教え子らの決意がキマり過ぎている。 作:お ん ん い い
後、作風的に無いとまずいと思ったのでタグに『曇らせ』を追加しました。
(……こいつらは多分、各ギルドからの遣いなんだろう)
ドラコは、衆目を一身に受けながら考えていた。
(俺を餌に他の教え子にコンタクトでも取るつもりか?)
彼女は自分自身に価値は無いと判断していた。故に、その立場や、繋がりのある相手にこそ価値を見出しているのだろうと考える。
そう考えた時、彼女は言い放っていた。
「帰ってくれ──悪いが、オレはここで冒険者を続けるつもりだ」
三者三様の視線。怒り、驚き、興味。
所詮子供と侮っていたのか、このような言葉が返されるとは思ってもいない様子であった。
(反応はまちまちだな)
ドラコも帰ってくれと言って帰ってくれる手合いでもないだろうとは覚悟していた。無言の間が伸びて行く中で、誰が語るか譲り合いの気配が流れる。
「それは愛着かしら?」
そうする内に1人の女が口を開いた。商業街にある南冒険者ギルドからのスカウトだ。
そんな彼女に、ドラコは薄い笑みを浮かべ答えた。
「……親父なら多分こう言ったさ、執着だって」
西冒険者ギルドの金回りは悪く、冒険者への支援──教育、訓練、道具などが不足していた。
そんな環境もあり、才能のある若手が居たとしてもスタートラインに立つ事が出来ないという事も珍しい事ではなかった。貧民街の近くにある冒険者ギルドという事もあり、利用者には貧民街の住人も少なくはない。商業街や貴族街などに存在する他の冒険者ギルドを利用する事もまた難しいという有様であった。
新芽が芽吹かず腐る様な環境で、ドランは自然と周囲に目を掛ける様になっていた。
良く言えば身を削り、悪く言えば自らを踏み台に幾人も冒険者として送り出したドラン。それでも西の冒険者ギルドで人を育てるのを辞めなかったのは、愛着を通り越してもはや執着の域であった。
だがそれはドラコがこの場所に拘る直接の理由ではない。少し格好をつけたい男心も含まれている。
「分からないわね。貴女は父親じゃないのに」
分からなくて当然である。ドラコはドランなのだから。
ドラコからすれば何もかもが変わった訳ではない。支障が無いならと、今までと同じ生活をしようとしているだけである。怠惰だが、致命的に間違う事もない。安心安全の生活だ。それに加え、今更別の冒険者ギルドを使う気にはなれない、という最もな理由もあった。
ただ、冒険者に成り立ての少女が、わざわざ最貧の冒険者ギルドで頑張ろうとしている理由がそれである、と側から見て納得できる訳がないという点を失念していた。
今の彼女がどう生きようとしているのか。
それは、『今までと同じように今日を送る』だけである。
だからこそ、ドラコは『自分が父親と違う存在である事を前提とした質問』の回答に毎度困っていた。
何か良い言い分はないものか。そう考えを巡らした結果──。
「……親父と一緒の装備で、親父が居た場所で、親父のやってきた事をしてないと、オレの中から親父が消えちまう。だから、
──彼女から発せられたのは、悲壮極まる言葉となっていた。
ドラコの言葉に絶句する他の冒険者達。そして、なんとも言えない苦い顔をしているスカウトに来ていた3人達。
ドラコからすれば、考えながら纏まりのない言葉を並べていたに過ぎない。これらの意図する所は、親父の事をいつも想っている親孝行な娘という、非常に心温まるイメージであった。
「……貴女、その意味が分かってるの?」
「ああ、分かってる」
一方で、聞いた者らは悪寒すら感じている。これまで受付やミスティやバンといった限られた人物だけに見せていた心の闇が発露した、そんな光景だ。
泣き落とし。否、泣かせて(気分を)落とす無差別攻撃だ。
(……教え子がああなるのなら、より近くに居た子供がそうなってしまうのも当然、という事ですか)
受付は、頭を抱えながらその光景を見ていた。
そうなると、ドランの遺品を引き取った事も、瓜二つの言動も、不穏な文脈を得てしまう。
ここに居た彼ら彼女らは、思い至ってしまった。
その者らは、非難するように、事の発端となったスカウトの女に目を向けていた。
「っ、私は……」
彼女は慌てて弁明に走ろうとするが、この空間のアウェーをひっくり返せるようには思えず、すぐに諦めすごすごと帰らざるを得なくなった。
他2人も同じく、スカウトを続けられる様な雰囲気ではなくなり、心痛な表情を隠しながら会釈をしてその場を後にする。
そうして、この空間は静けさを取り戻した。
(親孝行な娘を演じたおかげで、相手が居心地悪くなって逃げ出した……って事で良いんだよな?)
