見た目だけは踏み台だけど、普通に生きさせていただきます! 作:蒼天 極
「ピザ美味しかったね〜」
「そうだね。久しぶりに食べたけど出前も案外いいもんだ」
高いから今まで注文は避けていたとは言え、特別なときとかは出前を取ってもいいかもしれないなぁ……。
久しぶりのピザにすっかり満足していると、すずかちゃんが思い出した様に「あ、そうだ」と言いながら自らの荷物をゴソゴソと漁りそこから紙包みを取り出す。
中に入っていたのは………………クッキーだ。
「実は私ね、クッキー焼いてきたんだ」
「にゃ!? まさか準備してたなんて……!!」
「くっ、すずか……やるわね……!!」
おぉ、ヤマトが馬鹿やったせいでお泊まりイベントめちゃくちゃになってしまったけど、転んでもタダでは起きないという強い意志を感じる!!
しかしすずかちゃん……クッキーとかのお菓子系統はなのはちゃんの十八番…………。ライバルの得意分野で勝負するなんてはっきり言って無謀だよ!!
「クッキーか。丁度甘いものが食べたかった所なんだよな。ありがとな、すずか」
「えへへ……食べてみて?」
ヤマトとすずかちゃんのやりとりを見て苦虫を噛み潰したような顔をしているなのはちゃんとアリサちゃん。
そんな二人は完全無視してクッキーに釘付けのひなちゃんに小さい声で告げる。
「ひなちゃん。あれはすずかちゃんがヤマトの為に焼いたものだから、ヤマトが味の感想を言ってから食べようね?」
「うん、分かった〜」
抜け駆けしたすずかちゃんをどうしてやろうかと物騒な会話をする二人の横で、すずかちゃんのクッキーを口に運び咀嚼するヤマト。
ここで気の利いた事を言えたら、すずかちゃんの好感度はさらに上がるぞ。さぁ、オリ主。頑張って作ってくれたすずかちゃんに素敵な一言をプレゼントだ!!
「……」モグモグ
「ど、どうかな?」
「……少し甘すぎないか?」
はい、死刑案件です。
仮に甘すぎるとしてもここは気の利いたセリフを一つでもあげるべきだろうが!!
正直者すぎて嘘がつけないひなちゃんでも、「うん、おいしい! でもひなはまあちょっと甘さ控えめが好きかなぁ」ってちょっとは表現濁すぞ!?
あまりにもあんまりな仕打ちに、何かを企んでいたアリサちゃんになのはちゃんすらも石の様に固まったすずかちゃんに同情的な視線を向ける。
「ちょっとこのバカ埋めてくるから、みんなでそのクッキー食べてて。あ、俺の分は一枚残してくれてたらいいから」
「私も手伝うわ。埋めた後自力で脱出できないようにコンクリートも流しましょう。鮫島に手配させるわ」
「なんでだよ!?」
「や、ヤマト君。今回ばかりはレオ君とアリサちゃんを応援するの……今のはないよ…………」
ヤマトの首根っこを掴んで家の外に出ようとすると、何が何だか分からない様子で抵抗する似非オリ主。
コイツはもうここで処分してしまおう。あの邪神まどマギの世界も転生先にあるって言ってたし、そっちに転生して絶望しちまえってんだ!!
だがそんな俺達を石化から復帰したすずかちゃんが止める。
「ふ、二人とも私は大丈夫だよ! クッキーは練習してまたリベンジするから。ね?」
「「すずか(ちゃん)……」」
目の端に涙を浮かべながらも、そう宣言するすずかちゃん。
おいヤマト、お前がすずかちゃん泣かせたんだからな? 鈍感もいい加減にしろよな、いやマジで。
「すずかちゃん……! わたしもクッキー作れるから今度は二人でリベンジするの!!」
「なんで二人なのよ。アタシも手伝うわ!! 三人でヤマトに美味しいって言わせてやりましょう!!」
「なのはちゃん……アリサちゃん……うん!!」
素晴らしき友情なり。
なのはちゃんとアリサちゃんの申し出にすずかちゃんは涙を拭いて笑顔で頷くと、ヤマトの方を改めて向く。
「ねぇヤマト君。次は三人でクッキーをリベンジさせて? それでなんだけどどんなクッキーが好きなのかな?」
「そうだなぁ……レオがこの間作ってきたキャンディー入りのクッキーかな」
「あ、ヤマト君もあれ好きなの? ひなも好きー!!」
「あ、分かるか? クッキーと飴の違う味が互いを引き立て合ってるし、食感もサクサクとカリカリの二重の組み合わせで面白い。……なぁ、レオ。悪いけどまた作ってくれないか?」
「「「「…………」」」」
ヤマトは予想以上に最低だった。
なぜここで俺を引き合いに出す!? 百歩譲って誰かを引き合いに出すとしてもここはなのはちゃんだろコラぁ!!
