プロジェクトBOOJUM 作:四色定理の証明者
そのスナークがブージャムなれば、汝は瞬きの間に静かに消えうせて、二度と現れることはない。斃せる唯一の手段は儚くも鋭い希望を心臓に突き付けるのみ。
200X年 新宿区藍空市
小型核の放射能さえ遮るであろう分厚い鉛の装甲を持った、大型トレーラーが乱雑に薙ぎ倒される。
そのトレーラーに乗っていたのは、先程まで平和であったこの市を、突如地獄へと変貌させた少年ガウス・ゴール大佐。
ガウス大佐は、己の生命を脅かす怪物“ジャバウォック”から逃走している最中だった。
彼は様々な戦場を経験した老獪な軍指揮官でもあり、直ぐに状況を確認した。
だが、何度確認してもその原因は一つしか見付けられない。
それを引き起こしたのは、生身の人間の正拳突きだった。
「
何れもエグリゴリの生み出した各系統の
そうだろう? そのはずだろう?
「
本能的に、人間相手に使うには少々不適切な言葉を作ってしまった少年の肉体を持った老将ガウス・ゴール。
彼はテレパス、透視、超再生等の超能力者達の遺伝子を加えた上で若返らせた自身のクローンに、歴戦の老兵達の脳を移植した軍団、レッドキャップスの指揮官だ。
先程、トレーラーを薙ぎ倒した少年だった。
年齢は中学生か高校生あたりだろう。
見た目の年齢はそう離れていない。
背は高かったが、顔付きは未だ幼かった。
黒髪だが、顔付きには西洋めいた雰囲気があり、多くの人はハーフだと思うだろう。
黒を基調とした和柄の、スーツともドレスとも言い難い服装は異彩を放っていた。この
暗い夜空の下にも関わらず、嘲笑う側の少年の影は昏く蠢いていた。
何よりも、その影は─────獣の
「
僕はね、
ライカンスロープ。
それは、超古代文明に存在したという伝説の
近年では都市伝説的にフランスやアメリカにて目撃例があったとされるが、その真偽は怪しく、とある財団の発表においては、既に絶滅したとされている。
そんな怪しげな名前を騙る奴に時間を取る訳にはいかない。
何故ならガウスは
「名前だけならな。
忙しいというのに、よくもよくもトレーラーを壊してくれおって!!
…その名を冠するお主がどういった能力を持つ人間か、その血に聞いてみるとしよう。この、
「くくく、あーはっはっは…失礼。
しかし、今のは良いジョークだった」
ナイフを向けたガウスに対して、黒衣の少年は笑いを堪えられないといったサマを隠そうともしない。
「良いね。実に良い。
僕の事をライカンスロープの名前を冠した人類の進化系のひとつだと認識していた訳だね。
成る程成る程、
これは、そっくりさんに勘違いされる御本人という奴かな。
だが…正直、偽物扱いは傷付いた」
「何じゃ、その言い振りは…。それじゃ、お主はまるで、まるで本物の……」
ガウスは漸く気が付いた様だ。
そもそもトレーラーを正拳突きだけで薙ぎ倒した時点でおかしかった。
気が付いてしまったのだ。
これは、人間の枠組みでの強弱の決め合いではないと。
もしかすると追い掛けてくるであろうジャバウォックと同じ怪物であるかもしれない、と。
夜よりも暗く、恐怖よりも昏い少年の影には、一対の翼が生えていた。
「…笑わせてくれた礼をさせてくれ。
本物の
とある理由を持って凍結された
僕は人の血で
さあレッドキャップス、優雅で高貴な血の啜り方を教示してあげよう。
魅せてくれるか? 人間。
怪物を倒すのは、勇者様のお仕事だ」
本能的な部分で、ガウスの脳裏に敗北が
しかし、相手は一人だ。
透視能力、テレパス能力、そして再生能力を兼ね備えた身体に、長年の実戦経験を蓄積した脳を移植したガウス・ゴール大佐が負けるハズがない。
ガウス・ゴール大佐は超人だ。
負ける、ハズが、無い。
ガウスはナイフを投合した。
それは黒衣の少年の眉間へと吸い込まれ────そのまま背後の壁に弾かれて地に落ちた。
直感的な恐れは、間違いではなかったとガウスは漸く理解した。
そんな超人の視界に夜より昏い、影が躍る。
己達が狩人だと思っていた
「ブージャムには、君達レッドキャップスが
ガウスの足が唐突に折られる。
何度も、何度も。
ガウスが足を超再生させて逃げようとする度に、何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、手も触れずに手折る。
子供の手遊びの様に弄ぶ。
