願いの物語シリーズ【山瀬佳織】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第3話『ちょっと触ってみても良いですか?』

夢咲さんと話をした日からかなり時間が経ちました。

 

例の台本の件に関してはすぐに見つける事が出来て、夢咲さんに嫌がらせをしたかったという犯行理由も分かりました。

 

結局宣言通りに、その人は追放され、私はもう一つの件について、何度目かになるお父様との交渉を行っておりました。

 

「お願いします!」

 

「しかしなぁ」

 

「この家から絶対に出さないので、見たらちゃんと戻しておきます」

 

「いや、その辺りは心配していないのだが、心配なのはお前だ。佳織」

 

「私?」

 

「あぁ。だってお前、夢咲さんが一緒に見ようと言ったら一緒に見るだろう?」

 

「はい。当然です」

 

「感想話そうと言われたら、ちゃんと見て感想を言い合うだろう?」

 

「当たり前です!」

 

「うーん。やはり駄目だな」

 

「な、なぜ……お願いです。お父様。夢咲さんに酷い事をしてしまった私が、せめて出来る事なんて、こんな事と後は夢咲さんに体を差し出すくらいしか」

 

「う、ぐ、それは……! 分かった。だが、一つ絶対に守ってもらう約束がある」

 

「はい! どんな事でも必ず守ります!」

 

「話は最後まで聞いてから頷きなさい。佳織は何もかも純粋に信じすぎるのが問題だなぁ」

 

「あ、ぅ。ごめんなさい」

 

「いや、良い。そこは長所だろう。私の下に居るうちは大丈夫だし。生きている間にお前の事を任せられそうな奴は見つける。だから今の事は気にするな。それで、だ。守るべき約束についてだが、これは夢咲さんにも同じ事を伝えてくれ」

 

「はい!」

 

私は大きく頷いて、それをメモに取り、ようやくビデオを見る許可を貰えたのでした。

 

 

 

そして次に夢咲さんと私の休みが重なった日。私は夢咲さんを家に招待しました。

 

近くに来た時に連絡をくれるというので、私は玄関で正座をしながら携帯を見て、待ちます。

 

いつ来るのでしょうか。

 

着たらすぐに向かわないと失礼ですからね。

 

ワクワクします。

 

ドキドキです。

 

こんな気持ちは初めてでした。

 

何度かお母様が近くを通るときに私を見て、何だか微笑ましそうに笑っていたのが少し恥ずかしかったですが、部屋で待っているのは落ち着かなかったのです。

 

これは、あれです。

 

前に聞いたことがあります。

 

お友達の家に遊びに行くという物ではないでしょうか。

 

無論、私と夢咲さんはお友達では無いのですけれど。

 

それでも、お友達にはなれてなくても、多分そのお友達の三歩くらい前の関係のはずです。

 

撮影現場では朝と最後に必ず挨拶しますし。お昼ご飯もたまに食べますし。

 

この間なんて、立花さんが天王寺君の所に行ってしまったといじける夢咲さんが私の足に頭を乗せたのです。

 

ビックリしました。

 

驚きすぎて口から心臓が飛び出してしまうかもと思ったくらいです。

 

木陰でスヤスヤと寝ている夢咲さんがまるで猫みたいで、思わず起きないか確認しながら頭を何度か撫でてしまったくらいでした。

 

う、うぅ。今、考えたら酷い事をしている様な気がしてきました。

 

特に親しくもない人に頭を撫でられるなんて、とんでもないことです。

 

怒られても仕方ないでしょう。

 

この事は心にしまい込んで、絶対に誰にも話さない様にしておきましょう。

 

そんな事を決意しながら待っていた私はブルブルと震える携帯を見て、即座に視線を向けました。

 

そこには近くに来たよー。という簡単なメッセージがありました。

 

それを見た瞬間に、私は立ち上がり、サンダルを履いて家から飛び出しておりました。

 

エレベーターを使って、一階まで下りて、急げ急げとエントランスを抜けて、マンションの外へ出ます。

 

どこに居るのだろうかと探していると、可愛らしい顔にはあまり似合わない大きめのサングラスを付けて帽子を被った夢咲さんと、眼鏡をかけて夢咲さんと同じ帽子を被った立花さんが居りました。

 

どんな群衆の中に居ても、すぐに見つける事が出来るくらい整った容姿の二人に私は駆け寄ってゆきます。

 

「お待たせしました!」

 

「全然待ってないよー。って!! 佳織ちゃん!! その恰好で来たの!?」

 

「え? はい。どこかおかしかったでしょうか?」

 

特におかしくはないと思っていたのですが、薄手の白いワンピースと裸足に黄色のサンダル。

 

涼しくて良いと思うのですが、もしかして簡素過ぎたでしょうか。

 

確かにアクセサリーとかは付けてないですけれど、家の中に居るので、特に気にしてませんでした。

 