ドラコはそう安堵していたが、周りは自らの表情を取り繕うのに必死でそれどころではない状態と化していた。
「ほう、そいつは面白い話だな」
薄暗い地下室、ランタンの光に照らされ、フード姿の人物が2人で語り合っていた。部屋の壁に吊るされた黒地に赤の模様の入った旗は、彼等の組織のシンボルであった。
「3方の冒険者ギルドがたった1人にアプローチか。しかも相手は件の娘だ。余程手元に置きたいんだろ」
「……件のって言ったら、あの
「裏社会の人間がそんな
ドランに自覚は無かったが、彼の名前は裏社会でも有名であった。
それは、育てた教え子が王都の各地で名を上げていく中で、ある噂が流れた為である。
「教え子を王都の中枢に潜り込ませて、王都を影で支配する……冗談にしても回りくど過ぎる話だが、一部は本気で信じてたな」
ドランが死んだという話が広まった際、一部では消されたのではないかと噂されたり、遺体が今も見つかっていない事から、死を偽装して逃走を図ったなどと噂されていたのである。ただ、どれも証拠の無い憶測であり、大多数はこれを与太話と受け取っていた。
「奴の教え子だったと言われてる奴らはどいつも清廉潔白だ。仮に奴が噂通りの存在だとしても協力はしないだろう。それにドランは鉄級の平凡な冒険者だったとも聞く。生きていたとしても出来ることはそうは無い」
「だが、教え子がその娘の事を気にかけてるのは本当らしいぜ?」
会話していた相手はそれを肯首する。彼等は一先ずの活動資金を確保する為、様々な方法を考えていた。詐欺、銀行強盗、身代金誘拐。出てくる案がどれもこれも物騒かつ少人数でも可能である事が組織の色とその規模を示していた。
「……邪魔な連中への陽動には使えるかも知れんな」
「誘拐でもすんのか?」
「そんな面倒な事はしなくてもいい、多少危害を加えれば視線は集まる」
そう淡々と思案し、彼は計画を企てる。
「彼女は今スカウトを受けている身だ。他のギルドも彼女に注目しているのなら何か起こればすぐに情報が伝わるだろう」
彼女を利用し、他の計画から目を逸らさせる。単純だが効果的な方法であった。その上、注目を集めている今ならば。
「……善は急げ、悪はそれより急げだ。早いところ仕掛けるとしよう」
「ああ、分かったぜ」
彼らは闇へと消えていく。何も知らぬ少女に牙を剥く時を待って。
「『石壁』」
石の壁を作る魔法。いくらか小さくなった身体。壁として使うことは勿論、足元に出した壁で勢いを出すなんて使い方も出来る。壁は柱の様に余分を切り詰めて、最小限にすれば余計な消耗も抑えられる。
「『旋風』」
身体の周りに風を起こす魔法。周りの物を吹き飛ばしたり、空中での軌道を変える事が出来る。空での行動は有翼の種でもない限り不可能だが、こうする事で空中でも無防備を晒す事はない。
「『静謐』」
音を消す魔法。便利なもので、足音は消せるし、このパイルハンマーの駆動音も消せるし、隣人のイビキの音だって消せる。個人的にはパイルハンマーの駆動音を消すのはナンセンスと思っているが、必要な場面が来れば迷わず使うだろう。
「『油壺』」
壺一杯程度の油を生み出す魔法。当然火を付ければ燃える。油の質を少し弄ってパイルハンマーの潤滑剤にしたりとかなり便利に使える。足元にばら撒けば動きを阻害する事も可能だろう。
これが俺の扱える魔法の
魔法の発現は生涯に4つのみ。
同時に覚えていられる魔法の数も基本的には4つに限られている。
血筋で同様の魔法が継承される事もあれば、全く関係の無い魔法が突然生える事もある。『魔法使い』と呼ばれる専門職の力を借りれば、発現した魔法の調整や変化を行う事や、忘却したり、誰かへ継承させる事が出来る。どれをするにも高い金を取る為、金持ちこそが最強の魔法使いだ、なんて揶揄されたりもする。
因みに、西冒険者ギルドのある王都7番街と6番街には正式な魔法使いが居ない。金が無いからな。
珍しい魔法や強い魔法は高値で取引される事も珍しくはない。魔法の為に人を買う、攫うなんて事も昔はあったという位だ。今はそんな事はないとは口が裂けても言えないが。