何度も再生を強引に繰り返したガウスの膝関節は急激に老化しているが、しかしてガウス本人さえそれに気が付かない。
痛みと恐怖によって、冷静に判断し得ない。
しかし、吸血鬼は突如サイコキネシスを使わなくなった。
ガウスは、傷が治ったにも拘らず、体重を支えるのが精一杯になった両足で走るが、速度も出ず、時折こけてしまう。
それでもガウスはその原因を己の恐怖と、再生が追い付いていないせいだと思っていた。
ガウスは逃げ出した。
幸いにして2回曲がり角を曲がった後には吸血鬼は背後にはいなかった。
逃げられた、ガウスはそう判断した。
ルイス・キャロルの書いた『スナーク
何せ、ブージャムと出遭ってしまえば最後、“瞬間、汝は無音に消え失せて、二度と顕れることはない”とされるからだ。
スナークの住む島には、ジャバウォックやバンダースナッチもいると言えば、更に危険度も分かるだろう。
そして、
ガウスが逃げ出した先に、
「いつの間にっ…!!」
周囲の街灯が一瞬で消えて、周囲は闇に包まれる。
それはきっと、夜よりも昏い闇だった。
その証拠に、赤外線すら視認するガウスの透視能力を以ってすら、そこには闇以外の何も映らなかった。
「あっ、あああ やめろっ!! やめ────」
しかし、現実はこのザマである。
明かりが戻る。
ガウスの視界にも再び明るさが帰って来た。
彼は未だ生きていた。
彼は未だ、生かされていた。
回復した視界には、先程トレーラーを運転していた部下の背後から首筋に牙を突き立てた少年がいた。
少年は牙を抜いて話す。
「誰かに能えられた
勇者とは、誰かに希望を与える勇気を持って
乾涸びて萎れたレッドキャップスを、中身を飲み尽くしたペットボトルのように投げ捨てる吸血鬼。
投げ捨てられたレッドキャップスは灰となって闇へと溶ける様に消える。
どこまでも傲慢で横暴な吸血鬼。
されど、その姿は残酷な程に美しかった。
「
君達はスナークを狩る勇者だろう。
一秒だって、一瞬だって、
さあ、その希望で僕を追い立てて、その勇気をブージャムに突き立てて魅せてくれ」
美しい少年の姿は既に見えない。
透視能力を持つレッドキャップスであっても視認不可能。
だというのに、声だけはしっかりと聞こえてくる。
ガウスはもう少年の姿を見たくもない。少年の声を聞きたくもない。
しかし、美しい声の持ち主は、獲物を逃がすつもりは無さそうだった。
ルイス・キャロルの詩の内容と現実が同じでない事には不満が隠れていなかったが…。
「どうしたんだ。
君達が勇者だと聞いたからやって来たのに。
…これではスナークを狩るのか、スナークに狩られるのか分からない。
ブッチャーとビーバーの間にも友情は生まれるというけれど、こうも詰まらなくてはそうもいかない。
────終わりにしよう。
…
────闇が血を啜る。
悲鳴と懇願だけが響き、其処には希望も勇気も見えなかった。
希望も勇気も無くなってしまえば、後はスナークに襲われるしか無い。
爪で切り裂かれ、牙を突き立てられ、影に呑まれる。
勇者でなく村人が怪物と出遭えば、必然的に待ち構える末路が其処にあった。
哀れな被害者は無音に消え失せて、二度と顕れることはないだろう。
だが、怪物は満足しない。
怪物にとって村人を襲うのは日常であって、己を愉しませる特別なものではない。
怪物が求めるのは、
勇者の存在意義が人々を救う為に悪を倒す事ならば、怪物の存在意義は勇者に倒される為に悪を為す事だ。
次なる目標を求めて怪物は彷徨う。
否、彷徨うというには、余りにも足取りは確かだった。
「高槻…涼、高槻…………涼。それと…きっと知っている血の匂い…」
明確な意思を持って
その末路には取り敢えずの決着として、新しく進むべき
そこに、いつの間にか
「誰っ!?」「誰かしら」
最も早くその少年に気が付いたのは二人。
ARMSを移植された者達も特有の共振によって気が付いたが、それよりもこの二人の方が早かった。
一人は現状世界最強のテレパシスト“エンジェル”ユーゴー。
そしてもう一人は、世界最強の傭兵の片割れ、涼の母親でもある高槻美沙。
「……貴女が、そう言うか。
まあ、仕方無いよね。
だって貴女とは十カ月程度しか一緒にいなかった。
今の僕を見て理解してくれる、なんて期待はしていない。していなかったとも」
何処か西洋風の顔立ちの少年の視線は、コーカソイドであるユーゴーではなく、高槻美沙の方だけを見ていた。
