熱砂の巨獣   作:和ん子

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 お久しぶりです!!(クソデカボイス)
 またまた番外編です。
 本編進めたいんだけど、中々降りてこなくてごめんなさい。
 
 前回の反響が過去一のアクセス数で純粋にびっくりしました。
 ……皆曇らせ好きなのね。
 
 というわけで今回はハッピーエンド√です。


ユメ&ホシノ ユメ生存ver.

 

 

 

 アビドス高等学校。現在在籍生徒数たったの二名という限界集落の人数で、日夜パトロールや砂漠化の原因調査をしている過酷な場所。

 互いに支え、助け合いながら借金地獄の学園生活を送っている梔子ユメと小鳥遊ホシノ。

 そんな二人が今、緊急事態に陥っていた。

 

 「卵に亀裂が!?」

 「生まれる!生まれるよ〜!」

 「どうしようどうしようどうしましょう先輩っ!?」

 いつかの登校時に、ユメが拾って来た謎の卵が遂に孵化しようとしていた。

 お包みを取り、カタカタと震える卵の周囲を走り回るユメと、そんなユメと卵に視線を交互に向けてはあわあわと右往左往しているホシノ。

 そうしてる間にも、新たな生命は必死に生まれようと卵を揺らして罅を広げていく。

 

 「もうちょっと!もうちょっとだよ!」

 「ユメ先輩!?」

 「ほらホシノちゃんも一緒に応援して!頑張れー!」

 「が、頑張れ……!」

 「頑張れー!ファイトー!」

 

 パキパキパキ……!

 

 遂にその時が。亀裂が縦に伸びて卵がパカッ!と小気味よい音と共に中から待望の赤ちゃんが飛び出して来た。

 「「やったー!!……え?」」

 勢いがつき過ぎたのか、卵を支える為に敷いていたタオル生地に足を取られたのか、ぽてっと机の上に倒れ込む濃い緑の見た事のない生物。

 喜びも束の間、抱き合っていた二人の表情が固まった。

 

 「ギャ、ギャウ……」

 生まれたばかりの赤ん坊だからか、立ち上がろうとしてさらに足を取られ、見る見る内に抜け出せなくなった謎の生き物。

 噛まれはしないだろうかとホシノが躊躇して観察していれば、横からユメが手を伸ばしてその緑色の体を持ち上げ──。

 

 

 「お、重い……」

 持ち上がらなかった。タオルから顔を出したそれは爬虫類っぽさもあるが、何処となく愛嬌があり、今も恥ずかしそうに顔を隠そうと、到底隠しきれないだろう短い手を伸ばし、体を小さく丸めようとしている。

 ユメがふっ!と少し力を入れて漸く持ち上がった緑の赤ん坊を横抱きにし、よしよーしと小さくステップを踏みつつ左右に揺らしている。

 「ギャ……スピー」

 「あ、眠っちゃいましたね」

 「大きいけど赤ちゃんなんだねー。ホシノちゃんもどう?ちょっと重たいけど」

 「いえ、今ぐっすり眠ってますし起こしちゃいそうなんで大丈夫です。それより、椅子に座ったらどうですか?今日の書類は私がやっておきますから」

 「え、いいの?ありがとう!」

 この卵がアビドスに来てから、生徒会室の雰囲気は以前より断然明るくなった。孵化の前はユメもホシノも卵に今日あった事やくだらない世間話、愚痴も含めてたくさん話し掛けたり、どんな子が生まれてくるのか二人の間でも会話が増えた。

 何より、今まではほとんどユメから話題提供をしていたのが、ホシノからも積極的に話しかけるようになったのは良い傾向だろう。

 孵化した後も、何を食べるのか、世話に必要なものを調べては情報共有の為、会話は減る事はなく増えていった。

 「はぁ、わかりません……この子って一体何を食べるんでしょうか?」

 「うーん、動物図鑑にも載ってないし、卵生だからトカゲとか鳥さんの仲間?でも」

 「どう見ても飛べなさそうですね。かと言って卵の大きなダチョウの仲間でもなさそうですし……」

 生徒会室では今日も二人で子育ての教材や動物図鑑、犬の気持ちなどハウツー本を読み漁っては、頭を捻っていた。

 一応、コンビニで買って来た牛乳やホシノのカロリー棒をあげて空腹を凌いでいるが、明らかに食べ足りないと顔に書いてあった。

 夜のアビドスは冷えるのでタオルだけでなく布団やら毛布を運び込み、温かくして生徒会室で世話しているが、まだ外に出した事はない。

 野生の生き物故に歩き始めるのが早く、かなりわんぱくというか元気が有り余っていたのか、運動神経もかなりいい。

 あの小さな手足でユメの腰の高さまである机の上に飛び乗れるのだから、相当だろう。軽く自分の背の高さを飛び越えられる。

 その内、外に出たいのか窓際に立って外を眺めている時間が増えた。

 「ねぇヨモギちゃん。外に行きたいの?」

 「ギャウ」

 「でも危ないよ?外にはね、銃を持った怖い人達がいるんだから。ヨモギちゃんは賢いから約束してくれる?」

 「……ギャゥ……ぐぐ〜」

 謎の生き物改め、案を出し合って決めたヨモギのお腹から少し大きな音が、室内に響く。

 心苦しいが、何を食べさせて良いのか悪いのかがわからない為、そして、性懲りも無く襲撃して来たヘルメット団との銃撃戦の後、銃に対して怯えた表情を浮かべていた彼を、銃社会のキヴォトスの、屋外に出す訳にはいかなかった。

