願いの物語シリーズ【山瀬佳織】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第8話『私にしか……出来ない事』

陽菜さんも新しい学校生活に慣れ、映画の放送も順調なある日、私は陽菜さんと演技について話をしていました。

 

「そういえばずっと疑問だったんだけどさ。何で佳織ちゃんって天王寺と戦ってるの?」

 

「それは天王寺君がそう望んでいたからですね」

 

「天王寺が? 佳織ちゃんと戦いたいって?」

 

「あ、いえ。私とではなく、誰かと。です」

 

「そんな戦闘狂だったんだ。アイツ」

 

「えっと、伝えるのが難しいですね。陽菜さんが現れる前の天王寺君は酷く退屈そうで、競い合う相手を求めていたんですね。それは本人も気づいていなかったかもしれませんが。ライバルという物を求めていたのかもしれません。そこで微力ながら少しでも天王寺君が満たされれば良いなと思い、その立場に行きました」

 

「なるほど。あー。って事は最初の時も私が突っかかっていったから!」

 

「はい。そうですね。陽菜さんも私とぶつかりたいと願ってましたので、微力ながら私も応えねばと」

 

「あー。うー。なるほど! なるほど!! じゃあもうそれ禁止!!」

 

「えぇ!?」

 

「佳織ちゃん! 佳織ちゃんの大事な事って何!?」

 

「えっと素晴らしい物語を描く事です」

 

「なら、戦っちゃだめなの。佳織ちゃんは人に寄り添う事が出来る。登場人物にも、役者にも。それって凄い事なんだよ。人を食う事しか出来なかった羅刹だって、佳織ちゃんに教えられて、人と歩む道を選んだんだよ。それは、佳織ちゃんにしか出来ない事なんだよ。戦うなんて誰にだって出来る。でもさ。敵と手を取り合える人なんて滅多に居ないんだからね?」

 

「私にしか……出来ない事」

 

「佳織ちゃん。大事な事はその人の願いじゃない。佳織ちゃんがどうしたいか、だよ。佳織ちゃんは誰かと戦いたいの?」

 

私は首を横に振りました。

 

「そうだよね? 私と演じてた時、二人で最高の絵を完成させた時、佳織ちゃんは楽しくなかった?」

 

「楽しかったです。嬉しかったです」

 

「うん。私もそう。佳織ちゃん。佳織ちゃんが手伝ってくれれば、みんなその人の最高の絵が描けるんだよ。でも、佳織ちゃんが戦ってたら、出来ないんだ。それは凄く勿体ないと思わない?」

 

「はい。勿体ないです」

 

「ならさ。もう佳織ちゃんは相手の事を想って戦うのは止めよう。一緒に作るんだ。最高の舞台を。これ以上ないってくらい泣けて、笑えて、喜べる絵をさ。描こうよ!」

 

「ですが、私は嫌われておりますし。私が協力を申し出た所で……」

 

「大丈夫。佳織ちゃんと共演すればすぐに分かるよ。あんなに敵意むき出しだった私だってこうして友達になってるんだから」

 

「そうですね。これまでは変えられませんが、これからは変えられる。やらずに迷うのではなく、やってから後悔しましょうか!」

 

「その意気だよ! 佳織ちゃん! 私も協力するからね!」

 

「はい! ありがとうございます! 陽菜さん!」

 

 

 

それから私は、自分の立ち回り方を大きく変えて撮影に挑み始めました。

 

最初は多くの方が戸惑っていた様でしたが、段々と受け入れてくださる様になり、少しずつ現場でお話させていただく機会も増えてゆきました。

 

しかし、皆様、私が急にやり方を変えた事に戸惑っている様で、お話される内容はどうしてやり方を変えたのかという物ばかりでした。

 

「どういうつもりよ!! 山瀬佳織!」

 

「どういう、と言いますと」

 

「前の撮影まで私の邪魔してたくせに! 今日は、いきなり味方面して! どういう作戦!? 混乱させて主役を奪うつもり!?」

 