美沙は未だ状況を理解出来てはいなかったが、それでも少年が襲って来た場合の対処をする覚悟と準備は出来ていた。
だが、致命的に何か、決して攻撃してはいけないという直感が働く。
働いて、しまっている。
「高槻涼は貴女の息子なのかな?」
「ええ、そうよ」
視線が交錯する。
「血が繋がらなくても?」
「心は繋がっているわ」
引っ掻く様な歯軋りの音がした。
黒衣の少年の表情が、歪んだ。
「…そうか、高槻涼。
やはりお前だけは、許さない!!」
ARMSを持つ者達は共振により、少年が何らかのARMSを使っている事を悟る。
倒れていた周囲のレッドキャップス達が起き上がる。
それらは少年が現れる前のガウスの引き起こした状況に似ていた。
ガウスはプロジェクトレッドキャップスの失敗作、若返りをした己のクローンに脳を移す際に自我が崩壊した生ける屍を操っていた。
状況はそれに酷似していた。
違いは、操られているのは自我が崩壊した生ける屍等ではなく、完全に老衰した死体という事だけだった。
少年にテレパシーで操られていると判断したユーゴーが、咄嗟に
────死体には、テレパシーが通じない。
次いで、紫外線、熱源、血流や筋肉の動きさえも全てを見透せる眼球のARMS保持者である久留間恵が起き上がったレッドキャップス達を確認するが、心臓の動きが不自然である事に気が付いた。
「コイツら、心臓が動いて血が流れているんじゃない。
勝手に血が流れて、オマケで心臓が動いているわ…!!」
「御名答。彼等の中には先程ナノマシンを流し込んだ。
血中のナノマシンを動かす事で、彼等は再び動き出した。
謂わば
先程まで敵だったとはいえ、死体を玩具として扱うやり方を認められる者はこの場には黒衣の少年以外はいなかった。
「君達にはコイツらと遊んでいて貰う。…大丈夫だ、殺しはしないさ。────君達
言外に、別の誰かは殺すという少年。
そしてその視線の先には、高槻涼がいた。
「一つだけ教えてあげよう。僕はね、君がジャバウォックであることなんてどうでも良い。君が、高槻涼だから殺すんだ」
スタジアムの照明が揺れるように消えた。
少年の姿が闇に消える。
「どんな理由でっ!!」
高槻涼の声に少年は答えなかった。
久留間恵はその
グール達は全て恵達に送られており、高槻親子には向けられていなかった。
まるで、邪魔はしないとでもいうように。
「十年ほど前かな、高槻という一族には金属生命体との融合適性がある事が分かった。高槻涼、君の叔父からね…」
高槻涼の叔父、即ち高槻美沙からすれば夫の弟の情報が出た事により、美沙の視線は更に鋭くなった。
彼女の夫が家を空けて世界を駆け回っている理由は、里の裏切り者である実の弟を殺す為だからだ。
少年の声は闇の中に反響していて、何処から話しているかも判らない。
それは闇全体が話し掛けてくるようだった。
「よく隠れているわ。
でも、殺気がダダ漏れね」
しかし、高槻美沙の拳銃は明確に少年を捉えていた。
美沙は違和感を封殺して引き金を引いた。
銃口だけが暗闇の中で光る。
「ああ、痛い痛いなぁ。
拳銃の事じゃない。肉親に切り捨てられるって、本当に痛いよ。ねぇ、母さん」
「えっ?」
美沙の手から放たれる発砲の音が止まる。
闇の中に少年の姿だけが浮かび上がる。
そして彼女は、攻撃してはいけなかった致命的な違和感の理由を悟る。
「叔父さんがエグリゴリに鐙沢村を売った時、ある物をエグリゴリは持ち出したそうだ。伝説の傭兵夫婦の息子…として産まれる筈だった死産児。その遺骨と臍の緒を」
「臍の緒…。あの時、探しても見つからなかったのは…。そんな、まさか…」
高槻美沙は最悪の想像をしながらも、それを制する精神力の持ち主ではある。
しかし、残念な事に最悪の想定は現実だった。
「トライデントという組織の助力もあり、エグリゴリは金属生命体との融合適性を持つ死産児を再生させた。バンパイアの因子を使ってね。想像の通りさ、母さん。
さあ何方を選ぶ。
高槻美沙はそれでも冷静だった。
暗闇に再び潜んだ
しかし、それらの銃弾は既に急所から外れる様にはなっていた。
「僕だってね、一度は帰ろうとしたんだ。しかし、既に高槻涼が我が物顔で其処にいた。解るかな、この感情が。
僕はね、今回ARMSとして存在しているジャバウォックを封印する任務を得た。嬉しかったなぁ。この手で組織の許可を得て合法的に高槻涼を抹殺出来るなんて」