 

 

 

 

 ある日、いつもの様に登校したホシノとユメが生徒会室の扉を開けようと鍵を差し入れると、キィ……とゆっくり開いた。

 「ヨモギちゃん!?」

 「ヨモギ!?何処ですか!?いたら返事してください!」

 しかし、部屋にヨモギの姿はなく、鍵の空いた扉が彼の所在を如実に物語っていた。

 「探しましょうユメ先輩!私は学校の周囲を探しますので!」

 「う、うん。私は校舎の中を探すよ。お願いねホシノちゃん!」

 「はいっ!」

 荷物を置いて、愛銃のショットガンを手に全速力で外へ飛び出したホシノ。

 その鷹の様な鋭い眼光は少しの変化も見逃さない。入る時鍵が掛かっていた玄関を素通りし、渡り廊下へと続く裏口の扉を確認。

 「ここも閉まってる。なら!」

 引き返して廊下の窓を調べると一つだけ開いたままの窓を見つける。

 「ここから……ヨモギー!何処に行ったんですかっ!見付けたら躾ですね!」

 窓を飛び越えて外へ出る。背を低くしてヨモギの視点で次に何処に向かったかを探る。

 小さいが、あの重量では必ず足跡が残るはず。

 「あった!」

 見付けた小さな足跡を辿って駆け出した。

 

 朝は気が付かなかったが、違和感を感じて周囲を見やると、校門までの道に砂嵐によって運び込まれた砂漠の砂山が見当たらない。

 「……?」

 校門から外へ出ると、道路脇に寄せられていたはずの砂丘が丸ごと無くなっている。アスファルトにヨモギの跡を追える痕跡はなく、彼女の中で違和感が膨らんでいく砂のない道を注意深く、しかし早足で進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果的にヨモギはすぐに見つかった。

 ついでに、砂の山が消失した謎も解決した。

 ヨモギが砂や土をもぐもぐ食べていた。

 

 

 ヨモギが砂や土をもぐもぐ食べていた!!

 

 

 「ヨモギ!?そんなの食べちゃダメです!ぺっしなさい!ぺっ!」

 「ギャーウ!?」

 次の砂山に頭を突っ込んで食事を続行するヨモギを力任せに引き抜き、両足を掴んで逆さのまま上下に振る。

 いくら慌てていても、そんな事をすればヨモギも気持ち悪くなり、盛大に今食べていた砂を嘔吐してしまう。

 きゅー、と目を回して気絶したヨモギに、ホシノがさらに混乱する事になり、叫び声を聞いて後から駆け付けたユメが絶叫して止めに入るまで続いた。

 

 

 朝から騒動で疲労困憊のユメとホシノ、ついでに気絶から回復したヨモギ。

 彼が目を覚ましたのは、正午に差し掛かる少し前。

 空腹が解消されたのか、気絶していたにも関わらず元気に動き回り、二人は困惑する。

 「ホシノちゃん、もしかして……」

 「言わないでくださいユメ先輩。多分ですけど同じ気持ちです」

 二人の心境は確かに一致していた。

 ヨモギのご飯って……土なの?と。

 気になった二人はどちらともなく本人?に聞いてみる事に。ヨモギは、言葉を理解できる賢い子と、親バカ気味な二人はあまりそこら辺の事を気にしていなかった。

 「ヨモギちゃん、もしかして土を食べるの?」

 「ギャウ」

 「お腹は大丈夫なんですか?」

 「ギャウ」

 「他に食べれそうなものってわかる?」

 「ンャウ……ギャウ!」

 ヨモギが少し首を傾げた後、窓際に飛び乗って外を指差した。

 どれどれ……。二人が窓に歩み寄り、ヨモギの指し示す指先に視線を向ける。そこは校庭の一角にポツンとある花壇だったが、今は一本の低木を残して荒れ果てている。

 「あの木が気になるの?」

 「ンギャウ」

 「あの木になってる実を食べたいんじゃないですか?でもヨモギ、あの木の実すっごく辛いですよ?辛過ぎて鳥も食べに来ないんですから」

 「ギャギャウ〜!」

 ホシノの説明を聞いて寧ろ目を輝かせるヨモギ。

 二人共、う、かわいい……とキュンと高鳴る胸を抑えて顔を顰める。

 それを見て不思議そうにしたヨモギは、こうしちゃいられないと再び扉から外へ飛び出した。

 「あ!待ちなさい!」

 「ふえーん、待ってよ二人とも〜!」

 

 

 

 

