熱砂の巨獣   作:和ん子

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 「GYAAAAA──!(咆哮)」
 「grrrrr……」
 
 
 ?「ヨースター」「ブルーアーカイブ!」


本編
1話


 

 

 

 『あなた に ちから を あたえます』

 『どうか あの子 の せかい を すくって……』

 

 

 暖かな光がまぶたの上から目を焼いていき、真っ白な世界から意識が泡のように浮上する。

 空高くに灼熱の太陽、寝転んでいた背中もジリジリと肌を焼くように熱い、が案外何をもない。

 どっこいせと上体を起こすと自分の足が見えた。

 「……んん?」

 着ぐるみでも着ているのかと思うほど、記憶にある自分の足とは似ても似つかない黄緑色の爬虫類みたいなごつい足。鎧の様な鱗と鋭利な爪は映画で見た怪獣のものにも似ていた。

 手を伸ばすと、足同様手も腕も同じ黄緑色の鱗肌。

 触れてみれば岩かと勘違いしそうな硬い感覚があった。

 「……ふぅぅぅ……」

 深呼吸をして叫び出しそうな気持ちを抑える。ビークールだ自分。

 何処かに鏡があれば、自分の姿を確認できるんだがな。重い腰を上げて、一面黄色で塗り潰された砂漠地帯。どこかもわからないし、姿は変わってるしで、人間信じられない事が連続して起こると一周回って冷静になるんだなぁ。

 座っていた時はわからなかったけど、この体随分と目線が高くて、遠くに街が見えた。

 この姿のまま人に会って大丈夫かな?多分だけど、かなり怖そうな見た目をしているのはわかる。

 そうだ。砂漠ならオアシスを目指せばいい。水もあるだろうから、喉が渇いたならそこで水を補給することを決意して、方角もわからないまま俺は当ても無くのっしのっしと歩き出した。

 

 歩き始めて少しした頃、砂漠の上に敷かれたレールを発見。電車が通ってるのかと現れた人工物に感動を覚えつつ、これを頼りに行けば駅に着くのではと。

 少なくとも闇雲に歩き続けるよりは精神衛生上マシだろうと、さっきまで人に怖がられたくないとかの思考を投げ捨てあっさり方向転換。

 遠くに駅を見付けてドスドスと駆け足で向かう。砂漠にポツンとある駅には、人の気配はなくゴオオと動く機械が静寂を誤魔化しているだけ。完全に無人駅で、もしかして廃線?という嫌な想像が過った。

 少なくとも電気は通ってるみたいだし、完全に捨てられた訳じゃとか誰に言うでもない強がりを頭から振り切るように顔を上げると、駅舎の窓がキラリと光を反射させ目を細める。

 そして、窓に映った自分の姿に、驚愕と困惑と歓喜の感情が爆発した。

 

 朗報だった。

 先ず、自分の姿を見て何の生物なのかが判明した。

 前世と言っていいのか謎だが、少なくとも子供時代から会社員までずっとやっていたゲーム、某モンスターシリーズのキャラの一体で、個人的に大好きだったポケ〇ンの姿だった。それも色違い。

 仮にこの姿をバンギと呼称する。

 そして、そのゲーム作品には神が存在する。

 幼気な少女を誰の許可も確認も取らず身一つで過去の世界に送り込んだ邪神が。

 実際にゲームのオープニングではそんな描写があり、割とその世界では創造神の立ち位置でやりたい放題だったと記憶している。

 また、同じシリーズの別作品ではある日人間がポ〇モンになってしまい、相棒と共に世界を救う旅に出るものもある。

 恐らくだが、今の自分の状況としてこの二つの要素が混ざり合うという現実的でないとしても、納得できるだけの状況証拠があった。

 

 何故自分なのか?己に課された使命とは?わからないことだらけで混乱してしまいそうになるが、成るようにしかならないと開き直る。

 それもこれも自分が好きなポケ〇ンになれるなんて経験滅多に……いや、絶対にできない経験だろうから今の内に楽しんでおこうと。

 残りの理由は、この姿だ。プレイヤー同士の対戦こそレートやら人気は低迷していたこのキャラ。

 弱点が多く鈍足に近いが、こと耐久性に関しては全体の上位に食い込む程で、死にたくないし痛いのも嫌な自分としては涙が出る程嬉しく、頼りになる存在なのだ。

 一体しか捕まえられない伝説や特殊な条件や配布などでしか入手困難な幻と呼ばれた存在でこそないが、逆にそこがいい。

 不思議生物な彼らだが、定命の存在だ。寿命すらない神にでもなった日には、永遠の生という名の牢獄から逃れらない亡者となる可能性すらある。

 世界をどうこうする力なんていらない。ただ、使命があるならそれで、手の届く範囲を助けれればいい。

 