「いや、確かに外は暑いけどね!? お兄ちゃん!」

 

「あぁ。ではちょっと失礼して」

 

立花さんはそう言うと、上着を脱いで、私の肩に乗せました。

 

「えっと?」

 

「佳織ちゃん。ノースリーブは色々見えちゃうから駄目でしょ! 私はお怒りですよ!」

 

「えぇ!? という事は暑さに耐えて、上着を着る事が私への罰。という事でしょうか」

 

「……いや、まぁ、いいや。もうそれで。ただし、熱中症とかには気を付けてね」

 

「分かりました! 難しいですが、やってみます!」

 

「……うーん。なんか佳織ちゃんのお父様が過保護って言われる原因が分かった気がする」

 

私はそのまま夢咲さんと立花さんを連れて家に戻る事にしました。

 

そして家の中に戻ってから上着を部屋に取りに行って、立花さんへお返しします。

 

「あ。私としたことが! 汚れてしまいましたよね。お洗濯しないと」

 

「いやいや全然気にしなくても大丈夫ですから。全然気にしてないですから」

 

「そうですか?」

 

「えぇ、これでも野球やってましたからね。汚れというのは泥まみれになった時くらいじゃないと気にならないですよ」

 

「野球! 野球ですか!? お父様も好きで見ておりますが、あの、ボールをえいやって投げて、てい! って打つスポーツですよね」

 

「そうだよー。お兄ちゃんは凄い選手だったんだから! 見て、この腕!」

 

「わぁ、す、凄い」

 

「……なんだか恥ずかしいな」

 

「ちょっと触ってみても良いですか?」

 

「え、えぇ。勿論」

 

私は恐る恐る、その腕に触ってみたところ、私の物とはまるで違い壁とか棒みたいな固さでした。

 

本当に同じ腕とは思えません。

 

私は信じられない様な気持ちで自分の腕を触ってみましたが、プニプニでした。

 

何だか悲しい。

 

「立花さん。私も触らせていただきましたし。貧相な腕ですが、どうぞ」

 

「どうぞ。とは」

 

「触って下さい」

 

「……え。いや、それはちょっと」

 

「あ、申し訳ございません。気づかず! 突然腕を触れなんて不躾なお願いを。今すぐシャワーを浴びてきますので、少々お待ち下さい」

 

「いや、そういう事ではなくてですね。なんと言ったら良いか」

 

「もう! 佳織ちゃん!! 女の子は男の人にそんな簡単に体を触らせたら駄目なんだよ!」

 

「え。でも、私は触らせていただきましたし。触っていただけないと平等では無いですよ」

 

「あー。分かった! 分かった! じゃあ私が触るね! ぷにぷにー!」

 

「あは、アハハハ。くすぐったいです! 夢咲さん!」

 

「な、なんだ。これ、癖になる! 止まらないよ! お兄ちゃん!」

 

「陽菜。お兄ちゃんは家の人に挨拶してくるから、後は二人で楽しんでいなさい」

 

「あぁ、立花さん。お助けを! アハハハ。ゆ、夢咲さん! そこは!」

 

「ここまですべすべ。ここは? ここは?」

 

「ゆ、ゆるして、下さい」

 

 

 

結局その後、お母様がお茶を持ってくるまで夢咲さんの暴走は止まらず、私は迂闊な事を口にしない様にと固く言いつけられるのでした。

 

そして場も落ち着いた事で、ようやく例のビデオを見るための準備を始めました。

 

私はお父様から託されたビデオを抱きしめて、二人の前で絶対に守って欲しい事項を告げます。

 

「このビデオを見るにあたって、いくつか絶対に守って欲しい事項があります」

 

「はい!」

 

「まず、このビデオの中身は口外しない事。そして、登場人物の一人である鬼、羅刹について深く考えないこと。たまにはお父様に昔みたいに甘えること。ってそうだ。これは私にだけでした。えへへ。忘れてください」

 

「分かりました! 誰にも中身は話しません。羅刹って人の事も深く考え無いようにする。これで良いですかー?」

 

「はい。流石夢咲さん。では、見ましょう!」

 

私はビデオを入れて、テレビの前にあるソファーに座ろうとしたのですが、両端に夢咲さんと立花さんが座っているので、座る場所が無くて困ってしまいます。

 

中央は空いておりますけれど、お二人の間に入るのは申し訳ないですし。

 

そうです! 床に座りましょう。

 

そう思い床に座りましたら、何故か両端から溜息が聞こえまして私はそのままソファーに持ち上げられてしまいました。

 

そしてすぐさま夢咲さんが私の足の上に頭を乗せてしまい、逃げる事も出来なくなってしまいました。

 

あわあわとしていると、夢咲さんから集中できないよ。と怒られてしまいました。

 

申し訳ない。

 

反省しつつ、私もせっかくお願いしたのだからと、映画に集中する事にしました。

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