見た目だけは踏み台だけど、普通に生きさせていただきます! 作:蒼天 極
その後、本当ひなちゃんの家で見せてもらう予定であったが、ヤマトの「親のいない俺の家や家が広いアリサ、すずかの家はともかく、こんな大人数でお邪魔したらご両親に迷惑をかけてしまうのでは?」と言う至極真っ当な指摘を受けて急遽公園へ移動してひなちゃんに猫を連れて来てもらう事にした。
こいつ異性へのデリカシーはないくせにこう言う配慮は出来るんだよなぁ……。異性へのデリカシーはないくせに……
「……どうしたんだ? 呆れるような目でオレを見て」
「べっつに〜」
「お〜い、連れて来たよ〜!!」
ヤマトから視線を逸らしていると、一匹を猫を抱いたひなちゃんが公園にやって来た。
だがこの猫は大きい、とにかく大きい。成猫にしてもいくらなんでも大きすぎる。この猫、猫は猫でもヤマネコだ。
「じゃーん! この子がひなの新しい家族だよ〜! お名前はまだ考え中。猫ちゃん、みんなに挨拶だよ!!」
「ニャ〜ン」
ひなちゃんの言葉が分かるのか、ひなちゃんに促されるままに鳴き声を上げる猫。それと同時になのはちゃん達は年相応な表情で猫を構い出す。
「わぁ、おっきくてモフモフなの!」
「ひなちゃんの言葉が分かるのかな? 賢い子なんだねぇ、可愛いでちゅねぇ♡」
「すずか、アンタ懐に常にチュール忍ばせてるわよね。一本ちょうだい! チュールあげたい!!」
「え〜、しょうがないにゃあ……今回だけだよ?」
…………すずかちゃん、君めちゃくちゃキャラ崩壊してるよ? 猫好きで家に沢山猫がいるのは知ってるけど、家ではいつもこんなんなの? と言うか懐にチュール仕込んでるのかよ。
『……なぁ、レオ』
『なんだよ。お前が念話で話してくるなんて珍しい』
『これってあれだよな……』
『あれ? 確かにあの子はヤマネコだけど、絶滅危惧種じゃない外国のヤマネコだから、日本での飼育は問題なく出来るぜ?」
最もヤマネコは気性が荒い個体が多い。
だが大人しくひなちゃんの胸に抱かれて女子達からこれでもかと撫でられてるのに、このヤマネコは暴れるどころか威嚇すらしない。大人しい性格の子だろうし、普通の猫を飼う感じで飼えるだろう。
『へぇ、そうなのか。ってそっちじゃねえよ! あの猫、使い魔だ』
『だから猫じゃなくてヤマネコだって……え?』
使い魔? あのヤマネコって使い魔なのか?
てことはこのヤマネコには本当の主人がいて、コイツを使ってひなちゃんの素性を探ろうとしてるってことなのか?
…………だとしたら流石に許せねえなぁ。
『……アスカ、やれい』
『はいは〜い』
念話でこっそりアスカに命令を送り、海鳴市全域に広範囲サーチをかけてもらう。
使い魔は常に契約者から魔力を供給されている。そこを辿ればどこの愚か者かも炙り出せるはずだ。
ひなちゃんに付きまとうストーカーめ……見つけ出したら半殺しにして股間潰して管理局に突き出してやらぁ!!
だがしばらくしてアスカはなんだか困惑したような雰囲気でこちらに念話を送ってくる。
『……あの、マスター。非っ常に言いづらいんですけど』
『どうした、見逃したの?』
『見逃しませんよ! 私を誰だと思ってるんですか!! ……いえ、ね。あのヤマネコからの魔力リンク……ひなちゃんと繋がってるんですよね』
「ゑ?」
とどのつまりひなちゃんはこのヤマネコと使い魔契約したと言うことだ。
あの子に使い魔との契約方法教えてないはずだし、ぶっちゃけ俺も使い魔の作り方は分からない。だと言うのになんでひなちゃんは契約を…………
「凄い勢いでチュール舐めてるわよ! すごい食欲ね!!」
「今度は私があげたいの! すずかちゃんもう一本チュール持ってない!?」
「ダメだよなのちゃん! おやつは一日一本にしないと太っちゃう……ね、猫ちゃん、不満そうな顔で見上げないでよ! そんな顔してもダメだからね?」
「でも一日くらい多くても大丈夫なの。ね、ひなちゃんお願い!」
「ダメ〜!」
「うん、流石に一本にしておいた方がいいと思うな。だからうっかり甘やかさないように私もチュール一本しか持って来なかったんだ」
「えー、そんなぁ〜」
あー、確信した。ひなちゃん絶対あのヤマネコと使い魔契約してない。これ完全にペットとしての扱いだもん。
おそらくあのヤマネコは別の人の使い魔で、役目を終えて消えようとしていた所でひなちゃんが無意識のうちに上書き契約をしてしまったのだろう。そして羽鳥さんもそれに気がついたから桃崎家で飼う事を許した。うん、そんな所だろうな。
……まぁ細かいことは後でいいや。
「そろそろ交代してもらっていーい? 俺も思っきしモフりたいんだけど」
「いいよ〜、はい」
使い魔がどうかは一旦置いておくとして、俺もこの大きくてモフモフな身体を撫でまわしたいと思っていた所だ。今は存分に堪能させてもらおう。
「おぉ〜、めちゃくちゃ触り心地いいなぁ……」
「でしょ〜? 昨日ママとお風呂に入れてあげたら凄くモフモフになったんだよねぇ」
「洗い立てなんだね〜」
「…………っ!? フミャァアアアアッ!!!!」
「いって!?」
「あ、ダメだよ猫ちゃん!!」
ヤマネコの頭を撫でた瞬間、ヤマネコの身体がビクリと跳ねたかと思うと、撫でていた手を引っかかれてしまった。
さっきまで気持ちよさそうに受け入れてたのに一体なんで…………も、もしかしてこいつメスでニコポナデポに反応した……?
