The Blue Destiny: 蒼い裁きの後   作:テキサス侍

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第一話:蒼い宇宙の向こう側

遂にビームライフルからの一撃が直撃し、ブルーディスティニー二号機の右脚を吹き飛ばす。瞬く間もなく、ライフルを放った白と蒼の機体が有線ミサイルとマシンキャノンの嵐で追撃を行い、肩が血のような紅に染められた蒼いMSが次々と被弾していく。

 

右肩、左ブースター、胴体のマシンキャノンが次々と大破し、機体の動きが鈍り、最後のミサイルが頭部の至近距離で炸裂し、二号機は放電しながらよろめく。もはや機体が爆発しないのが不思議なほどのダメージを追った二号機の頭部は三号機の方向に向き、怨恨がうずめく赤い目で睨んでくる。満身創痍なEXAM機はそれでも対峙する姉妹機とそのEXAMシステム内にとらわれているニュータイプの少女へ裁きを下そうとあがく。

 

しかし、執念と憎悪だけでは機体を動かせなかった。三号機のコックピット内でユウ・カジマ大尉は今にも爆散しそうな二号機を眺めつつ、一瞬同情のような感情を感じる。

 

その一瞬の同情が敵がまだ生きている状況では見せてはいけない隙を作り・・・

 

「このままでは死なん、お前も一緒に来てもらうぞ!」

ジオンの騎士の狂気に満ちた咆哮と共に二号機が機体とパイロットの限界を完全に無視して三号機へと突進していく。

 

「ちぃっ!」

 

ユウは避けようと、バーニアをフル噴射するが、静止状態からの回避は間に合わず、二号機にシールドごと機体の左腕をつかまれる。そのまま二号機は機体全体で三号機を抑え込み、限界を超えた機体各部から激しい火花が散り始まる。

 

「ユウ!脱出して!ユウ!」

 

モーリンの悲鳴のような呼びかけに応えようとユウは脱出レバーを引くが、緊急脱出ようの炸薬は点火せず、コックピットハッチも完全に二号機がかぶさっており、開けられない。

 

「・・・みんな、すまない。」

ユウが小さく呟くと、まぶしい閃光と衝撃と共に彼の意識は途切れた。

 

「ここは・・・?」

 

戸惑いつつ、ユウは目を覚まし自分の周辺を見渡す。あたりに見印も物体もなく、ユウは虹色の光に照らされている蒼い宇宙空間に浮いている。しかも服装はパイロットスーツではなく、普段の軍服である。あきらかにこの状況はおかしい。

 

「わたしは宇宙の向こう側ってよんでるけど、詳しくは分からないかな?」

 

後ろから無邪気な少女の声が聞こえ、ユウはその声の持ち主の方向へ顔を向ける。そこには短い水色の髪を持ち、背中に天使のような翼をもつ十代半ばの少女が浮いていた。現実で直接会ったことはないが、ブルーに乘っているとき何度か精神干渉を通して話した相手だ。それでも・・・

 

「マリオンなのか・・・?俺は・・・死んだのか?」

 

自分と三号機が二号機の誘爆に巻き込まれるところまでははっきりと覚えている。あの至近距離で二号機のジェネレーターが爆発したとしたら、多分・・・

 

「え?いや、大丈夫、ユウは生きてるよ。」

 

ユウの発言がよほど予想外だったようで、マリオンは瞠目しつつ答える。そして、不思議そうに首をかしげて数秒間考えてから、再びユウに話しかける。

 

「最後に挨拶しようと思って呼んだけど、迷惑だった?」

 

マリオンは、年相応の少女らしく心配そうにユウの顔を覗きこむ。

 

「いや、EXAMから解放された君に会えてうれしいよ。」

 

たしかに、最初に目を覚ました時は驚いたが、身体と感覚が状況に慣れてきた今では、この空間に不思議ななつかしさと心地よさを感じている。

 

マリオンは再びユウの顔色を窺いつつ、ゆっくりと説明を続けた。

 

「ここに呼べるかどうかわからなかったの。ここは、ニュータイプ同士じゃないと来れない場所だから・・・ただ、ユウならダイジョブかなって呼んでみたの・・・」

 

マリオンは軽い口調で説明するが、表情からしてそこまで単純な試みではないことは、ニュータイプのことに関して漠然とした知識しかないユウでもよく理解できた。そしてユウの頭にある疑問が浮かぶ。

