クロス・ワールド――交差する世界――   作:sirena

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第二十話

 梅郷中学の校門前、昼休みも半分が過ぎた頃。スカーレット・レインとの対戦を完勝に近い形で終わらせたヨミが、ふうっとため息を漏らしながらグローバルネットから切断して、現実世界へと意識を戻していた。

 

「これで後は、サヤ先生に報告するだけ……か」

 

 赤の王スカーレット・レインとの対戦は、実をいえば彼女自身が望んだものではない。ブレイン・バーストという異質な対戦ゲームに対して積極的なマトやカガリと違い、ヨミはそれほど強い関心を抱いてはいないからだ。バースト・リンカーになった理由も、仲の良い親友達が遊んでいるので自分もそれに付き合おうと思っただけにすぎなかった。

 

「ユウもサヤ先生も何を考えているのか知らないけど、面倒事はやめてほしいものね」

 

 そんなヨミが赤の王に対戦を挑んだのは、サヤから頼まれたからである。上の世界ででクロム・ディザスターが出現し、その正体が赤のレギオン――プロミネンスのメンバーだという情報が入ったので、赤の王から直接確かめてくるように言われたのだ。

 赤の王が自身の領土を離れてグローバル接続しているのを知っていたことといい、一体どこからそんな情報を得ているのかと思ったが、何時ものように深くは考えないことにした。数年前の虚の世界の一件といい、サヤとユウのことを常人の物差しで考えても仕方がない。何処からか、独自の情報網でも作り上げているのだろうとヨミは結論づけた。

 

 ――二代目赤の王スカーレット・レインか……、案外たいしたことなかったかな。

 

 かつて上の世界で死闘を繰り広げた相手、純色の七王の一人。先代の赤の王レッドライダーの雄姿を思い出しながらヨミは内心で呟く。圧倒的物量を誇り、何度でも蘇るが故に無敗を誇った己の死者の軍勢(レギオン)を、神速の早撃ちで殲滅させられたのは実に鮮烈だった。骸骨兵士の群れの一部を突破して向かって来る敵は数多くいたが、その全てを蹴散らしてみせたのはB★RSを除けば初代赤の王しかいない。

 

 中央で行われたその対戦は、レッドライダーと一対一の勝負ではなかった為に不完全燃焼な形で終わってしまう。B★RSやチャリオットと共に戦闘を仕掛けてきた七王の攻撃を凌ぎながら、ポータルの位置まで移動して脱出したのだ。それ以降はお互いに不干渉という盟約が交わされ、それから間もなくして初代赤の王レッドライダーは黒の王ブラック・ロータスの手によって加速世界を永久退場させられてしまった。

 

「さて……と、休み時間が終わらない内に報告を済ませておきましょう」

 

 不思議ともやもやする思考を振り払い、気を取り直してヨミはサヤの待つあさやけ相談室へと歩を進めていく。校舎の中へと戻ってから数分と経たないうちに教室の前にたどり着き、ドアを開けた。

 

「失礼します」

「あら、おかえりなさい。早かったわね」

 

 爽やかな笑顔で出迎えるサヤを視界に入れながら、ヨミはソファの上に座った。

 

「コーヒー淹れるけど、お砂糖の量は何時もと同じでいい?」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 仮にも王の一人と対戦してきたところだというのに、何時もと変わらない様子でコーヒーを淹れ始める彼女の姿に毒気を抜かれてしまう。信頼されているのか、或いは負けても構わないと考えているのか。ヨミにはわからなかった。

 

「それじゃあ、報告の方を聞きましょうか」

 

 コトリ、と目の前に置かれたコーヒーを一口飲んだ後。ヨミは話し始める。

 

「やはりすんなりと教えてくれるはずもなく、軽く対戦することになりましたが……特に問題なく押さえられました。それで二代目赤の王スカーレット・レインから聞き出した情報によると、最近になって出現したクロムディザスターの正体は情報通りプロミネンスのメンバーで間違いないようです。デュエルアバター名はチェリー・ルーク。レベル六のバーストリンカーのようですが、何故彼が災禍の鎧を持っていたのかは赤の王もわからないと言っていました」

 

 対戦中に赤の王から得た情報は、プロミネンスのメンバーがクロムディザスターであることを裏付けるものだった。しかし、肝心の災禍の鎧の出所は不明とのことだ。

 

「ふぅん、なるほどね。クロムディザスターがプロミネンスのメンバーなのは間違いないけれど、赤の王は災禍の鎧については知らなかったと」

「はい」

 

 ヨミが頷くと、サヤは両腕を組んで考え込むような仕草を見せた。

 

