失恋して彼女を寝取られてしまいましたが、学校一のおひいさまに溺愛されています 作:瓜生史郎
凛華視点
机に広げたノートの上にペンを置き、私は小さくため息をついた。
どうしてこんなに集中できないの?
普段なら、一度ペンを持てば何時間でも勉強に没頭できるのに、今日は違った。
気づけばスマホに視線を落としている自分がいる。
和也君は、今勉強頑張ってるかな?
和也君が頑張っている姿を思い出すと、自然と頬が緩む。けれど同時に、少しだけ胸が締め付けられるような感覚もあった。
「寂しいな……声が聞きたいよ……」
一人でそんなことを呟いている自分が恥ずかしくなり、ペンを取り直してノートに目を向けた。けれど、気持ちは全く落ち着かない。
意を決してスマホに手を伸ばして、通話アプリを開こうとした瞬間、ふと動きが止まる。
ううん、今和也君は一生懸命勉強しているんだから、邪魔しちゃダメ。
そう自分に言い聞かせて、スマホをそっと机に置いた。けれど、心の中のざわつきは消えなかった。
それにしても、和也君はなんで急に本気でテスト勉強をしようと思ったんだろう?
今までの彼は、こんなふうにテスト勉強に打ち込む姿なんて想像できなかった。
もしかして、私にふさわしい人になるため。とか?そんな考えが頭をよぎり、顔が熱くなる。
「そ、そんな訳ないじゃん……。馬鹿なこと考えないでよ!私……」
自分で自分にツッコミを入れながら、頭を振る。
……けど、もしそうだったら?
その可能性を否定しきれない自分に気づき、ますます心がざわつく。
本当にそうなら……。
考えがまとまらないまま、気づけば体が動いていた。
私はクローゼットを開けて、手早く荷物を詰め始める。服に、ノートに、参考書。それから、お菓子もちょっとだけ。
「……仕方ない。ここは私がお世話をしてあげなくちゃ」
キャリーケースの中身を整えながら、私は独り言を言う。
その理由を口に出せば、きっと自分の気持ちを認めてしまうことになる。だから、私はただ準備を進める。
「テスト勉強期間が終わるまで……一緒にいてあげるんだから」
胸の高鳴りを押し隠しながら、私は家を出る準備を整えていった。
和也視点
自分の部屋で机に向かい、問題集を広げていたが、進まないペン先を見つめてため息をつくばかりだった。
「マジでわかんねぇ……」
数学の公式が頭に入ってこない。いや、そもそもどれがどの公式だったかさえ怪しい。参考書を見直しても、全く意味の分からない記号の羅列にしか見えない。
スマホを手に取り、通話アプリを開く。連絡先リストにある「リリィ」の名前をタップし、通話ボタンに指を伸ばす。けれど、寸前で止めた。
いやいや。凛華も今はテスト勉強中だろうし邪魔をする訳にはいかない。自分のせいで成績を落とされたら困るし、何より迷惑をかけたくない。
俺は、スマホを机の上に置いて、勉強を再開した。
「ねぇ、そこの公式は間違ってるよ」
不意に耳元で聞こえた凛華の声に、俺は思わず硬直する。
なんで、急に凛華の声が背後から?
慌てて振り向くと、そこには私服姿の凛華が立っていた。手にはキャリーケースを持っている。
「り、凛華? なんでここに?」
「和也君が勉強できないのは目に見えてたから、来てあげたんだよー」
まるで当然だと言わんばかりの顔をして、キャリーケースを部屋の隅に置く。
「てか、なんでキャリーケースなんて持っているの?」
「テスト期間中だけ、和也君の家へ泊まることにしたの。付きっきりで教えてあげるね」
「ええっ!?」
驚いて立ち上がった俺に、彼女は軽く肩をすくめた。
「だって、一緒に勉強した方が効率的でしょ?」
「いや、でも……」
そう言った瞬間、凛華の表情が曇ったので、俺は慌てて手を振る。
「ごめん! 俺が悪かった……」
「よろしい。許してあげるね」
一応は許してもらえたらしい。
危なかった……。
「それに、家事は全部私がやるから安心して。和也は勉強だけに集中すればいいわ」
「あ、ありがとう……」
俺のためにここまでしてくれるのは本当にありがたい。
これでもっと頑張れそうだ。
「さあ、私がいる限り、手を抜くことは許さないんだから。覚悟しておいてね?」
「はい!よろしくお願いします。凛華様」
こうして、俺と凛華のテスト期間だけの共同生活が始まるのだった。