Fate/make heroes   作:志樹

5 / 8
04.縁-スコア-

 昨日、アーチャーと呼ばれた赤い弓使いと赤い少女との遭遇は、とらに興味を抱かせていた。会話しようとしたところにあの不意打ちを受けたこと自体は、怒髪天を衝く寸前までに苛立たせていたが、それはそれ。潮には勝手にしろと言った手前、合流するような考えは今のところないが、しかしとらもこの街で起こっていることを探り始めていた。

 とらは“匂う”場所を飛び回った。街のはずれの森と、森全体を囲むように張られている結界。住宅街立ち並ぶ中に見つけた、異様な雰囲気を放つ屋敷二つと、同じく屋敷を囲むように張られた結界。結界と森を鎧のように着込んだ寺。獲物を捕えんと結界張り巡らされた学校。結界こそ張られていないものの、妖しい空気を孕んだ教会。そして、この公園。ほかにも、ガス漏れ事故と称され封鎖されているビルや、殺人事件現場と言われている家など――今まで出会ったことのない存在。曖昧な、それでいて強固な存在、姿形こそ人間だが、明らかに異なるモノ、けれど妖とも違う、とらの知る限りであれば、幽霊と例えるのが最も近いのではないかと考えている――ソレらの残滓が、感じ取れた。

 

 凡そ2000年。詳細な年月など些末事でしかなく、どのようなことがあったかなど余程印象的な出来事以外は摩耗し切った記憶ではあるが、それでもそれだけの年月生きてきた経験は馬鹿にはできない。あらゆる体験から様々な知識を身に着け、人の一生程度では知り得ない事柄を数多く知っている。けれど、その経験の中においてもソレに似ていると感じる存在はなかった。

 とらはその外見と言動から粗暴で暗愚と思われがちだが、実際はその正反対と言える。戦いでは普段は力押しが多いものの、それは其れこそが己の強みだと自負している故に過ぎない。必要あらば策を弄し、小細工を仕掛け、騙り、騙す。日常においても、閉じ込められた500年の間にとらの知る世界とは別物のように変化し、最初こそ戸惑ったものの、今ではそんな世界を楽しみ学習し、彼なりに節度を守り適応している。それは高い知能を持つ証左と言えよう。

 

「500年もの間閉じ込められていたんだ。あいつも気になってるみたいだし、少しぐれえ楽しんでも良いだろ」

 

 面倒くさい、と最初は思った。厄介事には関わりたくないし、関係ないことに巻き込まれるのは御免だと思う。

 

 ――それは、高い知能故だ。

 

 けれど、“楽しそうに”している者達を引っ掻き回し、暴れ回るのは好きだったりする。

 

 ――それは、彼の性格故だ。

 

 2000年生きてそれでもなお出会ったことのない未知の存在に対する忌避感。

 

 ――それは、生物の本能故だ。

 

 同時に抱く、未知の存在に対する好奇心。

 

 ――それは、知能持つ者の性だ。

 

「なにもんだ、てめえ」

 

 最初に訪れたこの公園。再度ここに戻ってきたのは、冬木の中で一番匂いが強かったから――ではない。

 

 誘われている感覚が在ったからだ。

 おそらくは、昨日出会ったアーチャーと呼ばれる存在か、その同類。明らかに、ここにいるぞと発してくるそれは、誘い以外に在り得ない。喧嘩を売っていると言ってもいいほどに強烈な其れは、ある意味殺気と相違ない。

 

「ほう、人語を解するか獣畜。しかし獣風情が王に対しその言辞、無礼に過ぎるぞ」

 

 現れた一つの影。人型を模したその存在は、確かに昨日の者と同類に違いない。けれど、五感に訴えかけるその圧力は格が違った。存在の核から違った。金の鎧を纏いし彼の第一印象は傲岸不遜。とらをしてそんな感想を抱かせるその存在は自らのことを王と称した。朱い輝きを放つその相貌は神に等しき美を内包し、見た者全てを魅了し跪かせるだろう。存在そのものが忠誠を誓うに値するカリスマを擁しており、そこに他者の感情が介在する余地など皆無。しかし、そんな彼の眼は己以外の存在を塵芥程度にしか認識していない。