つーかお前にはクッキー食わせたことねぇだ……あ! そういえば魔法の練習してるときに、ひなちゃん用のおやつとして焼いてあげたクッキーを一枚ひなちゃんからもらってたっけ……?
「う、うぅ……うぇええええん!」
「俺、ちょっとそこで首吊ってくるわ。コンクリート葬でよろしく」
「分かったわ。寂しくないようにヤマトも入れておくわね。鮫島、悪いけどコンクリートの手配よろしく〜」
『かしこまりましたアリサお嬢様』
「コイツと入るくらいならぼっちでいいですわ。はぁ、ピザは最後の晩餐だったか……。とりま婆ちゃんに遺書でも残しておくか……」
「もしもしお兄ちゃん? ヤマト君がすずかちゃんを泣かせたの」
『よし分かった。すぐ行くから待ってろ』
すずかちゃんは膝から崩れ落ちてシクシク泣き始め、死を持ってその罪を償うと決めた俺はミゼット婆ちゃんへの遺書を書き始め、アリサちゃんは張り倒したヤマトの襟首を掴みながらコンクリートの手配をして、なのはちゃんは処刑人高町恭也を召喚するというなんともカオスな惨状となった。
「あーん…………すずかちゃんのクッキーもれお君のと同じくらい好きだなぁ」モクモク
そんな中我関せずといった感じでクッキーを食べるひなちゃんがこの地獄絵図な空間において唯一の良心であった。
◇
「グフッ……」
「もぉ、恭ちゃんやりすぎだよ!!」
「すずかちゃんを泣かせたんだ、これでもまだ軽いぞ。…………さて、これから道場でその根性をしっかりと叩き直してやらないと──」
「今日はせっかくのお泊まり会なのに、鍛錬で中止にしてどうするの? もう十分だから帰るよ!! それじゃあなのは、みんなもお泊まり会楽しんでね〜」
「夜遅くに呼んじゃってごめんね。ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「お疲れ様っす。美由希さん、恭也さん〜」
その後凄まじい圧とともにやってきた
高町兄姉が帰って一息ついていると、ピロリロリーンと言ったなんとも軽快な音楽が流れお風呂が沸いた事を知らせてきた。
「すずかちゃん、たくさん泣いて服ちょっと濡れちゃったでしょ? 先入って来なよ」
「……うん、そうするね」
「じゃあすずちゃん! 私と一緒にはいろ?」
「うん。なのはちゃんとアリサちゃんも一緒に入る?」
「そうね。色々あって汗かいたし入ろうかしら」
「二人が入るならなのはも入るの」
いくら小学生とは言え四人でお風呂なんて狭すぎるだろうと思うだろう。だが俺の足元で伸びているこのバカの家の風呂はめちゃくちゃ広い。小さな銭湯といっても過言じゃないほどだ。
俺の自宅のお風呂は普通だから邪神がどれだけオリ主を優遇しているかよく分かる。…………まぁこんなにデカいお風呂は掃除するのが大変だしお湯を貼るだけで結構お金がかかりそうだから、普通サイズで十分なんだけどさ……
この際ヤマトの家を銭湯に改築したほうがいいのではと考えていると、ひなちゃんがこちらに駆け寄ってくる。
「ねぇねぇ、れお君も一緒入ろー?」
「えぇ!?」
転生者は爆弾発言をしなければならないというルールでもあるのだろうか?
百歩譲って足下のボロ雑巾が女子と一緒に入るってんなら、ハーレムものあるあるだし別に違和感がけど……いや、流石にひなちゃんは一緒には入らせないかんな!!
……だが見た目踏み台、中身おっさんの俺はいくらなんでも大問題だろぉ!?
「いやいやひなちゃん? 流石にそれは大問題だからダメだ「そうだね。一人で待たせちゃうのも悪いし一緒に入ろっか」ちょっと高町さん、何を言ってもいらっしゃるのかしら!?」
流石に大反対するだろうと思い込んでいたなのはちゃんの言葉に驚きすぎてついつい苗字で読んでしまった。
いやいや君、自分が何言ってるか分かってる!? 好きでもない男とお風呂に入ろうって、いくらなんでも正気の沙汰じゃありませんぜ!!
「でもレオ君女の子っぽいから違和感ないの」
「確かに女顔ではありますけど、こう見えてしっかり男なんですが!?」
「別に私達は気にしないよ? お泊まりするときはいつもヤマト君と入ってるし今更だよ」
ダ、ダメだコイツら……幼いうちから異性と風呂入ってるせいで感覚が麻痺して、異性とお風呂に入るのが常識と思い込んでやがる…………!!
