氷原の果てを求めて   作:ひトリび

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目指すは最奥:7℃

 

咲き誇る根のない花

真っ黒な雪

人間の手に似た何か

ウルサス将校の亡霊

そしてエトセトラ…

 

今言った全てが存在する場所、それがサーミ氷原である。

サーミ氷原はウルサスとクルビアの中間、その更に北にある地域。

 

“ミイラ取りがミイラになる”そんな言葉は今のサーミ探索の状況を表すには適切な言葉と言えるだろう。

地獄が地獄を呼び、一歩その地を踏めば通信機器がノイズを生む。コンパスの針は狂い、正確に方角を示すのは己の感覚と天啓のみ。

テラで最も有名な未開拓の地。

しかし無人な訳ではない、以前の第一探索隊からの微かな情報を運良く受け取った我々は、サーミ氷原に人類が生存している事を知った。

 

 

ああ、気になる。そこに何があるのか、何が隠されているのか。

我々はサーミ氷原の魅力に取り憑かれてしまった、それでもこの狂気を取り払うつもりは毛頭無い。

この狂気は天からの御告げだ。

 

『サーミ氷原の果てへと向かえ』

 

そして、その言葉は今ではもうただの天啓ではない、私達の精神を歪ませている。

居ても立っても居られない、直ぐに向かわなくては。

 

見たい、そこに何があるのか。

知りたい、それが何を生むのか。

進みたい、我々の望む全てはその先にあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は今、サーミ氷原の入り口にある探索隊の小屋へと向かっている。寒気が震えを生む、興奮が熱を生む。私はサーミ氷原の入り口の遥か向こうを眺めながらここに辿り着いた。

20人、それが今回の探索隊の隊長を含む全ての隊員だ。

 

 

おっと私の名前を言っていなかったな、私はエッジ。と言ってもこの場においての私の名は“No.11”だ。

専用の隊服の肩の部分に書かれた番号が私の名を決定している。

 

…それじゃ、探索隊の小屋を覗いてみるとするか。

私はサーミ探索隊と書かれた看板を横目に、小屋の扉を開けた。

 

 

 

 

中は案外明るく、それは空気感もだ。

各々の隊員が椅子やソファに座りコミュニケーションを行なっている。

2、4、6………18、19。そして私で20人。私が最後の参加者だった様だ。

私も椅子に座って休ませて貰おう。

 

 

 

 

「よし、これで全員揃ったな」

 

“No.1”と隊服に書かれた、隊長らしき者が皆へと呼びかける。

私の他の者と同じ様にコミュニケーションでも行おうかと思っていたのだが……椅子に座る前には隊長は口を開いていた。随分とせっかちな人だ。

 

「それではこれを。重要な計画内容は知っているだろうが…細かい事を知らない者が殆どだろう。先ずはこの資料を見てくれ」

 

配られた資料には、現在分かっているサーミの地形が書かれていた。地形図の至る所に線が引かれていてポイントとして、生物環境などが示されていた。しかし殆どが空白、或いは虫食いの様な状態。我々がこれからこの空白を埋めるのだろう。

裏には赤、黄色と黒と危険な代物である事が一目で分かる様にされていた。悪魔や危険生物、本来あり得ない自然現象など命に関わる存在が全てびっしりと印刷してある。これを私達がこれからこの目で観測するのだと思うと、震えが止まらない。好奇心か畏怖か分からないが私が私で居られなくなる感覚がこの身を通った。

 

「それでは資料は各々後で見る、という事で他に大切な事を伝えよう」

「私達は最初に2つの班に分かれる、No.1から10。No.11から20に分かれる事になっている」

「そして……質問があるみたいだな。良いぞ」

 

「質問なのですが、何故二つの班に分かれる必要が?そしてこちらで分けるメンバーを決める事は出来ないのですか?」

「前回行われた。最初の探索隊が失敗した原因は隊が突発的な事故で瓦解してしまったからだと私は考えている。その対策としての分断だ」

「そして二つ目の質問だが……これはそれぞれの能力を判断しての事だ。参加する為のアンケートに君達も答えただろう、それだ」

 

ふむ、あのアンケートにはそんな意味があったのか。

真面目に答えて良かったと安心する、変に見栄を張らなくて良かった。見栄を張っていればしていれば困ったのは私の方だっただろう。

 

「それでは今日最後の命令だ。前半の班の隊長は勿論私だが…後半の班には隊長を決めて貰いたいと思っている」

「隊長は自分達で決めてくれ。まあ、私はNo.11が適任だと思っているが……。それでは分かれるとしよう。前半の者は私の近くに——」

 

No.1はそう言い下がった。既にNo.1はお気楽に前半の隊と話している。

 

我々は急遽、隊長を決める事になってしまった様だ。それだけなら良いのだが。

悪い事に推薦されてしまった。

 

 

 

「……取り敢えず集まろう。後半の者達は私の所に集まってくれるだろうか」

 

とにかく私は合流を急いだ。最悪の場合、私が隊長をしても良いのだが………。

まずは交流、そして最もリーダーに向いている者を探そう。

 

