教え子らの決意がキマり過ぎている。 作:お ん ん い い
昨日は散々だった。いくら何でも振られたからってまさか教え子が子供をストーキングする
正直、昨日は偶然を装ってモンスターと遭遇した
何だろうな、危害は加えられないが、森って背景もあってか送り狼に見張られてる気分だった。
だが、昨日のそんな疲れなんて今は全く感じていない。若い身体ってのは最高だ。この若い力こそ、新たな時代、新たなロマンの原動力になるんだって再認識させられるな。なにせこの頑丈で火力満点のパイルハンマーも若い鍛治師の作品だ。ああ、そういやこれも洞窟の崩落に巻き込まれた物だし、この依頼が終わったらまた整備受けさせないとな。
で、今日こそは、このやる気漲る身体でモンスターを倒したい。
と言っても青銅プレートが出来る討伐依頼となると大した物は無い、一番危険でも群れから逸れたゴブリン一体かそこらの討伐くらいになる。鉄プレートならこれが巣の破壊とかになってくる。それを考えれば今の俺は本当にひよっ子同然な訳だ。
「受付さんや、青銅級でも受けられる討伐依頼とか無いもんかね?」
「……」
そんな"あわよくば"を滲ませながらいつもの生真面目な受付に聞いてみれば、それはもうゴブリンの生肝を喰った様な表情をしていた。空前絶後だな、依頼があるか無いか聞くだけでこんな顔される冒険者なんて。いくら子供だからってなあ。
「……貴女は、生き急いでいるんですか?」
パーティも組まずに青銅級が1人で討伐依頼なんて傍目からすれば何考えてるんだって言われてもおかしくはないだろう。だが、考えれば考える程1人でやるべきと思った。
俺はなまじ経験がある。少なくとも鉄級になれる程度の経験が。
何の為に等級があるのか、それは優秀な冒険者を選別するだけじゃない。同じ腕前の奴らがいる環境を作る事で理想的な成長や競争を促す事にある。自惚れじゃないがな、そっくりそのまま今の俺を完全無欠の青銅級ってお出ししてみろ、そりゃ詐欺だ。
だから、俺と組んじまう事で意図せず下駄を履かせる事になる可能性がある以上、下手にパーティを組むべきじゃない。加減すれば良いかも知れないが、それをすると今度は俺がパーティに合わせて青銅級に留まる事になる。そんなのはどっちも損でしかない。
それに今の自分が、自分だけでどこまでやれるかも正しく測りたい所もある。正直、性別こそ変わったが若返って少しテンションが上がってるのも事実、この身体の限界を知りたくてうずうずしてるんだ。
「生き急いでるつったらそうなるのかもな。早く、親父の場所に辿り着きたい──なんてな。……おい、なんて顔してんだ? オレは親父みたいな鉄級に早くなりたいって話だぞ?」
「そ、そうですよね。分かっています」
下手なマリオネットみたいにギクシャク動く受付に白い目を向けつつも、俺は受付の手元で捲られていた依頼帳に目を向ける。
依頼帳には、古い依頼も含めて受注可能な依頼の殆どが綴じられてる。等級ごとに分かれていて、カバーの紐の色でどれなのかが分かる。青緑色だからこれは青銅級だ。
その中に、討伐依頼を示す牙のマークのスタンプが見えた。
「待った、それ討伐依頼じゃないか?」
「あっ、これは……」
「公明正大な受付さんなら、見せてくれるよな?」
そう言うと渋々ながらに依頼帳を開いてくれた。やはりそこには討伐依頼。中身はタイラントローチ十匹の討伐か。悪くない。
「……これは、貴女には不向きかと」
「これは青銅級だろ? 別にタイラントローチは不快なだけで凶暴じゃない」
早くてデカくて気持ち悪い奴、そんな認識が罷り通っているが腕試しには丁度良い相手だ。ゴブリンみたいに木の棒は振り回さないし、スライムみたいに刃物が通らないって事もない。斬撃も打撃も魔撃も等しく通じる。それでいて攻撃も精々小さな牙で噛み付いてくるか、それも最終手段で基本は逃げるだけ。
俺は初めての討伐依頼には必ずタイラントローチをオススメしている。見た目と動きのせいで大抵は嫌がられるんだが、依頼が枯渇する事はまず無いし、相手の動きを見て攻撃を当てる練習にもなるんだから、寧ろそれ以外にやらない理由が無いくらいだ。
「オレは早く親父に追いつかなきゃならないんだ。出来る事はなんだってやるつもりさ」
「なんでもすると?」
「出来る限りはな」
「……そういう事は、女の子である貴女が軽々しく言ってはいけませんよ」