「というか知ってんのよ? ひながアンタん家泊まる時に一緒にお風呂入ってるって」
「いや、だって一緒に入らないと、この子ちゃんと身体も髪も洗わずに出るから……ちょっと待てなんで知ってる!?」
「ひなが以前言ってたわ。お泊まりするときは一緒に入ってるって」
ちょっとひなちゃーん!? 口が軽すぎるよ!!
ちゃうねん。この子と一緒にお風呂入るのは、可愛い妹……娘をお風呂に入れてあげる感覚で入れてるから別に異性として意識してないねん…………。
「ひなちゃんと一緒に入ってるなら今更なの。大丈夫だよ、レオ君が無害なのは知ってるから」
「なのはちゃん達が大丈夫でも、こっちが大丈夫じゃないのよっ!! ひなちゃんはぶっちゃけ妹と言った感情しか湧かないからともかく、流石になのはちゃん達と一緒に風呂入るのは恥ずかしいし、あとでそこのオリ主と一緒に入るから!!」
「え〜、一緒にお風呂入ろ〜よ〜!! みんなで一緒の方が楽しいよ〜!!」
そう言ってグイグイと無理やりお風呂場に連行しようとするひなちゃん。
普通ここまではっきり拒絶したら素直に諦めてくれるのに今日は諦めが悪い……そうか! 今日が初めてのみんなでのお泊まりだからテンションが上がっちゃってるんだ…………!!
「あー、もう諦めて一緒に入りなさい。なんならそこで気絶してるアホも一緒に入れるから!」
「でも……」
「う〜……みんなが一緒がいいよぉ……」
「……………………はい」
「ひなちゃんの泣き落としに負けちゃったの」
「レオ君ってひなちゃんに弱いよね」
ひなちゃんの必殺、泣き落としに攻撃を喰らってしまった俺はなす術なく屈服。一緒にお風呂に入る事が確定してしまうのだった。
もしヤマトが起きたときに一緒に風呂に入ってる件を咎められたら潔くぶっ飛ばされ……いや、あの鈍感の事だから違和感なく入りそうだなぁ…………。
そんな事を考えながらアリサちゃんと一緒にヤマトを風呂場へ連行するのだった。
〜おまけ〜
数日後……
「これがヤマトが絶賛した、俺特製の飴入りクッキーでございます……」
「……これがレオ君の…………私のなんかよりもずっと綺麗……」
「モグモグ…………それにすごくおいしいわ。……これはすずかのクッキーが敗れたのにも納得がいくわね……」
「そりゃあ、ひなちゃんの喜ぶ顔が見たくて色々試してるから…………でも、なのはちゃんならわざわざレシピを教えなくても再現……いや、これを超えるクッキーを作れるよね?」
「……うん、レシピは頭に浮かんだ。後は全力全開でぶつかり合うだけなの…………でもこれはわたしだけじゃダメ。アリサちゃんとすずかちゃんの力も必要なの」
「アタシ達の力……」
「何をすればいいの? なのはちゃん」
「最高のクッキーを作るためには0.1gのミスも許されない。だから手先が器用なすずかちゃんには分量を正確に測って欲しいの」
「……うん、頑張るよ」
「そしてアリサちゃんには飴と生地を合わせて欲しい……。温度管理が重要だから素早く混ぜないといけないけど、非力なわたしじゃ砕いた飴を素早く全体に満遍なく行き渡らせるなんて無理なの」
「だからこそアタシってわけね。任せなさい!」
「よし、それじゃあみんなで力を合わせて、ヤマト君を振り向かせるクッキーを作るの!!」
「「「「お〜!!」」」」
「コラコラひなちゃん。さり気なく三人に混ざらないの。この三人は本気で最高のクッキーを作ろうとしてる……。お手伝いしたいのは分かるけど、また次の機会にしてあげて?」
「はーい……所でひなもれお君のクッキー食べていい?」
数時間後……
「ヤマト君! 今度はなのはちゃんとアリサちゃんの力も借りて作って来たよ! この間のリベンジをさせて!!」
「へぇ、三人で作ってくれたんだな。三人の作ったキャンディー入りクッキー……それじゃあ早速」サクッ
「「「…………」」」
「モグモグ……」
「「「……………………」」」ドキドキ
「…………すっごく美味しいけど、桃子さんが作ったクッキーを自分達が作ったって言うのは流石にダメだと思う」
「「「!?」」」
「恭也さーん! 三人の努力を踏み躙るこのオリ主の皮の被ったクソ野郎をなんとかしてくれません?」
「よし分かった。ヤマト、道場行くぞ。その根性、今日こそ叩き直してやる」
「え、なんで!?」
あまりに完璧すぎて自分達が作ったと信じて貰えなかった三人娘はショックで項垂れ、オリ主という名の鈍感クソ野郎は恭也さんに鍛錬と言う名の拷問で半殺しにされたのだった。
そして残ったクッキーはひなちゃんとレオ君が美味しく頂きました。