願いの物語シリーズ【山瀬佳織】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第9話『いえ、その……土下座をしようと』

ずっと、ずっと待ちわびていた日が遂に来ました。

 

あの山で私が事件を起こした日から、ずっとこの日を待っていた様な気がします。

 

私はゴクリと唾を飲み込んで、ただ、ジッと天王寺君が来るのを待ちました。

 

そして、遂に、天王寺君が私の待っている部屋に入ってきて、目を細めました。

 

「待たせたね」

 

「遅れてごめんね。佳織ちゃん」

 

「い、いえ」

 

私が傷つけた人。

 

謝罪し、罪を償わなければいけない最後の人、天王寺君。

 

天王寺君は私の正面にあるソファーに座りながら、私を真っすぐに見つめていました。

 

「夢咲から聞いたよ。全部ね。そう。全部、全部だ」

 

「さ、さようですか」

 

「その上で聞きたい。君は何を求めるんだ? 山瀬佳織」

 

「謝罪と贖罪を」

 

「そうか。意外と厳しいんだな。いや、むしろ軽すぎるくらいか。で? 土下座かい?」

 

「あ、土下座。そうですね。最低限それくらいは必要ですね」

 

私はソファーから立ち上がり、いそいそと床に座ろうとして、天王寺君と陽菜さんに止められてしまいました。

 

えっと?

 

「君は何をやっているんだ! 山瀬佳織!」

 

「いえ、その……土下座をしようと」

 

「なんで君がそんな事をするんだ!!」

 

「私が天王寺君を傷つけてしまったので、その謝罪に?」

 

「っ、ばっ、この! だぁ!!」

 

「えっと、やはり土下座をするならこういう柔らかいカーペットの上ではなく、大理石の上か地面でやるべき。という事でしょうか?」

 

「「違う!」」

 

「とにかく君は今すぐソファーに座れ。何もするな。抵抗するな。さっさと座れ」

 

「は、はい」

 

「許可なくソファーから立ち上がったら、メッ、だからね。どんなに許してって言っても、一晩中お仕置きだよ」

 

「っ、はぃ!」

 

「ったく。これが山瀬佳織か?」

 

「そうだよ」

 

「今まで僕が見てきたモノはなんだったんだ」

 

「さぁね。誰かがそうであって欲しいって願った佳織ちゃんでしょ」

 

「夢咲は最初から気づいてたのか?」

 

「ううん。私も最初は気づいてなかった。途中からだよ。まぁ八年以上も一緒にいて気づかなかった間抜けとは全然違うけど!」

 

「しょうがないだろう!? 山瀬がずっと僕に突っかかってきてたんだから!」

 

「それも説明したじゃん? その上でまだその発言が出るっていう事は甘ったれの証明だと思うけどね。まぁ? まだまだ甘えの抜けない子供の天王寺君は、ずぅっと自分を甘やかしてくれた佳織お姉ちゃんに、まだまだ甘えたいのは分かるけどさ」

 

「夢咲ィ!」

 

会話の流れはよく分からないけれど、私の行動が天王寺君を苦しめていたという事でしょうか。

 

そう考えると、やっぱり土下座をするべきかもしれません。

 

私はそう考えて腰を浮かせようとしたのですが、動いた瞬間、二人に睨まれてしまいました。

 

「「動くな!!」」

 

「ぴっ……ひゃぃ」

 

今は両手を足の上に乗せ、背筋を伸ばしたまま待機です。

 

この状態で動くことがいかに自殺行為かよく分かります。滅多に怒らないお母様が起こった時に酷似しているのです。

 

今はただ、状況を見極めましょう。

 

「山瀬」

 

「はっ、はい!」

 

「一つ。確認したい。君は僕の事をどう思っている」

 

「一言で言うのなら、凄い人だなぁと」

 

「凄い人、ね」

 

