夕暮れとなり、太陽が沈み始めた放課後。昼休みに黒雪姫から上の世界――無制限中立フィールドについてレクチャーを受けたハルユキは、とぼとぼと下を向きながら帰路についていた。
頭の中を占めるのは、自身のここ最近のふがいない対戦成績のこと。そして、今まで以上の強者がいるであろう無制限中立フィールドのことだった。レベル四以上まで到達した者だけが、行くことを許される
飛行アビリティ。加速世界において、唯一無二といえるその強力なアドバンテージで、ハルユキは連戦連勝という成績を築き上げていった。黒のレギオン結成より一週間後にはシルバー・クロウのレベルは二に上がり、一ヶ月が過ぎた頃には三レベルまで上がってみせたのだ。しかし、そんな快進撃も対策を組まれることで終わりを告げてしまう。空を飛んでいる間は遠距離火力を持つ相手にとって格好の的であるという弱点が発覚して以来、ハルユキことシルバー・クロウと団体戦をする際には必ず遠距離射撃能力を持つバーストリンカーが現れるようになり、ようやくレベル四に上がった所で長らく足踏みするはめになっていた。
なんとかして、敵の遠距離火力を回避できるようにしなければこの先は進めない。そのことを、ハルユキ自身が一番理解している。その為に、一か月前からタクや先輩に内緒で独自に訓練を始めたりもしていた。しかしその成果は今だ目に見えるようなレベルで体感できておらず、せいぜい回避できる割合が二割から三割に上がった程度でしかなかった。
焦る必要はない。そういってくれるあの人の言葉に頷きつつも、ハルユキは足手纏いとなっている自分が許せないでいる。自分を信じてくれるあの人の隣に立ち続けるためにも、幼馴染の親友と今度こそ対等な関係であり続けるためにも、もっと強くならなければならない。どんな敵にも負けないくらい、強く、強く――。
――強くなりたい。
地面を睨むような目で見つめながら歩くハルユキの思考は、それだけで埋め尽くされていた。そうしているうちに、ふと顔をあげてみれば自宅のマンションの前に着いていたことに気づく。はぁっと息を吐いて固くなっていた表情を和らげた後、自宅の中へと足を運んだ。
「ただいま……」
と帰宅時の決まり文句を口にしつつも、玄関を通って自室へ向かおうとしたところで、ハルユキの歩みにブレーキがかかった。誰もいないはずのリビングで明かりがついていることに気づいたのだ。
――あれ……、母さんが消し忘れていったのか?
不思議に思いつつも、ハルユキはリビングのへと足を踏み入れて――、
「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
有りえないモノを見た。
「え、……え?」
どこかの小学校の制服とおぼしき白ブラウスと肩紐付き紺スカートに身を包み、その上からピンクのエプロンを重ねる見ず知らずの少女が、キッチンの前に立っていたのだ。目を大きく開いたまま硬直するハルユキに、名前もしらない少女が明るい声で話す。
「――あ、ごめんお兄ちゃん。今クッキー焼いてるから、もう少し待っててね♪」
目の前の現実に思考が追い付かず、フリーズして固まる少年に笑顔でお兄ちゃんと呼びかける少女の図。そんな混沌としたそれが、シルバー・クロウこと有田ハルユキと二代目赤の王スカーレット・レインで知られる上月ユニコの初会合だった。
――その後。持ち前の疑り深さで少女の正体を見抜いたハルユキと、正体を知られたユニコの間で一悶着があったりしたのだが。無理矢理ブレイン・バーストの対戦へと持ち込まれた結果、赤の王である彼女に惨敗したハルユキは黒のレギオンメンバーを交えた話し合いの場を作るように約束させられてしまうことになった。
ハルユキの女難は、どうやらまだまだ終わりそうにないようだった。ある意味幸せなのかもしれないが――。
多くのバーストリンカー達が、真の対戦場と呼ぶ地、無制限中立フィールド。それは時間制限が設けられていない、通常対戦とは異なった空間のことを差す。この場所ならば、何年でも継続して接続し続けていられるのだ。そして現実世界に戻った時、僅かな時間が経過しただけとなる。それは最早、現実とは異なる別世界――加速世界といっても過言ではないだろう。
「グォォォォォッッ!!」
そんな加速世界の大地で、けたたましい咆哮が響き渡った。無制限中立フィールドにのみ存在するNPC――通称エネミーの叫び声だ。プログラムによって生み出された加速世界の住人たる彼らは、それなりの実力を持つバーストリンカーが複数人集まってようやく倒すことができる強敵である。だが、そんな強者であるはずの彼に現在危機が訪れようとしていた。
