見た目だけは踏み台だけど、普通に生きさせていただきます! 作:蒼天 極
「ん〜……あ、あれ?」
うっすらと目を開けると知ってはいるが、たまにしか見ない天井。
えぇ〜っとこの天井は確か…………。
「……一体何でひなちゃんの部屋で寝てるんだ?
昨日は自分家で寝たはずなのに……」
『覚えてないんですか?』
「なにを?」
『金髪のアホがフェイトちゃんにちょっかい出してるからって羽鳥さんに電話で叩き起こされて……』
「オーケー、大体思い出した」
アスカの言葉にようやく昨日のことを思い出す。
そうそう、確か金髪をゴミ箱にぶち込んで去勢した後、あまりに疲れすぎて変な声が聞こえるようになって、それを心配した羽鳥さんにお持ち帰りされたんだった。
『ふわぁ〜……あ、やっと起きた〜。
ぐっすり寝てるもんだから、あたしまで寝ちゃってたよ〜』
「ん? アスカ、なんか言った?」
『……マスター、まだ幻聴が聞こえて……もう一回寝てください』
『え〜、寝られちゃうと退屈だから、早く起きて欲しいんだけどな〜……』
「……これはもう一回寝た方がいいかもしれん。
ただ、もうとっくに目が冴えてるんだよな〜……」
「れお君まだ寝ちゃってるかな〜?」
こうもハッキリ幻聴が聞こえるなら、もう一度休んだ方が良いかもと考えていると、部屋のドアが少し開き、ひょっこりとひなちゃんの顔が現れる。
そして俺を見るなりパァっと笑顔になると、彼女が部屋へと入って来た。
う〜ん、ひなちゃんは一挙手一投足の全てがかわいいな〜。
「あ、おはよ〜。ぐっすり眠れた?」
「うん、お陰様で。……ベッド借りちゃってごめんね」
「うぅん、久しぶりにママと一緒に寝れたから大丈夫!」
ひなちゃん曰く、俺の幻聴についてあまりに心配した羽鳥さんは、俺をひなちゃんのベッドに寝させた後、部屋への立ち入りを禁じたのだとか。
つまりひなちゃんは俺が起きるまでの丸一日間、自室を使えなかったと言うことで…………。
「すみません、本っ当にごめんなさい。腹斬って詫びます」
「ダメ! お腹を切ったら痛いでしょ?
あ、ずっと寝てたから喉乾いてるよね。飲み物持ってくるけど、牛乳とオレンジジュース、どっちがいい?」
「その二択だったら牛乳かな」
『……あたしも久しぶりに牛乳飲みたいな〜』
「二人とも牛乳ね! ちょっと待ってて!
…………ほぇ?」
満面の笑みで部屋を出て行こうとするひなちゃんだったが、直後、彼女の目が点になる。
そして俺の背後をジッと凝視し始めた。
……ん?
そういえばまた幻聴らしき声が聞こえたんだけど、ひなちゃん今それに反応してなかったか?
「……ひなちゃん、今のあたしも久しぶりに牛乳飲みたいな〜って声……聞こえた?」
「……うん」
『え!? も、もしかして二人ともあたしの事見えてたりする!?』
「いや、俺は声だけで姿とかは見えてないけど……」
「ひなはれお君の後ろに白いモヤが見えてるよ〜」
その言葉に俺も背後を向くが、白いモヤなんて全然見えない。
だがひなちゃんは「むむむ〜」と唸りながらジッと部屋の一点を見つめると、やがて驚いたような表情を浮かべた。
「あ、よく見たら小ちゃいフェイちゃんだ!!」
「小ちゃいフェイトちゃん? 妖精みたいな?」
「うぅん、幼い頃のフェイちゃん見たいな感じ。……大体一年生くらいかなぁ?」
『ほんとに見えてるんだ……!!
うわぁ〜、この身体になってからあたしの事見える子なんていなかったからうれしい〜!!』
……確かに声質はフェイトちゃんに似てるかも。大人しいあの子とは違って、なんだか快活な声だ。
……と言うか声はハッキリ聞こえるんだけど、やっぱり姿は見えないんだよなぁ。
ひなちゃんは見えてるのに…………
…………。
「ひなちゃん、ちょっとこれつけてくれない?」
「? 分かった」
『なにそれカッコいい!』
懐からバイザー型デバイス、アナライザーを取り出すと、ひなちゃんにそれを装着。
……ひなちゃんの網膜から脳への神経系をスキャン。
俺の神経系のデータと比べて、ひなちゃんが目からキャッチしてる視覚情報との相違点を割り出して…………
最後にこの相違点を元に、ひなちゃんが見ているチビフェイトちゃんの存在を認識するようにアナライザーを設定し直せば…………!!