 足の長さの違いからすぐに捕まったヨモギは、ホシノの腕の中で暴れ、手足や視線をあの一本の木へと向けている。

 「そんなに気になるなら食べさせてあげますから。後悔しても知りませんからね?あと、食べられなかったらすぐに吐き出す事。いいですか?」

 「ギャウ!ギャウ!」

 「はいはい。木の実は逃げませんって」

 さくらんぼの様な真っ赤な丸い実だが、実は一つずつしかなくて、くるくるとした茎が特徴的。

 「はいあーん」

 「ギャーウ……もぐもぐ。ギャギャギャ!?」

 「やっぱり辛かったですか!?」

 「ギャウー!!」

 美味し過ぎて叫んでしまっただけらしい。脱力して片腕で抱っこしていたヨモギを地面に下ろし、残っている木の実を全て収穫していく。

 「はい。もう無いですから、大事に食べてください」

 「ギャウ!」

 腕いっぱいに赤い実を抱えたヨモギが幸せそうに返事をして、一つ口に含む。その後、何思い出したのかハッとして実を一つ花壇の土に植えた。

 「ギャウギャウ」

 次は水を探している様だ。

 「後でペットボトルの水をあげておきます。ほら、もう帰りますよ」

 「ギャウ!」

 歩き出したホシノの隣に追い付いてヨモギも歩くが、歩幅の違いから少し遅れて駆け足、少し遅れて駆け足でそんな健気な姿に堪らず追い付いたヨモギを抱き上げるホシノ。

 「それにしてもユメ先輩どこ行ったんでしょう?」

 生徒会室に戻ると、ユメがぶつかって雪崩れを起こした書類の束を、かき集めてはまた積み上げていた。

 「あ!二人とも待ってって言ったのに〜!酷いよー!」

 「……すみませんユメ先輩」

 「ギャゥ……」

 

 

 

 

 あの日からヨモギは生徒会室を飛び出し、アビドス高校の別館と、その周囲敷地内を探索する事が増えた。

 最初の数日こそ、二人が探し回るなんて珍事に発展したりしたが、今では慣れたもの。

 子供の成長は早いと言うが、二人が砂漠の地質調査や自治区のパトロールに出てる間などは、保健室のベッドを利用して日向ぼっこしたり、外へ出ては成長の為に砂や土の山、好物の赤い木の実を摘み食いしたり、好きに過ごしていた。

 

 いつからか、ヨモギはよく眠る様になった。下手すると一日中眠り続けて起きない日もある程に。

 当然、ユメとホシノは心配する。

 体調に大きな変化はないし、顔色も悪くなく魘されていたり、どこか怪我をした訳でもない。

 動物病院に相談する事もできず、いつからか子供が成長する為と受け入れるユメに対し、ホシノの中で言い表せない不安が膨らんでいった。

 ヨモギやユメは知らなかったが、この頃からホシノは、悪い大人を自称する全身黒ずくめの異形に熱烈な勧誘を受けていた。

 それに加え、入学当時から続けている夜通しの治安維持活動、毎月訪れる借金の利子を回収する憎き企業社員、眠り続ける愛くるしい仲間。

 それら一つ一つは大した影響はないが、積もり積もった疲労と、真綿の糸で首を絞められていく様な感覚に囚われていき、次第に精神的に磨耗していく。

 すると、唯一の話し相手だったユメ先輩の希望や夢という楽観的な言葉まで耳障りに感じる様になる。

 

 

 

 

 

 

 

 どこかで黒いスーツの男が笑みを深くした。

 

 

 

 

 

 

 

 外から帰ってきたヨモギ。何やら生徒会室で話し声が聞こえてくる。朝はホシノしか登校してなかったので、話し声という事はユメも無事登校できたようだ。

 二人に会えるとわかると、ヨモギはニッコリ笑顔で寝床がある生徒会室の扉を開けようとする。

 外に出るようになってから、背の低さからドアノブまで手が届かない問題が発生し、ユメ達がノブが回るよう紐を付けてくれたのだ。

 その紐を掴んで引っ張る──直前に、ホシノによって乱雑に扉が開かれ、逆に引っ張られたヨモギの身体は体勢を崩して後ろへコロコロと転がり尻餅をつく。

 若干目が回ったが、ユメとホシノでは見た目が全然違う為、誰が出てきたのかくらいはわかる。

 そして、ホシノの表情が涙を滲ませて目には隈がはっきりと浮かび、悔しさや憤りが綯い交ぜになって苦しんでいるのがすぐにわかった。

 「ギャウ!」

 「……なさい」

 鳴き声でヨモギと一瞬視線がぶつかりハッとした表情を浮かべるホシノだが、すぐに視線を外し、聞き取れない程小さく何かを呟いたかと思えば、全速力で駆け出してしまう。

 「ギャウ!……!」

 ホシノが去っていく方へ呼び止めるようにひと鳴きした後、ふと開け放たれた扉の向こうへ視線を向ける。

 そこには大粒の涙を幾つも流して床に座り込んだユメの姿……。

 何があったのかわからない。不安がどんどんヨモギを覆っていき、遂にその瞳から涙が溢れ雫が落ちる。

 ホシノの背中、泣き崩れるユメ、二人を交互に見返して右往左往するも、ヨモギは本能的に二人を離してはダメだと確信して、泣きながらホシノの後を追って駆け出した。

 

 廊下の先、正面玄関から出たホシノの後を追う。

 どんなに必死に走っても、少女の背中は小さくなっていく。

 曲がり角で足を滑らせ、ベチャっと転けてしまった。

 顔を強く打ち付けた痛みと、滲んだ視界から外に見えた遠ざかるホシノ。

 

