見た目だけは踏み台だけど、普通に生きさせていただきます! 作:蒼天 極
早い事でこの世界に転生してから一週間が経過した。
小柄な幼児の身体での生活はそこそこ不便ではあるが、いかんせん自由な時間があると言う事で色々と挑戦する事が楽しく、今ではすっかり自炊に凝ってしまっていた。
また、広い家には十分すぎるほどのデバイスを作成するための機材と材料があったため、試しに一つストレージデバイスを作ってみた。
Nロッドと名付けたそれは初めて作っただけあって普通の性能。搭載されてる魔法もスフィアとシールド、あとはバインドくらいのもの。はっきり言って普通に売られてる量産型ストレージデバイスよりも出来は悪い。だが知識はあれど経験が足りない身で作ったにしてはこんなものだろう。作るのに失敗して材料を無駄にしなかっただけ良しとしておこう。
『当分はNロッドを用いて、魔法戦に対する基礎固めを行います。私は厳しいのでお覚悟を』
「よろしく頼むよアスカ」
そしてNロッドを作成したことで翌日からアスカによる魔法の講義が始まった。
と言うのもまだまだ課題が残る性能とはいえデバイスを入手した為、デバイスを用いた戦い方を習得した方がいいと言うアスカの提案に乗ったのだ。
それにしても……
「やっぱり変身ってロマンがあるよなぁ。それにこのバリアジャケットもなかなかにイカしてるし……」
『男ってそう言うの本当に好きですよねぇ。魔法少女の世界で男の変身って誰得ですか?』
「細え事はいいんだよ。それに見た目は女の子っぽいし別に問題はないだろ」
黒の差し色が入った白いTシャツと足首まである黒いズボン。そして銀を基調とした白衣のようなロングコートといったバリアジャケットに身を包み、待機状態のアスカはポニーテールに使っているゴム紐にくくりつけている。
一度バリアジャケットを着込んだ状態で鏡を見たがなかなかにイケてるのではないだろうか。
とまぁバリアジャケットの話はここまでにして、基礎は最重要なんだから今は鍛錬に集中しないといけないな。
『それじゃあとっとと初めてしまいますか……。複数のスフィアを用意したんで、複雑に動くそれらを撃ち落としてください』
「分かった、やってみる!」
早速スフィアを作り出してアスカの操るスフィアに当てる。
最初こそはスフィアを作り出して操作することに集中していた上に、非日常といった感じがして楽しかったが、だんだんと慣れてくると同じ事の繰り返しで飽きてしまう。というかつまらん。
しかも宣言通りアスカはかなりのスパルタで、二つ同時にスフィアを操作しろだの、逆立ちしながらスフィアを当てろだの、裸踊りをしながらスフィアを三つ同時操作で別々のスフィアに同時に当てろだのかなりの無茶振りを要求してくるのもタチが悪い。
「き、きっつ……と言うか最後の裸踊りは確実にいらねぇだろ!!」
『何を言ってるんですか。私が愉快な気持ちになるから必須ですよ!!』
「テ、テメェ……この性悪AIが…………」
『ほ〜ら、なに勝手に休んでいるのですか? 休憩はまだまだ先です。ほらマスターならイケるイケる。早く立ち上がりなさい』
アスカの抑揚のない声が今の俺には悪魔のように聞こえてしまったのだった。
これを少なくともあと5年はやらないと考えると……うん、地獄だわ。原作開始前に心が折れないようにしないと……。
◇
数時間後ようやく本日の鍛錬が終わった為、棒のような足を引き摺りながら帰路についていた。
「ぐっ……なかなかハードだから身にはつきそうだけど……ククこの地獄をこれからも続けなければならないって、ブラック企業と同等レベルに地獄じゃねえか……」
『大丈夫大丈夫。マスターには成長補正があるので、あの程度ならあと一週間もすれば慣れるはずですよ』
「それ本当か〜? まぁ、千里の道も一歩からと言うし、サボって何かあったから後悔したくないし頑張るけどさ……」
今晩はもうご飯の準備するのが面倒くさいからカップ麺で済ませようか……いや、カップ麺やお惣菜は前世で嫌と言うほど食べたし、多少無茶をしてでも夕飯は作ろう。うん。
「〜! 〜!」
「……ん?」
今晩は簡単に魚でも焼こうかと考えながら、公園の近くへ差し掛かると公園の方から騒ぎ声が聞こえる。
子供が遊んでるような声ではなく、全力で嫌がっているような声……気になって公園の影からコッソリと騒ぎの中心を覗いてみる。
「いい加減にしてよ!! なのははりゅうやくんのお嫁さんじゃないって言ってるでしょ!?」
「アハハハなのははツンデレさんだなぁ」
「うー! なんでそうなるの!?」
するとそこからは同い年っぽい金髪オッドアイの少年が栗色の髪をツインテールにした女の子に絡んでいる光景が目に入る。
あー、これはこれは……
「……なぁアスカよ。あれってもしやモノホンの踏み台って奴じゃないですかね?」
『そうですね、今どき珍しい天然ものの踏み台転生者ですよ』
