死神さまは癒されたい 作:プリン体
「足りないッ……!」
死神は嘆いていた。
「曇らせが足りないッ……!」
結構俗っぽいことで嘆いていた。
「くそぉ! なんで続きが出ないんだっ! 作者まだ死んでないだろっ!」
スマホをぎりぎりと握りしめ死神は叫ぶ。読み漁っていたネット小説の更新が全く来ないことに酷くお怒りの様子。
曇らせ作品のエタる率は異常。死神の所感である。
恐らくみんな低評価にむかむかしちゃってるのだろう。死神は腹いせに星8未満の評価者全員に遺言の途中でバカでかいオナラが出る呪いをかけた。
「足りないッ……! 足りないんだッ! 寄越せッ……! ボクにッ……もっと!!」
側から見たら魂でも吸ってるのかという様相である。
「うおおおおお! おおおおおおお!」
死神は泣いた。死神は特にプライドとかは持っていない。やりたいことはすぐにやるタイプだ。良く言えば素直、悪く言えば欲望に弱い。赤ちゃんみたいである。
「うおおおおおおん!」
「あの……」
「うおおおおおおおおおお……お?」
「し、仕事……‥持って、きま……した」
「……うおおおおおおおん!」
おずおずと部下が仕事を持ってくる。しかし死神は傷心中なのだ。仕事など出来ない。
結果、職務放棄。ちなみにこれは今日が初めてではない。むしろ職務放棄は死神一番の得意技だ。もしかしたら死神じゃなくてただのゴミクズかもしれない。
無論、死神とてちょっと部下が可哀想かな〜と思ってはいる。
しかし不憫系美少女部下の可愛い泣き顔に少しばかりの罪悪感と多大なる興奮を得て死神は日々を生きているのだ。止めることなど出来ない。これは尊い犠牲というやつ。
今日もありがとう部下。死神は感謝をすれば何をしてもいいと思っている。なお口には出していない。ちょっと恥ずかしいから目で伝えている。もちろん伝わってはいない。
もしかしなくてもゴミクズであった。コミュ症も入っている。
「……えと、あの……こ、これ……」
部下から茶色の封筒が差し出される。だが死神の職務放棄フェイズは終了していない。
「……こ、これ! …………あ、うぅ……」
いつまでもよしよしが来ないので少し喉が痛くなってきた頃。死神は引くに引けなくてちょっと困っていた。
早くよしよししてよ! と目で訴えるも全然よしよしされない。
一体何事だと死神は考え、ひらめく。
……これラブレターじゃね?
チラリと
死神は確信した。これはラブレターである。モテる神ですまない。
やれやれしょうがないなぁ。そういうことなら受け取ってあげよう。仕方なくね。
心の中で謎の言い訳を重ねながら死神はウッキウキで封筒を受け取る。もう曇らせが足りないとかどうでも良くなっていた。
そして封筒を開けようとして──
「……うおおおおおお!? おおおおおああああああ!!!」
「い、今まで……ありがとう、ございました……」
──表紙に可愛い丸文字で『退職届』と書かれていることに気がついた。死神はびっくり仰天であった。
♢♢♢♢♢♢
『ちょっと部下探してくる』
「……よし」
死神はめちゃくちゃ雑な置き手紙を満足気に眺める。
何ならちょっと泣いた。これはなんちゃって号泣ではない。ガチ泣きである。
今では、やれやれ……ついにボクも悲しい過去持ちになってしまったか……などと考えているが結構心に傷が残っている。どう考えても今まで甘やかし過ぎた弊害が出ていた。
環境の際で心に傷を負い、涙を流す……これは幸薄系美少女と名乗ってもいいだろう。鎌持ってるし。
そして幸薄系美少女には全てを受け入れて甘やかしてくれる存在……ママが必要だと考えている。つまりは
はぁ……奴に叩かれたお尻を
「……うぇへへ、へへ、へへへへへ」
そうして死神はだいぶ気持ち悪い笑みを浮かべながら冥界から逃げ出した。
目指すは人界
♢♢♢♢♢♢
「……っはぁ」
ゾンビにスケルトン、果てはリッチまで。数々のアンデット達を斬り捨てる。
近年増加している原因不明のアンデット大量発生。ここ最近の冒険者の依頼内容は五割がアンデット討伐依頼になっている。彼女もまたその流れに巻き込まれたものの一人だ。
「疲れたぁ〜」
冒険者──アニスは墓にもたれかかり、疲れを癒す。もうここで寝てしまいたい。そんな心地が窺える表情である。
「……はっ。いけないいけない。お墓にこんなことしちゃ」
即座に立ち上がりピンっと背筋を伸ばす。
「中の人に失礼だもんね」
例え中の人がアンデットになっていたとしても。
アニスは自身の身長程の大剣を背負い、せめてもの償いとして墓に手を合わせた。
「ごめんなさい」
ゴゴゴゴゴ……
「……ん?」
何やら大きな石が動いた物音が響く。もしかしたら今のでアンデットが目覚めてしまったのかもしれない。
「……もう一仕事、頑張りますか」
大剣に手をかけ、墓を睨む。
アニスは何が出ても驚かない。あらゆる状況に素早く適応し、行動できるのが高位冒険者なのだから。
「ふぃ〜よっこいしょっと」
「……ひゃあああああああ!」
ただし、アニスは高位冒険者ではない。目指しているだけだ。でも墓から少女が出てきたら誰だって驚くだろう。
アニスはそう言い訳したい気分になった。
『死神降臨』