 ──「大丈夫ですか!?怪我してないですかっ!?」

 ──「もう、はしゃぎ過ぎですよ。ヨモギ」

 ──「危ないですから、廊下は走らないように」

 ──「約束ですよ。ヨモギ」

 ──「危ないですからヨモギは隠れててください!……大丈夫ですよ。ユメ先輩はともかく、私はすっごく強いので!ヨモギもユメ先輩も、アビドスも守ってあげますよ」

 

 既に廊下から玄関を抜けて校門まで見通せるが、ホシノの姿はそこにはない。

 ヨモギが初めて大きな音を聞いた銃声。

 たくさんの銃を持ったヘルメット団を名乗る少女達。目的はわからないが、ユメとホシノの……ヨモギの居場所を奪おうとする怖い存在。

 トラウマがホシノとの思い出と共に脳裏に蘇り、体が竦み、倒れたまま立ち上がれずにいた。

 動けない。動けない。動けない。

 手足の先から血の気が引いていき、冷たさすら感じてくる。呼吸は浅くなり、酸欠から全身から水分が抜けていく。

 完全に固まってしまった体が、ヨモギに厳しい現実を突き付けてきた。

 

 でもそれでは、ホシノを見失ってしまう。固まった体の代わりに思考はどんどん加速する。文字通り生まれた瞬間から自分を愛を注いでくれた親の片割れ。

 ヨモギにとって切っても切れない、欠けてはならない日常であり、大切な人。そんな人物が涙を浮かべ苦しんでいる。

 ヨモギ自身己の力不足は自覚している。銃社会のキヴォトスの外をほとんど知らない。銃は容易く人を殺せてしまう兵器である。悪い大人だけではない、悪い子達に拐われてしまうかもしれない。怖い。恐怖で目の前が真っ暗になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそれを、足を止める理由にはしたくなかった。

 

 目尻に溜まった涙を頭を振って拭う。

 「ウ〜〜……ギャウ!」

 まだ震える足で覚悟を決めた一歩は、立ち上がる勇気に変わり、どうやったって解けなかった重りがふっと軽くなる。そして、走り出したヨモギの体を、学校の敷地内から外へと押し出した。

 久しぶりに見る景色に思わず辺りを見渡す。当然そこにホシノの姿はない。

 「ギャウ!」

 多分こっち!真っ直ぐ続く道をポテポテポテと短い足を必死に動かして駆けていく。

 誰も住んでいない廃屋が連なり、道の脇には砂の山がたくさん。餌に困る事はなさそうだが、どこを向いても同じ景色が続いており、時折振り返らなければ道に迷ってしまいそう。

 かなり歩いたところで、再びホシノを探そうと耳や鼻に意識を集中する。

 パパパパパパッ!!

 「ギャギャウ!?」

 ビクッと小さな体が跳ねる。

 あの音が、ヨモギにとって恐怖の対象である銃声が少し近くから聞こえた。次いで、複数の足音も聞こえてくる。

 咄嗟に砂の中に飛び込んで身を潜めるしかなかった。

 見つかりません様に!そう願い、両手で口を塞ぎ息を潜めるが、その願いが届く事はなかった。

 「ん?何だありゃ?」

 「ぬいぐるみか?売れば端金くらいにはなるかな?」

 数人が気付き、砂山から見えていたヨモギの尻尾と足を見て人形の類と予想を立てた少女達が砂山に近づき、ちょんちょんと指で突いてみる。

 「ギャ!……ギャウ!」

 「おわっ!?何だこいつ動くぞ!?」

 「うわあああ!撃て撃て撃て!」

 触られて思わず体が跳ねてしまい、慌てて砂山から飛び出し、必死に走って逃げる。

 「逃げた!」

 「追え!ありゃ金の匂いがするぜ!」

 銃弾が後ろから飛んでくる。頬や体中を掠める。今足を止めれば少女達に追いつかれ、もう二度とユメとホシノに会えなくなるのは想像に難くない。

 やはり外の世界は怖い。止まりそうになる足を無理矢理動かして闇雲に走る。

 

 

 

 いつの間にか、銃声も、少女達の声も聞こえなくなっていた。

 その足はホシノの家とは逆方向の砂漠に向かっており、砂漠の向こうから砂嵐が迫って来ていた。

 周囲は黄色の砂ばかり。いつしか道も無くなり、直感か、ヨモギの中で明確に指し示す帰巣本能が刺激するのか、迷わず真っ直ぐ砂嵐の中、砂漠の大地を突き進む。

 砂に足を取られたなら、砂の中を泳ぐ。

 既にヨモギの中にホシノの背中はなく、ユメも、生まれてからずっと過ごして来たはずのアビドス校舎すら、思考の外に追いやられて、ナニカを求めてひたすら前進していた。

 砂丘を幾つも乗り越えて、一日かけて辿り着いたのは既に砂に埋もれて全体を把握することが不可能なアビドス本校。

 古代キヴォトスにて群雄割拠の時代に建てられ、当時の栄華を極めた校舎の一つ。ユメの元母校でもあるらしい。

 そんな場所を勝手知ったる足でズンズン進む。

 本校の校舎は既に砂嵐で風化して来ており、中は砂に埋もれていることだろう。徐に砂に顔を突っ込み口を動かす。

 口の中に流れ込む。飲み込む。手を使ってかき込む。飲み込む。息苦しさを感じても砂の山が無くなっても、次の砂山に飛び込んで、ひたすら飲み込む。

 一気に口に詰め込んだから嘔吐く。苦しくて涙が出る。酸素を求めて口を大きく開け、しかしそれでも砂や土を掻っ込むのをやめない。

 