 

 姿形は変わってしまったが、目的と自己の確立が靄がかかったような思考や視界が一気にクリアにさせた。

 このまま良いことありそう!と意気込んだ直後。予想だにしなかったが、人間の少女が砂漠のど真ん中で遭難し倒れていた。

 「救助ォォ!!」

 砂の上を走るより泳ぐ方が速い。急いで彼女の側に行き、巨体を活かして直射日光を遮ると顔を近付けて呼吸を聞く。

 か細いが、まだ生きている。恐らく脱水と熱中症を引き起こしてるから、慌てて水を探すが砂漠にそんなものはない。

 ならば、日陰に移動させようと両手で抱え……不思議な事が起こった。

 さっきまでなかったはずの岩が砂の中から隆起した。

 もしかして技か!?バンギは分類として鎧と言われている怪獣の一種。繰り出す技は怪獣ができそうな事はほぼ網羅していると言って良い技範囲を誇る。

 その事に気付けば、さらさらと頭の中に使える技の一覧が浮かんでくる。何だこの便利機能!?

 邪神って言ってすみませんでした!

 それよりも早く岩を水の噴射で中をくり抜き人が入れるスペースを作る。そして冷気を纏った拳で岩の一部を氷結させて大きな氷塊で上がった熱を冷ます。

 その氷を掴んで溶けた水滴を少女の口に落ちるようにする。飲んでくれ頼むから。

 祈る様に待っていれば、無駄にいい聴覚が確かにゴクリと喉を鳴らした音を拾う。

 嬉しさと興奮で騒ぎたくなるが病人の手前とこのまま水滴を飲ませ続ける為に我慢する。

 

 かなり少女の顔色も良くなって来た頃、定期的に氷の補充の為壁殴りを繰り返していれば、遂に少女の目が開いた。って……何ですかその天使の輪っかは!!?

 人じゃないのか?覚醒と同時に出現した頭上の晄輪に驚き固まっていると、彼女はこちらを認識して掠れた声で誰かの名前を呼んだ。

 知り合いか、家族か、もしくは恋人か。死ぬ間際に見た幻影の名前を呼んだようで、また目を閉じて、しかし胸の動きで呼吸は続いているのが確認できひと安心。

 そんなことを繰り返していれば、意識がはっきりしてきたらしい。掠れた声で叫び声を上げられるようになった。

 

 まあこの見た目だしなぁ、と今更ながらわかっていてもやはり初対面で叫ばれるのは辛い。

 しかし言葉を話せない今では、それを相手に伝える事も難しい。

 それに、砂漠で行き倒れていたなら早く病院に行った方がいい。幸いにも街の方角はわかっている。近くまで運んであげれば誰かに助けを求める事だってできるはずだ。

 自分の役割はそこまで無事に送り届ける事。

 よし、先ずは彼女をむんずと掴んで背中に乗せます。

 驚いて声も出なかったようだけど、その方が好都合。忘れないように大きな盾やら荷物も背中の棘に引っ掛けて、砂を泳ぎながら街へと進む。

 暢気な子なのか、暫くすれば背中を触ったり辺りを見渡したり、携帯の充電が切れてて「ひぃん」なんて泣いていたり百面相していた。

 

 さっきの駅に着けば、少女からのお願いで通信機器と思われる場所まで運ぶ。そうか、電気が通ってるなら通信で助けを呼べばいいのか。

 喋れないから完全に頭から抜けていた。

 「もしもしホシノちゃん?私だよユメだよ。ごめんね、砂漠で遭難しちゃって……ひぃん。あ、えっと場所は──」

 迎えが来るだろうし、予想よりちょっと早かったが彼女とはここで別れた方がいいだろう。

 通信はまだ終わってないが、その場を後にする。

 

 

 「うん、あ。ちょっと待って。ここまで送ってくれた人……人?がいるの。お礼を言わなきゃ……あれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠を泳ぐの楽しー♪