「いえ。烏丸霧子の役は浅野さんが最も相応しいと私は考えております。私では、浅野さんの様な雰囲気は出せませんし。作品の世界をこれほどまでに輝かせる事は出来ないでしょう」

 

「なら、なんでっ、なんで私に突っかかってきたのよ!」

 

「浅野さんがそれを望んでいると、私がそう勝手に考えたからです」

 

「私が、アンタに喧嘩を売ったって、そう言いたいの!?」

 

「あ。いえ! そうでは無くてですね。私がそうしたいのかな。と浅野さんの雰囲気から考えただけの話です。その節は大変申し訳ございませんでした。今日の浅野さんを見る限り、どうやら私は酷い勘違いをしていた様です。浅野さんは争いなど求めてはいなかった。ただ、良い物を作ろうと、そう考えていた。私が浅はかでした」

 

「……なんで」

 

「……」

 

「なんでアンタが謝るのよ!」

 

「それは、私が」

 

「アンタは正しかった。そうよ! 私はずっとアンタが嫌いだった! 山瀬耕作の娘ってだけでチヤホヤされて、私が主役を奪ってもヘラヘラして、どうでも良いんだと思ってた!! 私の事なんて眼中に無いんだって、だから、アンタが、私にぶつかってきて嬉しかった。あの山瀬佳織が私に嫉妬してるんだって、思ってたのに、こんなの、惨めじゃない……」

 

「えっと……もしかして、変えない方が良かったのでしょうか」

 

「そんな訳無いでしょ!!」

 

難しい。

 

こういう時はどうすれば良いのでしょうか。

 

私に縋りつきながら泣く、浅野さんにどうすれば良いか分からず、周囲に助けを求める様に視線を向けましたが、残念ながら逸らされてしまいました。

 

いえ。人に頼ってはいけません!

 

私が浅野さんを泣かせてしまったのですから、私が何とかしなくては!

 

「浅野さん」

 

「何よ」

 

「えっと、その、申し訳ございません」

 

「次謝ったら、ぶん殴るわよ」

 

「え」

 

「山瀬佳織。アンタの望みは、なに!?」

 

「は、はい。より良い舞台を作る事です。お客さんが楽しんで良い作品だったと言っていただける様な作品にする事です」

 

「なら、私に、何を望むの?」

 

「浅野さんが最も良いと思う烏丸霧子を演じてください。私はそれを支えたい」

 

私は笑顔で浅野さんにそう告げました。

 

今、ふと気づきましたが、これはアレではないでしょうか。

 

友情の儀式という物では!

 

河原で叩きあうのと同じように、仕事でぶつかり合った人たちが、互いを認め合い友情が……。

 

「……っ、やっぱり、私、アンタの事なんて大っ嫌い」

 

「ふぇ!?」

 

芽生えませんでした!!

 

しかし、ここからまだ挽回のチャンスが。

 

「このまま少し胸を貸しなさい」

 

「え? あ、はい」

 

浅野さんは強く私を抱きしめて、胸に顔を押し付けながら泣いていました。

 

この場合は何がいけなかったのでしょうか。

 

私は手持ち無沙汰になってしまい、浅野さんの頭を撫でながら考えます。

 

しかし、良い考えは浮かんできませんでした。なんて残念な頭なのでしょうか。

 

「アンタ、私より二つ下の癖に、胸大きすぎじゃない?」

 

「そうでしょうか? あ。いえ。確かに他の同学年の方と比べても、少々大きい様に思えますね。そうかもしれません」

 

「……なんかムカついてきた。ちょっと叩いていい? 叩くわ」

 

「あうっ」

 

浅野さんは私の胸を叩き、そのまま鼻を鳴らして歩き去ってしまいました。

 

残された私は何が何やらで、呆然としたままその場に残されるのでした。

 

何か怒らせるような事をしてしまったようです。次回までに反省しなくては……。

 

今よりもっと嫌われてしまいます!