「…………」
おいコラ女神……天然の踏み台いるなら銀髪オッドアイにならなくて良かったじゃんか。ニコポナデポいらないじゃんか。
と言うか絶対コイツが女神を怒らせたっていう転生者だろ。つまりアイツのせいで俺はストレス発散にこんな姿で転生させられたってことか……。
『まぁストレス発散もあると思いますが、創造主は金髪の踏み台がいるなら銀髪の踏み台も欲しいよねって言ってましたからね。どっちにしてもマスターがそうなる運命は変わらなかったかと』
「……あの女神のことはこれから邪神って呼ばせてもらお」
そんな下らない理由で望んでもない人を踏み台の見た目で転生させるだなんてそんな存在に女神なんて称号は贅沢、邪神で十分だ。
見た目だけだとしてもオリ主として転生した人にどれだけ警戒されるか分かったもんじゃない。
「もうお家に帰るの!」
「何言ってんだよなのは、今公園に来たばっかりだろ。サッカーでもやろうぜ。あ、なんならデートでもするか?」
「は、放してよりゅうやくん!!」
おっと栗毛の女の子本気で嫌がってるな……っというかなのは? もしかしてあの子主人公のなのはちゃんなのかな? そりゃあ踏み台に狙われますわ。
っとなのはちゃんの目の端に涙が……このままじゃ大泣きしちゃいそうだな。
「助けに行ってあの金髪君に勝てると思う?」
『やめた方がいいかと。今のマスターではあの真の踏み台転生者には勝てませんよ』
「え、あいつそんなに強いの? 同じ踏み台だしいい勝負できるんじゃ『無限の剣製』あ、無理っすね」
無限の剣製持ち相手に俺がしゃしゃり出たところで剣に貫かれてあの邪神のいるところに帰還するのは目に見えている。というか見た目金髪なら普通
よし、ここは見なかったことにしてさっさと帰ろう。ごめんねなのはちゃん。力のない僕を許しておく「おい何やってんだよ。なのはが嫌がってんだろうが」……おや?
罪悪感を抱えながら逃げ帰ろうとすると、金髪とも違う男の子の声が聞こえ再び公園を覗いてみると、そこには黒髪黒目の中性的なイケメン君がなのはちゃんを守っていた。
「あらカッコいい。将来は爽やか系のイケメンに変貌すんじゃないか? ……もしかしてアイツがオリ主?」
『えぇ、彼こそオリ主として転生した転生者です。いや〜、イケメンですね〜。これマスターや金髪のように後付けのものではない自前のものなんですよ? 潰れちまえばいいのに……』
「アスカお前なぁ…………分かるわ!」
『でしょう?』
イケメンの癖に王子様ムーブとかマジないわ。こう言うのはイケメンだけど性格が笑える範囲でのクズとかそう言うのでいいだろ。なに完璧装ってんだ?
ほら見ろよなのはちゃんピンチのところを助けられて頬をピンクに染めてらぁ。
くだらない嫉妬でオリ主君に敵対心を燃やしていると、金髪君が青筋を浮かべながら不良のように黒髪君に絡む。
「なんだモブゥ……俺となのはの時間を邪魔してタダで済むと思ってんのかあぁ!?」
「もう一度言うがなのはが嫌がってるだろう? 泣きそうじゃんか。女の子を泣かしては行けませんって親に習わなかったのか?」
「ヤ、ヤマトくん……」
どうやらオリ主君となのはちゃんは既に友人だったようで、オリ主君の名前を弱弱しく呟きながら彼の背後に隠れてしまったなのはちゃん。
どうやらそれが面白くなかったようで、金髪は更に青筋を浮かべて醜く顔を歪めながら怒鳴り始める。
「あ、殺すわお前。マジで殺す! モブがこのオリ主に向かってそんな態度とったこと後悔させてから惨たらしく殺すわ!!」
そう言って魔法陣を展開しようとする金髪と、それに対していつでも動けるように構えるオリ主君。
その際になのはちゃんが巻き込まれないように背後に配慮してるのは流石と言えるだろう。
それにしても…………。
「アスカ、あの金髪に不意打ちぶちかましたら一撃で倒せるかな?」
金髪がこんなにオリ主君に釘付けになってるなら、背後から不意打ちを仕掛ける事も出来るだろう。
流石に卑怯と言われるかも知れないが、このままじゃコイツ能力使いそうだし、一歩間違えてなのはちゃんに当たってしまったら最悪原作が始まらなくなってしまう。
これは必要な危機回避案件だ。
『金髪も踏み台という事で耐久量ありますからね。しかし後頭部を強打すれば気絶させるくらいは容易いんじゃ無いですかね?』
「それはあかん」
後頭部は死ぬかもしれないから除外だ。万が一殺してしまったら面倒くさい事になってしまうからなぁ。しかし後頭部とかコメカミ以外で大人しくさせるには……
……よし、男として本当ならやっちゃいけないことだが、まぁアイツにならいいだろう。
出来るだけ気配と存在感を消して、それでも少々急ぎめに金髪の背後へ距離を詰める。あ、オリ主君が俺に気がついた。でも金髪に悟られたら酷い目に合っちゃうから反応しないで無視しててね?
