クロス・ワールド――交差する世界――   作:sirena

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第二十五話

 けたたましい爆音を響かせて、金属で造られた街並みを疾駆する影があった。

 空は薄闇に包まれているが、所々に設置された街灯のおかげで視界は明るい。地面はびっしりとアスファルトで舗装されていて、 土が露出した部分は見当たらない。そして影を除いて他に動く物の姿は見受けられなかった。

 

 そういった恵まれた環境が整っていることもあり、《無制限中立フィールド》を黒い影――BRSは全く減速することなく爆走して行く。何時の日かシルバー・クロウと対戦した際に使用していた、大型バイクに彼女は跨っていた。

 

 ――仲間を抱えたシルバー・クロウが向かっている先は……、池袋か。

 

 脳内に送られてくる映像を頼りに、BRSはアクセルを吹かす。周囲に自分以外で動く物がいない為、空を飛びながら移動するクロウの視界に入らないようにかなりの距離を取っているが、これなら心配はいらないだろう。彼らを捕捉しているサヤちゃん先生――ブラック・ゴールドソーの身に何らかのアクシデントがあれば別だが、ユウが万が一に備えて傍に待機している筈だ。

 

 ――風が吹き付けてくるのが心地良い、高いポイントを払った価値はあったかな。

 

 BRSが今身を預けているバイク型強化外装は、ブラックトライクという。骸骨の姿をしたアッシュ・ローラーという名のライダーとシルバー・クロウの対戦を見て、なんとなく欲しくなった為にショップと呼ばれる様々なアイテムを買うことができるお店で手に入れた代物だ。

 レベルアップなどで消費することがない為、ポイントに困っていないB★RSは何の躊躇もなくこれを購入していた。通常対戦で稼ぐことが難しくなり、大型エネミーを狩りながら雀の涙ほどのポイントを集めている他のバーストリンカー達にしてみれば何とも羨ましい話である。

 

 変わり映えのしない景色の中を黙々と快走していたBRSだったが、程なくして送られてくるクロウの映像に変化があった。

 

 何者かの襲撃を受け、バランスを崩し地上へと降下していったのだ。

 遠距離火力の奇襲に、危うく直撃はしなかったものの飛行を維持し続けることができなかったのだろう。予め予想していたことだが、矢張りこの一連の出来事には裏で糸を引く存在がいたらしい。そして黒幕が姿を現した以上、やるべきことは一つ。

 

「黒のレギオン、ネガ・ネビュラスとスカーレット・レインに助太刀して黒幕を排除、そしてクロムディザスターを討伐する」

 

 己の成すべき目的を、BRSは今一度復唱する。なかなかにハードルの高い戦闘になりそうだったが、不思議と気分は高揚していた。二年前に経験したクロム・ディザスターや王達との死闘が脳裏に蘇り、思考が熱を帯びていく。

 

「久しぶりに、全力が出せるかな」

 

 自身の口が笑みを浮かべていることに、BRS――マトは気づいていなかった。

 

 

 復活したクロムディザスターの戦闘力について、ハルユキ達がニコから聞いた情報によれば。

 今代のディザスターはこれまでと同等かそれ以上の戦闘力に加えて、非常に高い機動力をも有しているらしい。それが飛行アビリティを持つシルバークロウに助力を求めた理由だったようだ。

 作戦の段取りを決めて無制限中立フィールドにダイブし、ディザスターの出現予想ポイントへ向かう途中に異変は起こる。

 

 それは突然の襲撃だった。

 クロムディザスターが狩りをする為に現れるであろう池袋を目指し、飛行していたハルユキ達に遠距離からの狙撃が行われたのだ。かつて赤の王スカーレットレインの圧倒的な弾幕をも回避してみせたシルバークロウだったが、流石に三人も抱えたまま満足な回避行動を取れるはずも無く地上へと降下するだけで精一杯だった。

 

 なんとか墜落せずに地上に降り立ったハルユキ達を、待ち受けていたように姿を見せた総勢三十名近いバーストリンカーの群れが取り囲む。その中でも一際鮮やかな黄色の装甲を持つデュエルアバターの姿を見て、ユニコが息を呑んだ。

