失恋して彼女を寝取られてしまいましたが、学校一のおひいさまに溺愛されています 作:瓜生史郎
和也視点
俺の心臓は猛烈に音を立てていた。おひいさまである白崎凛華が、自分の部屋にいるなんて状況、普通じゃあり得ない。いや、これは夢かもしれない。
でも、目の前にちゃんと彼女はいる。部屋に入った凛華はキョロキョロと部屋を見回している。
「意外と部屋綺麗だね」
「ま、まぁ……そうだね……」
いつ美咲が家に来ても良いようにと、こまめに掃除をしていて良かった。
散乱してたマンガや雑誌も、見られたらマズいものも、全部棚の奥に押し込んだしな。今のところはセーフだ。
「じゃあ、キッチン借りるね」
バッグから淡いピンク色のエプロンを取り出し、テキパキと腰に巻きつけ、長い髪を後ろで束ねる。その動きすら洗練されていて、改めて彼女がおひいさまだと実感する。
「何か手伝うことある?」
恐る恐る聞くと、凛華は振り返り、にっこり微笑んだ。
「いいよ。座って待ってて」
断られた。しかも、ものすごくキッパリと。反論する隙すらない。仕方なく俺はソファに座り、スマホを取り出して適当にアプリゲームを開いた。ゲーム内では俺がリーダーとしてみんなを引っ張ってるけど、現実ではただの待機要員だ。
キッチンからは、手際よくフライパンが動く音や包丁のリズミカルな音が聞こえる。ちらっと視線を向けると、凛華は淡々と料理を進めていた。プロの料理人みたいな手つきだ。何もしてない俺が、ちょっと情けなくなる。
あれ?なんかこのシチュエーション、夫婦みたいじゃね?妻の料理を待つ夫みたいな……。そんなこと考えてたら、もっとドキドキしてしまった……。
「おまたせ。できたよ」
彼女の声に顔を上げると、テーブルには美味しそうな料理がずらりと並んでいた。照り焼きチキン、彩り豊かなサラダ、ふわふわの卵スープ。全てが完璧と言って良いくらいに整っていて、思わず俺はごくりと生唾を飲み込む。
高級レストランのメニューだと言われても全く違和感がない。
「すごい……凛華、こんなのまで作れるの?」
「これくらい普通だよ。家でもよく作っているから」
普通……? いやいや、これは絶対普通じゃない。俺が普段食べてるのはカップ麺や冷凍食品だぞ。
流石おひいさま。こんな料理を毎日、自炊しているとは……。
「じゃあ、いただきます」
「どうぞ」
一口食べると、口の中に広がる優しい味わい。家庭的なのに、どこか上品な味付けで、俺の貧相な舌が感動しているのが自分でもわかる。
「すごい! マジで美味しいよ! 」
「良かったよ。和也君のお口に合って」
語彙力のない感想を言うと、凛華は満足そうに頷いた。
「あ、それとね。あと3日分の料理も作り置きしておいたから。なくなったらまた作りに来てあげるね」
そう言いながら彼女が冷蔵庫を指差す。
その一言に、俺は目を丸くした。作り置きって……どんだけ世話を焼いてくれるんだ、この人。
「え、いや、そこまでしてもらうのはさすがに悪いって……」
遠慮がちに言うと、凛華はくすっと笑い、肩をすくめた。
「気にしないで。それに、和也が不健康な生活をしてるってわかった以上、見過ごせないもの」
「なんか、悪いな……。こんな地味な陰キャの俺なんかのために……」
申し訳なさそうに言うと、凛華は顔を曇らせる。
「そんな風に自分を卑下しないで? 和也君には学校の皆が知らないような魅力がたくさんあるんだよ」
「俺に魅力……?」
思わず口をついて出た疑問の言葉に、凛華は静かに頷いた。
「うん。例えば、ゲームでのチームプレイの仕方とか。和也君って、周りを気遣いながら上手く進めるでしょ?ああいうところが私は素敵だと思うな」
穏やかな声に、俺はなんて返せばいいのかわからなかった。だって、そんなこと言われたのは生まれて初めてだったからだ。
「それに、私がお願いしたら必ず応えてくれるところとか、すごく優しいじゃん」
そう言う凛華の目は真っ直ぐで、まるで俺が否定する余地なんてないように見えた。
「……いや、そんな大したことじゃないよ。俺はただ、流されてるだけっていうか、言われたら断れない性格なだけだし……」
「それでも、流されてるだけの人は、他人にここまで尽くせないと思う。和也君は誇っていいんだよ、自分のことを」
凛華のその言葉は、まるで胸に染み込むようだった。なんだろう?この感じ。こんな風に肯定されたのは、生まれて初めてかもしれない。
「あ、ありがとう。なんか気持ちがすっとしたよ」
精一杯絞り出した俺の声は、どうにも頼りなく聞こえた。でも、それでも凛華は満足そうに微笑んでいた。