 

 ヨモギの生態をよく知らない人も多いだろう。

 彼の仲間が多くいる世界では、彼の種族は地中奥深くに穴を掘ってそこで一つの卵を産むとされている。

 孵化した幼体は、周囲の土を食べては成長しながら地上を目指す。そして地中近くで蛹へと変態し、進化の時を待つ。

 しかし、食性や大きさ、かなり怪力である事から、現存する野生生物のどれとも合致しない。

 ちなみにヨモギが蛹までに食べる土の量は山一つ分。

 見かけによらず大食漢であり、たまに卵が浅めに産み落とされると、成長し切らずに地上へ出てくる個体もいるという。

 今まで、ヨモギが食べていたのは好物の赤い木の実や学校の敷地内に吹き込んできた砂や土。成長する為のエネルギーが全く足りていなかった。

 それ以外にもいくつかの要因が重なり、今回の様な食欲の暴走が起きたと思われる。

 

 

 ヨモギは止まらない飢餓感の中、もう自分の意思を離れた手と口が一人でに動いているのを涙で滲む視界で見ながら、離れ離れになってしまったユメとホシノの事を考える。

 ちゃんと仲直りできただろうか?

 飛び出してしまった自分を探してないだろうか?

 借金返済で無茶をしてないだろうか?

 アビドスを嫌になって去ってしまったんじゃ……。

 

 苦しみとは違う、涙がツゥーッと流れる。

 砂漠は今砂嵐が吹き荒れており、ヨモギを見付ける事は疎か、砂漠に入る事すらできないだろう。

 大型の砂嵐は下手をすれば何日も続く。そんな中へ危険を省みず飛び込める人は、バカか自殺志願者のどちらか。

 そうして、動き疲れたのか、いつしか寂しさを紛らわせるように砂に埋まり、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 目を覚ませば、周囲の砂を食べ、疲れたらまた眠り、また目を覚ます。

 もう何日過ぎたのか。ただ食べて眠る日々を延々と続けて時間の感覚が薄れて来た頃。

 ある日ヨモギは、砂の上を移動する存在がこのアビドス本校校舎へ近付いているのを、僅かな砂の振動で察知した。

 砂の山に突っ込んでいた頭を上げて、大量の砂を食べて急成長したヨモギの体は以前よりも硬く、見違える程大きくなっていた。

 以前が新生児程度の大きさだったのに対し、今では1mを超えて小学生低学年と同じ大きさまで成長しており、体重も2倍以上増えていた。

 「ギャウ……!」

 招かれざる来訪者に敵愾心を剥き出しにするヨモギ。

 ガチャガチャと銃を構える大隊を率いて来たカイザーPMC。

 「ここが忘れられたアビドス本校……ククク、ハハハハ!ここを作戦拠点とする!本校校舎を残して全てを破壊し、デカグラマトン対策基地を建設せよ!」

 「「「はっ!」」」

 採掘機や爆弾によりアビドスの校舎が破壊されていく。その光景を本校の二階の窓から隠れ見ていたヨモギの脳裏に大切な人達の顔が浮かぶ。

 アビドスはユメやホシノのものだ。他の誰かが勝手に壊していいものじゃない!

 ヨモギの中にあった戦いへの恐怖は反転、怒りへと変換され、ただ物陰に身を隠すだけの過去の自分と決別した。

 「ギャァアアアアアウ!!」

 「な、何だ!?ぐあっ!」

 窓から飛び降りてロボ兵士の首部分を体重のみで圧し折る。

 一人がやられれば、周りにいた兵士が気付き銃を構える。

 「ギャウギャウギャゥウウ!!!」

 飛び出す直前に僅かに残った理性は、『鉄壁』を三回繰り返す事で銃弾を完全に防ぐ文字通り鉄壁の防御力を手に入れた。

 そして今必要なのは速度と一撃で破壊する攻撃力。

 ひらひらり。掃討されている銃弾の弾幕を気にもせず、舞う様な動きで攻撃力と素早さを上げていく。

 そうして射程範囲内に入った敵に怒りのまま、名刀に劣らない角で袈裟から斬り裂いた。

 一体、二体と次々味方がやられていく光景に狼狽する兵士達だが、指揮官の登場により状況は逆転される。

 兵士達を遠ざけて遠くから爆弾を投げて舞いは解除された。

 そこからは防戦一方だった。銃弾は弾いても爆弾の爆発までは防げていない脆弱な外皮。攻略法さえわかれば相手は訓練された兵士。全員が代わる代わるヨモギの動きを止める為に等間隔で爆弾を投げてくる。

 「ギャィイアアア!!」

 痛みにより怒りのボルテージはリセットされ、ダメージを減らす為小さく丸くなる。

 やはりこの体じゃいくら大きくなろうと弱いまま。

 ヨモギは自分一人じゃアビドスを守れないと走馬灯の様に二人の顔や生まれてからの思い出を振り返っていた。

 

