Fate/make heroes   作:志樹

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06.意図-トリック-

 朝食を食べ終わった後、意外な人物から声をかけられた。

 

「蒼月潮、と言ったな」

 

 葛木宗一郎。年齢の割には非常に落ち着いた雰囲気で、よく言えば寡黙、悪く言えば近付き難い雰囲気の男性だ。

 

「キャスターから話は聞いた。アレに協力してくれるそうだな」

 

 しかし彼がキャスターのマスターであることを考えれば、彼が潮に接触するのは当然だろう。むしろ昨晩から今まで話をしなかったことの方が意外なくらいだった。

 

「協力と言うか、助けて欲しいって言われた時に助けるだけさ。むしろ俺が協力してもらってるようなもんだしね」

 

 昨晩、キャスターから話を聞いた潮は、最終的にキャスターたちと協力関係を結ぶことに決めたのだった。

  聖杯戦争という殺し合い。魔術師がどうとかサーヴァントがどうとか言っていたけれど、全てを聞いた潮の結論は「よくわからん」。7人の人達が7人の昔の人を召喚して、殺し合いをしていて、関係ない人を巻き込む可能性がある。その程度の認識で、聖杯やサーヴァントという存在の仕組みなどその他色々については聞いたけれど理解できず、

 

『坊やと言ってもさすがにおバカすぎるわよ貴方』

 

『気にするな、私も聖杯とやらの補助を受けていなければ理解しようとも思わん』

 

 キャスターには呆れられ、アサシンにはフォローされる始末であった。

 むしろ潮が気になったのは、キャスターの立場だ。彼女はひどいマスターに召喚され、殺して逃げはしたけれど今のマスターに惚れて、尽くし、このまま日常生活を送れればそれでいいと言う。

アサシンの召喚というルール違反を犯したのはキャスターという座の不利を補い守るための一要素と言うだけで、山門から動くことはできず、柳洞寺の結界も外敵からの守りのみ。降りかかる火の粉は払うがこちらから攻勢に出ることは極力しないつもりだと主張する。

 

『そういうことなら、助けが必要な時には言ってくれ。どれくらい助けになるかはわからないけどさ、他のやつが仕掛けてきた時には一緒に戦うよ』

 

 横で聞くアサシンの意味深な笑みは気になったが、潮はキャスターの言うことを信じた。そうして、能動的でこそないものの潮からキャスターに対する協力関係は結ばれた。

マスターである葛木は実質事後報告と言う形でその内容を聞くこととなったのだが、お前がそうと決めたのならそうすればいい、とただただ受け入れた。

 

「そうか。――しかし、蒼月も学生であることに違いはない。くれぐれも無理はするな」

 

 言葉の真意はわからなかったが、心配してくれていることは潮に伝わっていた。潮はそんな葛木を性格はあわなそうだと感じたけれど、しかし嫌いにはなれそうにないなと感じていた。

 その後、葛木は仕事があるからと柳洞寺を出て学校に向かった。その後ろ姿をキャスターと見送り、自分も街の散策にでも向かおうかと槍を持ち、門を出ようとしたところでキャスターに止められた。

 

「ちょっと待ちなさい坊や、何処へ行くつもり?」

 

「どこって、街中歩いて何か手がかりでも探してこようかなと思ってさ」

 

「こんな朝っぱらから動き回ってるようなやつらなんてそういないわよ。それに、それをそのまま持って歩けば確実に警戒されるわよ」

 

「一応、布巻いてるしわからないかなと思ったんだけど……」

 

「一般人相手でもそんな長物を持ってれば不審物扱いされるでしょうし、そもそもそれだけの神秘を曝け出してる時点で布に巻いていようと絶対に気付かれるに決まっているでしょう」

 

 そう言って指差されたのは獣の槍。槍には布を巻いているが、確かに傍目から見て普通に持ち歩く物としても不審である。それどころか一種の宝具の域にまで達する獣の槍の存在は非常に強く、サーヴァントでなくとも魔術に関する知識が在るものからすれば十分に脅威と判断する代物だ。例え中学生であろうとそんなものを持っていれば警戒されてもおかしくはないだろう。