 

「ワハハ。面白い事やってるな。佳織ちゃん」

 

「あ。宗近さん。お疲れ様です」

 

「あぁ、お疲れ様。いやぁ。面白い物を見せてもらったよ」

 

「そうですか。それは良かったです」

 

「いや、ここは喜ぶ所じゃないからね」

 

「えぇ!?」

 

む、難しい。

 

私を見て面白かったと褒めて下さっているのに、喜ぶなとは。

 

「相変わらずだなぁ。耕作の奴は苦労してそうだ」

 

「や、やはり。お父様は私なぞ娘ではない方が良いですかね。家出等を検討した方が良いでしょうか」

 

「それは耕作の為にも止めてあげてな? それにもし実行したら俺の命が無くなるから。絶対に止めてくれな?」

 

「は、はい」

 

「それに家出って言ったって、何処に行くんだ。行くところないだろう」

 

「それもそうですね。あ。では。宗近さんのお家にお邪魔させていただくというのは! 小さい頃は何度かお泊りさせていただきましたし」

 

「それ。全部耕作も一緒だったからね? しかも一桁の時だし。今やったら俺炎上して火だるまだから。まぁ多分世間の前に耕作に八つ裂きにされるけど」

 

「お父様がお友達の宗近さんにそんな酷い事をするとは思えませんが」

 

「いや絶対にする。下手すると、いや、下手しなくても美嘉さんも一緒になって襲ってくるぞ」

 

「お母様も!? そんな」

 

「マジよマジ。だからオジサンの為にも変な事は二人の前で口走らないでね」

 

「はい! 約束します!」

 

「ありがとうよ」

 

「あ。そういえば。今度のお誕生日はまた家に来てくださいますか?」

 

「あー。まぁー。祝ってくれるのは嬉しいし。耕作と美嘉さんが良いなら行くけど」

 

「はい。昨日確認しましたが、問題ないとのことでした。是非遊びに来てください! 今年もプレゼントをご用意させていただきますね!」

 

「お。楽しみにしてるよ」

 

「はい。今年はすっごく自信ありです!」

 

その後、私は宗近さんにそう告げた通り、宗近さんが好きだと言うアイドルの衣装を来て、陽菜ちゃんにパフォーマンスを教わりながら、陽菜さんと一緒にミニライブというものを家で行いました。

 

最初宗近さんは大変喜んでいたのですが、何故か途中から酷く静かになってしまい、お父様に言われた場所から動くことを禁じられていました。

 

私は宗近さんを喜ばせる為にやっているのに、何だか悲しい気持ちになり、お父様と言い争いになってしまいました。

 

結局、その後動くことは許可されていましたが、どこか楽しめていない様子だったので、陽菜さんと話し合い、今度お父様に内緒で宗近さんにまたお披露目したいと思います。

 

「あ、日記書くの、終わった?」

 

「はい。申し訳ございません。お待たせしてしまって」

 

「ううん。ちなみにさ。今日の事書いたの?」

 

「はい。そうですね! お父様の意地悪で宗近さんが可哀想だった話を書きました!」

 

「ちなみに、次回の話も?」

 

「はい。そうですね。今日の出来事ですから。今日書いてます」

 

「宗近さん。可哀想……でもないか。私の佳織ちゃんのパンチラ。何の許可もなく拝んでたし」

 

「ぱんち?」

 

「あー。気にしなくていいよ。知らなくていい言葉だから」

 

「そうですか。分かりました。忘れますね」

 

「うーん。しかし、日記かぁ。こういうのってサンタクロース問題とでも言うのかな。知るはずのない情報、居るはずのない人物。矛盾に気づいた時、純粋さは失われる、か」

 

「サンタさん。ですか?」

 

「そう。サンタさん。ちなみに、佳織ちゃんはサンタさんに会った事はある?」

 

「いえ。私は夜遅くまで起きている事が出来ないので……それに世界中の子供に配らなければいけないですからね。私が起きていたら、お仕事の邪魔になっちゃいますし」

 

「……守らなきゃいけない物が多いって言うのは大変だ。私も頑張らないとね」

 

「……?」

 

「佳織ちゃんは何も気にしなくて良いの。さ。寝よう寝よう。明日も早い」

 

「そうですね。では、おやすみなさい」

 

「おやすみ。佳織ちゃん」

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