失恋して彼女を寝取られてしまいましたが、学校一のおひいさまに溺愛されています   作:瓜生史郎

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11話

 食事を終えた後、俺は皿洗いをするためにキッチンへと立った。

 

 これ以上甘えるわけにはいかないからな。

 

 てか、皿洗いなんて久しぶりだな。小学生の時お小遣い目当てでやってた時以来だ。

 

「……あれ? これって……」

 

 ふと凛華の方に目をやると、ニヤニヤしながら一冊の薄い本を手に持っていた。

 

 まずい、あれは啓介が置いていった薄い本だ。押入れの奥に全部押し込んだはずなのに、どうやら一冊どこかに置いてあったらしい。

 

「うわ……これ、あのゲームのキャラクターじゃん……やば……」

 

 そう言いながら凛華は薄い本の中身を読み始めた。羞恥心が全身を駆け巡る。

 

「ごめん、それ、俺が置き忘れてた本だから、渡してくれると助かるんだけど……」

 

 洗っていた皿を置き、彼女の手から薄い本を回収しようとするが、凛華は笑いながら、軽く身をかわす。

 

「えぇ?」

「ふふふ。返してほしかったら、私を捕まえてみなよー」

 

 リリィと同じような口調で、そう言いながら、ひらりと何度も俺の手をかわす。

 

 流石運動神経抜群のおひいさま。身のかわしもお手のものだ。なんて思っている場合ではない。早く回収しなくては……、俺の自尊心が持たないぞ。

 

「てか、普通は女の子ってそういうの見たら、顔真っ赤にして恥ずかしがったりするもんなんじゃないの?」

「私に普通の女の子を求められても困るよー」

 

 そう2人で言いあいながら、部屋の中で鬼ごっこが始まる。

 

 ダメだ、全然返してくれる気配がないぞ……。

 

 なんでこいつ読みながら、俺の手をかわすことができるんだよ……。

 

「えっろ……!! 和也君こんな趣味があったんだー。だ・い・た・ん!」

「本当に、恥ずかしいから返して!」

 

 ようやく、凛華の肩に手が届くと思ったその瞬間だった。俺は床で勢い余って足を滑らせてしまう。

 

「うわっ!」

「え……?」

 

 そのまま、俺は凛華に覆いかぶさるような形で倒れ込んでしまった。

 

 沈黙が訪れる。俺の心臓が爆音を立てているのが、やけに耳に響く。

 

 凛華も林檎のように顔を真っ赤にして、俺の目を見つめていた。

 

 やばい。完全に押し倒してしまった……。不慮の事故とはいえ、なんてことをしているんだ俺は……。

 

「ご、ごめん!」

 

 俺は慌てて起き上がり何回も頭を下げる。

 

「う……うん。大丈夫。気にしないで? 和也君こそ大丈夫?」

「なんとか……」

「はい! これ読み終わったから返すね!」

 

 全く気にしていないと言わんばかりの、テンションで俺に薄い本を手渡して、凛華はまた本棚を漁り始める。

 

「あ、ありがとう……」

 

 気まずい雰囲気にならなくて良かった。これは戸棚の奥にしまっておこう……。

 

 

 

 

 

 

 「ねぇねぇ、これってsketch?」

 

 皿洗いを終えた俺に向かって、凛華がテレビの前に置いてあるゲーム機を指さしながら尋ねてきた。

 

「そうだよ。なんかゲームやる?」

「じゃあ、スパブラやろうよ。私、このゲームすごく得意だから」

 

 自信満々な表情で凛華はコントローラーを差し出してくる。

 

 スパブラは相手を場外に弾き飛ばして、3機ある残機を0にした方が負けというゲームで、運要素のない完全実力ゲームだ。

 

 ここまで、自信があるという事は、相当このゲームをやり込んでいるのだろうか?

 

「覚悟しておいてね」

「言ったね? 俺も手加減しないからな」

 

 俺達の間では対戦ゲームになると相手に一切手加減なしのガチンコ勝負をしようというルールがある。

 

 向こうがその気なら、こちらも本気でいこう。そう思って、対戦を始めたのだが……。

 

「え? 和也君、強くない……?」

「あ、あれ?」

 

 まさか3機残しで勝ってしまうとは……。いやいやこれはまぐれかもしれない。

 

「もう1回! 今のは練習だから、次から本気出すから!」

「お、おう……」

 

 その後も何度か対戦したが、俺が何回も勝ち続けてしまったせいで、凛華はついにコントローラーを抱え込んで拗ねてしまう。

 

「もうつまんない! つまんない! このゲームやりたくない!」

「ごめん……。えっとじゃあ……、スパブラやめて、マキオ一緒にやる?」

「うん……」

 

 流石に女の子相手に容赦なさ過ぎたな……。

 

 反省した俺は、アクションゲームのハイパーマキオというゲームにソフトを入れ替える。

 

 ハイパーマキオは、2人でキャラクターを操作して、敵を倒したり、ギミックを乗り越えたりしながら進むタイプの協力プレイ型のゲームだ。

 

 最初のステージは驚くほどスムーズだった。俺が前衛で敵を倒し、凛華が後ろでアイテムを拾ったり、ギミックや罠を解除したりとサポートしてくれる。そのコンビネーションが、思っていた以上に噛み合っていた。

 

 しかし、ステージが進むごとに難易度は急上昇。画面いっぱいに広がる敵の弾幕攻撃、難解になるギミック。緊張感が高まる中、俺たちは自然と声を掛け合いながら進んで行く。

 

「ここに罠があるから、凛華後ろでそのボタン押しといてくれる?」

「おっけー! 任せてー! あ、和也君。その敵踏んでもまた起き上がって来るから気を付けて」

「うわ! ほんとだ!」

 

 凛華がスイッチを押すと同時に、俺は少し苦戦しながらも罠を突破し、ギリギリのタイミングでようやく次のエリアに進むことができた。

 

「ふぅ……やっとボスだ……」

「和也君、気を抜かないで。ここのボス結構きつかった気がする」

 

 凛華の言う通り巨大なボスキャラとの戦闘は熾烈を極めた。想定外の即死攻撃が飛んできたり、思うように攻撃が当たらなかったりと、苦戦を強いられてしまう。

 

 だが、凛華がアイテムを投げて、敵を翻弄し、俺が一瞬の隙をついて連撃を叩き込む。何度もやられそうになりながら、最後の一撃を俺が決めた瞬間……。

 

「や、やった……!」

「ふう……危なかったけど、なんとか勝てたね!」

 

 画面に表示されたステージクリアの文字を見て、2人で大きく息を吐くと、ふと目が合い、同時に笑みがこぼれる。

 

「凛華、すごくいい動きだったね。正直、すごい助かった」

「ふふっ、でしょ? ちゃんと私が支えたんだから感謝してよねー」

 

 誇らしげな彼女の横顔がどこか柔らかくて、普段の“おひいさま”とは違う一面を感じた。

 

「ねぇ、このまま全クリしちゃおうよー」

「いいね。全クリとは言わずに、裏ステージも行こう」

 

 その後、テンションの上がった俺達は夜が更けるまで、ゲームをやり続けたのだった。

 

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