人間じゃなくても効果範囲内なのかよふざけんなクソォ……。
◇
「それじゃあ、そろそろ帰る時間だからわたし達は帰るの」
「それじゃあお先に失礼するわね」
「また猫ちゃんモフモフさせてね〜」
「うん、バイバ〜イ!」
その後、そろそろ五時前という事でなのはちゃん達は帰宅。転生者……と言うか魔法が使える組だけとなったタイミングで、ヤマトがひなちゃんに話を切り出した。
「なぁひな。それ使い魔だよな、猫を使い魔にしたのか?」
「つかいま?」
ひなちゃんは予想通り何もわかって無かったようで首を傾げ頭にハテナマークを浮かべている。これはやっぱりこのヤマネコから直接話を聞き出した方がいいな。
と言う事でひなちゃんの胸に抱かれたヤマネコに視線を合わせて話しかけてみる。
「なぁお前、俺らの言葉が分かるだろ? 単刀直入に聞くけど、お前は使い魔で間違いないんだよな?」
「れお君までどうしちゃったの? だからつかいまってな「……あなた方は魔導師について知っているのですね。分かりました」…………ほぇ?」
ヤマネコから発せられた若々しい声に、胸に抱いていたひなちゃんは目が点になる。
そしてしばらくの間呆然としていたひなちゃんは、ようやく今声を発したのがヤマネコであると理解できたのかスゥ……と大きく息を吸う。
「しゃべったあぁぁあああぁあああああ!!!???」
「んにゃぁああああああ!?」
「ちょ、ひなちゃん。猫の聴力は人間の四倍くらいあるから耳元で叫んだらダメでしょ」
「あ、ごめんなさい!」
猫が急に喋って驚いてしまったのは分かるが、猫の耳元で叫んだのは良くないため軽く注意しておく。……まぁ猫が話すなんて、地球では天地がひっくり返ってもあり得ない事象だから驚くのも十分分かるんだけどね。
まぁ、何はともかくとして…………
「なぁヤマネコ……ってこれじゃ失礼か。前のマスターからはなんで呼ばれてた?」
「リニスです。使い魔リニス」
「それじゃあリニス。ひなちゃんと契約したみたいだけど、契約までに至った経緯を教えてくれない? お前はなんでひなちゃんの前で倒れてた?」
「…………そうですね……まず、私は他の方の使い魔をしていました」
リニスはとある大魔導士の娘を一流の魔導師として育てる為に作り出されたのだと言う。その後その子を優しくも大切に育てて、やがて彼女が大人と相手をしても倒せる程の実力に成長した後に、こっそり作っていたデバイスを送りその役目を終えたのだと言う。
「へぇ……れお君みたいにデバイスを作れるんだねぇ〜」
「えぇ、プレシ……前のマスターから知識なんかも共有していましたので」
「まぁ俺の方が上だろうけどな!!」
「いや、張り合うなよ……」
張り合ってないです〜。丁度今日、ホープやグラディウスと並ぶ……なんならそれ以上の性能のデバイスを完成させました〜。
……話を戻すが、役目を終えた使い魔は消える運命にある。だがリニスは自らが消える様を主人と主人の娘……教え子に見せて悲しませたくなくて、最後の力を振り絞って彼女らの前から姿を消したらしい。
「猫は自分の死を悟ると飼い主の前から姿を消すってやつか……」
「猫は死ぬ直前の気分の悪さを感じると、回復に専念しようと外敵から身を守れる安全な場所を探して隠れるんだよ。そしてそこで死ぬ。……つまり、今回のリニスの場合は猫が飼い主の前から姿を消す現象とは関係が──」
「はいはい、わざわざ解説しなくていいよ」
せっかく教えてやったと言うのになんだその態度は? 将来恥をかかないように解説したというのにそんな態度を取るならもう教えてあげませんからね! そのまま成長して違う知識を曝け出して恥をかいても知らないんだから!!