 

「必要なければ関わろうとしないか、興味を持って襲ってくるか、利用しようと考えるか、それは貴方を知ったマスターとサーヴァント次第でしょうし、それで巻き込まれるのは坊やだから別に好きにしたらいいでしょうけれど、私と宗一郎様にまで被害が及ぶ可能性は看過できません。」

 

「あー。確かにそうだよな、ごめん。でも、こいつを置いていくのは流石になぁ……」

 

「――はぁ、わかりました。ではせめて昼まで待ちなさい。その槍用に隠蔽魔術をかけた物を作ってあげますから」

 

「えっ、いいのか!?」

 

 何か後悔するように溜息を吐いたキャスターはそう提案した。それはキャスターの道具作成スキルを利用したものであり、Aランクの道具作成スキルを持つ彼女にとっては容易いことである。

 ただし――、とキャスターは続ける。

 

「その槍の神秘性を考えると、完全に隠蔽することは難しいでしょうけれどね」

 

「いやいや、それだけでも十分だって!……でも、なんでそこまでしてくれるんだ?」

 

「もし仮にですけれど、貴方がほかのサーヴァントを倒してくれれば私と宗一郎様に対する危険が減りますからね。それに、未熟とは言えサーヴァント相手に戦える戦力が増えるのは助かるのよ。貸しといてあげるから絶対に返しなさいねってことよ、坊や」

 

妖しく笑うキャスター。

 

「うわっ、腹黒いなぁ。そんなことしなくても手伝ってほしいって言えばいくらでも手伝ってやるのによ」

 

「な――――」

 

 けれど、そんな脅しに邪気ない答えを返され、キャスターは呆気にとられた。

 

「いいぞ、もっと言ってやれ童子」

 

「何か用かしら?アサシン。用もなく姿を現していいなんて言った覚えはないけれど?」

 

 そんな二人の会話に割り込んできたのは、藍に染まる雅な着物姿のアサシン。キャスターは忌々しげにアサシンを睨むが、彼は飄々とした笑みを浮かべるのみで気にした様子もない。

 

「かと言え姿を現すなとも言われておらん。誰やらの面白い姿が見れたのでな、少々茶化したくなったまでよ」

 

「面白い姿?」

 

「――ッ!?と、ともかく!!昼には仕上げてあげるから坊やは昼までは外に出ず待ってなさい、いいわね!」

 

 アサシンの言葉を聞いて怒り出し、けれど無視して最後にそれだけ言った後、キャスターは寺の中へと戻っていった。どうして怒り出したのかわからず呆然とする潮の横で、アサシンはくつくつと笑う。

 

「あ奴にはこんな一面もあったのか。一度はつまらん奴と思うたが……ふむ、女はわからんものよ」

 

「なにがどういうことなんだ?」

 

「なに、童子も女を知ればわかる。……いや、わからないのだがな」

 

「はあ?」

 

 アサシンは疑問に答えてくれず、潮はわけがわからず疑問が増えるばかりで、結局まあいいやと気にしないことにした。

 

「ところで童子、昼間で暇なら手合せせんか?」

 

「手合せって、昨日みたいのは嫌だぞ?」

 

「安心せい、本気ではやらんよ」

 

 

 

―――――――

 

―――――

 

―――

 

 

 

「……何をやっているの貴方達」

 

 数時間後。

 山門の前で呆れたように呟いたキャスターの前には、いつもと変わらず優雅に佇むアサシンと、疲れ果て地面で大の字になっている潮の姿だった。

 

「いやなに、運動がてら少し手合せしていただけよ」

 

「手合せってあんた基本の攻撃全部首狙いじゃんかよ!しかも昨日と変わらず真剣だしさ!あと本気ではやらねえって言ったじゃん!」

 

「真剣を使って私のいつも通りの戦い方で手合せをしたまでよ。もちろん本気ではござらん。凡そおぬしが耐えうるであろう程度に手加減はしておる。傷を受けてないのがその証拠にはならんか?」

 

「首狙いの攻撃受けてたら俺死んでるって!」

 

「…………」

 