……そして、俺が今生きている理由と、秘密にしなくちゃいけない理由はそこにある。
──ま、今起きてる事に比べれば些事だろう。
「まさか、アンタが何かしでかしたんじゃないでしょうねアホ犬」
「犬じゃねえ、狼だクソバカオーク女」
スカウトを退散させたと思ったら、キサキと帰って来たバンが俺を挟んで睨み合い始めていた。2人は同じ時期に教え子……ミスティの様に魔法の使い方を教えていたんだが、犬猿の仲とでも言うべきか、昔から仲が悪かった。仲が悪過ぎて寧ろ良いんじゃないかとすら思うくらいには。
「俺が他のギルドに行った時には奴らもう勝手にスカウトに動いてたんだよ」
「……勝手にスカウトに動くなんて、どうなってるんだか」
「お前みてえだな。頭の出来が」
「アンタの勘が悪過ぎるんじゃないの?」
「あァ?」
「はぁ?」
接吻しそうな位の距離感で顔を突き合わせる2人の事は置いておくとして。急な話が過ぎるという感想しか浮かばない。将来有望というならミスティの様な正真正銘の若い芽も居るのにだ。
対して俺はズルしてる様なものだ。頭角を表している様に見えるのは言ってしまえば子供の遊び場に大人が殴り込んでいるからそう見えるだけ。そこを評価してのスカウトなら、お互いの為に話を無かった事にすべきだ。これはフェアじゃない。
「2人とも、仲が良いのはいいと思うが、あまり人前でするのもアレだぞ」
「違っ、これは……喧嘩の作法よ!」
「あぁそうだ! ムカつくヤツにはこうやってだな……」
2人が喧嘩を始めたら基本的に止まらない。それを止めるのも俺の役目だった。
「なら、オレはムカつくヤツに会ったら次からそうすれば良いんだな?」
「……ごめんなさい。二度と言わないわ」
「悪かった……だからそれは、それだけは止めてくれ」
2人の尻尾が垂れ下がって極寒の地に居るかのように青ざめた顔で震え始めていたが、だってこう言うしかないだろう。年下が年上を嗜めるやり方なんてのは限られてる。
2人を大人しくさせた所で──さて、次はどうするか。今から依頼って雰囲気でもない。早くプレートの色は変えたいが、使えるものは何でも使うってつもりでもない。なら、もう帰るしかないんじゃないか。
「──帰る」
「えっ?」
「あ?」
周囲の視線が一挙に集まった気がするが、こうなったのは全部スカウトが悪い……って事にはならないか。そりゃならないよな。でも、俺だけが悪いって事もない筈だ。
「キサキとバンはどうする?」
そう呼びかければ、キサキは思案もせずに即答した。
「なら私は、お嬢ちゃんと一緒に家にお邪魔しようかしら」
どこかワクワクした様子だが、眉を顰めたバンが恐る恐る口を開く。
「……まさかお前、あの自殺料理を振る舞う気じゃねえよな」
「出したら、その、ダメかしら?」
……自殺料理。そういえば家に2人を住まわせてた時、キサキはいっつも料理番をバンに剥奪されてたな。物騒な響きで察しが付くが、彼女がとんでもない料理を作るからだ。その被害を被った事は一度もないんだが。
「いっつもお前、自分で味見して気絶してたろ。あんな心臓に悪いもんガキに見せんな。それなら俺がやる」
「いや、今度は行ける気がするの」
そう自信を漲らせる彼女に、俺は何も言えない。
俺とバンの目が合った。『俺に任せろ』という力強い頷きが返ってきたので彼に任せよう。頼んだぞ。
……そうして急いだ帰り道。
いつもの様に街の郊外の一軒家が出迎えてくれる。
どこか懐かしむ様な目を向ける2人を引き連れ、玄関の扉に手を掛ける瞬間。
「──危ねぇっ!」
バンの声がした。
首が絞まる感覚と共に、視界を埋め尽くすほどの閃光が瞬いて──。
ドランの特技①
どんな武器でも鉄級冒険者程度には使える(器用貧乏)。
タイトル・タグ・あらすじを見てこんな方向性の話だと想像出来ましたか?
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想像出来た。
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