……なんか不味い事言ったか。なんだってやるなんて冒険者として最低限の義務だろうに。というか、昨日も今日も周りの奴らの反応がおかしいぞ。男女の差って奴か、文字通り世界が違って見えるな。何やるにも心配されてるじゃないか。
「血は争えない、という事ですか」
という訳で今日の仕事が決まった。タイラントローチの討伐、場所はこの王都七番街の下水道だ。
──お前の親父、どんな教育してんだよ。
タイラントローチの討伐に目を輝かせて挑まんとするドラコの姿を見た他の冒険者たちはそう思わざるを得なかった。
寝耳に水とは言うが、突如明らかになったドランの娘の存在を、周囲の冒険者は既に受け入れつつあった。教え子たちが娘であると認めたという事もあるが、その思考や言動がドランにあまりに似通っているからでもある。
まるで生き写し、とまでは言い過ぎかと周囲の冒険者は思うものの、いつか一人前の冒険者としてドランの昔話を肴に酒を酌み交わす日が来る事を楽しみにしている者も少なくはない。
だからこそ、その生き急ぐ様な素振りが目につくのである。
普通、冒険者になりたての初心者が採取依頼などの非戦闘系の依頼を受けるのは土地勘を養ったり、森や砂地、街など、それぞれの場所ごとの歩き方を学ぶ為である。
しかしドラコは先日森に行ったばかりで、今日はこの街の下水に足を踏み入れるという。あの場所は道を間違えやすい上、下手に奥地に入り込むとタイラントローチどころか、ウーズの類と出くわす事もある。
「おい、誰か見てやった方が良いんじゃねえか?」
「俺らはガキのお守りじゃねえんだぞ? ……不安に思うのは分からんでもないが」
「……いや、何かあったらアイツの教え子が黙ってねえだろ。バンの奴も今日は他の冒険者ギルドに向かってて不在みたいだしな」
そんな言葉が交わされるのも当然であった。
実際のところ、ドラコはドランであった時に何百回と教え子のタイラントローチ討伐に同行している。地図すら無くとも地形を暗記しているため、問題は無かったが、そんな事は夢にも思っていない周囲が心配するのは当然であった。
そんな中、当時の教え子たち基準でも良くて悪夢、悪くて地獄と称したその環境に1人で飛び込まんとするドラコを追うものが居た。
「……ドラコさん!」
「ミスティ、どうしてここに?」
「ぐ、偶然私もタイラントローチの討伐を受注していたんです」
ミスティは、引き攣った笑みを浮かべながらそう言っている。ドラコは、タイラントローチクラスの繁殖力を誇るモンスターならば依頼がダブる事も珍しくはないと考えていた。
「なるほど、初心者にはオススメの依頼だからな。おー、さては初心に帰りたくなった、とかか?」
(そんな初心者ドラン先生の所以外で見たことないですよ……)
初心を忘れない教え子の姿に感動していたドラコだが、ミスティはただドラコが心配で見に来たというだけである。依頼を受けたと言うのは事実であるが、乗り気ではなかった。
冒険者はきつい、汚い、危険と隣り合わせの仕事でもある一方、仕事を選ぶ事でそれらを避ける事も出来る。しかしながら初心者には仕事を選べるほどの余裕もない。この3つのどれかを受け入れる事で仕事にありつくしかないのが現状であるのだが、ドランは教え子を受け持つ時以外でも仕事を選ぶ事はなかった。
「じゃあ、一緒に行くか」
そうして2人は下水道へ向かった。
「ミスティ、そっち行ったぞ!」
「分かってます! 『白波』!」
黒光りの甲殻、枝垂れの触覚。悍ましき速さと音がミスティの精神に確実なダメージを与えていく。対するミスティは魔力の消耗を抑えながらも惜しみなく白んだ水の刃を放つ魔法を使っていた。
だが、ドラコは違う。
一般人には直視に耐えないタイラントローチの姿をじっと見つめ、動きの先を読み、そこでパイルハンマーを構える。構えたパイルハンマーは魔力圧縮機とシールドが射出口の周りに展開されている。
「ファイア!」
ドラコの様に大得物を使う場合、攻撃が自身の認知より一手遅れる事がままあるが、パイルハンマーは構えさえ取っていれば攻撃は一瞬の内に終わる。その構えを取って待ち構えるまでの流れを考えるのが担ぎ手の技量の見せ所である。
鉄芯は軽鎧にすら用いられるタイラントローチの甲殻など物ともせず貫く。押し出された血肉がパイルハンマーのシールドのみならず衣服を汚すが、乙女のおの字も知らないドラコは目に入らなければ気にならないようで、次の獲物に向かっていた。
(冒険者としてはあれが正しいのかも知れないけれど、あれは流石におかしい。先生の娘だからって、年頃の子があんな事)