「ふーん、見た目は立派だね」
それは、小さな女の子の姿をしていた。十メートル近い巨躯を持つエネミーとは比べるまでもない、矮小な存在だった。巨大な足で踏みつぶしてしまえば、それだけで終わるだろうという格差が両者の間には存在していた。
――だから、エネミーは己の危機を察することができなかった。
タンッ、と少女が地を蹴り出す。力強さなんて微塵も感じられない、軽い踏み込み。しかし少女はたったそれだけで、十数メートルもの高さまで飛び上がっていた。あまりにも一瞬の出来事であった為に、姿を見失うエネミー。その頭上へと降下していく少女。そして――、
――エネミーの頭部が地面に激突し押し潰された。
世界が震えるような爆音が轟き、地面に巨大なクレーターが生まれる。悲鳴を上げる余裕すら与えられず、一瞬の内に絶命したエネミーは自身に何が起こったのかも理解できないまま光の粒子となって消滅した。絶対的強者であったエネミーを、一撃のもとに破壊したモノの正体。それは
「あっけないなぁ、拍子抜けしちゃったよ」
めり込んだ腕を引き抜きながら、つまらなさそうに小柄な少女が呟く。黒ずくめの服とフードに身を包み、口元を隠すその姿は非常に可愛らしい。ただし――両腕に装着された馬鹿でかい
「……ユウ、勝手に飛び出したりしたら私が一緒に来た意味がない」
不意に、見知った声が耳に入った。共にアクセスしたB★RSが、唐突に飛び出していった自身の後を追ってきたらしい。無表情ながらも咎めるような口調に、ストレングス――ユウは振り返って謝罪した。
「ああ、ごめんマト。久しぶりにこの姿になったせいか、気が昂っちゃったんだよ」
加速世界に慣れ親しんだマトと違って、自身は今回が初めての体験だった。だから、エネミーに対する万が一の備えとして彼女に同行してもらったのだ。にも関わらず、エネミーを発見した途端に向かっていったのは杞憂に終わったとはいえ、褒められた行為ではなかったとユウは内心でも反省する。
「そぅ、分かればいい。それで身体の方の調子はどう?」
「問題ないかな。むしろ、調子が良すぎて怖いくらいだね」
ぐわんっ、と両腕のオーガアームを振り上げてユウは問題ないことをアピールして見せた。実際、虚の世界で戦い続けていた頃と比べても遜色ないくらいに好調だった。これならば、今すぐにでもマト達と共に戦えるとサヤちゃんに報告できそうかなとユウは内心喜ぶ。
「さて、と。それじゃあ私はサヤちゃんと合流するよ。マトは予定通り黒雪姫さん達に接触して、可能な限り単独で彼女達に助力して。もし危なくなったら、助けに入るからさ」
二代目赤の王――スカーレット・レインを含めたネガ・ネビュラスのメンバー達が、無制限中立フィールドへアクセスしたことは既に把握している。そして、現在彼女達が秋葉原フィールドへと向かっていることも。無論、向こうは自分達の動向が監視されていることなど知る由もないだろうが。
「七王の誰かが罠を張っている可能性が有るから、注意は怠っちゃだめだからね」
「わかった」
念の為に改めて忠告するユウに、B★RSはこくりと頷いた。
そしてハルユキ達が移動している方角へ向き直り、
「行ってくる」
とだけ言い残し、飛び去って行くB★RS。
その背を見送りながら、ユウは自身の半身だった少女のことを思い出していた。現実世界において、同級生からの陰湿な虐めを受けていた頃に出会ったもう一人の自分。入れ替わってほしいという勝手な願いを聞き入れて、最期には現実世界で生きていくように諭してくれた少女の姿が脳裏に浮かぶ。
――ストレングス、私はもう逃げないよ。現実世界でも、この世界でも。
両目を閉じて、固く誓うユウ。不思議と、虚の世界で自身とマトを守る為に消えていった彼女が遠くから見守ってくれているような気がした。
皆さんこんにちは。相変わらず艦隊コレクションなるゲームに嵌っている私です。
知っている人は知っていると思いますが、11月より秋イベントなるものが開始されました。
始まって3日で全ステージ攻略しちゃったんですが(どんだけやってるんだ
ポチポチクリックするだけのゲームなのでちゃんと一緒に執筆もするようにしたいと思います。
そして、やっと無制限中立フィールドでB★RSが活躍する場面が書けそうです。
では皆さん、気合!入れて!いきましょう!