 女の子を送り届ける任務が終わって、また暇になってしまった。

 自分のことを調べようにもわかるのはゲームの時のように技を使えること。その技は本来なら特殊な方法で覚えるものも含め、シリーズ通して全て使えた。

 元々冷気を纏った拳は技レコードという道具を使わないと使えないのだ。それが使えたというのは大きい。

 それと、苦手なタイプの技を受けるとどうなるか。

 瀕死状態になったら死んでしまうのかなど、調べようにも難しい事はある。

 もし、戦闘になった時果たして人間相手に戦えるのか……今の自分にはわからなかった。

 まあ、元の世界でも人に向けて思いっきり破壊光線使うトレーナーもいたから大丈夫でしょ。

 食料は少ないが、過ごし易さ感じるこの砂漠を自分は気に入っていた。

 さっきの少女と同じ遭難者を出さない為にもこの砂漠で巡回を……。街からそう遠くない場所に何かが多数移動して来るのを察知した。

 何やら大量の資材やらを車に積んで運んでいるし、並走するバイクには人型の無骨なロボットが運転しており、物騒な銃を携帯している。残念ながらFPS系のゲームはやったことがないから銃の種類や弾の威力はわからないし、今のロボットが乗る装甲車の名前もわからない。

 こんな砂漠で何するつもりだと観察していると、後方の車から一際大きな体を持つロボットが高そうなスーツを着て降りてくる。

 

 「むぅ……砂嵐が出てきたな。おい!急いで目的地に向かうぞ!」

 「「「ハッ!」」」

 砂埃を上げ、車を発進させるロボット集団。動物由来の、ポケ〇ンとしての本能かわからないが、妙なきな臭さを感じて砂中に隠れながら一団の後を追った。

 

 暫く行くと連中の目的地と思われる建物が見えてきた。と言っても半分以上が砂に埋もれているし、人の気配はない。看板らしき字を見れば日本語でアビドス本校と書いてある。

 確か助けた女の子も同じ校章を付けていたような?

 廃校っぽい場所で彼らが何を始めたるか思えば、大きなドリルやショベルカーなどの重機が学校の敷地内だろう土地をドンドン掘り始めた。

 「何しとんじゃワレェ!!」

 足下の砂から飛び出して、驚くロボット達を薙ぎ倒しながら穴を掘り続けるドリルに馬鹿力で突進した。

 大きく傾いてなお止まらない回転する螺旋に噛み付き、赤熱化した牙から炎が漏れる。ドリルの刃が溶けだして噛み砕いた。

 バラバラになったドリルの一際大きな破片を両手で持ち上げ、ロボット達の中心に投げ付ける。

 もっとパニックになるかと思ったが、軍隊らしい指揮官の声ですぐに隊列を整えている。銃を向けられているが怒りからか恐怖は微塵もない。

 大きく咆哮を上げて、自分を中心に砂嵐を呼び起こす。

 突然視界を塞がれて多少混乱していたが、それでも撃ってくる弾丸は、硬い鎧の皮膚に傷すら付けられない。

 懸念していた銃の脅威はなく、ただ敵を殲滅する。

 「波乗り!!」

 砂の下、さらにその奥から感じた水源を無理矢理汲み上げ、大津波として砂ごとガラクタ共を押し流す。大半は土砂に埋もれて動けなくなったが、先の指揮官やスーツのロボットはまだ健在だ。二度とここへ来れないよう痛め付けて──!

 

 真横から可視化される程太く、自分の大きな身体を飲み込む光が放たれこの身を焼いた。

 砂が漏れなくガラス化する超高温のレーザー。そんなものを人様に撃つとは何事だ!自分じゃなきゃ死んでるぞ!

 何やら逃げ出しているロボットから標的を変え、この力を十全に発揮できる相手を睨みつける。

 「お返しだ!破壊光線!」

 口を開き、膨大なエネルギーが集まる。地面に尻尾を叩き落として姿勢を固定。狙いは白い機械の化け物!