 

 

 「ヨモギ!」

 「ヨモギちゃん!」

 

 もう死ぬんだろうか?傷だらけで、ボロボロになった彼はこの場にいないはずの幻聴を聞いた気がした。

 「うちの子に」

 「手を出した悪い人は」

 「「絶対に許さないっ!!」」

 いつの間にか爆撃が止んでいる。痛む瞼を上げるとそこには韋駄天の如く閃光の軌跡を残し敵兵を縦横無尽に駆けるホシノ(臨戦)の姿。

 自分の前で盾を構えたまま仁王立ちするユメが、ジリジリと近付て来たカイザー兵をむんずと掴み、他の兵士へと投げ付ける。握力だけで兵士の頭がひしゃげていた。

 「ヒッ……」

 感動の再会なんだろうが、あんまりな光景に思わずドン引きするヨモギ。

 「ひぃん。ホシノちゃん!ヨモギちゃんに怯えられちゃった……!今まで隠し通してきたのにぃ!」

 貴方達の所為だよーっ!と今度は砂に刺していた盾をぶん回して敵を真っ二つにする。

 またヨモギはドン引きした。

 ホシノが目にも止まらぬ速度で砂漠を走り、ユメの隣へと着地する。

 「大丈夫ですね?ヨモギ」

 「心配したんだよヨモギちゃん」

 「ギャ……ギャウ」

 目の前に二人がいる。もう、会えないかと何度も思った二人が。

 ユメがヨモギへと手を伸ばして、幾つか銃創ができた緑色の頭を撫でる。

 温かい……。目の奥からじんわりと熱を帯びて涙が溢れていく。

 ユメの両目尻にもたっぷりと涙が、いや、既に滂沱の涙となって顔をぐちゃぐちゃに汚している。

 お互いにひしっと抱き合ってわんわん泣く二人に、ふっと息を吐いたホシノが、ヨモギの頭を優しく撫でる。

 「よく頑張りましたね。お姉ちゃんは貴方を誇らしく思います。ですからここからは私が……」

 「ホシノちゃん。違うよ。私達で、でしょ?」

 「……そうですね」

 二人はあの後無事に仲直り出来た模様。今まであった遠慮も負い目も蟠りもなく、自然体で健全な関係に見える。

 若干見つめ合う時間が長かったり、距離感が近い様な気もするが、問題ないならヨシッ!

 「ギャウ!」

 「うへ?どうしたんですか?ヨモギ。ここは危ないですから早く隠れて……」

 「ギャウ!」

 ホシノの事実上の戦力外通告に、首を横に振る。じっとホシノの目を見つめる。必死に何かを伝えようとしているが、首を傾げていれば隣からユメが「わかった!」と胸の前で手を叩く。

 「ヨモギちゃんも一緒に戦いたいんだよ!」

 「いやでも……」

 「……」

 「ああもう!わかりました!わかりましたからそんな目で見ないでください。ですが、無茶はしない事。これは絶対です。無理だとわかればすぐに引ったくって後方に投げ捨てますからね!」

 返事っ!と人差し指を立てながら腰に手を当てて視線を合わせるのに少し屈むホシノ。昔は膝を折ってようやく同じ高さで、言い終えてから随分逞しくなったとふふっと微笑んだ。

 「ギャギャウ!」

 喜びで思わず飛び跳ねたヨモギが、敵が再び接近しているのを察知して表情を引き締める。

 ヨモギの様子を察して、すぐさま戦闘態勢に入る二人はヨモギを挟む様に立ち、現れたカイザー兵士を迎え撃った。

 

 手始めに息を吸うヨモギから左右に走り出したユメとホシノ。二人とも耳を塞いでいる。

 護衛二人が離れて、人質にできそうな餌が目の前に転がっている。早った兵士の一人が撃つ事なく不用意に近付いた。

 ──その時だった。

 息を吸い切ったヨモギは大きな口から放った大音量の罵詈雑言の数々。それらは音だけで接近していた兵士の内部、精密機器のカメラや通信機などをショートさせ、さらに広範囲の兵士にも伝播した。

 視界と味方との連携を封じられた隙を、ホシノが逃すはずがなく、大多数の兵士の間を縫う様に走り抜け、通り過ぎ様にグレネードやショットガンで破壊する。

 混乱に乗じてヨモギが原始の力を呼び覚まし、砂中から人一人程の大きさの岩を複数浮遊させて何人かの兵士を巻き込みながら投げ飛ばす。

 周囲に敵がいなくなれば穴を掘って地中に潜み、後方で指揮をしている上官や通信機器を乗せた車両を穴に嵌めて、大きく蛇行するように穴の道を広げて前に進む事に穴に足を取られて思う様に進めなくする。

 それを見たユメはあまり前に出ず、ヨモギの戻る場所を守り足を取られた最前列の兵士のみを膝蹴りや足で粉砕していた。

 指揮官の指示か、兵士の質というか装備が変わってきた。今までのを一般歩兵だとするなら、縦長の盾を持った重装兵、ライフル銃を装備した狙撃手、風を巻き起こしながらマシンガンを装備する武装ヘリ。