さながら規則正しく動くゴーレムであった、無心でタイラントローチの神経が集う中枢を撃ち抜く姿は。ミスティは、少女の少女らしからぬ言動に嫌な予感を覚えていた。
(この身体だと想像より動きが遅れてる。修正しねえとな)
タイラントローチを一匹殺す度、動きが洗練されていく。彼女の姿は理想的な冒険者にも見える。
しかし少女としては、どうか。
肌艶からして、非常に健康そうである。その点は父親の寵愛を感じさせるものだ。ただ、男勝りな言動、身体のラインに合わないはずの明らかな男ものの防具を着込んでいる点に加え、彼の葬儀の参列者の間で語られていたドラコには母親が居ないという話。
つまり彼女は、女性の事を何も知らないのではないかという事だ。
彼女の父親は男女お構い無しに不快害虫の討伐に駆り出す様な男である。女性としての教育をマトモに受けていないと考えても仕方ない事だった。事実、ドランは独身で恋愛経験も無く、受けていないに等しい状態である。
「ふぅ、狩った狩った。ミスティの方はどうだ?」
「ええ、こっちも大丈夫よ」
一方は汚れが少ないが、もう一方は血みどろ。ドラコの浮かべる屈託のない笑みはいっそ狂気的であるが、ミスティにはそれが情緒がまだ育っていないせいである様に見えた。
強い、間違いなく同世代の冒険者とは一線を画している。だが、その為に捨てたであろう物が多過ぎる事もまた、ミスティはこの僅かな時間で悟っていた。
(……私は未熟だ。あれだけの強さ、いや経験を得る為に何を犠牲にしたなんて、考えたら分かる事なのに)
ドラコの力量を羨ましく思った。そして嫉妬した。だが。
(先生を失ったのは彼女も同じだったのに。私には先生やパーティの仲間が居たけれど、彼女にはもう誰も居ない。彼女は冒険者だった父親の背中しか知らなかったのかも知れない。ならこのままだと、彼女は戦い以外を知らないで生きる事になる。それが彼女にとって幸福かどうかは分からないけど……そういう生き方がある事すら知らないまま終わるのは、違う)
それ以上に危うく思えた。決定的な決裂を迎える前に、相手の欠点に気付いたミスティは、ドラコを別の視点から支えようと考えたのだ。
ミスティは決意した。
この無知かつ無恥の少女に年相応の情緒を育てなければならないと。彼女が教えられなかった分をそれこそ姉の様に教えて行こうと。
恩師から最後まで教わる事は叶わなかったが、その分の恩を返す事が出来るのならば、きっと未熟な自分にはこれしかない、と。年が近い筈の自分だからこその選択であった。
「その、少しいい?」
「お、なんだ?」
まずミスティは、そのきっかけを作る事にした。
「下水を出る前に服を脱いで頂戴。私の水魔法で洗ってあげるから」
「……え?」
ミスティから見れば、いくらか年下に見えるドラコでも中身は成人男性である。それはダメだろうと思うのが自然だった。
「いや、それは別に後でも……」
「ダメよ。それで人前に出たら絶対にダメだから」
ミスティは思う、少々ずぼらな点も先生譲りだな、と。
勿論ドラコは抵抗を試みたが、ミスティがこれまでに見たことのない気迫を放ちながら迫った事で、彼女は有無も言えず了承してしまった。
「……わ、分かった」
先生を失い、その娘に敗れ、不安を抱えていたミスティの姿はもうそこにはない。慈母の様な笑みすら浮かべる彼女の決意は、二度と揺らがないだろう。
その後、精神年齢が年下の少女に服を剥ぎ取られ、隅々まで洗われたドラコは、ほんの少しだけ少女としての情緒が育った──かも知れない。
「な、なあミスティ」
「どうしたの? ドラコ
「ちゃ、ちゃん……?!」
「私の事は、ミスティ
「……嘘だろ。初対面の時より子供扱いされてないかこれ」
「その言葉遣いも直していきましょう。大丈夫、先生の娘ならきっと覚えられるわ」
「後、このヒラヒラした服は?」
「それは私からのプレゼントよ。先生みたいになるばかりじゃなくて、ドラコちゃんはもっと自由に生きて良いんだから。まさか女物の下着すら無いなんて思わなかったけど」
「いや、これは流石に……」
「きっと皆も可愛いって言ってくれると思うわ」
「か、勘弁してくれえ……」
折角なので、頂いた感想については次話投稿時に返信する様にしていきます。不定期投稿なので、折角感想投げて頂ける程読んで貰ったのに更新タイミングが把握出来ないのはアレだと思ったので。
なので今話に感想頂ける事あれば、次話投稿時にお返しします。