「そう、そういうこと。まぁ、そういう可能性も考慮していたけれどね。それで、赤の王はどうするつもりなの?」

「……不可侵条約を破って他のレギオンを襲っている、チェリー・ルークを粛清するつもりのようです。ですが、一人では難しいので協力者を探していると」

「それで、中立的な立ち位置にいる黒のレギオン――ネガ・ネビュラスに接触しようとしていたってことね。生半可な実力のバーストリンカーでは役に立たないけれど、前回のクロムディザスターと交戦した経験がある黒の王ブラック・ロータスなら戦力として加えるのに申し分ないから」

 

 加速世界において最大の規模を誇る六つのレギオンの間には、お互いの対戦を禁ずるという不可侵条約が結ばれている。レベル九に到達してその過酷なサドンデスルールを知った王達が、加速の力を失うことを恐れて交わしたものだが、その条約の為に二代目赤の王スカーレット・レインは追い詰められているらしい。

 先代が結んだ公約に苦しめられているだなんて、スカーレット・レインも哀れなものね……とヨミは思った。

 

「それにしてもサヤ先生、前回クロムディザスターが現れた時に私達は七王と協力して討伐しましたが。クロムディザスターはそんなに危険な存在なのですか?」

「……そうね、どちらかといえばクロムディザスター自身よりも災禍の鎧の方が問題だと私は思うわ。装着した者の精神を乗っ取るなんて、あまりにも異常すぎる」

 

 珍しく真剣な表情で話すサヤに、ヨミもまた楽観視していた自身の考えを改めた。クロムディザスターは過去に討伐したことがあるが、今と当時では事情が違う。七王がお互いに協力していた前回とは異なり、現状は敵対しているとはいわないまでも牽制し合っているような状況なのだ。

 

「災禍の鎧は私達と七王が協力してクロムディザスターを討伐した後、誰のアイテムストレージにも移っていないことを確認して消滅したはずです。それがどうして今になって再び出現したのでしょうか」

「考えられる理由としては、七王の誰かが偽りの情報を告げていたってことかしらね。装着すると精神汚染を起こすなんて他に類のない装備だから、そうだとは言きれないけど」

 

 サヤはそこで言葉を区切り、今後の作戦行動についての話へと切り替えた。

 

「とりあえず、王の誰かが裏で手を引いている可能性がある以上は慎重に動くべきね。クロムディザスターが中央にアクセスする時刻は分かっているのかしら?」

「それについては問題無いみたいですね。クロムディザスターになったバーストリンカー、チェリー・ルークは赤の王の親にあたる人物だそうで、特定することは十分に可能なようです」

「チェリー・ルークが赤の王の……、そう、それは辛いでしょうね」

 

 サヤの言葉を聞き、ヨミはチェリー・ルークのことを震える声で話していたスカーレット・レインの姿を思い出した。仲の良い親友が変わってしまい、それを止めることのできなかった自身への後悔か。王として制裁を与えなければならない、己の立場への苛立ちか。その両方が含まれているようにも見えた。

 

「でもサヤ先生、スカーレット・レインがネガ・ネビュラスと接触し協力を仰いだとして私達はどうするんです? 彼女達が向こうへアクセスする場所や時間が分からなければ、協力しようがありませんが。もう一度私が接触して聞き出しましょうか?」

「そうね、確かにそのとおりだわ。恐らく近日中にでも赤の王は黒のレギオンのメンバーの誰かしらに接触するでしょうから、彼女(・・)にそれとなく探りを入れてもらいましょう」

 

 ヨミの脳内で、自分達と協力関係にある一人の女生徒の姿が浮かぶ。

 

「彼女に、ですか。でも流石に正確な時間までは無理なんじゃ……」

「それで問題ないの。ある程度の予測さえできれば、後は私が向こうへアクセスしてなんとかするわ。今まで教え子のあなた達にばっかり頑張ってもらっちゃってたんだから、私も少しは働かないとね」

 

 さらりと告げられた衝撃の事実に、ヨミは目を見開いて驚く。

 

「え! サヤ先生が加速世界へアクセスするんですか? それになんとかするって一体どうやって……」

「加速世界でブラックゴールドソーが持っていた能力がなかなか面白いものでね、それを利用するの。ふふっ、長い時間をかけてようやくアクセスする方法が見つかったんだから、少しは楽しめる場所であってほしいものね」

 

 目を薄く細めながら、サヤが手に持ったカップのコーヒーを見つめて呟いた。

 

「そ、そうですね」

 

 うっすら笑みを浮かべる彼女に、ヨミは内心で冷や汗をかきながら同意するしかないのだった。




皆さんお久しぶりです。
艦隊これくしょんというゲームに嵌ってしまいさぼっていました。
もう大体の人から忘れ去られてるような気もしますがとりあえず更新しました。
クロムディザスター編が終わるくらいまではちゃんと書きます、たぶん。
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