「よし、完成!」
「? れお君なにしてたの?」
「俺でもチビフェイトちゃんを見れるようにアナライザーを設定したの。
さて、これを装着すれば……」
アナライザーを通してひなちゃんが見ていた箇所を見てみると、そこにいたのはひなちゃんの言う通り、足のない頭に天冠をつけた、いかにも幽霊然な小さなフェイトちゃんだった。
「うぉ!? 本当にいた!!」
『あなたも見えるようになったの!?
やった! 話し相手が二人も出来た〜!!』
嬉しそうにフワリフワリと宙を飛び回る小さいフェイトちゃん。
「ねぇねぇ、小ちゃいフェイちゃんはお名前なんて言うの?」
『アリシア! アリシア・テスタロッサ!!』
「テスタロッサ……て事はやっぱりフェイトちゃんの姉か妹?」
『うん、あたしはフェイトのお姉ちゃんなのだ!!』
そう言って胸を張るチビフェイト改めアリシアちゃん。
姉にしては随分小さいなオイと言いたいところだが、見た感じこの子は幽霊。
……恐らくフェイトちゃんがこの子と同じくらいかもっと小さいときに亡くなってしまったのだろう。
……ってそれはともかく!
「それならどうしてアリシアちゃんは俺の近くになんかいたんだよ。
まだ成仏してないって事は、フェイトちゃんを見守ってたんだろ?」
フェイトちゃんが管理世界辺りから来た事を考えると、アリシアちゃんも地球ではない所で死んだ可能性が高い。
だと言うのに海鳴市に来たと言う事は、フェイトちゃんにくっついて来たとしか思えない。
ならばなぜ俺にくっついて幻聴を聞かせるなんて悪質なイタズラをしていたのか……。
事と次第によっちゃ、近所の神社でアルバイトしてる
だが当のアリシアちゃんは俺の質問にピタリと動きを停止させると、やがてプルプルと震え出す。
『……になっちゃったの』
「え?」
『迷子になっちゃったの!!
最初はジュエルシードってのを集めるフェイトに取り憑いてあの子を見守ってたんだけど、金髪オッドアイの子がフェイトに剣を撃った拍子にあの子から剥がれちゃって…………
だからすぐに取り憑き直そうと思ったけど、憑き直す前に金髪オッドアイの子からフェイト逃げちゃったからこの街を彷徨うしかなかったの!!』
泣きながらそう叫ぶアリシアちゃん。
また金髪かよ……アイツどんだけ人様に迷惑かければ気が済むんだ。
こりゃあTチェーンソーじゃなくて、Mブラスター(100キロ)で玉を叩き潰した方が良かったかもしれん。
『それで一ヶ月くらいこの街でフェイトを探してたけど全然見つかんなくて……。
もう二度と会えないのかなって思った矢先、ようやく昨日見つけたんだけど…………あたしが憑くより前にまた逃げられちゃって……。
だから
「シアちゃんかわいそう……」
「えっと……うん。そう言う理由なら仕方がない!
フェイトちゃんと再会するまではいくらでも俺に取り憑いててくれていいから!!
だから……その……イタズラしに来た悪霊だと思い込んですいませんっした!!」
『え、悪霊だと思われてたの!?
酷い〜、あたし幽霊の中じゃ良い子だもん〜!!』
てっきり俺がオッドアイだからとか言う理由でイタズラしに来てたのかと思ったら、想像よりかなり可哀想な理由だった。
と言うか一ヶ月前って俺らがフェイトちゃんと知り合う前だし、そんな長い期間街を彷徨ってたのか普通に可哀想すぎる。
誰だよ、こんな不憫な子を祓おうだなんて考えたやつ。出てこいや!!
……はい、俺です。本当にごめんなさい。
「れお君、朝ごはん食べたらフェイちゃんの所に連れてってあげよ?」
「うん、流石にこの子が不憫だ。
ヤマトに念話して場所聞いとく『あ、待って!!』……アリシアちゃん?」
『フェイトの所に連れてってくれるのはすごく嬉しいんだけど、あたしの事が見えるなら一個お願いを聞いて!!』
「「お願い?」」
『あたしのママを止めて欲しいの!!』
◇
それからアリシアちゃんに聞かされたのは、一人の毒親の過去について。
なんでもアリシアちゃんは過去に色々あって死んでしまったようだが、娘の死を受け入れられなかった母親のプレシアは、クローン技術と記憶転写を用いてフェイトちゃんを創造したり、アリシアちゃんを蘇生させるためにジュエルシードを集めたりしてるのだとか。
『生まれはどうあれ、フェイトはあたしの妹。……でもママはそんなフェイトに酷いことばかりする』
「虐待……」
「姉妹格差……」
『昔は優しいママだったのに……あたしもう見てられないの!