 発射した光線は油断していたのか、機械の首の付け根辺りを少し抉り取った。

 寸での所で躱されたのがさらに怒りのボルテージを上げる。

 砂に潜り、今までで一番素早く泳ぐ。あのレーザー光線は少なからず鎧に傷を付けた初めての攻撃だ。他の攻撃がないとも限らないし、速攻でぶっ壊す。

 「パワージェム!」

 宝石に近い鉱石を多数浮かせ、石のエネルギーを引き出して光線を放つ。威力はそこそこだが、牽制には充分。

 かと思いきや、機械の蛇は側面から複数のミサイルを撃ってきた。パワージェムの光線で撃ち落としつつ、爆発をものともせず一直線に突き進む。嘘だ。少し痛い。

 「鋼タイプにはこれだろ!気合弾!火炎放射!」

 砂中で気弾を作り、一瞬砂から飛び出して敵に投げ付け、砂中から火炎放射を放ちながら進む。

 気合弾は装甲が凹んだがあまり効いてるようには見えず、火炎放射は装甲の表面が融解する程度。どちらも決定打に欠ける。

 純粋な金属じゃない?──鋼単タイプじゃない?──なら、考えられる可能性はあの頭上にある円環か。女の子と似た様なものみたいだが、いかんせん情報が少な過ぎる。

 高火力の技で押し切るか(脳死)。

 「ストーンエッジ!」

 顎の下辺りから鋭い岩が隆起して奴の頭をかち上げる。

 「かーらーの、岩雪崩!怯めやこの鉄屑が!」

 上を向いたまま空から何故か無数の岩があの巨体を埋め尽くさんと降り注ぐ。こんな感じになんのか。

 突如何も無い所から岩が出現して驚いた様子の機械蛇。理由は違うが概ね目論見通り。

 右手を左手で包み、腰を落として力を溜める。

 奴がこちらの狙いに気付いたが、もう遅い。

 「気合い……パンチ!!!」

 目の前の機械の胴体に渾身の力を込めた拳が命中し、衝撃で装甲は貫通し、ひしゃげ、バラバラに砕け散り、剥き出しの回路やケーブルに向かってバチバチと放電で火花を散らす牙を突き立てた。

 「雷の牙──!!」

 ついついポケモン世界の常識で考えていたが、ポケモンとは全く違う人間や、機械であるならば寧ろ人間だった頃の常識が通用するのでは?と。

 「内部からぶっ壊れろ!10万ボルト!」

 機械の蛇の反応はわからない。全然効いてないのか、回路が故障して動かないのか。ただ、確実に敵は動きを止めた。

 「もいっちょオマケだ!雨乞いかーらーの……雷ぃぃぃい!!!」

 得意の天候を敢えて雨に変え、雨天で必中になる高火力技を敵に落とせば、白い装甲は所々黒く焦げて頭の輪っかが電球みたく点滅して消えた。

 雨を吸って固くなったはずの砂に巨体が倒れ込み、半分程沈む。

 「ふぃぃ……疲れた。アドレナリンドバドバ出てた……雨も止んだし、今日はもう休むか」

 ズシン……ズシン……と重い足を動かして、辿り着いた学校の校舎前で身体を丸めて眠る。

 あのでかい機械の蛇や学校を壊そうとしていたロボット集団……わからないことだらけだが、ちゃんと戦えていたし、なんとか、なる……よ、な……。

 

 

 てんてんてけてん♪

 

 

 目が覚めて欠伸と両手を上げて軽く伸びをする。

 この身体になって自由に動かせる尻尾もぐぐっと伸びる。

 「さて……かなり歩いたし、戦って腹も減ってる。まずは飯だな」

 今日も今日とてカラッとした砂漠地帯。草木なんてあるはずもなく、昨日地下から汲み上げた穴を頼りにオアシスを探すことに。

 地中深くに存在した地下水路を泳いで移動する。

 穴は掘る必要がないくらい広く、自分の大きさでもすんなり通れている。

 何度か道に迷ったが、ようやく開けた場所に出た。ここから上に上がればオアシスに出るはず──!

 

 そう思っていた時期もありました。

 「枯れてんじゃんオアシス!?」

 滝登りは覚えていないが、ポケモンの技は時に物理法則を捻じ曲げる。

 波乗りを使う為に遠くの水を引いてくることができたなら、その応用で自分を水で包んで頭上の砂を押し除けながら推定オアシスのど真ん中から派手に飛び出す想定だったのに……。

 見事に枯れ果て、辛うじてわかる砂の窪地に今なお噴き出している地下水が噴水の様に砂漠の砂を湿らせ、濁った水溜りを作る。

 オアシスのすぐ下にあったこの爆弾の様な玉を幾つか見つけたし、他にも見たこともない鉱石がバラバラになって沈んでいたのでついでに掘り起こしておいた。

 いや、この身体になって岩も食べれるのかな、と。見つけたら見つけたで絶対に食べようとは思わない。だって岩だし。

 普通に果物がいいな。こう、火を吹きそうなくらい辛いヤツ。そういや、味覚も変わったのか?昔は甘いものの方が好きだったのに。

 バンギは攻守共に優れているけれど、この状況は植物を操作できるポケモンの方が良かったのかな?とないのもねだりをしてしまう。

 いや、この身体じゃなきゃ昨日のロボット集団を蹴散らすことも巨大機械蛇と戦うことすら難しかったはずだ。生き残ること優先ならこの姿が大正解。間違ってなんかない。

 でも……ぐぎゅるるるる〜。

 「腹減ったなぁ……」

 

