Fate/make heroes   作:志樹

6 / 8
05.夜-フェイト-

 聖杯戦争。

 此度で五回を数える冬木の聖杯戦争は、7人のマスターと7体のサーヴァントによる殺し合いにて勝者を決める。勝者には万能の願望器である聖杯が与えられることとなり、どのような願いでも叶えられるという。

 そんな聖杯戦争に参加する彼ら彼女ら、7人のマスターと7体のサーヴァントは、それぞれ思惑を抱き参加者となる。

 

 辿り着くため。

 待望を叶えるため。

 過去をやり直すため。

自尊心を満たすため。

 役割を果たすため。

 日常を得るため。

 過ちを正すため。

 勝利するため。

 楽しむため。

 信念のため。

 戦うため。

 己がため。

 

 そんなところに現れた、一人と一匹。

 とある妖怪を倒すためだけに2000年前に創られた、現存する宝具ともいうべき獣の槍。その槍の現代の担い手である蒼月潮。

 そんな少年に憑いており、獣の槍と深い因縁を持つ生きた神秘そのものであるとら。

 

 彼らはそれぞれ思い思いの行動をとり、聖杯戦争へと関わっていく。それが、彼らの意図するところのあるなしに関わらず。最初こそ、些細なことかもしれない。けれど、その影響は加速度的に増加していき、例えば、彼らが訪れなかった世界とは大きく異なった運命へと導くだろう。

 

 

 

 

 弓道場の掃除と道具の手入れに集中していて、気付けば日が暮れていた。片づけを終えて外に出る。暗くなった学校は、すでに人の気配はなく電灯の付いている教室は一つもない。そんな学校内に聞きなれない音が響いていた。音に引かれ足を向けた先に在ったのは――。

 

 

 ――しかし、それでも決して変わることのない夜がある。

 

 

 確かに刺されたはずだった。振り向いた瞬間、一突きにされた心臓。その証拠に、足元には血だまりがあり、服は胸の部分に穴が開いている。訳が分からず思考は全く追いつかない。とにかくこのままにしてはおけないと思い、朦朧としたまま近くの教室から掃除用具を持ち出し床の血だまりを掃除した。近くに落ちていた赤い宝石を拾い、片づけを終えた後はそのまま自宅へと向かい――。

 

 

 『第五次聖杯戦争が始まった夜』

 

 

 家にまで殺しに来た青い槍兵。普段は失敗ばかりの強化の魔術が辛うじて成功し命を長らえさせた。明らかに手加減し楽しんでいる槍兵に苛立ちを感じながらも、なんとか一瞬を生き残るだけで精一杯だった。ガラスを割り外に逃げ蹴り飛ばされ、転がるように逃げ込んだ先は――。

 

 

 『全てのサーヴァントが揃った夜』

 

 

 もう逃げ場はなかった。土蔵の中は薄暗く、光は入り口から差し込む月光のみ。それすら入り口に立つ男で遮られ、己の身の上に影が落ちる。終わりだと男に告げられるが、それだけはどうしても受け入れられなかった。おそらくは自信を救ってくれただろう赤い宝石の持ち主は誰かわからず、一言の礼すら言えていない。そして何より、この身にはまだ果たすべき義務が在った。そしてなにより――。

 

 

 『最後のサーヴァントが召喚された夜』

 

 

 ――理想が在った。

 

 より多くの人を救い、世界を平和にするという理想が在った。

 

 ――願いが在った。

 

 人を救い、平和のために戦う正義の味方になりたいと願った。

 

 ――憧れが在った。

 

 より多くの人を救うという行為。そのためだけに生きた男の、その生き方に憧れた。

 

 ――想いが在った。

 

 自らを救ってくれた恩人の、その無念を果たしたいと想った。

 

 ――誓いが在った。

 

 理想を追い求めると誓った。

 ついに叶わなかったその願いを叶えると誓った。

 あの時感じた憧れを抱き続けると誓った。

 その切実な想いを受け嗣ぐと誓った。

 正義の味方になると誓った。

 

 ――月下にて、誓った。

 

 

 『二人が出会った夜』

 

 

 彼女は魔力の奔流とともに現れた。

 青いドレスに白銀の鎧を纏うそれは少女だった。輝く金色の髪。決意の籠った碧眼。月の光は只そのために在るとでもいうように、闇の中に彼女の姿を浮かび上がらせ、土蔵の空気は只静かに、彼女に傅いていた。

 恐らくは一瞬にも満たない光景。

 けれど、地獄に行こうと一生忘れることのない記憶。

 

 

 『運命の夜』

 

 

「問おう――、貴方が私のマスターか」

 

 

 

 

 

 その夜―運命―だけは、変わらない。

 

 

 




短くてすみません。
ここまででプロローグ、もしくは一章、的な。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。