「はい! 天王寺君は凄い人です! いつも、どんな時でも努力していて。お父様やお母様の名前に負けない様に、一人戦っている。お二人ともお忙しい方ですから、寂しい思いもしているでしょうに。それを表に出さず、むしろその寂しいという感情すらも糧にして、自らの技量を高めていく事の出来る人。私とは違い。誰かの子供ではなく、天王寺颯真という個人が認められている人です」

 

「それは! それは僕が分かりやすく目立つ役ばかりやっていたからだ。適性の問題だろう! 君だって、ずっと凄かった。僕は、気づいてなかったけど。……夢咲に言われてから、過去の映像を見返したんだ。ようやく気付いたよ。僕は君に何度も、何度も助けられていたんだな。甘えて、独りよがりの演技をして、自分勝手なクソガキだ。その上で手を差し伸べていた相手を見下しているんだから、どうしようもない」

 

「本当にね。とんでもないクソガキだね」

 

「いや、君に言われたくはないからな? 夢咲。君だって大して変わらないだろ。運が良かっただけだ。調子に乗るな」

 

「はぁー!? 天王寺なんかとは違いますぅー! 私なんて、佳織ちゃんの大事な大事なお友達なんだからね!!」

 

「偉そうに!! 山瀬!」

 

「は、はい!」

 

「僕と友達になれ」

 

「わ、分かりました!」

 

「はぁ!? こんの、クソ! 佳織ちゃん! 断った方が良いよ! 天王寺なんか気持ち悪いから友達なんて嫌だよって!」

 

「あ、いえ」

 

「余計な口を挟むな。夢咲。これは僕と山瀬……いや、佳織の問題だ」

 

「いきなり呼び捨てにすんな!! カス!」

 

「誰がカスだ! 少しはアイドルらしい話し方をしろ!!」

 

「普段はしてますぅー。天王寺の前でだけですぅー」

 

「こんの……ゴミアイドルが……っ!」

 

二人は元気よく言い争いをしていて、その光景はあの漫画で見た河原で叩きあう二人と同じに見えました。

 

つまりこれは友情の儀式なのでしょう。

 

そして、何の奇跡か私は陽菜ちゃんと、天王寺君の二人とお友達になっている!

 

という事は、私たち三人は、あの様々な場所で見て憧れた仲良しグループ。お友達グループという物なのでは無いでしょうか!

 

これはドキドキしますね。

 

「ふ、二人とも!」

 

「「なに!?」」

 

「三人のお友達記念に! お食事でも、行きませんか!?」

 

「……? 少し整理しても良いか?」

 

「はい。大丈夫です!」

 

「僕と君は友達になったな?」

 

「はい!」

 

「私は認めてないけどね!」

 

「黙っていろ! 夢咲!」

 

「それで君と夢咲は友達……の様なものだ」

 

「はい。お友達です!」

 

「大親友ね! もしくは生涯の友!」

 

「黙れって言っただろ。夢咲。もしくはそんな簡単な事も出来ないほど鳥頭なのか? 君は」

 

「はいー? クイズ番組で大して役に立たなかったお子ちゃまよりはずぅーっと優秀ですけどぉー?」

 

「あれはお前が!!」

 

「はいはい。どうでも良いから。さっさと話。進めてくれないかなー? 待ってるんですけど。それとも進行してあげないと、こんな簡単な事もできまちぇんか? ぼくちゃんは」

 

「コイツ……いつか潰す! いや、落ち着け、落ち着け。天王寺颯真。夢咲はアンチと一緒。相手にせず、無視するのが一番だ。夢咲はアンチ。夢咲はアンチ。よし。落ち着いた」

 

「チビ」

 

「表に出ろォ!!! 夢咲!! 僕はチビじゃない!! まだ成長途中なだけだ!!」

 

「無視するのが一番じゃなかったんですかぁー? 出来てませんよ。大人の対応。まぁ子供には難しかったかな?」

 