 

「あん?王というには、その程度も許せねえたあ随分器のちいせえ王だこったな」

 

 そんな脅迫が如き神聖さを前にして、しかしとらは、己が同等の存在とでもいうかのように、不遜に振舞う。

 

 王とは、人の世を統べる存在だ。

 

 神とは人が崇め奉る存在だ。

 

 その“人”に仇成す妖怪が、王に傅くはずもない。

 

「よく宣うな獣畜。しかしこれは我が反省すべきか、このような下等生物に我の偉大さ等理解できようはずもなかったな」

 

「理解したくもねえな。わしは化物だぜ?人の理なんざ知ったことじゃねえ。王だろうと何だろうと、わしに喧嘩を売るやつはぶち殺すだけよ」

 

 ――相容れない、ととらは感じた。

 

 元より、人の頂点に立つ王という存在であるに加え、彼の者は英雄なのだ。

 

 英雄は人に仇成す存在を討破る存在。

 

 化物を打倒し人々を救う英雄と、倒されるべき化物。

 

「獣畜どころか害獣であったか。本来ならば害獣の駆除は民草の仕事なのだが、手に負えんと成れば仕方ない。我が自ら駆除してやろうではないか」

 

「今までにも、似たような言葉は嫌になるほど聞いてきたぜ?」

 

「感涙し逝くがいい」

 

「てめえがな――!!」

 

 先に動いたのはとら。突進と言い表しても違和感ないほどの勢いで、とらは金の王へと迫った。数十も離れていた距離を詰めるは、瞬きよりも刹那。そして、詰めると同時に振り上げられる腕。鉄をも切り裂く爪の斬撃は、けれど王に容易く弾かれる。気にせず、二撃、三撃と攻撃を続けるが、王は躱し、去なし、何処からか取り出した手に掴みし剣を振り下ろす。それをとらは、身体を捻り躱し、素早い動きで翻弄せんと駆る。

 

 やりずれえな――と、ポーカーフェイスを崩さぬままとらは舌を打つ。何が、と明言こそ出来ぬものの、普段戦う際とは明らかに異なる重圧を感じていた。ソレは、獣の槍を相手取る時にも感じられる、見えない何かからの重圧。恐らくは同種のものだろう、ととらは勘だけで判ずる。

 

「どうした、その程度か獣畜」

 

「うっせえんだよ金ぴか野郎!」

 

 奔り、跳び、駆けるとらに対し、相手はほとんど動くことがない。威嚇程度に放った攻撃は去なし躱され、フェイントには無反応。隙を見つけ一撃を入れようとした瞬間、在り得ないはずの方向から剣や槍が飛んできて阻止される。

 

「くらいやがれ!!」

 

 と、とらの口より吐き出されるは灼熱の業火。燃ゆるもの全てを焼き尽くさんばかりのその炎を浴びれば、いかなる生物であれ一溜りもないだろうその攻撃、しかし――。

 

「温いな」

 

 炎散った後にもその場に、何事もなく佇む金色の王。

 

「これならどうでえ!!」

 

 と、とらの全身より放たれる雷。天より墜ちる其れに匹敵する輝きは、一瞬にして身体を内部から焼き尽くし細胞から崩壊させる一撃。

 

「ふん、つまらぬな」

 

 それすら効かず、平然と、厳かに佇む人の王。

 さて、どうすっかなぁ……と、動きは止めず思考する。只者ではない雰囲気は感じていたが、しかしここまでとは思い至らなかった。

 様子見程度に考えていたが、それはイコールで手加減していたということにはならない。ジャブ程度に繰り出される攻撃ですら死に至らしめるほどの威力を持ち、軽く走った程度の速度ですら、瞬きするよりも刹那である。それらに軽く対応できることこそが、眼前の男が英雄である証左にほからならない。