 

「だが、俺はオールドタイプ・・・“素養”がないはずだぞ。でなかればブルーのパイロットにはなれなかったはずだ。」

 

そう、オーガスタでの研究者は一切の迷いもなくユウにそれを告げていた。ユウは別にそれを気にしていたわけでも無く、ただ漠然と事実として受け入れていた。それ故突然「あなたはニュータイプなの」と告げられても戸惑いしかうまれない。

 

「うーん、正確にはちょっと違うかな。」マリオンは少し考えると、小さく苦笑しつつ説明する。「確かにサイコミュ受信機はユウには反応しないし、普通のニュータイプの素質を図る検査じゃ反応しないと思う。」

 

「じゃあ、俺はどうやってここにこれたんだ?」

 

「クルスト博士達が思っているほどニュータイプって単純じゃないの。」

 

ユウはふとクルスト博士の膨大な量の推測、憶測、偏見などを延々とつづったファイルのことを思い出す。たしかに、クルストやオーガスタでのニュータイプ研究者の探し求めていたニュータイプというものは個人の定義に大きく左右されており、どちらもその特殊な脳波による機械とのインターフェイス、そしてそれと併用した戦闘能力に執着していた。

 

だが、もしニュータイプの本質はEXAMを通して育んでいったユウとマリオンの意思疎通、共感、そしてコミュニケーション能力であるのなら、完全ではないにしろある程度は納得が行く。

 

「つまり、俺はニュータイプの欠陥品みたいなものか?」

 

ユウは自虐的に冗談めいた口調で聴くが、マリオンは真剣な表情で返事をする。

 

「そうじゃないよ、ただ、ニュータイプの定義って曖昧で、能力にも個人差があるだけ。ユウは、他人へ思念を送ることができないけど、他人の声と心を聴くのは、並みのニュータイプより鋭いの。ほら、初めてブルーと対峙したとき、わたしの声が聞こえたでしょ?」

 

「ああ・・・」

 

あの夜の出来事はよく覚えている。目の前に立ちはだかる機体は不気味な殺気で周囲を圧倒していたが、ユウはそれでもその機体から悲しみを感じ少女の声が聞こえていた。

 

「周りの人に聴こえていた?」

 

「いや、俺も最初は空耳かと思うほど聞き取りにくかったけどな。」

 

フィリップとサマナは声のことを何も言わなかったので、ユウは彼らに話すこともなかった。その時はただ極限状態での幻聴と思っていた。

 

「ほかの能力の強いニュータイプでもEXAMと敵対している状況で、殺意だけじゃなくて、わたしの声も聞き取るのは難しいの。ユウにはそれだけの感受性と・・・他人の心を聴く力があるんだよ。クレアもそうだったの・・・」

 

ユウは目を閉じ、鼻から深く息を吐く・・・クレア少尉とは短い時間しか過ごせなかったが、それは彼女の性格と人間性を知るには十分な時間であった。自分は彼女の最後の悲願を叶えてあげられたのだろうか。

 

クレアへの黙祷を終えユウは再びマリオンと目を合わせる。

 

「結論から言うと、俺は、研究所の連中にとっては素養なしの欠陥品として映る、と。」

 

ユウは自嘲気味な笑いを浮かべ、自分に呟く。マリオンは彼女への返事と捉えたのか、頷きながら肯定する

「そう、それでもユウもれっきとしてニュータイプだよ。ある意味クールで寡黙なユウにはお似合いかもね。」

 

そう言いい、マリオンは年相応の少女らしい子供っぽい笑顔でからかってくる。

 

「そう・・・か。じゃあ、あの蒼い宇宙は・・・」

 

「わたしじゃなくて、ユウ自身の目で見えた光景だよ。」

 

マリオンは肯定しつつ頷き、ユウはその事実を噛みしめる。二人の間に心地よい静けさが訪れ、ユウは物思いにふける。連邦内でのニュータイプへの認識はジオンに大きく遅れているものの、軍と政府の上層部にはジオン・ダイクンやギレン・サビがスペースノイドの独立の象徴扱いを受けているのは知れ渡っている。

 

