失恋して彼女を寝取られてしまいましたが、学校一のおひいさまに溺愛されています   作:瓜生史郎

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2話

「久しぶり~元気してた~?」

 

 ヘッドホンから聞こえる愛愛しい声に、思わず少しだけ顔が緩む。

 

 本当にいつ聞いても可愛い声してるな、こいつ。

 

「彼女出来て、ミヤジがログインしてくれないから、すごく寂しかった……ぐすんぐすん」

 

 ミヤジは俺のゲーム内でのニックネームだ。苗字からもじってはいるが、特に意味はない。

 

 てか、自分の声でぐすんぐすんって言うなよ……。

 

 でも良かった。リリィはいつも通りで。

 

「悪かったよ……」

「悪いと思ってるんだったら、今日はとことんゲームに付き合ってくれるよね?」

「お、おう!」

 

 意気揚々とコントローラーを握り、ゲームをプレイするが、俺のプレイは壊滅的だった。

 

「またミスった……」

「大丈夫? ミヤジ……。今日は調子悪いね」

 

 軽い冗談混じりの彼女の声が、逆に胸へ刺さる。

 

 おかしい。いつもならこんな初歩的なミスはしないはずなのに……。

 

 その後も、何度も同じようなミスを繰り返してしまい、その度にリリィから、何やってるの!もうと笑われてしまう。

 

 気分が沈んでいたせいか、全くゲームに集中できないようだ。

 

「ねぇ、ミヤジ。何かあったの?」

 

 その一言に、張り詰めていたものが崩れた。

 

 リリィなら、今の俺を救ってくれるかもしれない。

 

 俺の中で抑え込んでいた感情が、堰を切ったように溢れ出す。気づけば、震える声で言葉を紡ぎ始めていた。

 

 「実はさ……彼女に振られちゃってさ……。それだけならまだしも、クラス1のイケメンな男子に彼女を取られちゃって……。それで今気持ちが落ち込んでいると言うか……」

 

 とても自分の声が震えているのが分かる。

 

 よく言えたと、自分を褒めたいくらいだ。

 

 「……そっか。辛かったね」

 

 リリィの声は、いつもの明るさを少し控えた、落ち着いたトーンだった。

 

 それが逆に俺の胸に深く響いた。これまで、誰にも話せなかったことを吐き出したせいか、目の奥が熱くなり、目尻がじんわりと熱を帯びる。

 

「ミヤジ、よく頑張ったね。そんなことがあったのに、ちゃんと話してくれてありがとう」

 

 画面越しにもかかわらず、彼女の声には、まるで背中をさすられているような温もりがあった。

 

 俺は深く息を吐き出し、椅子の背もたれに身を預ける。

 

「……でも、俺、結局何もできなかったし、弱いだけなんだ」

「そんなことないよ! ミヤジ、ちゃんと立ち直ろうとしてるじゃん! それってすごいことじゃない?」

 

 自嘲気味に呟くと、リリィはすかさず声を上げた。

 

 彼女の言葉には迷いがなく、それが少しだけ俺の心に響く。

 

 優しいなぁリリィは……。まるで聖母のようだ。

 

「でも、私がそばにいるから大丈夫だよ。ね?」

「そばにいる、って……オンラインでも?」

「もちろん!」

「ありがとう……」

 

 思わず笑みがこぼれた。

 

 彼女は本当に優しい。それがたとえディスプレイ越しでも、嘘じゃないと分かるくらいに、しっかりと伝わってくる。

 

「そうだ! 今度2人でオフ会しようよ! ミヤジと直接会って、ゲームショップとかア二マートとか回ってみたいなと思ってたの!」

「オフ会……?」

 

 目を瞬かせながら、頭の中でその提案を反芻した。

 

 リリィと会う……顔も知らない相手と。これまでゲームの中でだけ繋がってきた相手に、しかも女子に実際に会うなんて、陰キャにとっては正直かなり高いハードルである。

 

「そう、直接会うの! 次の休みにどうかな?」

 

 でも、リリィの声には、どこか俺を突き放さない優しさがあった。

 

 俺みたいな陰キャと会ってみたいなんて、よほど変わってるのか、それともただの気まぐれなのか……。

 

 それよりも……。

 

「でも、俺、こんな情けない陰キャだよ? リリィの期待に応えられるような人間じゃないかもしれないし」

 

 あまり顔もよくない、美咲につまらないと言われた人間だ。

 

 もしかしたら、リリィにもそう思わせてしまうかもしれない。

 

「そんなの関係ないよ。私は、ミヤジがどんな人でも、会いたいって思ったんだもん」

 

 その一言が俺の胸に刺さる。画面の中でしか繋がっていない俺に、こんな風に言ってくれる相手がいるなんて。

 

「……わかった。行ってみるよ」

「やった!  楽しみにしてるね!」

 

 リリィの弾む声は、まるで暗闇に小さな灯りをともすように響いてきた。

 

 ゲームの画面を見つめながら、俺はぼんやりと、次の休日のことを考え始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 休日、鏡の前で服を選びながら、心臓がバクバクしていた。

 

「これじゃ地味すぎるか……いや、でも、派手なのはもっと違うよな……」

 

 床には既に何着か散乱している。いつもなら適当に選ぶTシャツとジーンズで事足りるはずが、今日はそうもいかない。

 

「初めて会うんだから、ちゃんとした方がいいか……」

 

 そう考えれば考えるほど、どれも違うように思えてくる。結局、手に取ったのは一番無難な白いシャツとデニム。いつもの俺らしい服装に落ち着いた。

 

 ようやく準備が整い、靴を履こうとしたところで、ふと動きが止まる。

 

「……本当に、会っていいのか?」

 

 胸の奥で、不安がざわめく。ゲーム内では話せても、現実では何を話していいか分からない。もしリリィが俺に失望したら――そんなネガティブな想像が頭をぐるぐる巡る。

 

 でも、その時、ふとリリィの明るい声が頭をよぎった。

 

「私は、ミヤジがどんな人でも会いたいって思ったんだもん」

 

 その言葉を思い出すと、不思議と肩の力が抜けた。大丈夫、きっと何とかなる。俺は深呼吸を1つして、玄関のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 駅前に着き、リリィに到着した事と、今着ている服装を書いたメッセージを送る。

 

 ふと、時計を見ると、約束の時間までもう少しだ。心臓が早鐘を打つように脈打ち、汗が手のひらに滲む。

 

 リリィはどんな娘なんだろう……?そんな事を考えている時だった。

 

「おまたせー! ミヤジー!」

 

 ふいに後ろから、リリィの声が聞こえたので、俺は声が聞こえた方を振り向く。

 

「リリ……ィ!?」

 

 風に揺れる艶やかな長髪、均整の取れた立ち姿に、俺は思わず息を呑む。

 

 大勢の通行人が行きかう街中でも、目を引く整ったその容姿は、周囲の誰よりも輝いていた。

 

「え……白崎さん……?」

 

 俺の目の前に立っていたのは学校一のおひいさま、白崎凛華だった。

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