幸運な事に社交的な人が多くて助かる。孤立して自分勝手にする者がいない事は議論が円滑に進むという事だ。

全員が腰を下ろした事を確認して、私は口を開こうとした…。

 

 

しかし先に他の者、No.12が話し始めた。

 

「すみません。私に隊長をやらせて貰えませんか?」

「いきなりだな、俺はそれでも良いけど。みんなはどうなんだ?」

 

No.12が隊長を立候補した事について、若い男が反応する。男は驚きながらも、他の者の反応を探る。

…誰も意を唱えるつもりは無いらしい。

これで彼女がリーダーになることが決まった。立候補するという事はそれだけの自信があるのか、それとも他人に手綱を握ってほしくなかったのか。どちらにしても相応の信用はできる。

 

「…まずは自己紹介でもしませんか。番号で呼び合うのは些か面倒でしょう、それに名前の方が親しみも持ち易いですから」

 

賛成だ。その方が良いだろう。

 

「では私から。私はヴォリオス、隊長になったからにはサーミの真実を解き明かそうと尽力します」

 

「私はエッジ。名前で呼んでも、No.11と呼んで貰っても構いません。よろしくお願いします」

 

「俺の名はハンガー。ライン生命の職員で要請されて来た。探索の目的はライン生命の研究施設をサーミに造るため…だな」

 

「………オヒューカス、儂は——————」

 

隊長をヴォリオス隊長を最初にそれぞれが自己紹介を始めた。

その中には何処かで聞いた事のある様な者もあった、有名な学者や巨大な企業に所属している者もいた。彼らも中々の狂人、氷原に魅了された者は老若男女問わないとはこういう事だろう。

 

 

自己紹介を終えた後、ヴァリオスはNo.1に呼ばれなにやら重要な書類を受け取っていた。これは隊長の特権だろう。隊長になっておけばそれの中身を知る事が出来た、そう思うのは後の祭りだろうか。

 

正午から我々は探索を開始する事をヴァリオスから告げられた。

出発まで数十分、その間に道具の支給が行われる。今作戦では、自分が持って来た道具と支給された道具を使って探索を行う。

支給された物は食料と水、ハーネス、必要な者にはアーツユニット、そして既に着用している隊服。

これからサーミ氷原の探索に向かうというのには、余りにも少ない支給品だと言える。しかしこれは思った通りだ、今回の探索に使う道具などは各々が持ってくる様にと最初から言われていたのだから。だから隊員同士が道具を共有する事は難しい。殆どが私用の物なのだから。

アーツユニットなどはもってのほか、感染者にそれは必要ないが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは出発する。No.12達は少し後方からついて来る様に。何かあればすぐにその通信機を使ってくれ」

正午を回った瞬間、アラームが鳴る。

瞬時に私達はバッグを背負い準備をする。

 

雪を踏む音が鳴り響く、サーミは探索隊を歓迎している。

先の者達がサーミ氷原の地を踏んだ事を確認する。羨ましい。

私達の少しすればその足跡にこの足を重ねるのだろうと考えると……武者震いが止まらない。

 

「……その…貴方は今回の様な経験をしているでしょうか?」

No.20ルクス。私が道具の点検をしていた時に話しかけて来た、ひ弱な男性。私と同じくクルビア北部の山脈を越えてここに来たらしい。時刻が重なれば登山の途中に出会う事もあったのかもしれない。

彼曰く、自分は登山もした事がなく今日が初めて。探索隊に申請した事もこれが初めてとの事。

初めてで山脈を越えるとは只者では無いセンスをしているが……何より怖いのは本人がこれを異常だと認識していない事。それでも彼がマトモ何部類である事には変わりない。

 

「自分で言っては何ですが、この様な経験はは数え切れない程有りますので。助けが欲しければ言って下さい、初めての調査が死因になっては欲しく無いですからね」

「…それはどうも…有難うございます。…先程からずっと震えてる様ですが寒いのですか?もしそうでしたら、私がアーツで——」

「いえ、お構いなく。ただの興奮症状です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァリオスが指示を出す。

瞬間、私と数人の足がサーミの雪を踏む。

他の者が続けて足を運び、氷原へと侵入する。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■』

 

私にはこの啓示を読み取る事は難しいが……これがサーミが起こす異常現象なのだろう。

我々がサーミに赴いた事を再度、認識する。

 

サーミには自然環境の源石濃度が低く、鉱石病の心配は要らないが気をつけるべき最悪が蔓延っている。

前回の探索隊の影が一つとして確認されていない事がその証明だろう。

 

 

 

我々は今、酷く冷たい地獄へと踏み出した。

極寒の中に潜む何かを見つける為、知的好奇心が全身を駆け巡る。

依然として全貌が把握されていない地域、サーミ。

研究者なら、探索者ならその言葉に取り憑かれるのも無理はない。

何故ならサーミに常識は通じないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

天を穿つ勢いで積もる雪

森の部族と共に足を動かして移動する大樹

祝福を授けるアンマーの愛

氷原にのみ根を張る特殊な植生を持つバブルフルーツ

 

この時の我々はそれらを知る事は無かったが。いつかはその目に映るのは明白だろう。

 

 

 

サーミの祝福よ、サーミに在り

サーミの意思よ、我等を見る

 

 

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