失恋して彼女を寝取られてしまいましたが、学校一のおひいさまに溺愛されています   作:瓜生史郎

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30話

啓介視点

 

「西園寺君、これ宮原君の家へプリントに届けられる?」

「あぁ、はいわかりやしたー」

 

 めんどくせぇ、和也の家って俺の家と真逆の方向だから遠いんだよなぁ……。断りてぇなぁ……。

 

 あ、そうだ。俺はふとここである事を閃いた。

 

「あー、すいません先生。俺、和也の家行った事ないから知らないんでしたー」

 

 もちろん嘘だ。和也の家には何度も行ったことがある。

 

「そうなのか……?困ったなぁ……」

「隣のクラスの小林美咲って奴が、宮原の家を知ってますよー」

「本当か?情報ありがとうな!」

「どういたしましてー」

 

 我ながら名案だ。今、和也の家にはおひいさまがいると思われる。もしばったり会ったら……。想像するだけでニヤけが止まらない。

 

 和也をここまで苦しめてくれたんだ。今度はお前が苦しむ番だぞ?小林美咲。

 

 

 

 

美咲視点

 

「小林さん、ちょっといいか?」

 

 放課後、教室を出ようとした瞬間、和也のクラスの担任に声をかけられた。

 

 嫌な予感がした。先生がこんな風に呼び止めるときは、大抵面倒なことを頼まれる。

 

「風邪で休んでる宮原君に、これを届けてくれないかな?」

 

 手渡されたのは数枚のプリント。すぐに「無理です」と断ろうとしたが、担任の次の一言が私の逃げ道を塞いだ。

 

「宮原君の家を知ってるのは、小林さんだけって聞いたから。頼むぞ」

 

 知ってるっていうか、ちょっと前に付き合ってただけだし。

 

 和也に教えてもらって、結局部屋の中には入らなかったけど……。

 

「ッ!!」

 

 そんな事を思っていると、脳裏に昨日の光景が思い浮かぶ。

 

 私は部屋の中に入った事がないのに……白崎さんが、和也の家に入っていたあの光景が……。

 

「あの……。宮原君の家行ってくれるよな……?」

「は、はい!」

 

 先生の声で、私は現実に引き戻され、そのはずみで了承の返事をしてしまう。

 

「じゃあ、お願いしますね」

「……わかりました」

 

 最悪。でもしょうがないか……。仕方なく私は、和也の家へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校を出て数分。和也のマンションに到着する。

 

 部屋に向かうのも面倒だし、ポストに入れて帰ろう……。そのうち気付くでしょ。

 

 エントランスのポストにプリントを入れて帰ろうと手を伸ばした瞬間だった。

 

「何してるんですか?」

 

 背後から声をかけられ、心臓が跳ねた。振り返ると、そこには買い物袋を下げた白崎さんが立っていた。

 

「え、あ、えっと……」

 

 言葉が詰まる。こんなところで会うなんて最悪だ。

 

「何かご用ですか?」

 

 白崎さんは淡々とした口調で尋ねてくる。その態度が余計にこちらを萎縮させる。

 

「これ……和也に渡してほしいの」

 

 震える手でプリントを差し出すと、白崎さんは軽く頭を下げて受け取った。

 

「ありがとうございます。きちんと渡しておきますね」

 

 颯爽とプリントを受け取って、白崎さんはエレベーターに乗ろうとする。

 

「待って!」

 

 思わず引き止めてしまった。

 

 自分でも驚くくらい強い声が出た。白崎の視線がこちらを捉える。何かを探るような、冷静で穏やかな目。それが余計に自分の動揺を際立たせた。

 

「まだ何か?」

「和也のこと、どう思ってるの?」

 

 気づけば、そんな言葉を口にしていた。言った瞬間に後悔が押し寄せる。自分が聞いていいことではない。けれど、どうしても知りたかった。

 

 白崎さんは一瞬だけ目を細めた後、ふっと笑う。

 

「好きに決まってるじゃないですか」

 

 その言葉が、私の胸に突き刺さる。

 

「なんで……」

 

 言葉が喉を震わせた。感情が抑えられない。自分でも驚くほど、声が震えていた。

 

「なんで、あんな地味な和也なの? おひいさまなら……いや白崎さんなら、もっといい男の人がいるはずじゃないですか!」

 

 自分でも意図せず強い口調になってしまった。心の中に渦巻く感情をどう処理していいのか分からず、無意識にぶつけてしまった。

 

 しかし白崎さんは動揺するどころか、少し驚いたように目を見開いた後、ゆっくりとまばたきをした。その仕草が、逆に彼女の冷静さを際立たせる。

 

「和也君を捨てたあなたに、私がそれを教える義理はありません」

 

 そう言いながら、白崎さんは私の前から去ろうとする。

 

 静かな口調だった。けれど、その言葉には凛とした強さが宿っていた。

 

「……っ!」

 

 くやしい、くやしい……。言い返したいのに何も言葉が出ない。白崎さんの冷徹とも言える態度に、私は反論する余裕も失っていたのだ。

 

「あ、それと」

「な、なに……?」

 

 急に白崎さんが立ち止まる。

 

 何?まだ何か言いたいことがあるの……?

 

「今後一切和也君に近づかないでくださいね」

 

 そう言うと、柔らかな笑みを浮かべてマンションの中に入って行った。だが、その微笑みはどこか冷たいものに見えた。それは優しさではなく、決別を示すもの。

 

 胸の中に渦巻く感情――悔しさ、虚しさ、そして羨望。それら全てが混ざり合い、私はただ一人エントランスで立ち尽くしていた。

 

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