俺の解説が難しすぎたのか首を傾げるひなちゃんの胸の中で何とも言えないような目で俺を見ていたリニスだが、改めて話を続ける。
「そして万が一教え子達に見つからないように遠くに遠くに……別の世界までやって来て、そのまま消えるのを待つだけだった私でしたが……」
「それを偶然見つけたひなが保護して上書き契約をしたって事だな?」
「……はい」
そうだったのか。
おそらくひなちゃんが治療の為に使った転生特典により魔力が供給されて、そのときの元気になったらペットとして飼いたい……つまりは一緒に生きたいという願いを新たな契約内容とした事で、リニスは消える運命から抜け出す事が出来たのだろう。
だがリニスを死から救済したひなちゃんは「んー? 難しいことはよく分かんない」と言いながらこてんと首を横に傾けた。
「ごめんなさい。なんて言ったらいいでしょうか……」
「つまり、リニスはひなの使い魔……つまりはペットよりも親密な家族ってことだ。だからこれからも大切に面倒を見てやるんだぞ」
「うん分かった!」
ヤマトの言葉にひなちゃんは満面の笑みで頷く。
流石はオリ主というべきか、こいつ本当にここぞと言うときに良いこと言うよなぁ。良いことを言おうとすると、必ずと言って良いほどに滑っちまう俺にその会話スキルをくれよ。
まぁ、ヤマトの会話スキルについては後で強奪しに行くとして、ひなちゃんがこのままリニスを使い魔にするというのならば一つ気になることがある。
「ひなちゃん、リニスと契約してるけど魔力は大丈夫なの?」
使い魔は主人の魔力を使い存在している為、使い魔の存在を維持するだけの魔力が必要。
ましてやリニスは見た感じかなり高位の……と言うか今の技術で作り出せる最高位の使い魔だ。生半可な魔力では存在を維持させるのすら難しいだろう。
「魔力は大丈夫だよ。れお君と練習をいっぱい頑張ってるから、ひなも成長してるのだ!!」
胸を張ってそう言うひなちゃんは本当に余裕そうだ。
確かにひなちゃんも転生者という事で魔力SSSを転生特典として付けられた俺より低いとしても、オリ主のヤマトと同等レベルの魔力量をほこる。そんな彼女ならば最高位の使い魔一体と契約した所で何ら問題はないんだろうな。
ひなちゃんは胸に抱いていたリニスの顔を覗き込んでニコリと微笑む。
「えへへ、リニス。これからもよろしくね!」
「えぇっといいんですか……わざとではないといえ私は猫を演じてあなたを騙していたんですよ……?」
「ひな気にしてないから問題ないも〜ん! 猫ちゃんとお話しできるなんて素敵だからいいの!!」
「そうですか。ならばこの使い魔リニス、教え子に多少の心残りはありますが、これからは新たな命をくれたひなさんの使い魔として、生涯あなたを支えて行くとお約束します。こちらこそよろしくお願いしますね、ひなさん」
「うん!!」
その後、リニスは改めて桃崎家に向かい入れられ、ひなちゃんの使い魔……姉のような存在として、人型に変身することで桃崎ベーカリーの従業員兼看板猫として桃崎家を支えて行く存在になったのだった。
ひなちゃんはリニスを使い魔にした!!
リニスの桃崎家の面々の呼び方
ひな──ひな
ひなママ──お母さん
ひなパパ──お父さん
〜おまけ〜
数日後……
「お帰りなさいひな、今日はオムハヤシを作りましたよ」
「わ〜い! リニスのオムハヤシ大好き〜!!」
「リニスもすっかり我が家に馴染んだわね。それにしても、料理は私がするから良いって言ったのに……」
「夕方に急に注文が入って忙しそうだったのでこれくらいはさせて下さい」
「……あなた、とても良い子が我が家に来てくれたと思わない?」
「そうだなぁ。ひなもお姉ちゃんが出来て嬉しそうだし、リニスもすっかり我が家に馴染んでくれたしなぁ」
「あ、お父さん、昨日洗濯したとき靴下がまた裏返ってましたよ。癖になってしまっているので治してくださいと言ったでしょう?」
「……ごめんなさい」