失恋して彼女を寝取られてしまいましたが、学校一のおひいさまに溺愛されています   作:瓜生史郎

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36話

 ケーキを食べ終え、皿を片付けていると凛華が荷物をキャリーバックにまとめて帰る準備を始めていた。

 

「和也くん。本当に上位10位以内を取れるとは思わなかったよ?しかも2位って……正直すごくびっくりしてる。」

 

 そう言いながら振り返った彼女の顔には、少し誇らしげな表情が浮かんでいる。その視線を受けて、俺は思わず頭を掻きながら答えた。

 

「いや、それは凛華のおかげだよ。いろいろと教えてくれたし、ほんとに感謝してる」

 

 一瞬、凛華は嬉しそうな顔をしたものの、すぐに小首をかしげて問いかけてくる。

 

「でもさ和也くんって、今まではテストの順位なんか気にしなかったよね?? なんで急に上位を目指そうと思ったの?」

 

 その言葉に一瞬返答に詰まる。だが、続けて彼女がふっと笑いながら言った。

 

「もしかして……さ。私のために頑張ってくれた?」

 

 からかうような軽い調子で、冗談めかしているのがわかる。でも、胸の奥にその言葉が響いて、俺はとっさに目を逸らす。

 

「……そうだよ。」

 

 自分でも驚くくらい静かな声で答えていた。

 

「……えっ?」

 

 一瞬、空気が固まる。

 

 凛華の目が大きく見開かれる。その顔がみるみる赤く染まっていくのがわかる。

 

「ちょ、ちょっと待って、本当に?」

「本当だよ。凛華のために頑張ったんだ」

 

 精一杯の言葉で答えると、彼女の顔がさらに赤くなり、今にも湯気が出そうな勢いだった。

 

「ずるい……」

 

 そう小さく呟くと、凛華は急に荷物を持ち直し、足早に玄関へ向かおうとする。

 

「ちょっと待って!」

 

 俺は咄嗟に彼女の腕を掴んで引き止めた。その腕の細さと温もりに、心臓がまた跳ね上がる。

 

「……和也くん?」

 

 振り返った凛華の顔は戸惑いと少しの期待が混じっているように見えた。

 

 その表情を見て、俺の中に1つの想いがこみ上げてくる。

 

 いやでも、本当に良いのか?この想いを伝えて……。伝えてしまえば今の関係が壊れてしまうかもしれない。

 

 けど、ここで伝えなきゃ、絶対一生後悔する。その思いで俺は腹を括った。

 

「凛華、俺……」

 

 思わず喉がつまる。でも、もう止まることはできない。

 

「凛華のこと、好きだ。」

 

 その瞬間、彼女の表情が大きく揺れる。驚き、戸惑い、そして少しの涙が目に浮かんでいるように見えた。

 

「……あのとき、もし凛華がいなかったら、俺、多分絶望の淵に立たされてたと思う。オンラインゲームの中で慰めてくれたのが凛華じゃなかったら、俺、きっと今頃こんなふうに前を向いていられなかった。だから、こうやって頑張れたのも、凛華のおかげなんだ。本当にありがとう。」

 

 最後の言葉は自然と口から零れていた。俺が伝えたかった感謝の気持ち。それを受け取った凛華の目に大粒の涙があふれていた。

 

「ずるいよ……こんなに急に……ずるい……。本当は……私のほうから言いたかったのに……」

 

 凛華の震える声が、静かな部屋に染み入るように響く。小さな声で絞り出すように言った彼女の頬は耳まで赤く染まっている。その表情は恥ずかしさと悔しさが入り混じっていて、けれどどこか愛おしい。

 

「凛華……」

 

 名前を呼んだつもりだったけど、声が震えていた。彼女はちらりと俺を見上げた後、慌てて視線を外す。

 

「私、もっと早く伝えたかったの……。でも、怖かったの。もしも拒絶されたらどうしようって……それに、私たちの関係が壊れちゃうのが嫌で……」

 

 そうか。彼女も、俺と同じだったんだ。気持ちを伝えたいと思って、でも勇気がなくて、臆病になっていたのは彼女も同じだった。それを理解した瞬間、胸の中で何かが弾けた気がした。

 

「俺も……怖かったよ。」

 

 正直な気持ちを口にすると、彼女は驚いたように顔を上げる。

 

「え……?」

「凛華がどう思ってるのか分からなかったし、もしこの関係が壊れたらどうしようって思ってた」

 

 言葉を重ねるたびに、胸の中が少しずつ軽くなっていく気がした。

 

「でもそれを差し置いても伝えたかったんだ。凛華のことが好きだって。」

 

 真剣に見つめる俺の視線を受けて、凛華の目に浮かんだ涙がついに零れ落ちる。

 

「ずるいよ……本当に……ずるい……」

 

 泣きながら小さく繰り返す彼女の姿に、思わず抱き寄せた。震える肩をそっと支えるように手を回すと、凛華も自然と俺に寄りかかってきた。

 

「好きだよ凛華」

「……私だって、ずっと……」

 

 その声は涙で掠れていたけれど、確かに俺の耳に届いた。

 

 しばらくそのまま抱きしめ合っていたけれど、やがて凛華がゆっくりと顔を上げた。その瞳は赤く腫れていたけれど、どこかすっきりしたような笑顔が浮かんでいた。

 

「……もう、こんなの初めてだよ。」

「何が?」

「泣きながら、好きって言うのも、こんなに嬉しいのも……全部。」

 

 そう言って微笑む凛華の顔が近づいてくる。俺たちの距離は自然と縮まって、次の瞬間、柔らかな感触が唇に触れる。

 

 それは、静かで、けれど確かに熱を持った口づけだった。

 

 互いの想いが確かめられたその瞬間、俺たちはようやく本当に意味で1つになれた気がした。

 

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