あたしは生き返れなくてもいいから、フェイトをちゃんと愛して欲しくって……!!』
「「…………」」
『だから二人にはあたしの死体を……あれ?
どうして二人はそんな怖い顔してるの……?』
「……ダメだよ。虐待は絶対ダメ。
愛してるって言って叩かれるのってすっごく痛いんだよ……辛いんだよ……」
「なんで姉と妹で扱いに差をつけるのかな……?
そんな事するととんでもねぇ怪物が生まれるってのに。バカか? バカなのか……?」
「え、ふ、二人とも……?」
アリシアちゃんの話を聞いて分かった。
プレシア・テスタロッサ……俺の一番嫌いな人種だ。
どんな理由があっても、たとえ悲しい理由があったとしても兄弟、姉妹には格差を作るべきじゃない。
アリシアちゃんは奇跡的に良い子だけど、ほとんどの場合は幼いうちから格差を作ると、贔屓にされた方のガキは兄弟を虐めると言う事が当たり前になって、誰を傷つけようが一切罪悪感の湧かないドブカスに変貌しちまうんだ。
「れお君、プレシアっておばちゃんやっつけないと……。
このままじゃフェイちゃんかわいそう」
「だね。格差を作る家庭に子供を持つ資格はない。
取り敢えず時の庭園にカチコミかけてババア半殺しだ」
『は、半殺し!?』
「ねぇ、れお君。管理局に目をつけられるからあんまり本気出しちゃダメって言われてるけど、本気出しちゃって良いかなぁ?」
「いいよいいよ。なんなら俺も作ったは良いけど威力高すぎて封印してた禁じ手使うから」
『本気!? 禁じ手!?』
「よし、ちょっと待っててアリシアちゃん。
その時の庭園って言うの粉微塵にしてくるから」
「ちゃんとおばちゃんギッタンギッタンにして、フェイちゃんにごめんなさいさせるから安心してね」
『うわぁあああん! ママに酷い事するなぁああああ!!』
泣きべそかいたアリシアちゃんに止められた俺とひなちゃんであった。
なんでもババアは少し痛い目見た方がいいんじゃとは思ってるらしいが、母親が傷つくのは嫌だとか。
『二人だってお母さん傷つけられたら嫌でしょ!?』
「ヤダ!」
「俺、親いないから」
『え、可哀想……』
本気で憐れまれた件について。
こちとら親いない方が安心して生活できてるんで問題ないです〜!
……でもまぁ確かに、何かとお世話になってるミゼット婆ちゃんとか、羽鳥さんとかを攻撃されたらいい気はしないしなぁ。
今でこそただのクソババアみたいだけど、元は良いお母さんだったならこうして止めるのも無理はないのか……?
「でもボコらないならどうするの? あの手の輩は口で何言っても無駄だけど」
『……あたしの死体を処分して欲しいの』
「「死体?」」
なんでもアリシアちゃんの亡骸は数十年経過してなお、死亡直後の綺麗な状態で保管されているらしい。
これがあるからプレシアは自分の蘇生に執着しているとアリシアちゃんは考えており、亡骸を処理すれば少しは頭を冷やしてくれることを期待しているようだ。
「でもそれじゃあシアちゃん生き返れなくなっちゃうよ?
いいの?」
『……言ったでしょ。あたしは生き返らなくてもいいの!
ママがフェイトに酷い事しなくなってくれるなら言う事はないよ』
そう言って寂しそうに笑うアリシアちゃん。
…………。
「よし、断る!!」
『ほんと!?
それじゃあ時の庭園の座標教えるから、こっそりあたしの死体を回収して……今なんて?』
「断るって言った。いくら死体とはいえ処分するのはちょっと……。
警察に見つかったら面倒くさいことになるし」
それにこの手の親のタチの悪さは知っている。
たとえ死体を処理してアリシアちゃんの復活という願いをぶっ壊したとしても、荒れに荒れてフェイトちゃんに八つ当たりするか、抜け殻みたいになってなんに対しても反応しなくなってしまう未来しか見えない。
『それじゃあやっぱりママに痛いことするの!?