 

「イエロー・レディオ……黄の王……何故ここに……」

 

 掠れたように呟いたその言葉で、ハルユキはこの集団の頭目が黄の王である事を知った。

 そしてこの状況を作り出した目的も、相手が王だというのなら一つしかない。

 つまり――、タクムが言っていたようにこれは他の王によるレベル九バーストリンカーを狩る為の罠だったのだ。ただしその対象は黒の王ブラック・ロータスではなく、赤の王スカーレット・レインを狙ったものだということ。

 

「おやおや、ふらふら飛んでいた小虫を撃ち落してみれば。まさかスカーレット・レインだとは、これは思いがけない偶然ですねぇ」

 

 ピエロを連想させる外見をしたそのデュエルアバター、黄の王イエロー・レディオはさも驚きましたというように大げさに手を振って見せる。なんとも芝居がかったその仕草を見たユニコが、怒りに満ちた怒号を上げた。

 

「ふざけんな、分かっていて待ち伏せていやがったんだろうが! チェリー・ルークに隠匿した《災禍の鎧》を渡したのはてめぇだな!」

「チェリー・ルーク? 《災禍の鎧》? 何のことをいっているのか全く分かりませんね、妙な言いがかりはやめて頂きたい。私はただ、あなたが率いるプロミネンスのメンバーに強制アンインストールへと追い込まれた可愛いい部下の仇討ちをしたいだけですよ。不可侵条約の規定に従って、ね」

 

 不適な笑みを崩さず、イエロー・レディオはプロミネンスの失態と不可侵条約の規定を指摘する。確かにイエロー・レディオがチェリー・ルークに接触して《災禍の鎧》を渡したという証拠は何一つないのだから、それが詭弁だと知っていても諦めるに仕方が無かった。

 

 現にユニコは悔しそうに身体を震わせながらも、押し黙ったまま何も言い返せずにいる。

 だが、この場にはもう一人加速世界において圧倒的強者と呼べる者がいるのだ。

 

 ハルユキが最も尊敬する人物――黒の王ブラックロータスが。

 しかし、先程から黒雪姫は二人の王の会話に口を挟むことなく沈黙を貫いていた。

 何時もなら真っ先に声を上げてくれるはずなのに、と不審に思ったハルユキが声を掛ける。

 

「あの、先輩……?」

「……ッ、いや、何でもない。少し戸惑っただけだ」

 

 明らかに何かがおかしかった。しかしそれをハルユキが問う前に、ロータスはレディオへ声を張り上げる。

 

「ふざけるな、レディオ。そのようなこと、私が黙ってみていると思うか!」

「これはこれは、誰かと思えば黒の王ではありませんか。二年間も何処かに引き篭もっていたようなので、すぐには気づけませんでしたよ。それで? 今さらになって貴方が一体何をするというのです、よもやその血塗られた剣を私に向けるとでも?」

 

 嘲るように言いつつ、レディオは右手に一枚のカードを出現させハルユキ達の前に投擲する。

 

「二年間もこの舞台から遠ざかって、どれ程の覚悟を持ち再び舞い戻ってきたのか。是非とも見せて頂くとしましょうかね!」

 

 カードの正体は、過去に起こった出来事を記録するリプレイファイルだった。

 黒雪姫が先日にハルユキ達に見せた、先代のクロムディザスター戦を収録した代物と同じだ。

 しかし、当然ながら映し出される内容は同じではない。

 最も大きな動揺を見せたのは黒雪姫である。しかし、それは当たり前のことだった

 

「まさか……やめろ、やめろ!」

 

 かつて、純色の七王の間で起こった惨劇。黒の王――ブラック・ロータスにとって決して忘れることのできない過去が、そのファイルには残されていたのだから。

 