 そして奥の方にいる重機並みの一際大きなパワードスーツらしき機械鎧。頭に付いた砲台は厄介さをビンビンと感じさせる。

 ホシノの速度は落ちていないが、装備の質が上がったからか段々と一撃で倒せなくなっており、彼女も狙撃手を各個撃破するのを優先している為、ユメの応援は難しいだろう。

 「ヨモギちゃん!私から離れないでね!」

 ……と思ったヨモギだったが、戻って来た仲間を射線から庇う様に盾を構えて耐えていたユメが、ヨモギに一言告げて走り出した。

 慌てて後ろについて走る。

 その日、人は横に飛ぶのをヨモギは知った。

 前を見れば重装兵がたくさんいるが、構わずユメの拳が盾を真っ二つに割り、勢いを殺さずにロボ兵士の大きな機体を後ろへ吹っ飛ばしたのだ。

 吹っ飛ばすのには流石に立ち止まる必要があるが、すぐにまた別の兵士の元へ走り出した。

 

 ヨモギが思わず現実逃避でホシノの方に視線を向けると、バラバラとうるさいプロペラ音が一つ無くなっている事に気付く。

 墜落して激しい炎と煙を上げているヘリが一機墜とされていた。

 どうやって?対空砲なんて持っていないホシノだが、少し高い足場として飛行していたヘリが近付くと穴に埋まった重装兵や車両を足場にギリギリ近くまで跳び上がり、手榴弾を置き土産にして墜落させたようだ。

 いや、そんな馬鹿な。と思うだろうが、今にもう一機が同じ方法……今度は超至近距離からのショットガン数発がプロペラや操縦席を貫通して撃墜している。

 「あはは!流石ホシノちゃん!」

 「私達も頑張らないと、ね?ヨモギちゃん!」

 「ギャウ!」

 もう既に被害で言えばほぼ壊滅状態のカイザーPMCだが、中々撤退する様子がない。

 不思議に思ったのか、重装兵を鯖折りにしながら周囲を確認するユメは、カイザーが最後の奥の手として試作機のパワードスーツ、ゴリアテを投入して来た。

 武装ヘリが全く活躍する事なく、全機撃墜されてようやくと言ったタイミング。真っ先にホシノが向かう。

 体の小さなホシノに照準を合わせるのが難しいのか、中々腕のミサイルが当たらない。それにヨモギが先程掘った穴を利用して的確にミサイルをやり過ごしているやり方は、一体どこで学んだんだろう?

 「──これで、終わりです」

 銃声が聞こえてゴリアテは、足関節部から火花を散らして膝を付いた。

 満を持して投入された奥の手が、ホシノによって瞬殺されてしまった。

 それでは、ゴリアテがやられてしまい逃げ出したり散り散りと蜘蛛の子を散らすように逃げるカイザー兵士を無視して、ヨモギは立ち止まり集中する。

 敵が近くにいないから、ユメも構えを解いていた。

 