 地下から汲み上げた水を腹一杯に満たして、空腹を誤魔化したら水問題は解決したし、オアシスの周辺に植える植物の種を探そうと広い砂漠をまた歩き出す。

 あの時、女の子が何を思って砂漠に来ていたのかわからないが、自分ですら空腹でこの様だ。普通にぶっ倒れるに決まってる。

 そうだ!人が住む街に入るのは無理でも、砂に埋もれて捨てられた土地になら、缶詰でもいい。まだ食べられるものがあるかもしれない!

 善は急げと、街から少し外れた屋根近くまで砂に埋もれた民家が並ぶエリアに辿り着く。

 のっしのっしと良い嗅覚を頼りに飯の在処を探して歩き回っていれば、こんな灼熱地獄の中で暑苦しいフルフェイスヘルメットを被った少女、うんスカート履いてるし多分少女がこちらに銃を向けて震えていた。

 「こ、ここから先には行かせないわよ!」

 「え?君ここに住んでんの?」

 「貴方なんか怖くないんだからね!」

 「あーやっぱ言葉は通じてないか、はぁ。はーいちょっと退いてね」

 「うわあああ!?」

 首根っこを掴んで道を開けさせる。

 地面に下ろしたら腰を抜かしたのか、へたりと座り込んでしまった。ごめんね。

 民家から咆哮だけで砂を吹き飛ばし、中にも砂が入り込んでいたが、そこまで酷くなさそう。他にも明らかに柱が折れてる廃屋があったりするしそこも調べてみるか。

 まずは開けた扉から手を伸ばして……うーん、山のような巨体じゃ、中に入るのは難しいみたいだな。

 中の探索は諦め、屈んでいた身体を伸ばして顔を上げると、さっきの子と似たヘルメット集団に銃を向けられ包囲されていた。

 「リーダーを離せ!」

 「怪物め!その子を食べるつもりなんだろ!」

 「食べないが?って撃つなよ!?この子に当たるぞ!?」

 先のミサイルに比べれば彼女達の豆鉄砲など屁でもないが、近くで動けずにいる少女を守る為弾が当たらないよう覆い被さると余計に銃撃が増した。何故?

 今もチュィンチュンチュン!と跳弾した弾丸が顔の横を通っていった。人間だった頃の感覚が肝を冷やす。

 こんな時に使えそうな技は……あった!

 「GYAAAAA──!(いい加減にしろ──!)

 吠えるだ。

 野生での戦闘は自分よりレベルが低い相手に対して必ず成功し、強制的に戦闘を終わらせる技!

 吠えるの効果で、その場にいた全員が最初の子と同様にその場にへたり込む。

 ふぅ、とりあえず何とかなったか。

 庇った少女の首根っこを掴んで少女達の前に座らせる。全員何が何だかといった感じで頭にハテナを浮かべていた。

 説明したいが言葉が通じないからな。諦めて別の倒壊している家屋の屋根を退け砂を退け、目当ての缶詰を見つけた。あ、でも缶切りがないな……どうしよ。噛んで缶だけ出すか。

 「ね、ねぇ、それ食べたいの……?」

 「ん?そうだが?」

 こくりと頷くと、ヘルメットの少女は俺の手から缶詰を奪って缶切りで開けてくれた。それをこちらへ差し出してくる。いいのか!?