『俺達はこんなくだらないことの為に、毎日対戦を繰り返してきたんじゃないだろ!?』

『ロータス、俺はお前のことが好きだぜ。何時か現実世界で会ってもダチになれる、本気でそう信じてるんだ』

『ああ、そうだな。ライダー、私も君のことが好きだよ。勿論、尊敬という意味でだが』

『ロータス、お前ならきっとそう言ってくれると信じてたぜ!』

『デス・バイ・エンブレイシング』

『い……いやあああぁぁぁ!!』

 

 和解したように見せかけての、いきなりの不意打ち。

 初代赤の王レッド・ライダーの想いを、数年に渡り共に戦い競いあってきた友情を、裏切りという最悪の行為で踏みにじったのだ。それは黒雪姫にとって、決して忘れることも己を許すこともできない過ちだった。

 

「ハルユキ、君。わ、わたし、わたし、は……」

 

 震える声でか細く呟き、それ以上は続けることができなかった。

 ヴァイオレットに輝いていたロータスの両眼から、光が失われていく。

 ガシャン。と崩れ落ちるように地面へと倒れこみ、黒の王は糸の切れた人形の如く一切の反応を示さなくなった。

 

「《零化現象》! ロータス、あんたそこまで……」

 

 ユニコの低い呻き声が聞こえたが、ハルユキには何が起こったのか理解できなかった。

 

「先輩!? 一体、どうして」

「ハル、マスターは……」

 

 タクムが険しい表情で何かを言いかけたが、それを遮って高らかな哄笑が周囲に響く。

 

「くっ、くくっ、くふふっ、くあははははははっ!!」

 

 イエロー・レディオは自身の手札がもたらした想像以上の効果に、大きく肩を震わせて嗤うのを抑えられなかった。二年もの潜伏を経てようやく姿を見せたと思えば、よもやこの体たらくとは。いまだ過去に囚われたまま、一歩を踏み出すことすらもできていなかったとは。

 

「まだ引き摺っているだろうとは思っていましたが、まさか戦う意思すら失って零化してくれるとはね。かつてこの舞台に立つ先駆者となり肩を並べ合った者として、むしろ残念ですらありますよ! その程度のちっぽけな覚悟しか持たず、よくもレベル十に到達するなどとほざけたものですね……ブラック・ロータス!」

「何だ、と……!」

 

 ハルユキの口から怒りに濡れた低い声が漏れる。レディオの叫びには小さくない憤怒も混じっているように感じられたが、敬愛する親であり師でもある黒雪姫を侮辱され思考が熱くなっていた為に気づくことはなかった。

 

「それでは、つまらない余興も終わったところで本日のメイン・プログラム(最終演目)といきましょう! 全部隊攻撃用意、目標――スカーレット・レイン! おまけのゲスト共もまとめて蹴散らしてしまいなさい!」

 

 大きく振りかぶった右腕が死刑宣告のように勢いよく振り下ろされ、今か今かと開戦の合図を待ち詫びていたレディオ配下のアバター群が一斉に動き出す。その第一波となる無数の遠距離火力攻撃が、ハルユキ達の頭上に豪雨となって降り注ぎ――、

 

「《ヴォルカノン》――」

 

 そのすべてが標的へと達する前に遮断された。

 

 十人以上のアバターによる、遠距離攻撃の弾幕を一つとして残すことなく相殺する。

 理解し難いその光景に、ハルユキとタクムを含めた全てのアバターの視線が二代目赤の王、スカーレットレインに集中した。遠距離攻撃のスペシャリストである彼女なら、この神掛かり的な迎撃も納得のできると。だが違う、レインはまだその本体ともいうべき強化外装《インビンシブル》を装着していない。

 

 ならば一体誰が――という疑問に答えるが如く、近くの建造物から鮮やかな跳躍を見せて一人の少女が降り立つ。丁度、ハルユキ達とレディオが対峙するその中間へと。

 

「あのアバターは、まさか……ブラック★ロックシューター!」

 

 ほとんど無意識の内に、ハルユキはそのアバターの名を叫んでいた。

 




アクセル・ワールドの2期は何時になったら始まるのだろうか。
もし始まればもっと更新速度が上がるはずなのに(言い訳
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