 だが、二人は油断していた。

 ゴリアテはパワードスーツで、足を破壊されたとてそれは移動手段を失っただけで、砲台や装填されている弾は当然まだ残されたままである。

 搭乗者が最後の足掻きで命令無視し、アビドス本校舎諸共ヨモギとユメを消し飛ばす為にチャージを開始。

 「なっ!?まだ動きますか!?」

 ホシノが気付いてすぐさま砲身に連射する。しかし、攻撃時の衝撃に耐えるよう特に頑丈に作られていて、傷一つ付く気配がない。

 「二人ともそこから逃げてください!!」

 もう発射まで時間がない。出来うる限りの大声で二人に危険を知らせる。

 かなり離れていたが、耳の良いヨモギが先に気付き、ユメのスカートを引っ張って後ろに下げる。

 「へ?ヨモギちゃん……?」

 二、三歩前に歩き、位置を調整。砲身の真正面に向かい合い、ヨモギが前屈みになって力を溜め始めた。

 「ヨモギっ!?」

 ホシノが手を伸ばして駆け出すが、この距離は間に合わない。

 全員の時間がゆっくりと流れる錯覚に陥る。

 視界の景色から色が褪せてモノクロの世界で全員がスローモーションで動いている。体が重く、どんなに足を動かしても前に進まない。

 先にチャージを終えたゴリアテが太いレーザー光線を放射した。

 ホシノが空気を裂く砲撃により風圧で吹き飛ばされる。もうダメだと、諦めの感情に支配されて目を閉じる。

 ヨモギはまだ動かない。

 もう間に合わな──「させないよ!」

 間一髪割って入ったユメが盾の下を砂に刺して防御の態勢に入る。ユメの纏う神秘が盾にも伝わり、青く半透明に透き通ったバリアが二人を包んで守る。

 極太レーザー光線がバリアに当たる。重い衝撃で盾ごとユメの体が一瞬浮き上がるが、砂漠に浮いた足を突き刺して固定。目を閉じ、ほっぺを膨らませて力む。

 すると押され気味だったバリアが一回り大きくなり、レーザー光線を完全に明後日の方角へ弾いている。

 「ギャウ!」

 閉じていた目を開けて、一鳴き。それが合図となり、力尽きたユメが横に倒れるのと同時に、ヨモギの口からレーザー光線よりも大きく太い破壊光線が放たれた。

 光線同士がぶつかり合い、少しの間拮抗する。

 「ヨモギ!!頑張って!」

 「やっちゃえ、ヨモギちゃん」

 二人の声援が聞こえたのか、ヨモギは光線を吐きながら一歩前に出る。

 そして力強い咆哮をあげた。

 「ギャァァアアアアウ!!」

 太かった破壊光線がより太くなったかと思えば、次は反対に細く収束する。

 拮抗を保っていた二色の光線は、一つをもう片方が中から食い破り、一瞬の攻防の末一気にゴリアテの方へ押し戻した。

 収束された破壊光線はゴリアテの砲身、機体を難なく貫き、そのまま射線上に位置したカイザーPMC理事が乗る車両へと伸びた。

 「な、やめ──」

 車体のフロント部分が爆発して中にいた運転手や指揮官、理事が外へ投げ出される。

 

 エネルギーが切れ、光線が途切れたヨモギは疲れた体を押して、立ち上がったユメの元へ駆け出す。

 視線が合い、意図を理解したユメは盾と銃を置いて、両手を合わせて肘を伸ばし、腰を軽く落とす。

 ユメの直前で跳んだヨモギを手首辺りで受け止めたが、その重量に頑丈な上、分厚い鉄板を腕力だけで圧し折れるユメを持ってしても骨が軋む音がする。

 「いっけぇえええ!」

 渾身の力を込めて、腹からの大声と共に天高く打ち上げた。

 くるくるくるくる。錐揉み回転で宙を舞いながら、目標の頭上まで来ると、体を反転させそのまま真っ逆さまに落ちていく。

 「ギャ……ギャーウ!!!」

 鋼鉄並に硬化して鈍く輝くヨモギの頭部が、這々の体で逃げ出そうとしていたカイザーPMC理事の頭部に、急所に当たった。

 首がポッキリ半ばから折れて、液晶に砂嵐がはしり、呻き声を漏らしながら煙とスパークを出している理事。

 「理事!?」

 「ご無事ですか!?」

 「撤退!撤退だ!理事を早く病院へ!」

 意識不明の理事を抱えて撤退するカイザーに向かって、余程鬱憤が溜まっていたのか、いつもは威嚇するだけのホシノが両手でメガホンを作って「二度と来ないでくださーい」と叫んだ。

 そして、かなりの高さを頭から落ちたというのに、ケロッとしているヨモギと顔を見合わせ、ニヤッと笑ってハイタッチする。

 意図せずカイザー系列会社と戦闘になってしまったが、やってしまったものは仕方ない。借金の金利を上げられようが、カイザーPMCが報復に来ようが、明日の自分達に任せる事にした。

 最近色んな事が重なって、肉体的にも精神的にも疲れたというのもあるが……。しかし不思議と、ホシノの心に不安はなかった。

 ヨモギが後ろを振り返って元気に両手を振っている。

 そちらを見れば、戦闘中の頼りになる姿はどこへやら。ヘロヘロになりながら折り畳んだ盾の紐を肩がけに力なく二人を呼ぶユメを、やれやれとため息を吐いた。

 名前を呼ばれて嬉しそうに走り出したヨモギと共に彼女を迎え、誰からともなく互いに手を差し伸べれば、三人で仲良くアビドス生徒会室へと砂漠の道を帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイザーを撃退し、束の間の平和を取り戻したアビドス高校だったが、全員が冷静になってこれはマズいのでは?と心配になり、落ち着く為に皆で身を寄せ合って学校に数日に渡り立て篭もる。

 なんて事もしたが、結論から言えば拍子抜けする程何もなかった。

 いつも通り利子の回収に来たカイザーローンの社員も、特に変わった連絡もなく、どこか他所他所しいくらいで、現金の受け渡しが済むや否やそそくさと逃げる様に帰って行った。

 ホシノはまた何か企んでるんじゃと勘繰るが、ユメとヨモギが安心し切って抱き合っているのを見ると、心配してるのがバカバカしく思えてくるのだ。

 生徒会長のユメがいて、それを補佐するホシノがいて、マスコットのヨモギが場を和ませる。そんなアビドスの日常を皆で守っていけばいい。

 

 いつか、アビドスを復興する日が来るまで、彼女達の関係が変わる事はないだろう。

 

 

 

 「クククッ。アビドスにはまだ存続して頂かなければ困りますからね。これは未来への投資です」

 「豊穣のオシリス、暁のホルス、大地のゲブ……」

 「どれも素晴らしい神秘と可能性を感じます」

 「かの存在の妨害さえなければ、今すぐにでもその神秘を探求したいのですが、少しの辛抱ですね」

 「クククッ。いつかお会いできる日を楽しみにしていますよ……ククッ」

 

 

 




 
 な、難産でした……。
 ハピエンって難しいんっすね。
 さて、番外編のアビドス枠は残すところクロコとシロコのみ!
 ……の、予定ですが、そろそろ過去編終わらせてアビドス編に行きたいなぁと考えてます。
 
 ここまで読んでくださった皆さん。読了ありがとうございます。
 最後はかなりやっつけなので、またしれっと書き直すと思います。
 では、またお会いしましょうーさよなら〜
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