 「はい。さっき銃弾から庇ってくれた、でしょ?あげるわよ」

 「サンキュー!腹減ってたんだよ!恩に着る!」

 中身は鯖缶で小さいが非常に懐かしい味に思わず叫ぶ。隣で少女がまた驚いていたが気にせず爪を使って綺麗に平らげた。

 空き缶を地面に置いて手を合わせる。

 「ご馳走様。まだまだ足りないがとりあえずは腹に入った。ここは彼女達のテリトリーらしいし、追い出す訳にもいかないしな……仕方ない」

 缶を開けてくれた少女に一つ頭を下げてお礼を言い……って言葉通じないんだった。早々に立ち去ろうとした。

 「ちょ、ちょっと待って!」

 「ん?まだなんか……あ、もしかして見返りとか?」

 「貴方強いんでしょ?ヘイローも無いのに銃弾くらってもピンピンしてるし」

 「まあ、それなりに」

 「じゃあさ!私達カタカタヘルメット団の用心棒をやってくれない?報酬は食料とか、他に欲しいものがあればできるだけ集めるわよ」

 「え、いいの?見たとこ君らも困窮してそうなのに」

 「何?デカい図体してるくせに遠慮してるの?見た目に似合わず大人しい奴ね」

 その後、少女につられてヘルメット団なる仲間に紹介され、危険がないことを身をもって証明された。

 こうして、ひょんな事から俺は生活を共にする仲間を得たのだった。

 

 

 ヘルメット団に所属してわかった事がある。

 この世界についてだ。

 何でもこの街の名前はキヴォトスといって、何十何百と大小様々な学校が覇権を争っているらしい。特に三大校と呼ばれるトリニティ、ゲヘナ、ミレニアム。なにそれキヴォトスは戦国時代か?

 教えてくれた子は元トリニティ生で、テストや生徒の陰湿ないじめについていけなくなったとか。

 その中で各学校を統括してるのが連邦生徒会。そこの生徒会長で、何でも未来を見るかのように事件を解決する超人らしい。

 学園に所属しているのが学生として最低限のステータスであり、自分達は他所から集まって来た落伍者。つまりストリートチルドレンなんだとか。

 え、マジかよ。おいおい連邦生徒会仕事しろ。

 ヘルメット団は自分達以外にも色んな派閥があり、年に一度は集会と称したリゾートでの祭りがあるらしい。

 他にもここはトリニティとゲヘナ両方に隣接するアビドス自治区。砂漠が広がる未開の土地でありながら昔は栄華を極めたキヴォトス一、二を争うマンモス校だったとか。

 現在は、砂漠化が進み、断続的な砂嵐のせいで街が飲み込まれ生徒もかなり減って実質廃校扱いらしい。

 とある企業がここカタカタヘルメット団に依頼してその学校を制圧。多額の援助をする代わりにアビドスを私達の自治区に出来た暁には、多少の融通を聞いてもらう。

 そんな契約を企業の大人から提案された、らしい。

 正直、は?だわ。

 詳しい事情はよくわからないが、アビドス本校を潰そうとしてた奴らと十中八九同じ企業だろうと当たりを付ける。

 「貴方も来ない?学校が手に入ればこんなギリギリの生活をする必要もなくなる!ここに流れて来た子達も養える!お願い……」

 「……」

 心苦しいが、少女の願いをはい喜んでと快諾する訳にはいかない。俺はまだあの少女の事情も知らない。このままこの子達について行けば、間違いなく敵対する事になる。

 それは俺も望んでいない。

 どうにかして、その学校にこの子達を転入させられないものか……。

 元トリニティの少女は派閥やイジメにウンザリしていた。となると学校自体にあまりいい印象はないが、仲間の為に自ら代表になって仕切る。という事だろうか?

 言葉が通じればな……としみじみ思う。

 返事はせず、少女の頭を軽く撫でてこの場を後にする。襲撃するにしても武器や弾薬の調達で時間がかかるだろう。その間に先にその学校へ向かう。地上のロボット……機械人や他の頭上に晄輪がある生徒、その他犬猫などの動物達に見つからないよう地下を掘り進む。

 陥没しないよう気を付けながら、恐らくだが目的地の真下に着いた。

 来てみたものの、ここまでノープラン。あの時助けた少女が話を聞いてくれればまだ可能性があると思いたい。

 当然生徒は彼女だけではないだろうし、彼女の立場次第では却下されるかもしれない。

 「ええい!出たとこ勝負だ!男は度胸!」

 意を決して上へと掘り進め、遂に地上へと顔を出した。校庭らしく、校門と校舎の玄関口が左右に見える。ここまで砂嵐の影響があるのか。街中では戦えないな。自分が砂嵐の原因だと思われそうだ。

 校舎内に人の気配を感じて、しばらくこのまま待ちの姿勢。こちらから攻撃することはないと態度で示したい。

 ガラッと窓が開いたが、顔を出さず二人かな?何やら言い争っている模様。というか生徒が少ないとは聞いていたけど平日なのに学校に生徒二人しかいないって、もう地方の限界集落だろ。