お願いだからそれは許してあげて〜! キスしてあげるから〜!!』
「いくら幽霊だとしても、もっと自分を大切にしなさい。
……大丈夫、別の手段を考えてるから」
『別の手段?』
「うん。……やっぱりアリシアちゃんには生き返ってもらおう」
『え……』
いくら狂的なまでにアリシアちゃん復活に執心し人の話を聞かないババアと言えど、他でもないアリシアちゃん本人の言葉は聞くだろう。
ならば敢えてアリシアちゃんには生き返ってもらい、復活早々プレシアにこう言ってもらうのだ。
妹を大切にしないママなんて大嫌い!!
うん、こっちの方が俺らが下手にボコボコにするよりも、アリシアちゃんの死体を処分するよりも、彼女に与えるダメージはデカそうだ。
それになにより……
「アリシアちゃんだって出来るなら生き返りたいんでしょ。
無理して死体を処理してって頼んだのバレバレだからな?」
『ぁ……』
「そっか。そうだね!
ひな達がお説教するよりも、シアちゃんがおばちゃんにお説教した方がいいと思う!
それにシアちゃんが生き返ったら、一緒に遊べるし!!」
『……で、でも……でも!!
あたしの為にジュエルシードって言う危ないもの使って周りに迷惑かけられないよ!!』
「あぁ、大丈夫。アリシアちゃんの蘇生手段は別で考えてるから」
『え?』
ジュエルシードは願いを歪に叶える性質があるっぽいが、あんな特級呪物使ってたまるかってんだ。
なにもそんなロストロギアに頼らなくっても、こっちには……というかひなちゃんにはとんでもないとっておきがある。
「ひなちゃん、確かフェニックスウィングって病気と寿命以外なら死者蘇生オッケーだったよね?」
「うん。あ、でも死んですぐじゃないとダメなんだよ」
「大丈夫、どんなものにも必ず理由が存在する。それは邪神から与えられたチートだろうが例外じゃない。
なぜ死亡直後なら良くて、ある程度時間が経つとダメなのかを調べれば解決の糸口は必ず見つかるよ」
「? よく分かんないけど、なんとかなりそうなのかな?」
「うん。流石にこればかりは専門外だけど、バッテリーデバイスの作成の為に人体とか生命に関する勉強はかなりしてるしやってみる価値はあるだろ。
ひなちゃん、俺の我儘で申し訳ないけど手伝って」
「いいよ! シアちゃんが生き返れるならひなも頑張っちゃう!!」
よっしゃ、ひなちゃんの協力は得られた!
こちとら技術チートを売りにはしているが、ヤマトの言霊の様に口に出したことを実現させたり、ひなちゃんのフェニックスウィングみたいに死者する蘇生できる回復魔法なんてぶっ飛んだことはできない。
だからこそひなちゃんのチートをメインに、この子のチートでどうにもならない部分を俺が知識や技術でカバーするのだ。
「シアちゃん、少しだけ待っててひな達が絶対に元の身体に戻してあげるから!」
「ただし! 生き返るからにはちゃ〜んとプレシアに説教するんだぞ?」
『……いいのかな?
あたし、生き返れるって期待しちゃっていいのかな……?』
「もちろん! ひな達に任せなさい!!」
「俺の目論見が外れた場合の保険もいくつか考えてる。
大船に乗ったつもりでいて良いぜ?」
俺じゃ手に負えない問題が出たところで、最悪ヤマトを呼び出して言霊使わせれば良い話だからな。
有能な味方は利用してナンボなのだよ!!
『ぐすっ……いや〜、フェイトと合流するまでの無断ヒッチハイクのつもりだったのに、心強い味方が出来ちゃったな〜』
「ひなも新しいお友達が出来て嬉しいよ。
よ〜し、それじゃあシアちゃん復活計画、始動だよ〜!!」
「『お〜!!』」
『……あ、羽鳥さんこっちです。
はい、マスターだけでなくひなちゃんまで幻聴が聞こえてるらしく……というかなんだか幻覚も見え始めており……』
「あぁ……! ひなもレオ君も昨日色々あって疲れが抜けてないのね!!
二人とももうちょっと寝てなさい。
寝て治らなかったらお医者様に見てもらいましょ!!」
その後、幽霊の見えない羽鳥さんに再び幻覚を心配され、無理やり寝させられた俺とひなちゃんであった。