「……! 撃てるものなら撃ってみな。お前ごときの攻撃なんて避けるまでもないからな!」
「雑魚の分際でイキがりやがって! ならせいぜいあの世で後悔するんだなぁ!!」
俺の意図が伝わったようでオリ主君が金髪を煽ってくれた事で、金髪は更にオリ主君に釘付けになる。
咄嗟のオリ主君の機転のおかげで金髪が無限の剣製を使用して複数の剣を射出しようとしたタイミングで彼の背後に回る事が出来た。
「くらえ! アンリミテッドブレード「ゴートゥーヘェルッ!!!」おごぉおおお!!?!???!?」
俺の右足が金髪の股間。ゴールデンボールのある場所へと突き刺さった。
俺は背後に立ってるから分からないけど、金髪は多分顔青くして脂汗ダラダラ流してるんだろうなぁ。
産まれたての子鹿の様にしばらくはガクガクと足を震えさせながらも踏ん張っていた金髪だったが、急所への不意打ちは流石に堪えた様で崩れ落ちてしまった。
「う……うぐぅ……」ピクピク
見ると泡吹いて気絶してる。
あらら、ちょっと力入れすぎたかな? まぁこれに懲りたらしつこすぎるナンパと些細な事で能力を使用するのは控えるんだな。
「変な奴に絡まれたねぇ君たち」
「あ、あぁ。……お前なかなかえげつない事するな…………」
「ほぇえ……」
なんとも言えない表情をするオリ主君とあまりにカオスな展開についていけなくなり目が点になってしまったロリなのはちゃん。
うんうん、なのはちゃんにはまだ早いから知らない方がいいよ。さーて、これ以上オッドアイの俺がいても不必要に怖がらせてしまうだけだろうし、踏み台その2はクールに去るZE☆
「それじゃ、今日は疲れてるんで。縁があったらまた会いましょ」
「あ、あぁ……助けてくれてありがとな?」
「う、うん。またね……?」
あんな事があったにも関わらずキチンとバイバイしてくれる翠屋の白い天使に心悶えつつも、振り返らずまっすぐ帰路に着く。
……ふぅ。
「いや〜、あれが なのはちゃんか〜。あの子は将来美人さんに育つね」
『おや、マスターはなのはちゃんにご執心ですか? もしかしてロリコンなんですか?」
「否定はしないけどYESロリータNOタッチを心情としてるんで、これ以上なんか言ったら叩き割るかんな」
後、初めて原作主人公を見たから感慨深くなっただけで、そこまでご執心ではないからね?
〜おまけ〜
「あの子なのは達を助けてくれたのかなぁ?」
「あぁ、言い寄らずに龍帝院だけを攻撃したって事はそうなんだろうなぁ」
「両眼の色が違うけどやさしい子なのかも……お友達になりたいなぁ……」
(もしアイツが転生者なら話は通じるかもな……。いや、でももしかしたら今は大人しいフリをしてるだけで、龍帝院みたいにゲスな事を考えてる輩かも知れないし……アイツのことは少し様子見をした方がいいかも知れないな)
「……ヤマトくん?」
「ん、あぁ。ごめんごめん。ぼーっとしてた。でもそうだな。機会があれば俺らから話しかけてもいいかも知れないな」
「そうだね。それじゃあまた今度見つけたらお話ししてみるの……あ! でもあの子もヤマト君のこと好きになっちゃったらどうしよう……?」
「なんでアイツがオレのこと好きになったら困るんだ?」
「……だってあの子おんなのこだし…………」
「え、アイツ髪長いけど男の子っぽいぞ?」
「ふぇ?」