 そういや教員はいないのか?人間の大人を見たことがないから、街に行けば会えるかもと思ったんだが。

 「おーい!」

 「ん?やっと来たか」

 呼ばれて顔をそちらに向ける。気配ではわかっていたが、やはりあの時助けた水色の髪の少女で間違いない。手を大きく振りながら此方へ駆けて来る姿から、無邪気さしか感じない。

 「ユメ先輩!危ないですって!あんな凶悪そうな奴勘違いですよ!ああもう!」

 「ごめんね。苦労かけるね」

 ユメと呼ばれた少女の後を追いかけてピンク色の髪で小さな少女が銃を構えながらも、やって来た。警戒されて当然なのでそれについては何も言うまい。

 「久しぶりだな。元気になったようでよかった」

 「あの時助けてくれてありがとうね!本当に危なかったらしくて一日病院で検査入院したんだよ」

 「一日だけ?え?頑丈過ぎない?」

 ポケモンである自分もゲームの設定上、回復薬やポケセンに預ければすぐに回復はしたけど、もしや君はマサラ人なのかな?

 「ほらほらホシノちゃん。こんなに大人しいんだよ?触っても大丈夫!」

 「ユメ先輩は警戒心が無さ過ぎです!……はぁ」

 マジでごめんな、面倒事持ち込んで。

 でもこっちも切羽詰まってるからさ。大目に見てくれ。

 ヘルメット団から借りて来たヘルメットを取り出して頭に乗せた。

 一人は驚き、もう一人は警戒を強くする。

 銃を持つポーズを取って、構えて撃つフリをする。その後、指を指すのは学校の校舎。身振り手振りで襲撃を知らせるが、伝わっただろうか?

 「……何ですか?喋れない……のはわかりましたけど、ユメ先輩は?」

 「ん〜?多分、あのヘルメットを被った人達がここに来るんじゃないかな?」

 「襲撃ですか!?……でも何でこいつがその事を?そいつらの仲間だったりして」

 仲間じゃないけど、一食の恩はある。襲撃については通じて良かった。だが、ここからが正念場だ。

 「ヘルメット団って言うんだが、その子達は退学者でな?この学校に転入できないか?転入するのに何か問題があったりするのか?」

 「うーん、いまいちよくわかりません」

 「私も、今度はちょっとわからないや……ねえ、君は何を私達に伝えたいの?」

 伝わらないかぁ。うーんマジでどうしよう。自分としては両者に戦ってほしくない。というかお互いに情報交換できれば、黒幕についてももっと確信が持てるのに。

 「あ!文字を書けばいいのでは!?そうだよ、何でこんな簡単な事に気付かなかった!爪でいいや」

 「「?」」

 爪で書くなんて慣れてないからかなり歪んだけど、ヘルメット団を生徒に迎えてほしいと書いて伝えた。

 「……もしかして文字ですか?下っ手くそな字ですね」

 「ホシノちゃんそんな事言ったらかわいそうだよ!……ひぃん、なんて書いてるのかわからないよ〜」

 マジかー。言葉は日本語に聞こえるんだが文字が違うパターンってそりゃそうだ。ポケモン時空でもアルファベットをもじった表記だったのを思い出して頭を抱える。

 「あー詰んだ。俺の頭じゃ他にいい案なんて浮かびそうもない……」

 「何なんですかねコイツ」

 「ホシノちゃん、ちょっとここで待っててね」

 「え?あ、はい。コイツを見張ってればいいですか?」

 「うん、って違うよ!?この子はいい子だから、準備してくるね」

 「はぁ……?」

 ホシノだっけ?ピンクの髪でさっきのユメとは色んな意味で正反対な子。今も手にしている銃は俺に向けられていて、警戒心をこれっぽっちも崩しちゃいない。

 「おい、デカブツ。偶然だろうけどユメ先輩を助けてくれたのは感謝する……でも!それとこれとは話が別だ。ユメ先輩はあんなだから警戒心薄いけど私は違う。もしユメ先輩を騙すような事があればその時は……」

 「早い早いそれに怖いから。んな事するわけないだろってあ、通じないんだったな。はぁ……」

 降参のポーズ。伝わるかわからないけど両手を上げて首を振る。ホシノがフン、と一息入れたところで校舎に走って行ったきりのユメが戻ってきた。

 「お待たせー!ぎゃんっ!?」

 途中で躓き転けていたが。顔からいったみたいだが大丈夫か?