 

 そんな金の獣と金の王の交わりは、慮外のことだった。

 それは誰も予期せぬ邂逅で。

 互いの間に礼儀など欠片もなく。

 言葉は不躾にもほどがあり。

 そして何より、急劇だった。

 

「飽きた」

 

 唐突に呟いた、そんな一言。

 その声をとらが聞き取った時には、既に王の全てが完了していた。

 

「な――――」

 

 王の背後から突如として現れた、数多の武器。

 剣。

 槍。

 斧。

 鎌。

 矢。

 まるで統一感のないそれらは、何もないはずの虚空から生えるように現れていた。

 

 ヤバい――。

 と、思った瞬間には、既に内の一本が体を貫いていた。

 

「が――ぁッ――――」

 

 身体に穴を空けられながらも避けようと体を捩り、篠突く雨の如く降り注ぐ武器の中を掻い潜り――けれど、傷負った身体は思った以上に動かなかった。

 

 平時であれば、身体に穴が空こうとも四肢千切れようとも衰え知らぬその体躯。それほどに頑強な身体を一撃にて弱らせた其れは、名も無き武器だった。おそらくは持ち主たる王でさえ名を知らぬ其れ。万に一つも意図はなく、一欠けらの理解もなく選択された其れは――皮肉にも、一本の槍だった。

 

「――ッ――――ァ――」

 

 次いで次々体抉る武器の数々。一瞬の怯みが決死を分ける致命傷となり、数多の武器がとらを地に縫い付けて、縫い付けた先から消えるそれらをなぞる様にまた武器が突き刺さる。

 

「ッ―――――――――」

 

 そして、終に刃の雨が止んだ時には、その体は千々となっていた。身体の部位毎以上に細かく分けられたそれらは、既に原型解らぬただの肉片としか判じえない。

 

「ほう、まだ息があるのか。しぶといやつよ」

 

 それでもまだ、とらは生きていた。それどころか、津波の如く押し寄せる衝撃に幾度となく意識が飛びそうになりながらも、それでも意識を失ってすらいなかった。

 

「――ん?言峰か。……ふん、後は知らん、勝手に逝くだろうさ。心配ならばお前が止めを刺しに来ればよかろう。害獣退治にここまで我の宝を使ってやったのだ、奉謝されこそしても文句を言われる筋合いはない」

 

 一指動かす力もない身体で、ただ誰もいない虚空に向かい一人話す王の声を聞き、姿消え去るその瞬間をただ見送った。

 

 屈辱だった。2000年以上生きてきて、それでもこれほど虚仮にされたことは一度もない。戦い方も何もない、武器を飛ばすというただそれだけの攻撃。しかし圧倒的なまでのそれ。蹂躙という言葉がこれほど似合う攻撃はないだろう攻撃で、とらはその通り完膚なきまでに蹂躙された。これまで蹂躙する側にいたとらにとって、それはこれ以上ないほどの屈辱。

 

 腸煮えくり返る怒りを刻む。

 煮えくり返る腸の無いその身に刻む。

 心に刻む。

 魂に刻む。

 

 そうして、とらは敗北し――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、珍しい生き物ね。こんなになってまで生きてるなんて……バーサーカーとどっちが強いのかしら?」

 

 

 

 雪のような少女と、出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一応、当然ですが獣の槍ではありません。
獣の槍の原点とされるような同じような性能を持つありえないはずの名前のない槍です。
訂正→獣の槍の原点とされてもおかしくないような同じような性能を持つありえないはずの名前のない槍です。
在り得ないはずだけどまあギル様なら持っててもまあおかしくないかなと。
あと、書いてる通り狙ってその槍を出したわけではなく、
恐らくは魔獣系に効果が抜群なやつ投げときゃいいだろう程度でしょう。

あと、今更ですが感想返しは活動報告にてさせていただきます。
真勝手ながらご了承願います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。