姿は視えなくても、喜悦が声から伝わって来る。
「がぁっ!!」
直後、高槻涼の腹部が裂けた。
咄嗟に美沙は発砲した。
その銃撃は正確に闇夜に潜んだ少年の心臓付近を射ち抜いた。
暗闇が晴れる。
スタジアムの照明が揺れながら戻って来る。
グール達も倒れ、再び死体に戻った。
其処には、血濡れた少年が倒れていた。
少年は首だけを向けて美沙の方を向く。
「酷いや、母さん」
心臓を撃ち抜かれた少年はそう呟くと、致命傷とは程遠いかの様に立ち上がった。
「そんなに
先程まで拡がっていた闇が凝縮されたかの様に、血濡れの少年の背後に集まり、昏い翼が出来た。
「さあ、殺し合おう高槻涼。互いの居場所を賭けて」
少年の身体が変質する。
涼達はそれをよく知っていた。
「ARMS完全体…!?」
涼の言葉の通り、それは全身がナノマシンで構成された怪物、ARMS完全体であった。
その姿は、翼の生えた霧に似ていた。
「まあ、それに近いものさ。分離コアでしかない君達とは違うけれどね。さあ、行こうかブージャム」
突如として、涼の身体はスタジアムの壁に叩きつけられた。
それを正確に理解したのは、
「これって、兄さんの…」
「間違いないわ、ユーゴー。これは
気が付いた彼女達に拍手を送るブージャムと化した吸血鬼。
「そう。世界最強のサイコキネシスト
クリフ・ギルバートには追悼と尊敬の意を。もっと早く来れたら、あんな
言外にクリフ達X-ARMYへの敬意を表す怪物。
「彼を殺すのは、せめて僕であるべきだった…。
彼は僕の血として永く生きるべきだった…。
そうでなくとも、彼は生まれ持って優れた側だった。
経験を積んだだけの老人とその加担者共に、吸わせて良い存在ではない…っ!!
生まれ持って優れた人間は、人間以上の存在として、いや、人間以外の存在として崇められるべきだったっ!!」
しかし、その怪物からは、何処か人間を選別する香りがした。
「言っておくが、僕はエグリゴリの連中とは違う。
君が君の意思でジャバウォックにならずに死んだとしても、僕は高槻涼を殺せたというのなら、それで構わない」
「まて、君はエグリゴリじゃないのかっ!?」
そう問い掛ける涼への返答は、当然という様な傲慢な笑顔と、無慈悲なまでのサイコキネシスだった。
物を動かしてぶつけるのではなく、力そのものを涼へと行使している。
涼も仕方なくジャバウォックの完全体となり、その力そのものを引き裂いた。
だが、それは少年にとって織り込み済みだったようだ。
一瞬で完全体を解除して元の人間態に戻ると、ジャバウォックを爪を屈んで躱した。
そして両腕だけをARMS状態にして────
「サイコブロー」
────
涼は精神打撃という特殊なダメージにより、ジャバウォックを解除される。
「ARMSの力の源は精神だとするのならば、僕の精神で君の精神を砕けば終わる。これに関してはARMSの抗体も働かない」
倒れ込む涼。
「テメー、よくもやってくれたな」
「次は僕たちが相手だ」
高槻涼が膝を付いて倒れた事で、残り二人の戦闘型のオリジナルARMS適応者達が攻撃体勢に移行する。
「…君達には、何の恨みも無いんだけれど」
少年は裸体を闇のマントで隠しながら真顔で答えるが、喧嘩っ早くキレやすい新宮隼人はそうはいかない。
「好き勝手やって自分はスッキリしたからそれでオシマイ。なーんて理屈が通るワケねーだろーがっ!!」
一方でホワイトラビットの被移植者である
「何となく君の境遇は分かったのだけれど、だからといって高槻君にあたるのは良くないと思う。怒りをぶつける先はきっと違うハズだよ」
新宮隼人とは違うアプローチをかける武士に対して、少年は好意的に見えなくも無い表情を見せる。
「そうだろうね、それが何か?」
其処には理解出来ない倫理観の差があった。
言葉による対話は難しい。
ならばこそ、力による対話しかない。
「こいつをブッ倒す力をくれ
「行くよ、
(隼人、コイツは我らとは起源を異にする存在。危険度は私を以てして計り知れない)
(アレは確かにARMSではある。だがアリスの作ったARMSではない)
「煩え!! 騎士っていうんならバケモンから仲間を護る時につべこべ言うんじゃねぇ」
「どう生まれたかなんて、今は大切なことじゃないよ白兎」
だが被移植者達はそれを意に介さないと其々の移植部位に告げる。
(間違いない…なれば!!)(どのみちアレを、アリスに近付ける訳にもいかない。故に!!)