 「ユメ先輩っ!?大丈夫ですか!怪我は!?」

 隣にいたはずのホシノが凄い速度でユメの隣へかっ飛んでいった。え、早過ぎない?もしかして加速持ち?

 「ぺっぺっ。うへぇ砂が口の中でジャリジャリするよ〜」

 「どれ、見せてみな」

 俺も近付いてみればユメの顔は涙や鼻水、涎に砂が付いて砂のパックをしてるみたいになっていた。

 「派手にやったなぁ。渦潮」

 ヘルメットの子達から貰ったペットボトルの中に地下水を入れておいた。開封して手の上で回転させながら流れを作る。

 「「……」」

 「これで洗い流したらいい。……何見てんだ?」

 「お前……そんなこともできたんですか?」

 「すご〜い!ぺっぺっ!これで洗っていいの?」

 「いいぞ」

 ずずいと顔に寄せると目を閉じて渦潮の中に顔を突っ込む。ぶくぶく言ってるが、こんな小さな渦じゃそんな強くない。

 「スッキリしたよ〜ありがとう!」

 「どういたしまして。んで?どこに行ってたんだ?」

 ユメが持っていた紙?を見るが何やら文字を書いている。

 「これ?これはキヴォトスのあいうえお表だよ」

 「それで?これを持ってきた理由は?」

 「この子に文字を覚えてもらおうと思って」

 「文字をって……まあ確かに会話を理解しているようですし、さっきの手品も……頭はそこまで悪くなさそうですし」

 「でしょ?言葉が通じるなら文字だって簡単だよ!」

 「というか、これを持ち出すくらいなら一緒に中に入ったら良かったんじゃ……何ですか?」

 俺とユメは思わず発言者のホシノを振り返った。二人の視線に、本気でわからないといった表情を浮かべるホシノとは対照的にニンマリと笑みを浮かべるユメ。

 「えへへ!ホシノちゃんは随分この子と仲良くなったんだね!」

 「え……あ!こ、言葉のあやです!!」

 

 使われずに放置された空き教室の机を運び、廊下(背が大き過ぎて扉を潜れない為)にて現役JKによるお勉強が始まった。

 「これが文字の一覧で……あから順にこう移動するの」

 ユメが説明する紙に書かれていた文字は何と日本語だった。思わず頭にハテナが浮かぶ。キヴォトスは日本だった?いや、台湾とかポルトガルとか日本語を勉強する国も確かにあるみたいだし。

 じゃあ単純にさっきの俺の字が汚すぎて解読できなかっただけじゃないか!

 ユメが張り切って俺に教えようとしてくれているが、事実に落ち込みながらも、爪で紙を破らないよう気を付けながら指し示していく。

 ホシノが先に気付き、ユメも俺の行動を見て爪先に視線を集中させる。

 

 「ヘルメット団が数日後に学校を襲う。依頼人は不明、ただし企業であることとアビドスを狙う理由があるところまでわかっている」

 「本題だが、ヘルメット団の多くは他学校からの退学者だ。新しい生徒としての受け入れ、転入を考えてくれないか?」

 

 大方上記の内容を二人に伝える。ちゃんと伝わったと思う。

 ユメはいつもの柔らかい雰囲気はなく、ホシノも眉間に皺を寄せている。

 「ユメ先輩、これは……」

 「うん、でもこれが真実ならこれまで続いてた襲撃の理由もわかるし、アビドスに生徒が増えるかもしれない!」

 「そんな美味しい話がある訳ないじゃないですか。コイツも生き物に見えて実はミレニアムが作った最新のロボットかもしれませんよ?」

 「その時はその時だよ。私がこうしていられるのは、それもこの子が助けてくれたおかげ。何か恩返ししないと」

 人助けをしてそれが皆を助けることに繋がるならとっても素敵なことだと思うよ。ユメが朗らかに笑いながら言う。

 ホシノはぐぬぬと数秒考えたが、諦めたのかたっぷりと大きなため息を一つ吐いてユメの案に賛同した。

 あとは、ヘルメット団の子と交渉しないと。

 「俺はこれからヘルメット団にアビドス転入の件を伝えてくる。これはほんのお返しだ。何かの役に立ててくれ」

 以前枯れたオアシスで見つけた爆弾に似た火薬玉や珍しい鉱石をありったけ置いていき、アビドス高校を後にした。

 

 

 

 





 ここまで読んでくれてありがとう。
 反響が良ければ続きを書こうかなと思います。

 では皆さんさようなら。良い年末を
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