「上等だ。上等だよ。夢咲。君がそういう身体的特徴を馬鹿にしてくる様な恥知らずだというのなら、こっちだって遠慮なしだ。なぁ、幼児体型。お前、佳織と同じ年齢らしいな。いや生まれはお前の方が早いからお姉さんか。ふむ。お姉さん。ね。ハッ。いや、すまない。お姉さんというには少々。何でもないよ」

 

「殺す……!」

 

「落ち着けよ。夢咲。イライラしても良い事は無いぞ。おっと。すまん。今背中に話しかけていたか? いや、正面だったか。違いが分からなくてな。悪いな」

 

「女の子に言っていい事と悪い事があるだろ!! このへっぽこ役者!」

 

「何が女の子だ! 都合がいい時だけ便利使いしやがって! いい加減にしろ! ゴミアイドル!」

 

二人は遂に掴み合い、ののしり合いの喧嘩に発展してしまい、私は流石に二人を止めようとしましたが、二人を止める事は出来ず、外に助けを求める事にしました。

 

私が誰かと呼ぶと、すぐさま天王寺君のマネージャーである木村さんと、立花さんが入ってきて、二人を止めてくれました。

 

凄いです。どうやっても止められなかったのに。こんなにアッサリと。

 

やっぱり大人は凄いですね!

 

「あー。もう。結局こうなるんですから。天王寺さん。役者もアイドルも体が命なんですよ?」

 

「それはあっちに言え!!」

 

「陽菜。今日は喧嘩しないって約束しただろう?」

 

「だって、天王寺が始めたんだよ。陽菜は我慢してたもん」

 

「嘘つけ! お前が始めたんだろ!」

 

「嘘じゃないですぅー。もう忘れてるなんて頭足りないんじゃないの!? チビだからさ!」

 

「黙れ貧乳! 幼児体型!」

 

「ハゲ! バカ! チビ!」

 

「ブス! アホ! 腹黒!」

 

しかし、一度は抑えられた二人の争いも、瞬きの間にまた激しい争いへと変わってしまいました。

 

どうして……。

 

「あーあー。遂に小学生みたいな争いになっちゃいましたよ。どうしましょうか。立花さん」

 

「ふむ。そうですねぇ。よし。山瀬さんこちらに」

 

私は困っている様子の立花さんに呼ばれ、指示されるままにソファーの真ん中へ座りました。

 

そしてすぐさま私の左側に陽菜さんを座らせ、左手で陽菜さんの右手を握る様に言われ、直後に右側に天王寺君が座り、そのまま右手で天王寺君の左手を握ります。

 

そして突然の流れに戸惑っている二人に、正面のソファーに座った立花さんが話しかけました。

 

「さて。三人とも。これから君たちは同じ場所で仕事をする事が増える訳だが、その時、手は必ず繋いでいる様に。その手は、君たちの友情の証だ。離れるという事は相手に対して気持ちが離れていると言っている事に等しい。そう思ってくれ」

 

二人の緩やかだった手がキュッと強く握られました。

 

「無論、これは俺が勝手に言っている事だから、どう思って貰っても構わないけどね。まぁ相手がどう思っているかなんて自分には分からないものだ。相手に疑われたくないなら、離すべきじゃないだろうね」

 

「そして、もう一つ。これは陽菜と天王寺君の二人に対してだが、この状態。分かると思うけど、山瀬さんは純粋な子だ。きっと自分の方に向かって放たれた言葉は自分への言葉だと思うだろうね。よくよく注意する事だ」

 

「最後に。山瀬さん。申し訳ない。まだ子供のまま成長できていない二人だが、どうか見捨てないでやってくれると助かる」

 

私に視線が集まるのを感じました。

 

正面から立花さんと木村さん。そして両側から陽菜さんと天王寺君。

 

しかし、私の答えなど決まっています。

 

「はい! 当然です。二人は大切なお友達ですから!」

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