ニュータイプ部隊の通称で知られる第13独立部隊も大きな戦果を挙げているのにも関わらず、ジャブローの上層部に厄介者扱いされ冷遇されているのも自分たちの耳に届くほど連邦軍人に周知されている。自分がもしニュータイプだという疑いをかけられたらどうなるか・・・それ以上に部隊の仲間たちも巻き添えを喰らう可能性を考えるとどうしても気分が沈んでいく。

 

「これから俺は、どうすればいいんだ?」

 

漠然と頭に浮かぶ疑問をつい声にしてしまう。

 

「普通に生きて、もし、わたしのような声がまた聞こえたら助けてあげて。」

 

マリオンの答えは意外とあっさりしていた。

 

「それだけでいいのか?」

 

ユウは瞠目しつつ、マリオンに視線を再び向ける。

 

「それこそ、ユウじゃなきゃできないことだよ。」

 

マリオンは優しく微笑んで答える。たしかに、ユウだからこそ彼女の声を聴けて、EXAMという狂気の殺戮システムから解放できたのだ。これからニュータイプへの関心が深まり、戦争の道具として利用しようとする者が増えることは間違いないだろう。軍人という、力の保持と行使が許される唯一の立場にとどまるのも、そのような悪用からニュータイプを守るのに必要なのかもしれない。

 

ユウはしばらく黙って考え込んでから頷く。

 

「・・・ああ、分かったよ。」

 

マリオンはその返事にどこか安心したように溜息を吐き、ユウに笑いかける。

 

「・・・応答してく・・さい・・・」

 

突然雑音でほとんど聞き取れないモーリンの声が空間に響く。

 

「あ、ユウの帰るべき場所からのお迎えだよ。さよならだね。」

 

「ああ、元気でな。」

 

最後にユウは優しくマリオンを抱きしめ、頭を撫でる。すこし図々しい気もしないが、もう会えないならこれくらい許されるだろう。ニュータイプの少女は子供扱いされるに特に抵抗がないらしく、フフッと小さく笑いながら、ユウから離れていく。

 

「それじゃ、わたしはニムバスをこの先に送り届けてから、自分の身体に戻るから・・・」

 

「ニムバスを・・・?」

 

「あの人もある意味この戦争の犠牲者だよ・・・色んなものを背負いすぎて、自分の心を圧し潰してまで、ジオンの騎士であろうとしたの。わたしのことも、ずっと自分を責め続けていて・・・」

 

その一瞬でユウの頭にマリオンとニムバスの様々な記憶が流れ込んできた。その出会い、研究所での切磋琢磨した日々、マリオンがEXAMの中に消えてしまった日のニムバスの絶望の表情、眠り姫となったマリオンに花を添えて見舞いをしていた姿、彼がいかに部下たちを失うことへ苦しみながらジオンの騎士を演じていたか・・・ユウの中でニムバスへの認識がただ憎むべき敵として捉えていた人間から瞬く間に、自分と同じ、戦争という狂気の中でどうにか意味を生み出そうとしている人間に変わっていく。

 

「そう・・・か。君がヤツ・・・いや、彼を赦すというのなら、俺もいつか赦せるようにするよ。ヤツを殺しておいてそういうのはおかしいかもしれんが・・・」

 

ユウは苦笑しつつ、マリオンが背中の翼を羽ばたき去るのを見送る。

 

「ユウ、応答してください!ユウ!ユウ!」

 

モーリンの声がはっきりと聞こえてくることでユウの意識は現実に引き戻される。

 

「どうなったんだ、ユウは?」

 

フィリップの声で目を覚ますと、自分はMSの残骸から数メートル先の宇宙空間にいる。どうやって脱出したかするわからないが、ブルー三号機のコックピットハッチは開いており、中の惨状からもし自分がまだいたら助からなかったという事実を改めて認識する。

 

「・・・こちら、11・01・・・俺は無事だ、今救難フレアを出す・・・」

 

自分の声がやけに静かで弱々しいなとどこか他人事のようにとらえながら、ユウはベルトに装備されていた救難フレアを二発打ち出す。その赤い炎により、周囲を詮索していたボールを照らしたのが見えた時、ユウは宇宙が今までの桎梏ではなく、蒼いことを確認し、意識を手放した。

 




明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

投稿の方間が空いてしまい申し訳ありません。

多分これからも二週間に一度くらいのペースでゆっくり書いていくと思います。
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