 

「っ!」

 

 アリサちゃんは目の端に涙を浮かべながら両腕で身体を守るようにする。

 な、アリサちゃんのやつ、ここで泣き落としを使ってきやがっただと!? たがこんなんであからさまな手で我らがオリ主が籠絡するとで……も……?

 

「おいヤマトてめぇ、マジでふざけんなよ?」

 

「しまっ……つい……」

 

 やりやがったこいつ。女の子の涙に絆されてなのはでも取れるヘロヘロボールを投げやがった。

 相当手加減して本気の0.1%にも満たないヘロヘロボールをキャッチしたアリサちゃんは、舌を出して「ありがと♡」と可愛く言うとボールを外野のすずかちゃんに投げ渡す。

 

「すずかー。あとは任せたわ!」

 

「任せてアリサちゃん! それじゃあヤマト君覚悟してね!!」

 

「ちょ、ま、ぐぁあああああ!!」

 

 動揺したヤマトにすずかの豪速球を防ぐ術も避ける術もなく、あっさりと無様にやられやがったオリ主。

 トボトボと外野に歩いて来るヤマトに冷たい視線を向けると、彼を指さして一言

 

「こいつ戦犯だわ」

 

「せっかく勝てるはずだったのに!!」

 

「ふざけるなー!!」

 

「ちょっと待ってくれ! 流石にあれはアリサが一枚上手だったあ、やめ、あ────!! れ、レオー! ヘルプミーッ!!」

 

「嫌どす」

 

 

「それじゃ、行くわよなのは!」

 

「待ってアリサちゃん! 心の準備が……にゃぁああああああああ!!」

 

 コートに取り残されたなのはちゃんの断末魔をBGMに、チームメイト達に致命的なミスをやらかした大戦犯がボロボロにされる様子を眺める俺であった。




 〜おまけ〜

「それにしてもさっきヤマト君が助けてくれたとき、本当にドキドキしたなぁ……」

「すずかちゃん羨ましいの……」

「アタシに変わってほしかった……いや、一歩間違えたらすずか怪我してたし、羨ましがるのは良くないわよね……」

「ん〜、ヤマト君が助けなくてもすずちゃんは怪我しなかったと思うよ?」

「え、どうしてなの?」

「だってすずちゃん野球ボールが飛んで来たの気づいたらすぐに野球ボールをキャッチしようとしてたもん。ひなじゃなきゃ見逃しちゃうね!!」

「す、すごいのすずかちゃん」

「アンタ、規格外にも程があるわよ……」

「ぐ、偶然だよ〜! それにもしキャッチ出来てても、手が腫れちゃってたかもしれないし〜!!」
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