 潮は悲鳴のような訴えをあげるが、アサシンは小鳥のさえずりを聞くかのように楽しそうな表情を浮かべている。潮はまだ未熟で満足させるような強者ではないが、それでも生涯剣の鍛錬のみで、他者と打ち合うことすらなかったアサシンにとってはそれなりに楽しいものであった。

 対して潮は、しかし文句は言いつつもサーヴァントという存在の強さを認識するためには重要な手合せでもあり、さらには対人間との戦いになれていない潮にとって良い修行になっている。

 

 そんな二人の姿に、キャスターは判断を間違ったかと早くも後悔をし始める。アサシンは自分がルールを破り召喚した存在で、潮は自ら引き入れた存在だが、二人そろって能天気にもほどがある。戦力としては申し分ないと言えなくもないが、頭を悩ましている自分の方が阿呆かと思ってしまうほどに深刻さに欠けていて不安要素が大きすぎた。戦力が増えると同時に悩みの種まで増えるなんて想定していない。

 

「アサシン!貴方は用がなければ消えてなさい!蒼月潮!貴方はもう少し大人しくなさい!」

 

「ご、ごめん……」

 

「……うむ、現世ではヒステリックと言ったか。そのような女は嫌われらしいぞキャスターよ」

 

「ああもう減らず口を!!いい加減にしないと今すぐ存在事消すわよ!?」

 

「それは御免被る。まだ好敵手と出会えておらんのでな」

 

 キャスターの言葉にアサシンは憎まれ口を叩いて姿を消した。アサシンには苛立ちを感じつつも、キャスターは心を静め落ち着きを取り戻す。

 

「さて、蒼月潮。朝に言っていたものよ」

 

 そう言って何もないはずの場所から取り出されたのは、キャスター自身の羽織るフードと同色の大きな布。その布は大人一人を包み込めるほどの大きさで、獣の槍くらいの大きさであれば余裕で包めるだろう。

 

「これには隠蔽魔術をかけてあるから、これでその槍を包めばそうそう気付かれることはなくなるはずよ」

 

「おお!さんきゅな!」

 

 受け取った布で獣の槍を包む。それまでは武器らしい形が浮き出ていたが、余計に大きな布で包んだ分、だぼついて形が分かりにくくなっている。知らなければ長い棒状の何かとしかわからないだろう。

 

「あともう一つ。これも持っておきなさい」

 

 潮が渡されたのは、幾つもの小さな石のブレスレットだった。統一感のない白い石らしきものが幾つも連なっていて、開けられた穴に紐が通されている。一目で手作りとわかる簡単なものだ。

 

「これは?」

 

「こちらから貴方がどこにいるかわかるようになっているわ」

 

「うえー、もしかしてストーカー?」

 

「違うわよ!通信もできるようになっているのよ。貴方は魔術的なものはわからないのでしょう?それをつけておいてくれれば助言はしてあげられるし、何があれば連絡が取れますからね」

 

「おお~、あんたすごいんだな!」

 

「この程度のことで褒められても嬉しくもないですけれどね」

 

 フードで表情は窺えないが、言葉とは裏腹に声色は満更でもなさそうにキャスターは言う。

もっとも、潮に伝えていることに嘘はないが全てではない。蒼月潮の動向を監視するという一番の目的があるわけで、当然本人に言うつもりなど毛頭ない。

そもそもキャスターは蒼月潮のことを信用も信頼もしていないのだ。昨夜のアサシンとの戦闘から彼のことを戦力として使えると評価はしていても、うまく使えれば儲けものと考えている程度でしかなく、それ以上期待しているわけでもない。むしろ彼の行動次第で厄介事を持ってくる可能性もあり、その対策として監視し、助言と言う名の誘導を行うことにしたのだ。

 

 ――あわよくば、サーヴァントの一体とでも同士討ちさせられるように。

 

「さて、渡して早々ですけれどあなたにはやってもらいたいことがあります」

 

「やってもらいたいこと?」

 

「それら魔術道具をあたえているのですから――その対価として、私の命令の一つや二つや三つくらいは聞いてもらってもよろしいわよね?」

 

 そうして、蒼月潮を利用する。

 


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