((力が欲しいなら、くれてやる!!))
2体の完全体ARMSが顕現する。
それは新宮隼人である騎士と、巴武士である白兎。
「君達を無為に殺す気は無いが、歯向かうというのなら仕方無い。終わらせようか
少年もまた己に、正確には己の中の何かに語りかけて変幻する。
その姿は、牙を持つ霧に似ていた。
両陣営が今まさに激突せんとする中、この様な町中には通常来る事は無いはずの、それでいてこの日に限ってはガウス大佐率いるレッドキャップスによって何度も運用されていた軍用ヘリが近付いてくる。
そのヘリから身を乗り出すように見ている者達がいる。
それは、ARMS同士が接近した時に生み出す共振が教えてくれた通りの人物だった。
「あれが…」
「嘘だ、嘘だ!!」
「キース!! オレと
「キースが四人!? どうなってやがる」
「初代アリスの欠片達、か」
ARMSを移植された者達の反応は様々だったが、吸血鬼の少年だけは驚愕ではなく無粋なものを見るような目で見ていた。
そして、何をする事もなく再び飛び去っていった。
まるで今回の事件の結末と、ARMSを持つ者達を眺めに来ただけとでもいうように。
「興が削がれた。また殺しに来るよ、涼くん。
それまで死なないでね、君を殺すのはこの僕なのだから」
ARMSの完全体を解いた少年は再び闇の衣を纏い、そのまま夜の闇に同化して消えた。
軍用ヘリの中で、よく似た顔の四人が話している。キースシリーズと呼ばれる同じ遺伝子から誕生したエグリゴリの支配者達だ。
彼等には戦闘用に調整されたARMSが組み込まれている。
それは、彼等の基となる遺伝子保有者が、ARMS適合因子を持つ事を示している。
正確には多くのキースシリーズの中から、生き残った四人。
彼等は非人道的な実験により成り立つ軍事力と世界中のインターネットを支配するアリスによって、
「あれがブルーメンの切り札、オリジナルのARMS共か。他愛もない」
「セカンダリスもいたね、シルバー兄さん。彼は厄介だよ。
ブラック兄さん、不確定要素は消した方が良いのかな。何なら
「グリーン、それは駄目だ。彼にはトライデント残党が目を付けている。流石に今の段階では
正確には唯一の女性であるキース・バイオレットだけは沈黙していた。
どうか、彼等が歩みを止めませんように。
人の足を止めるのは絶望ではなく諦観
人の足を進めるのは希望ではなく意思
意思がある限り、人は前に進める。
だけれども、もし叶うのであれば、彼等が歩みを止める事で安寧を手に入れられるのならば、どうか留まって欲しいとは、彼女の立場では願えない。
彼女はキース・バイオレット。
エグリゴリの四人の指導者の一人。
多くの部下を抱える存在。
逃げ惑う仔兎達を追い立てて追い立てて、そして最後には狩る存在。
金糸雀を襲う猛禽の側。
(ママ・マリア、私は未だ迷っています)
彼女を今の彼女へと導いてくれた黒人の老婆を思い浮かべ空を見上げた。
空には薄く雲がかかり、小さな星は掻き消されて見えない。
見えるのは、星よりも遥かに眩さを持つ月だけ。
三日月だけが彼女を見返していた。
ライカンスロープなのに獣人じゃなくて吸血鬼の方。サイコブローなのにAMSuitsじゃなくてARMS。そんな主人公。
ARMSも恵が星(アザゼル)の意思と対話して終わったし、スプリガンも染井吉乃が星(ガイア)の意思と対話して終わった。
やはり大切なのは対話による決着だってハッキリ分かんだね。